タンクとは、敵からの攻撃をその身に受けることで仲間を守るロールである。
しかしその削られた体力を自身で回復する術は限りなく少ないわけではないが、限られてはいる。
アイテム、術技。いずれもリキャストに手こずらされ、回復が追いつかないことが目に見えている。
タンクが床を舐めれば仲間へヘイトが散らばり、パーティは瞬く間に壊滅してしまう。
それを防ぐのはタンクの役目だろうか。いいや、違う。
タンクを生かし、パーティーの生命線を握るのは、ヒーラー様である。
もりちゃんは戦士をメインに竜騎士、黒魔道士、それから格闘士や弓術士等々様々なジョブに手を出している。
勿論ヒーラー職も例外ではなく、密かに幻術士を鍛えてはいたのだ。
だが戦士、黒魔道士、竜騎士とタンク、DPSが上級職になった今、ヒーラー職だけ下級職のままであることに気がついた。
ショタッテは
もりちゃんのジョブに合わせて職業を変えてくれていた。
「全部出せるようにしておいたから好きなジョブでいっていいよ」なんとも器用な奴である。
べ、別にあんたのためじゃないんだからね!というわけでは全くたりとも微塵も無いのだが、ヒーラー様はいずれしっかりと手をつけておきたい気持ちがあったので、今週はヒーラー様強化週間を設けてみたのだ。
何故「様」をつけるのか?タンクであるがゆえにそのありがたさを身に染みて理解しているからこそくる敬意の表れである。
斯くして、
もりちゃんはひとり夜な夜なグリダニア周辺を徘徊しつつリーヴをこなし、黙々と、かつ地道にレベル上げに勤しんだ。
ダンジョンやギルドオーダーに参加できれば話は早いのだろうが、何しろ
もりちゃんの幻術士レベルはこの時10にも満たない。いずれも不可能な話であった。
呪術士を鍛えた時も感じたのだが、魔法職のレベル上げは傍から見ると奇怪なことこの上ない。
普段は後ろに控え、前線から離れながら魔法で援護する職なはずだが、ソロで敵と対峙するとなると敵の攻撃を受けながら魔法を使わなければならなくなる。
よって、
もりちゃんは敵にぼこぼこに殴られながら無我夢中でストーンを唱えることを強いられるわけで。
もりちゃんの屈強な肉体も幻術士補正でか弱く貧弱な肉体になってしまい、それはもう痛いこと痛いこと。
応援するMorimoriがうっかりうたた寝してしまったがゆえに
もりちゃんをリムサ送りにしてしまったことはここだけの秘密である。すまない
もりちゃん。
このレベル上げをしていた時、同じ職で同じレベル帯の冒険者を2名ほど見かけた。
数日に渡って同じ名前だったので、こちらとしては気になるところ。
そんな幻術士が
もりちゃんと同じようにソロレベル上げでぼこられながらストーンを唱えているところに出くわした。
何かの縁を感じた
もりちゃんはかの者に辻ケアルを施し、そっとその場を後にした日もあった。
助けてやるんだから、などという気持ちは毛頭もない。ただ辻ケアルをやってみたかっただけなのだ。好奇心が勝ったのだ。
細々と地道にレベル上げすること数日。ようやく16レベルに到達した
もりちゃん。
いよいよだ。いよいよダンジョンに行ける。否、行けてしまう。
わかっているのだ。ダンジョンのほうが効率よくレベルを上げられるのだと。
わかっているのだ。このまま地道に上げ続けるだけの忍耐が、Morimoriにはないのだと。
そんな葛藤に苛まれるMorimoriを見て、
もりちゃんは静かに頷いた。
あなたの判断に任せよう。無表情の中に見える微かな信頼の色。
もりちゃん、君はMorimoriを信頼して、君自身の行く末を任せてくれるというのか?
ああ、そうだった。ふたりはふたり。ふたりはひとり。私たちはここまで共に頑張ってきたではないか。
1つ分の陽だまりに2つはちょっと入れないけれど、こう、肩を寄せ合えばきつきつだけど頑張れば入れる気がしないだろうかいややはり
もりちゃんに弾き出されそうな気がする奪い取った場所で光を浴びそう。
がんばろう、
もりちゃん。一緒に、行ってみよう。
そして足を踏み入れるはタムタラ。数え切れないほど踏破しているわけではないが構造を理解できるほどには訪れているダンジョンだ。
しかしそれはタンク、それからDPSでの話。
ヒーラー様で訪れるのは初めてだ。
もりちゃんの緊張が伝わってくる。Morimoriの緊張も
もりちゃんに伝わっているだろうか。
まずは最初の挨拶が肝心である。
初心者です。よろしくお願いします。
それだけで優しいヒカセンの先輩たちはわかってくれるはずだ。
さあ
もりちゃん、発言を。
しかし震える指が打ち出したのは、ローマ字変換のまま打ち出した言葉だった。
「syosin」最低である。
すぐリカバリーを、と焦るMorimoriを知ってか知らずか、確実に知らずに次々と挨拶をするマッチングパーティーメンバーの方々。
ツッコミも何も無しである。当然か。
1文字ずつゆっくりと打ち出す挨拶。
「初心者です、よろしくお願いします」やっとまともな挨拶ができた。ほっと息を吐くMorimori。
しかしどういうわけか
もりちゃんは余計なことをしてしまったのだ。
「初心者タンクです、よろしくお願いします」おまえタンクちゃうやろこれはマクロに登録しておいた挨拶だ。
タンクでダンジョンに行くことが多いため、自分への保険として愛用しているマクロだ。
何故だ。何故今になって暴発したのだ。
もりちゃんに問いかけても知らぬ存ぜぬ。当たり前だ、とち狂っているのはMorimoriなのだから。
これではパーティーメンバーのタンクの御方を指し示しているように捉えられるではないか。
「このタンクの人初心者なんすよーよろしくっす」
違う。そんな軽々しく口を叩ける間柄でもなければ初めてお会いした方だ。そんな意図は全くない。
変に捉えられてしまっただろうか。やべーヒーラーに当たっちまったぜ、と思われてしまっただろうか。
凛と佇む
もりちゃんのなんとも言えない背を見てガタガタ震えるMorimori。
けれどダンジョン攻略は無情に進むのだ。
1にケアル2にケアル3、4もケアルで5もケアル。
いいか、ケアルだケアルケアル。
ストーンなんぞ二の次だ。エアロなんぞ三の次だ。
タンクを落とすな。誰も落とすな。
もりちゃんのケアルに全てが掛かっているのだ。
血眼で進むこと数分。いよいよボス戦。
目前にして挟むムービーを初めて見るのか、佇む一人の冒険者。
ムービースキップという便利な機能を取り入れたMorimoriは早々にムービーを明け、他の冒険者とぼんやり待つことに。
座って待とうか。
そう考えたMorimoriが愚かだった。
「初心者タンクです、よろしくお願いします」誤爆した。L2とR2を押し違えたのだ。これは酷い。いい加減にしてくれ
もりちゃん。
しかも気を使ってくれたのか、ムービーを見ていた冒険者の方のフォローが辛い。ごめんて。ありがとうな。
いろいろ問題事が山積みだったがレベルが4つ上がったタムタラ。波瀾万丈の冒険は幕を閉じた。
翌日。
今日も震えながらレベリングを頑張ろうと意気込むMorimori。
誰か着いてきてくれないかな、と仄かな期待を込めてCWLSに挨拶を発言すると真っ先に返してきてくれたのは
ヤバイッテ。
早いですね、なんて返してみると爆速で
「いつも見てますから」というお言葉を頂戴した。なるほど(なるほど)。
シルクハッテもいたのだがダンジョンに入ってしまったとのことで同行願えず。
ヤバイッテと共に参加したのはサスタシャ。
ここに来るたび、初めてのダンジョンを探索したあの時のことを思い出す。
が、そう思い出を振り返る暇はない。
ヤバイッテはDPS、
もりちゃんはヒーラー様。
残るは面識の無い冒険者ふたりである。
タンクの動きを見て学ぼうと意気込みつつ、タンクを死なせはしまいと覚悟を決めるMorimori。
それとは別の緊張感を背後に感じながら。
「もりちゃんの白魔道士の動き、舐め回すように見ていますから」ヤバイッテのメインジョブは白魔道士。熟練の白魔道士。その教えを受けられるのはとても有り難いことなのだが、如何せん圧が強い。強い。
だが
もりちゃんは自分のことで精一杯なのか全く気がつきもせず淡々とケアルを連打し続けた。
そこで気がつくMorimori。
なんか
もりちゃんとか他のDPSの方がダメージを受けておられる?
疑問に思いながらもケアルをかけ続ける。
タンク職に身を堕とした時に
ショタッテから言われたことを思い出した。
「ダンジョンに入ったらディフェンダーがついていることを確認すべし」斧術士が一番多くお世話になるであろうディフェンダー。味方へのヘイトを散らさないためのスキルだ。
緑とピンクのアイコン。剣術士では異なるアイコンだが、ヘイトを集めるという意味合いで同じスキルがあることをMorimoriは認識していた。
今回のタンクさん、もしかして。
ふと見るお名前の右側。空欄がそこにあった。
つけ忘れかな、それとも外れたのかな。どうしようかな。
なんて悶々としていると、
ヤバイッテが立ち止まる。
予感という風がMorimoriを巻き上げた。
「アイアンウィル」でたわね。「暗黒さん範囲うってます?」に続く重圧ワードだ。
しかし今回はそこまで厳しくはなさそうだ。いや、Morimoriが勝手に重く恐ろしくしてしまっている説がある。というよりそれ。
ヤバイッテのチャットにより、タンクさんがアイアンウィルを身につけてくださった。やはりそういうことは発言したほうがよいのだろう。Morimoriもディフェンダーつけ忘れていたら注意してほしいし。
いろいろなことを学べたレベリングサスタシャであった。
そういえば一点、感動したことがあった。
ヤバイッテはベテラン中のベテランなのでこのサスタシャ洞窟など目隠しをしても踏破できることだろう。
ゆえに、タンクを抜き去り先行する場面が見受けられた。
あ、それ
もりちゃんもよくやられるやつ……!タンク待ってくれないやつ……!
まさか本当に
もりちゃん界隈にだけ優しいのか、と一瞬不安に陥るMorimori。
けれど
ヤバイッテは
ちゃんと待ってくれた。
先行はする、けれど敵の前で立ち止まり、タンクが敵を引きつけるのを待ってくれていたのだ。
これがベテラン……
ロールの役割を尊重するベテランなんや……
と感動したのを覚えている。
それから
もりちゃんにヒールヘイトが向けられたとき、一目散に駆けつけてくれたのもしっかり見ていた。
素敵な先輩と知り合えてMorimoriも
もりちゃんも幸運である。
エスナが効く状態異常、それからエスナを掛ける優先順位等をその後講習会にて教えてもらい、たいへん実りのある時間になった。
今後とも共にがんばろうね
もりちゃん。