『夜釣り』
わたしは夜釣りに出かけた。
ある日、遊びの予定がキャンセルになった私は、秘密の釣り場で夜釣りを楽しむことにした。
街から少し離れたところにある橋で、静かでよく釣れるわたしの穴場。
その日もよく釣れ、しばらくした頃、全身に寒気を感じた。
『何か怖いな』
そう思いつつも、入れ食い状態のその場を離れる気にもならず、夜釣りを楽しんだ。
「あなたも・・・つりですか?」
後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、サラリーマン風の中年男性がいた。
--------------------------
わたし:えぇ、ここよく釣れるんです
男性 :えぇ・・・そうらしいですねぇ
わたし:あなたも釣りですか?
男性 :まぁ・・・そうですねぇ
---------------------------
話していくうちに、わたしは違和感を感じた。
男性は、どうみてもスーツ姿。
とても、釣りを楽しむカッコではない。
こんなところで、なにをしているんだろう?
---------------------------
男性:あなた・・・つらないんですか?
---------------------------
男性の声。
いや、おかしい。
明らかに、上から聞こえてきた。
-----------------------------
男性:つりましょうよ・・・あなたも・・・
-----------------------------
わたしは恐怖に震えながらも、上を見上げた。
そこには、いま話をしていた男性の首吊り死体があった。
男が言っていたのは釣りではなく、首吊りだったのだ。
気が付くと、わたしの目の前には無数の人影が
「吊ろう・・・一緒に吊ろう・・・」
と、わたしにささやいている。
そこまでだ!
聞いたことのある声。
寺生まれで霊感の強いTさんだ。
影によって今にも吊り上げられそうなわたしの目の前に来ると、自前の釣り竿を振り回し
「ハァァァァァッ!」と叫ぶ。
すると釣り竿の糸が眩く光り、振り回した糸が剣のように次々と影を引き裂いていく。
ある程度影を振り払うと、Tさんの呪文によって周りには光が走り、あっという間に影は全滅した。
「Tさんも夜釣りですか?」
そう尋ねると、Tさんは私を指さし
-------------------
寺生まれのTさん:まぁな。ずいぶんと小物を釣り上げちまったがな。
-------------------
帰り道で聞いた話によると、あそこは自殺の名所で、首吊りが首吊りを呼ぶ恐怖の橋らしい。
-------------------
寺生まれのTさん:すっかり日も上がっちまったな。どれ、街で女の子でも釣りにいくか。
-------------------
そう言ってクルマに飛び乗り、さわやかに笑ってみせるTさんをみて
寺生まれはすごい
わたしは、いろんな意味で思った。