* * *
本当はもうどこにもない街並みは、魔法で浮かび上がった陽炎のようだ。けれども、確かにここに在ると、在ったのだとはっきりとわかる強さで存在している。それだけ、この街を知悉し、記憶し、今なお彼の心に在り続けているということなのだろう。
魔法の街をゆったりと歩く人たちの姿は、すうっと現れては消える影法師のようだった。その後ろ姿にふと既視感を覚えて、ラサラスはあぁ、と呟いた。
(……そっか)
少しだけ背を丸めて。焦らずゆったりと、僅かに踵を擦るような歩き方。地位に似合わぬ、くたびれて見える姿だとただぼんやり思っていたけれども、もしかしたらそれは彼の矜持か、あるいは無意識に現れた生き方そのものだったのかもしれない。
目を伏せて、隣を見やる。そこに時折現れた男の姿はない。
(……おんなじ、だな)
世界を、家族を、友を、仲間を。何もかもが壊れて失われて、それでも一縷の望みに縋って――それを、愚かだ、哀れだと断じることは自分にはできない。
ただ、記憶して、繋いでいくことだけが償いになると、信じて進むほかはない。
(生きてたんだ)
この街に住まう人々が、確かに笑い語り合っていた時代が確かにあったのだと。
(生きてるんだ)
きっと、鮮やかに描き出すことができるほどに強く何度も思い返し、彼の心の中ではまだ生き続けているのだと。
(……生きる)
それでもなお、自分たちが生きるために。