「私は、帝国の属州政策を内側から変えるため、ここにいるマキシマら民衆派の同志たちと活動を続けてきました。そして、その活動を認めてくださったヴァリス帝により、全権大使の任を与えられ、派遣されてきたのです!」
アサヒは堂々と語り、最後に声を張り上げた。
「ドマと和平交渉をするためにッ!」
「……あいわかった」
ヒエンが答える。
「これ以上は、立ち話でする内容でもあるまい。貴殿らを客人として、我が館に招こう。ドマ町人地まで、ご同行願いたい」
「もちろん、喜んで!」
アサヒは満面の笑みを浮かべた。だが、その表情はどこか芝居がかっている。
ユウギリはその笑顔の裏に、得体の知れない不快感を覚えた。
「和平だと……? これまでの帝国の行動からは信じられぬ言葉だが……」
そのつぶやきが漏れた瞬間、アサヒがふいにこちらへ振り向いた。
「あなたは、もしや神殺しの……」
不意に漏れた言葉。
アサヒの目が、獲物を値踏みするかのように細められる。
「……おっと、挨拶をさせていただくのは、町人地までご案内いただいた後にいたしましょうか」
その声は、まるで何かを愉しんでいるかのようだった。
「……不穏ですね」
ユウギリは低くつぶやき、ヒエンの背を追う。
ドマの未来を揺るがす、波乱の幕開けになるのではないか——
彼女の胸に、そんな不吉な予感が渦巻いていた。