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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

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改訂版【魂を紡ぐもの セイン】第一話『思慕のマテリア』5

公開
1-8

 アラグ星道から分かれ、西ザナラーンへと抜ける道の周囲には、いくつもの丘がある。
 その丘の一つに、セインとルーシー、そしてポポヤンらライラック連隊の面々、そして生き残りの男がいた。
 男――名を、リライアブル・クラブという――は、檻に入れられ、手錠をかけられ、猿ぐつわを噛まされていた。檻はあまり大きくなく、ルガディンの中でも体格の良い方であるクラブは四つん這いになるのが精一杯の大きさだった。
 そこに転がされたクラブは、しきりに体を揺すり、懸命に猿ぐつわを外そうともがいていた。もしくは、彼の周囲にいる同じ銅刃団であるライラック連隊の面々に、救助を乞うていた。あいにくと猿ぐつわのおかげで何を言っても唸り声にしかならないのだったが。
 こうなる数時間前に、リライアブル・クラブはミコッテの女から告げられていた。
『オマエはエサだ。妖異が最後の生き残りのお前を殺しに来る。それをあたしらは罠を張って待ち受ける。そのためのエサだ』
 そういって女はくく、と喉の奥で笑った。
『命の危険? あるに決まってるだろ。罠に気付かれたら、腹いせに殺されるくらいはあるかもな。ま、心配するな。――任務中の殉死だから二階級特進だぞっ☆』
 最後だけ何故か妙に高い声でわざとらしい演技をした女は、クラブが逃げる前に手錠と猿ぐつわを異常な手際の良さではめると、あっという間に檻にぶち込んだ。
 以来、クラブはずっともがいている。

 丘には幾つものかがり火が焚かれ、檻とその周囲を照らしている。
 篝火は丘の頂上をぐるりと囲うように配置され、その中央に檻と、ライラック連隊の四人。そして、丘の西側、少し切り立った側にセインが立っていた。ルーシーは篝火の周りをぶらぶらと歩きまわり、その足元では青いカーバンクルがじゃれるように追ってきていた。
 セインとルーシーは、それまでとは違う装いをしていた。
 セインは鎧を纏っていた。つやの無い黒の鎧は、両腰から下へコート状に伸びる装甲が特徴的だった。金属のように見えるが、セインの動きに合わせて柔軟に曲がる不思議な装甲だった。鎧はかなり使い込まれ、あちこちに幾つもの傷があった。
 背に背負う盾はカイトシールドで、これも鎧と同じつやの無い黒だった。その先端は鋭く尖り、剣の切っ先のようだ。
 そして、最も異彩を放っているのは剣だった。セインの剣は腰にはなく、右腕にあった。腕甲に取り付けられた小型の盾のようなものに、両刃の直刀が手とは逆向けに取り付けられている。これでどのように戦うのか、容易には想像の付かない形状だった。
 ルーシーが着ているコートは昼と同様黒いコートだったが、その形状は大きく異なっていた。襟が高く、地面すれすれまでの長さのコートは胸元まで覆った後大きく開いており、その下のドレスを露わにしていた。革のような光沢のドレスはコルセットのごとくかなりタイトに絞られており、彼女のプロポーションを際立たせている。
 ドレスのスリットから除くブーツは膝上丈で、踵はピンヒールだ。
「――そろそろだな」
「ああ」
 ルーシーのどこか楽しそうな声に、平素と変わらぬ淡々とした調子でセインが答える。
「き、緊張しますね……!」
 ダックがそわそわと自分の装備を確認する。
「お、おう」
 腕を組んでどっしりと構えているように見えるトゥイグは、しきりに唇を舐めていた。
「た、たた隊長、僕、お腹が……」
「毒消しでも飲んでおけ」
 ここへ着いてから詳しい事情を知らされたグレッグが半泣きで訴えるのに、ポポヤンはそっけなく毒消しの瓶を押し付けた。
 セインとルーシーの傍まで寄ったポポヤンが訊く。
「そろそろ、という根拠は何かね?」
「一つは今回の妖異の挙動からの判断だ。すべて夜の犯行で、最後の男が連れ去られた時間はちょうど今くらいだ。――それと」
「気配」
 セインの答えに、ルーシーが続けた。
「あたしはそうゆうの、分かるんだ。首の後ろがちりちりする。耳が張ってる感じがする。……ああ、てか」
 言いながらルーシーは、腰に吊り下げられていた魔道書を手に取り、開いた。
「――来たよ」
 ぎょっとしたポポヤンがルーシーの視線の先を追う。丘の東側、なだらかな坂になった――つまりは逃げるに易い方角に、夜よりもなお黒い闇がわだかまっていた。
 その闇に、いつの間に移動したのか、既にセインが正対していた。盾を構える。右手が右腕甲の小盾内側にある、ちょうど格闘武器のパタの握りに似たそれを強く引く。
 精巧な機構が動作する金属的な音を立てて、刀身が百八十度回転した。腕の延長のように伸びた直剣の刃が、ライムグリーンの魔力を纏って輝いた。
「これは……ッ!」
 ポポヤンが叫ぶ。丘の周囲の空間がぐにゃりと歪んでいく。わだかまった闇が溢れ出し、歪んだ空間の内側を満たしていく。
「閉鎖結界。逃がすつもりはない、か」
 ルーシーの呟きとほぼ同時に、セインの対する闇が、四つの塊に凝縮した。
「お……あ……!」
 それを見て悲鳴を上げたのは、リライアブル・クラブだった。猿ぐつわを噛まされたまま、恐怖に満ちた叫びを放った。何度も放った。
 現れたのは、巨大な首だった。
 エーリヒを殺し、そして殺された四人の首だ。
 それが、ルガディンの胴体ほどの大きさになっている。首は耳が無く、代わりに蝙蝠のそれのような羽と、細長く不気味な手が生えていた。千切れた首から、血管や神経がだらりと垂れ下がってぶらぶらと揺れている。
「アレも……妖異なのか?!」
「妖異が召喚した妖異、ってコトになるかな。なるほど、こういう使い方だったか」
「く……ら……ぶ」
「り……あ……る……く……ぶ」
「……おま……も」
「いっしょ……に」
 首はどれもだらしなく口を開け、目の焦点が合っていなかった。開いた口からだらだらと涎のような液体を垂らしながら、口々にクラブの名を呼んだ。
「~~~!」
 焦点の合わない目で、しかし明らかに見つめられ、クラブは再び精神を狂わせてしまいそうになり――突如放たれた閃光に目を塞いだ。
 フラッシュ。セインが放った魔法が、首妖異たちの目を灼いた。少し離れた四匹目に近寄り、もう一回。敵視を高める魔法をかけられて、首妖異たちはセインに殺到する。
 その中心で、セインが跳躍した。右手首を振ると刀身が折れ、下を向いた。その刀身を地面に突き刺す。光の柱が幾本も立ち、首妖魔たちを巻き込んだ。ナイトの技、サークル・オブ・ドゥームだ。
 すかさず、敵一体へ切りかかるセイン。再度接合した右腕の剣が魔力の光を放ちながら、妖異に斬撃を放つ。
「セイン! 敵増援! 数十五!」
 ルーシーの声に、セインは周囲に素早く視線を走らせる。
 異空間で覆われた丘の至る所に闇のわだかまりが生まれていた。それは首妖魔を吐き出した闇よりも小さかったが、数が多かった。
「……ぬう!」
 その闇から現れたのはインプだ。あまりの数の多さに焦りながら、ポポヤンが剣を抜く。
「任せた!」
「任された!」
 セインに応じたルーシーが、続けて青いカーバンクルに「サファ、弓術モード」と呼びかける。青いカーバンクル――カーバンクル・サファイア――の尻尾が輝きを帯び、幻具のような形状から、矢尻のような形状へと変化した。
「銅刃団諸君は檻を守ってればいい。近付くのがいたらどうにかして。まあ、平気だと思うけど」
「は、はいい」
「お……う」
「ひえええ」
 三者三様の反応をしながら、ダックはセスタスを、トゥイグは弓を、グレッグは槍を構える。剣と盾を構えたポポヤンと共に、檻を囲む形になる。
「全部集める」
 ルーシーの声に不敵な笑みで返すと、カーバンクル・サファイアはインプの群れへと駆け出していく。一際高く鳴くと、カーバンクルの頭上にいくつもの光の矢が現れ――一斉に放たれた。
 弓術士の技、クイックノックに似た範囲攻撃だった。その攻撃を二度、三度と繰り返し、カーバンクルはインプたちを丘の西側へと集めると、今度は強力な単体攻撃で各個撃破していく。
 カーバンクルの背に、光の球が生まれ、収束していく。収束された光は敵を撃ち抜く光弾となった。強く収束された光は強力だが連射は利かず、浅く収束した段階で放つ光弾は威力は低いが連射が可能だった。
 着実に数が減っていくインプたち。無論、その間に無数の攻撃がカーバンクルへと殺到しているのだが、カーバンクルは倒れない。
「まあ、余裕じゃね?」
 ルーシーが何度目かのフィジクを唱える。彼女はフィジクやサスティンを適度な間隔で挟み、敵視を取らずに体力を維持させていた。
 また、インプたちの攻撃がほぼすべて魔法攻撃であることも大きかった。インプたちにとっては、高い魔法防御力を有するカーバンクル・サファイアは相性の悪い相手だった。
「……圧倒的じゃないか……!」
 驚嘆したポポヤンが思わず曲刀を下ろしてしまうほど、戦況はセインたち有利に見えた。セインは四体の敵相手に、一向に崩れる様子が無い。ルーシーとカーバンクルは、ほどなくインプを殲滅するだろう。そうすれば、二人は首妖魔へ攻撃を行うことができる。
 だが。
「――おかしい」
 ルーシーの呟きとほぼ同時に、セインが言った。
「ルーシー! 嵌められた、本命はこちらに来ない!」
「なんだと……では妖異はどこに?!」
 ポポヤンの問いにセインが叫び返す。
「アステルだ! 奴は一足飛びに、“最後の仕上げ”を済ませるつもりだ!」
「ちっ、だからココ閉鎖したのか……ぬかった」
「“最後の仕上げ”、とは……」
 ポポヤンの問いかけを無視して、ルーシーは魔道書をめくる。魔紋が脈動し、魔力の光がルーシーの足下で渦を巻く。かざした手を中心にして魔紋が空中に現出し、消えた。次の瞬間、ルーシーからやや離れた地点に雷の塊のような光の半球が現出し――そこに、銀色のクァールが出現した。
 そのクァールには毛皮が無かった。代わりに、全身が鋼線を編み上げて作られたような銀色の外皮に覆われていた。触手は鋼線そのものであり、その先端は常にチリチリと電撃に包まれていた。
 ぎろり、とクァールが周囲を睨む。銅刃団の面々がぎょっとして後じさる。しかし彼らが真に驚いたのはこの後だった。
「マジャ」
「おうよ。説明不要だぜ」
「喋った?!」
 思わず大声を出したポポヤンをちらと一瞥してから、マジャと呼ばれたクァールがセインに呼びかけた。
「乗れッ! 脱出すんぞ!」
 その声と同時に、地面に濃紫の光が宿る。丘を覆い尽くすその光は、地に刻まれた魔法陣のものだった。魔力により刻まれた魔術刻印が、ルーシーの魔力を得て起動したのだ。
 陣の起動と同時に、首妖魔たち――一体倒され三体になった――と、ほぼ全滅しかかっているインプたちは、縫いとめられたように動きを止めた。
「本命が来ないならこっちで使うさ。セイン、いってよし」
 魔法陣は、ルーシーが事前に用意していたトラップだった。術者の指定した対象の動きを一定時間止める範囲魔法のようだ。
 素早く下がったセインは、傍らへ歩み出たマジャにまたがる。
「やってくれ、マジャ・ト・セトラン!」
 マジャの背を軽く叩くと、セインはルーシーに頷く。返答は、無駄に丁寧なお辞儀だった。
「いくぜぁ!」
 伝法な口調で宣言すると、マジャは咆哮を放つ。同時にクァールの周囲に魔力のフィールドが発生し、彼とセインを包み込んだ。フィールドがドリルのように旋回する。その勢いが最高潮になったとみるや、マジャ・ト・セトランは全力で疾走した。
 旋回するフィールドが、丘の周囲に発生している歪んだ空間と闇へ接触する。激しい魔力のせめぎあいが光となって噴出し、やがて空間がぼっ、と音を立てて裂けた。
 勢いを殺さずに、マジャはそのまま丘を蹴り宙を走った。裂け目はあっという間に元へ戻り、セインとマジャの姿は闇に遮られ見えなくなった。
「さて――ダンナの食い残しを片付けといくか。甲斐甲斐しいぞ、あたし」
 誰に言うともなく言ってへらりと笑うと、ルーシーは身動きの取れない首妖異の一体に向け連続で魔法を詠唱した。
 バイオラ、ミアズマ。二種の継続ダメージ魔法が首妖魔を侵し、そして赤い光を発して、残りの首妖魔へと拡散する。
 そこへ、インプを殲滅し終えたカーバンクル・サファイアが範囲攻撃をばら撒いた。光弾の雨が首妖魔に降り注ぐ。
 魔法陣の効果が切れ、動くことができるようになった首妖魔たちが、カーバンクルへと襲い掛かる。
 先ほどと同じようにカーバンクルを支援しながら、ルーシーは唐突に言った。
「妖異が狙ってんのは、ミリアムにアステルを殺させる、ってコトさ」
 自分たちに向けた説明だと気付くのが遅れたポポヤンが返事をする前に、ルーシーは淡々と続けた。
「エーリヒの仇を打ちたい。それがミリアムの願いだとしたら、それを叶える手伝いをする――ように見せて、妖異はミリアムの心がドス黒い快楽に染まるよう仕向ける。だんだん復讐ではなく、快楽を得るための殺しになっていく。
――で。最後に控えるのは実の弟。それをやらせたところで一旦我に返らせて、己のしたことを認識させる。
 絶望に狂うミリアムの心をぱくっとご賞味。同時に、依代を完全に侵食して、現界完了、ってルート」
「……外道の所業だな」
「あたしらの予想じゃ、それはエーリヒ殺しの下手人を全員ぶっ殺した後、他の銅刃団とか一般人とかを数人サクっと殺した後のお楽しみなんじゃないの? ってトコだった。
つまりアステルはまだ狙われないんじゃないか? って思ってたわけさ」
「――妖異は……焦っているのかもしれん」
「かもね。お楽しみより確実な現界を優先させるんだとしたら、そうかもしんないね」
「しかし……なぜ、セインはそれに気づいた?」
「半分は状況の不自然さからの推理だよ。生首とザコを投入して、本人来ないんじゃ、数の優位が生きない。加えてこの逃げられなくした閉鎖異界。――要は足止めに使われたんじゃないか、って理屈。それから……」
 首妖異の一体にルインラを撃ちこんでから、ルーシーは続けた。
「もう半分はセインの特技……異能みたいなもんかな。あたしが魔素の濃淡を身体感覚で察知できるように、セインは知り合った人間の危機、みたいなものを『なんとなく』察知できる。“あるとき”からそうなったんだ、セインは」
「ほう……」
「確実じゃないし、『誰が』『どんな風にヤバいのか』が明確にわかんない時も多い。でも、今回はアステルだ、ってことは分かったみたいだな」
 最後の首妖魔が地に落下した。四体の首妖魔すべてが、丘に転がった。閉鎖異界を覆っていた闇が、吸い込まれるように収束していく。閉鎖結界が、解けた。
「おお……やったか」
――だが。
 収束した闇は消失しなかった。
 わだかまった闇は凝縮すると、倒れた首妖異たちへ降り注いだ。
 妖異たちが再び起き上がる。そして、四体が重なり合った。ぐちゃり、という耳障りな音を立てて、首妖異が一体の巨大な肉玉となり――内側からはじけ飛んだ。
「なん……だと!」
 現れたのは、青黒い肌をしたアーリマンだった。どろりと濁った眼をしており、羽根は四枚、尻尾は二本だ。
 ふひひ、と甲高い声でアーリマンが笑った。
「無駄じゃ無駄じゃ」
 嘲弄の声は耳障りな嗄れ声だ。
「今更向かったとて間に合いはせぬ。万が一間に合ったとて、公主様の狩りを邪魔する無粋は逆鱗に触れたも同然。生きながら千切られる責苦を負うわ。ふひっ」
「へー。公主様ってことは偉いんか。どこの姫さまよ?」
 軽口を叩きながら、ルーシーは檻まで下がり、踵で檻を蹴った。一瞬だけトゥイグを見、音を出さずに唇だけ動かして、邪魔、と言った。
「馬鹿め、その手には乗らん! 貴様のような性悪な術者に主上の名を明かすほど、このアビサル・アイ、腑抜けてはおらぬわ!」
 悟ったトゥイグが檻を開け、ダックとグレッグがクラブを引きずり出して抱え上げた。
「ちぇ、ケチ。――まあいいや。コレから話したくなるようにさせてやるから」
 銅刃団の面々が大きく下がる。気付いたアーリマンが動くよりも前に、カーバンクル・サファイアがその前に立ちはだかる。
「ひひっ、それもまた無駄じゃ無駄じゃ!」
 アビサル・アイの周囲に、闇の魔力がわだかまった。
 あっそう、と返しながら、ルーシーは笑った。見様によっては、酷薄ともとれる笑みだった。目を細め、告げる。
「サファ、手加減なしだ。喰い散らかせ」
 カーバンクル・サファイアが笑った。主人と同じ目の細め方をして、獰猛に口角を釣り上げた。ぞろりと並んだ牙が見え、かはぁ、と肉食獣の呼気を放った。
「ひひひっ、精々いい声で啼くがいい、人間!」
「哭くのはそっちだ糞目玉。言っとくけど、あたしもサファも――残酷ですわよ?」

改訂版【魂を紡ぐもの セイン】第一話『思慕のマテリア』6へ続く

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