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Yukito Nekomiya

Alexander [Gaia]

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Chronicle of Clover: 雨の日の話

公開
 それは。
 神をも打ち倒す『光の戦士』ではなく、世界を救う『英雄』でもなく。
 ごく当たり前の、どこにでもいる、普通の冒険者たちのお話。

* * *


「……ふー……」
 一仕事終えて思わずこぼれ出たため息は、思ったよりも響いて聞こえた。家の中にはバートラム以外には居ないようで、しんと静まり返っている。雨に降りこめられてやることもなかったので、どうせだからと手入れを始めたのだが、その間に仲間たちはどこかへ出かけたようだった。
「誘ってくれりゃあいいのによー……」
 わざとらしい恨み節が、空気に溶ける。いつもならすぐさま飛んでくる反論も、今はない。
 「居間でやるな、作業するなら自室でやれ」と小言を食らった記憶はうっすらとあるのだ。だが、バートラムはそれになんと答えたのだったか……あとちょっととかなんとか適当に返答したような気がする。おそらくそんな感じで、誘われたのに生返事をするばかりで、最終的に諦めて置いて行かれたのだろうと思えた。
 作業に熱中している間は気づかなかったが、誰も居ない家はひどく寒々しく感じる。
「薄情なやつらだぜ、なぁ『エレナちゃん』」
 磨き上げたばかりのハイスチール・バトルアクスに愚痴をこぼす。何度も振るい何度も魔物を屠り……何度もバートラムの命を長らえさせたその斧は、今はバートラムの手入れの甲斐あって新品同様にぴかぴか輝いている。
 何かと怠惰なバートラムではあるが、命に直結するものであることもあって、日ごろの手入れは欠かしたことがない。とはいえ、使い続けていれば細かな傷や拭い損ねた魔物の体液などがこびりついてくることも、多い。そういう意味では、じっくりと時間を取って武器の手入れを行うことは、有意義な休日の過ごし方ではあるのだろう。
 もっとも、こうして一人、家の中に置いて行かれる事態になるとは思いもよらなかったが。
「どうしたもんかなぁ……」
 窓の外は薄暗いが、まだ日が落ちるような時間帯ではない。仲間たちがいつ出かけたのかもわからなければ、いつ帰ってくるのかもわからない。外へ飲みに出かけようかと一瞬考えて、そもそも雨が降ってて外出が面倒くさい状態なのを思い出した。
「あいつら元気だなぁ……」
 家の中に居ることに真っ先に飽きたのはきっと、最年少であるララフェルの少女だろう。気弱な幻術士の少女がそれに引きずられて。買い食い魔と世間知らずの二人では危なっかしいから、と渋々パーティーの会計係が同行を決めて。
 自分は作業に熱中していて見ていなかったけれど、いつものようにそんなやりとりがあったに違いない。陰鬱な雨もなんのその、賑やかで慌ただしくて、少しばかりうっとうしくてお節介で、愛すべき日常。
(あ、やべぇ)
 ちりり、と頭痛がして、バートラムは眉間に力をこめた。
 静かなのは嫌いだ。特に、『家』での静けさは大嫌いだった。雨の日の静けさは、ことさらに余計な記憶を刺激してくる。
 何か別のことを考えなければ。今日の夕飯は何だろうかとかそんな下らないことでもいい、何か、別の。なんでもいい。おもいだしたくないことをおもいださないように、なにか。
 と。
「たっだいまー!」
「……あの。すみません、遅くなりました」
「只今戻りました。……おや、珍しくまだ飲んでないんですね」
 勢いよく扉が開け放たれると同時に、三者三様の声が飛び込んできた。雨の気配を蹴散らしての帰還に、ふっと肩の力が抜けたような気がして、バートラムは緩い笑みを浮かべる。
「おう、おかえり。いやー、さっき作業が終わったとこでさあ、そろそろ飲もうか考えてたとこなんだよな」
「いいじゃないですか、今日はそのまま禁酒の日ということで。あんたの酒代も馬鹿にはならないんですよ」
 パーティーの常識人であり会計係である青年が辛辣なのも、いつものことだ。さてなんて言い返そうかと考えたところで、バートラムはふと青年の頭に目を止めた。そのまま、幻術士の少女、ララフェルの少女と順番に視線を下ろしていく。
 色こそ違うものの、彼女たちの頭には同じ花の髪飾りがついていた。
「……お揃い?」
「んっふふふふ、よくぞ気が付きましたー!」
 ぽつりと零したバートラムの呟きに、にんまりと笑みを浮かべたララフェルの少女が渾身の力でふんぞり返った。ちょっと突いたらそのまま転がっていきそうだ、と少しだけ不謹慎なことを思うが口には出さない。
「安かったので買っちゃいましたー!」
「……あの。ちょうど今ハイドレインジャが時期で、安くなってて、それでララシュさんがみんなで付けようって言って、その」
「へーえ。ハイドレインジャってのかこれ」
 もたもたと説明しだした幻術士の少女に、バートラムは感心した声を上げた。
 髪飾りに使われている花は、一見、大ぶりの花のように見えるが、よく見ると小さな花が幾つも集まって一塊になっているようだった。雨に濡れたせいか小さな雫がきらきらと光を跳ね返して、いっそう色鮮やかだ。身じろぎするたびに垂れ下がった飾り房が揺れて、いい動きのアクセントになっているようだった。
 常に色気より食い気優先のララシュにしては珍しいが、確かにこれは女の子が好みそうだ。無駄遣いを許さない男が同行して、そのうえで許可を与えたということは、値段も恐らくかなり手頃だったということだろう。後で自分もいくつか買って、よく行く酒場の女の子に渡せば、今度こそモテるかもしれない。
「……ん? ちょっと待て、『みんなで』?」
「そうですみんなです、つまりは俺もあんたもです」
 引っ掛かりを覚えた単語をうっかり口にすると、ずずいと青年に詰め寄られた。その頭には当然、ララシュたちと同じハイドレインジャの飾りがついている。エレゼン族らしい、すらりとした体躯に小綺麗な顔が乗っかっているので、髪飾りと相まって男装の麗人めいた華やかさがあるのだが……それを指摘したが最後、バートラムの明日はないだろうと確信できるぐらいには鬼気迫る様相だ。
「いいじゃないですか、あんたはどうせ付けるっていっても家の中だけなんですから。俺なんか、この格好で帰ってきたんですよ!?」
「……あ、あの。フェリシアンさん、その、すごくよくお似合いなので、そう悲観なさらず……」
「ふっふふふ、安心してくださいバートさん、ちゃーんとバートさんにお似合いの色のを買ってきたのでー!」
 賑やかな声音に、バートラムは自然と笑みが浮かんできた。さっきまでの頭痛はいつの間にやら遠くへ過ぎ去り、今は微塵も感じない。
「それはそれとして、オレは断固として拒否する!」
「あっ、ずるい、あんただけ一抜けなんて許さねぇぞ!?」

 そんな、雨の日の話。


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#エオルゼアのこ版深夜の創作60分一本勝負
お題「ハイドレインジャ(紫陽花)」
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