ソムヌス香というのは、ウルダハではダメ絶対な薬である。
夢想花と呼ばれる植物から生成されるお香で、嗅ぐとよく眠れる効能があり、眠れない病のヒトが医者から処方される。このお香は睡眠を誘発するたぐいではない、誰でも強烈な幸せな気持ちになれてしまった結果、意識を手放してしまうという代物なのだ。しかし吸いすぎると意識が戻らなくなってしまうという危なさもあり、栽培も流通も厳しく規制されている。
この効能に目をつけて販売する連中も無闇に使いたがる連中もあとをたたず、それは禁制だけに高値で売買する。アラクランの主な収入源というのがこれで、たまに依頼される暗殺などで喰ってはいけなかったのだ。
「あいつらさ、うちの流民街の裏手の洞窟の中で作ってたわけよ。もちろん銅刄団は表向きは反対しているが、アラクランを使っているのは銅刄団の上なわけだし。潰れられたら困る。だから派手に広げなければ目をつむっている。貴族の一部や流民が死のうがどうでもいいわけだ。」
そのアラクランが壊滅後、その施設やノウハウを手にしたものがそのギー某という小物というわけらしい。その小物はどうやら首に鈴がつくのを断ったらしく、手広く売り始めた。しかもそれを作る場所を元砂蠍衆の別邸というではないか。間違いなくこのあたりを火の海にしても皆殺しにくる。
「わかるだろ、さっさとあいつら潰さないとやばいわけだ。」
気になるのはレオフリックが徐々に馴れ馴れしくなってきていることのほうなんだが。
「おれとしては、ソムヌス香を使うやつがくたばろうが知ったことじゃねぇ。だから今までは見てみぬ振りしてきた。しかしおれの縄張りが焼け野原になってだ、しかもガギがくたばるってのは胸糞わるいだろう?」
だんだんレオフリックという男がわかってきた。そしてある種のポイントが似ていることを認めざるをえない。危ないのを知って使ったやつがどれだけ死のうがどうでもいい。
「それはいいんだが、なんで流民街のそこをわざわざ襲う必要があるんだよ。警戒強まったらまずいだろうに」
まだ乗り気になっていないので、一応反論くらいはしてみる。動けない奴と組んで二人で襲撃じゃあ洒落にならない。それにミラ団長から手出し無用と厳しく言われている、逆らってひどい目にあうのはこちらなのだ。そのあたりのことをこの元連隊長はわかっていない。
「問題は襲い方なんだよ、殺す必要もないし、壊す必要もない。ちょっとボヤをだして警備をこっちに多く割り当てればいいだろう。警戒が増えることと、人数が減ることどっちがいいって話だ。盗賊の警戒なんてたかがしれているだろう。人数なんてそんな簡単にふえねぇし。まぁ警備員全部殺してもいいけどな。」こいつ最後にとんでもないこと言い始めた。やや雑な計画に不平をいうと、怒り出し始めた。
「じゃあ、おまえどうしたいんだよ!おまえ何か、貴族のクソガキか、不満ばっかりいいやがって。どうしたいかくらい言えよ。」
こいつは協力を依頼しにきたんじゃなかっただろうか、キレてどうするというんだ。しかしやることが決まり、剣術士ギルドも引かないとなれば、お互い様なのだ。そして被害を減らしたいというのはこちらの都合なのだ。殺し合いに望んで怪我がいや、誰も死なせなくないという世界などどこにもない。
「別邸にあつつらの頭がいること。そして別邸の警備の半分にする。これができる策と人手がほしい。」
素直に頭をさげると、レオフリックは「はじめからそういえばいいんだよ」と驚いた顔をするとブツブツ言い始め、明後日の方向を向いてしまった。その様子にお前は本当にどうしてほしいんだよ!と言ってやりたいが、憎めない奴になってしまったので、こちらもモゴモゴと背を向けてしまった。
「まかせておけ、ここは俺の庭だ。それに前からあいつら気に食わなかったんだ。」
「痛えんだよ、この馬鹿連隊長!」力任せに叩かれた肩が痛い、こいつはずっと連隊長のままだったのだ。