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Oschon's Saint

Beatrix Beatrice

Masamune [Mana]

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  • 6

いつも通っていた道

公開

 階段を上がると、わしはハンカチで汗をぬぐった
 
 まだ日が昇りきっておらぬとはいえ、気温は高く、セミの声があちこちで響いておる

 延々と続く急な坂道を歩きながら、よくこんな道を毎日通っていたものじゃと苦笑する

 友達が同窓会をしようと言うので、せっかくじゃし、と集合場所の高校へ昔のように歩いていこうかと思ったが、若干失敗したやもしれん

 まぁ、まだ時間はあるし、とのんびり歩きながら、わしはふと道の脇に目をやる

 そういえば、このあたりじゃった気がするが
 
 ほどなくして、わしはそれを見つけた

 煉瓦作りの花壇の隣、少し古びたベンチの下にひっそりと置いてある小さなカゴ

 中には5、6センチくらいの人形が数体、花と一緒に供えられておる

 今から話すのは、その人形に関係するお話じゃ


 

 だんっだんっ

 急に扉を叩く音がして、わしは驚いて、手に持っていた段ボール箱を落としてしもうた

 「もしも~し、誰かいる~?」
 
幸い段ボールの中身はこぼれなかったのでわしは、はいは~い、こっちにいますよ~と言いながら資料室という名のごみ置き場から顔を出す

 向こうもおじゃましま~す、と部室に入って来たところでお互い、あれっと声を上げた。 入って来たのは同じクラスで文芸部のKさんじゃった

 新聞部だったっけ? と聞いてくるKさんに、わしはううん、手伝ってるだけ、と答える。 3年生がほぼ引退してしもうて、今はわしの友達と3年の先輩の2人しかおらず人手不足なのじゃ

 「ふ~ん、夏季補習の後なのに大変ね、手伝う?」

 大丈夫、とわしはぱたぱたと手を振った

 「古い資料をスキャナーで取り込むだけだし、と、いうか」

 何か用事があったんじゃないの? と尋ねるわしに、Kさんは微妙に言いにくそうに、3年生の先輩って今日来てる? と訊いてきた

 N先輩は旅行中で帰ってくるのは明日になるって言ってた、と言うとKさんは肩を落とした

 携帯持ち歩かない人だから家に置きっぱなしの可能性も高いけど、連絡してみる? と、わしが訊くとKさんは少し考えてから、じゃあ、お願いしようかな、と言って話しはじめた

 「20年前、このあたりの高校の文芸部が共同で『怪談コンテスト』っていうのをしたらしいのよ。 実話や体験談を募集してその中のをいくつか物語風に書き直して載せたらしいんだけど」

 ――なんでも冊子にまとめてる途中で事故があって、企画は中止になったみたい、でも、その元原稿の一部が西高の文芸部の部室から見つかったらしくて

 次の週くらいから、幽霊、かは知らないけど何かおかしなものを見たって生徒が出てきて、そのうち授業中に見た人とか学校を休む人とかも出はじめて――

 「学校の方でその原稿を―――文芸部がホームページで公開してたらしいんだけど、それをやめさせて原稿自体も回収、うわさもしないように注意したらしいわ。 それが夏休みに入る少し前」

 でも…と、Kさんは顔を曇らせる

 「……友達に何かあったの?」

 わしが尋ねると、Kさんは友達っていうか…と、微妙に口ごもる

 「昔から知ってるやつで、何かにつけて張り合ってきて、私が小説家になるって言ったら、自分の方が先になってみせる! とか言うやつだったんだけど」

 …その、文芸部で原稿見つけたのってそいつなんだ…だから責任感じちゃってて、文芸部もやめたらしくて…と自分のことのように落ち込むKさんにわしは、分かった、力強くうなずいてみせた

 「先輩に頼んでみるよ! 西高の友達にも聞いてわたしも調べてみる!」

 「ありがとう! やっぱりうわさ通り新聞部に来てよかったよ!」

 喜ぶKさんに対して、わしは、うわさって? と訊き返そうとしたが

 「―――たっだいま~! お昼買ってきたよ~」

 思いっきり元気よく入って来た新聞部の友人の登場で訊く機会を逃してしもうた
 
 



 んー、と画面から目を上げて、わしは大きく伸びをした

 先輩に電話したがつながらず、とりあえず出来ることだけでもと、西高の友達に聞いた情報を元にネットで検索して見ることにしたのじゃが、何しろ20年前のことなのであまり情報はない

 ただ、削除されたはずの怪談が書かれた原稿については、すぐに載せているサイトが見つかった

 西高の生徒の誰かか、あるいは文芸部が公開した画像を保存しておった人が載せたのか、いずれにしても学校側の対策は意味をなさなかったようじゃ

 と、いうより学校が禁止した、ということでかえってうわさを助長する結果になってしもうておるらしい

 友達にはあまり調べない方がいいかも? と言われておったが

 わしは画像を開くと、そこに書かれてある文章を読み始めた―――





 怪しい気配を感じて私は道路の反対側を見た

 ある日を境に、私は妙な視線を感じるようになっていた

 テレビでやっていた心霊特集、その中で紹介された1枚の心霊写真に写っていた顔がどうにも頭から離れない

 眼窩にただ闇があるだけのその目がじっとこちらを見ている気がしたのだ

 それだけなら気のせいですむのだろうが、じゃあ、あれは何だというのだろう
 
 道路の反対側、バス停も何もない場所に1人、ただじっと佇んでいる人影がある

 ここ数日、部活で遅くなった帰り、必ずそこにじっと立っている

 顔は確かにこっちを向いているのだが、たいして距離もないのに、影のようになってよく見えない

 ただ、あの心霊写真の顔にどことなく似ている気がして仕方がなかった

 同じ心霊特集の番組を見ていた友達に相談してみたのだが、その子は、そんな写真あったっけ? と首を傾げた

 その番組撮ってあるよ、と言う友達に見せてもらって確認しようという話になった

 問題の心霊写真が映っている箇所で止めてみたが、見たはずのあの顔はそこに映ってはいなかった

 そんな…確かに…

 愕然とする私に友達はやっぱり気のせいだったんだよ、とビデオを消したが

 ひっ、と私たちは小さく悲鳴を上げた

 真っ暗になった画面の中で、あの顔がじっと私たちを見ていた―――

 ―――これから始まるあと13の怪談を
 




 おわりまで読まずに途中でやめると、あなたの身にも恐ろしいことが起こるかもしれません―――か…なるほど…

 どうやら『怪談コンテスト』に収録されている話の最初の1話だったらしい
 
 よくある怪談の出だしとも言えるが、実際に何かを見ておる人が何人もおるということを考えると少し寒気のようなものを感じる

 まぁ、あとは明日先輩が戻ってきてからにしようと、わしはパソコンの電源を落とした

 5時半過ぎくらいじゃったが、妙に眠い。 資料整理で思ったより疲れておったのやもしれぬが―――

 ――気づくとわしは、夕暮れの道の上に立っていた

 見慣れた、学校からの帰り道

 ああ、夢だな、とすぐに思った。 道の反対側に目を向けてみると、そこには誰かがぽつんと立っておる

 あんな話を読んだからといってこんな夢を見るなんて、と自分の単純さがおかしくなった

 じゃが、どうにも、なんというか夢にしては意識がはっきりしすぎておる気がする

 人影はずっと、道路の反対側からこっちを見ておる

 歩いても歩いても、それは先回りしておるように道の反対側に現れた

 と、急にそれの姿が消え、わしはほっとした、のじゃが

 っ! それはわしの歩く道の先、数メートルのところに移動しておった

 じっとこちらを見てる顔はやはり影になっておるようによく見えぬが、次第にはっきりと―――

 そこでわしは目を覚ました。 携帯が鳴っておる

 出るとN先輩じゃった

 旅先で体調を崩して1日早く帰って来たのだそうじゃ

 わしが先輩にKさんから聞いたこと、『怪談コンテスト』について分かったことを話すと

 それ、見たことあるかも、とあっさり言ってきた

 見本用に数部だけ作られてたのが資料室にあった気がする、ということじゃった

 
 

 
 つぎの日、わしらはさっそく資料室を探した

 N先輩は体調がすぐれず、来られないということじゃったが、代わりにN先輩から頼まれたというS先輩が手伝いに来てくれた
 
 「これじゃないか?」

 探し始めて1時間ほど、S先輩が一番奥の段ボール箱の中から『怪談コンテスト』と書かれた古い冊子を見つけた

 「―――さっそく読んでみる?」

 と、Kさんが少し不安そうに訊いてきた

 うなずいてわしはページをめくる。 最後まで読み進めたが

 「特に何もない、よね…?」

 戸惑ったようにKさんが言う。 確かに普通の怪談話以上のものではなかった。 気になったことと言えば

 「最後の話、何か他のと雰囲気違ってたよね?」

 ぼかした終わり方をしておる他の話と違って、最後の怪談は登場人物13人の首がはねられる、という血なまぐさい終わり方だった

 あ、そうか、とS先輩が何かに気付く

 「最初の話を除くと怪談は全部で13話、それに対して13の首、首ってこの場合、頭のことだろ」

 つまり各話の文頭の1文字を集めると―――

 「こ」「の」「物」「語」「は」……

 わしとKさんはほっと息をつく。 現れたのは物語の決まり文句だった
 
 さぁ、用事も済んだし、もう帰った方がいい。 雨が降りそうだ――

 片付けはやっておくからと言うS先輩に送り出され、わしらは部室を後にした

 ありがとね! と嬉しそうに言うKさんに、わしはいいから早く友達に教えてあげて、と笑顔で応えた



 

 彼女と校門で別れた後、しばらく歩いたところで、とうとう雨が降ってきた

 いつも通る道じゃが、わしはあまりこの道が好きではない

 道の途中に少し広くなっておるところがあって、そこには花壇とベンチが置いてある

 そのベンチの下に小さなカゴが置いてあるのじゃ

 いつからそこにあるのか、その中には古ぼけた小さな人形が数体入っておった

 事故現場に人形が供えられていることもあるが、それとは感じが違う。 そもそもそこで事故があったという話も聞かなかった

 その場所に差し掛かった時、わしはぎくりとして足を止めた

 雨の中傘もささず、髪の長い女性が1人、道の端に立っておるのじゃ

 気にしすぎじゃ、と自分に言い聞かせて、素早く通り過ぎようとしたのじゃが―――距離があと数メートルと近づいたところで気づいてしもうた

 その者は雨が降っておるというのに一切濡れておらぬのじゃ

 再び、わしの足が止まる―――と

 「―――よけい、な、ことを…」

 ひび割れ、ざらつく声が雨音の中に静かに響く。 ねじれるような不自然な動きで、それは顔だけをわしの方に向けた

 ずるずると、引きずるような音を立てながら、次第にわしの方へと近づいてくる

 いまやはっきりと見えてきたその顔には一切の表情がなく、ぽっかりと穴の開いた眼窩がじっとこちらに向けられていた

 動くこともできぬわしに、それはあと1メートルと迫った

 その時じゃ。 不意に足元の方で何かが破れるような音がして、わしは反射的に目を向けた

 いつの間にカゴからこぼれ落ちたのか、人形が1体、道に転がっており、その小さな体は、首のところから斜めに引き裂かれておった

 急に体が軽くなった気がして、顔を上げると、さっきそこにいたはずのものは初めからいなかったかのように姿を消していた

 わしは全力で家に走って帰った

 あれが発した言葉が不安を掻き立てる

 余計なことをした、というのなら、では他の者は…?

 慌ててわしは電話をかけた――Kさんにはすぐつながったが、N先輩には何度かけてもつながらぬ

 翌日も、N先輩は部室に姿を見せず、メールへの返信もないままじゃった、のじゃが―――


 
 

 ――サンドイッチ食べる?

 翌々日の午後、補講が終わって、部室に入ると、N先輩が開口一番そんなことを言うてきたので、わしはがくっと脱力した

 聞くと体調がなかなかよくならなかったらしい

 携帯は、あ~、そういえば充電してなかったかも、ということで、わしは再び肩を落とした

 お昼を食べながら、わしは伝えられていなかったKさんの友達やうわさ話のその後について話した
 
 無事文芸部に戻ったこと、それから例の原稿を載せていたサイトに誰かが『怪談コンテスト』の全文を送ったらしく、話のオチがうわさ以上の速さで広がっているらしいこと

 そして、これは誰にも言ってなかったのじゃが、あの日わしが見たことについてもN先輩に話した
 
 「 形代って知ってるかしら、他にも身代わり地蔵とか―――ひな人形も元々はそうだと言われていたりするけれど」
 
 要は自分の災厄を肩代わりしてくれる物のことね、と言ってN先輩は言葉を止めた

 「――あの人形がわたしの身代わりになってくれた、ってことですか?」

 わしの言葉に先輩は、さぁ、どうかしら、とあいまいに応える

 どちらでも自分の納得する方を選べばいいんじゃないかな、と

 でもね、と先輩は言葉をつなぐ

 「もし人形が身代わりになってくれたって信じるなら、これを代わりに置いて来たらどうかな?」

 そう言って、先輩は自分のカバンについていた人形をわしによこした

 「――これ、でいいんですか…?」

 渡されたのは6センチほどのちっちゃなクマのぬいぐるみじゃった

 まぁ、先輩がいいというのならいいのやもしれぬが…

 「あ、そうだ、もう1つ訊きたかったんですけど」
 
 わしは何となく返答を予測しながらも気になっていたことを尋ねてみた

 『怪談コンテスト』の冊子、あれは本当に当時の物なんですか、と

 ん~? と先輩は首を傾げる

 「それって私があの後、お話を13話書き上げて、古い紙に印刷したのを資料室に置いておいたっていうこと?」

 改めて言葉にすると無茶な考えという気もしてくる。 わしが迷った様子を見せておると、先輩はいたずらっぽく笑って

 「好きな方の答えでいいんじゃない?」

 そう言って、机の上に置いてあった紙に目を落とす

 それ以上は訊いても答えてくれそうになかったので、わしはあきらめてサンドイッチをかじった

 と、不意に先輩がなんとも微妙な表情を浮かべる

 先輩が見ておる物をのぞき込んで、わしは思わず噴き出した

 昨日、先輩がおらぬ時、新聞部2年の友人が『怪談コンテスト』の顛末を書いた記事と改めて怪談募集のチラシを貼ってまわっておったのじゃが、早くも応募された怪談の1つにはこう書かれておった

 ―――この学校の新聞部には部員の他にもう1人、名簿にも載っていない生徒が所属していて、怪奇現象にあった生徒が1人でそこを訪れると、たちどころに解決してくれるらしい―――

 「…確かに体調悪くて休みがちだけど、名簿にはちゃんと載ってるのに…」

 ぶつぶつ言うておる先輩に

 「自分自身が怪談になる経験なんてめったにできませんよ!」

 と、言ってみると先輩は、そんな経験いらないっ、とむくれた

 笑って、わしは先輩から渡されたぬいぐるみに目をやった。 納得のいく方を選ぶ、か

 その日の帰り、わしはあの場所にクマのぬいぐるみを置いてきた

 それまで気味悪く感じておったその道がとたんに安心できる場所になった気がした――

 高校を卒業してからはその道を通ることもなくなったのじゃが


 

まだあったんだ――

 ベンチの下をのぞき込むと、そこには他の人形に混じって、古ぼけた小さなクマの人形がちょこんと座っておった


コメント(6)

Lala Tora

Masamune [Mana]

しごとがはやいっ・・・Σ(´-´ノ)ノ!?
主催おつかれだよー、とてもたのしかった(*●⁰♊⁰●)ノ
また名物企画として来年も期待してるねん、来年は遅刻しないぞー!!!

C'yath Coccia

Masamune [Mana]

くまー!
主催お疲れちゃん!初のハウジングでの開催、会場も凝ってて照明やBGMを調整できるからイイねー!でも、あの家に悪いものが憑かないか心配ですw

Punish Linkage

Masamune [Mana]

今年のくまはアップがはやい!
というわけで怪談会インデックスにも追加しまっした
http://punish14.seesaa.net/article/412449511.html

相変わらず上手いなぁ
そして20年後にはクマが身代わりに……

Beatrice Beatrix

Masamune [Mana]

ことらよ、コメントありがと~じゃU。・x・)ノ
はっはっは! まぁ、たまには早いことも、ある!
まぁ、体調崩れそうな感じがしておったので早めに書いただけなのじゃがな!
そして予想通り風邪をこじらせてしもうた(´・ω・)

Beatrice Beatrix

Masamune [Mana]

キャス殿、コメントありがと~じゃ(*´ヮ`)ノ
あの家はLハウスの宿命としてところどころに空きスペースがあるしのぉ。。。何かそこに潜んで…ギャー

Beatrice Beatrix

Masamune [Mana]

パニ~コメントありがと~じゃヾ(゚▽゚*)
今年はちょっと返信なども頑張ってみたかった! しかしやはり体調を崩してイマイチ早く返せなかった…! く…w
インデックスありがと~なのじゃヽ(〃'▽'〃)ノ 毎年助かるのじゃ~(*'∇')/
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