キャラクター

キャラクター

Bulwark Between Worlds

Juliette Blancheneige

Alexander (Gaia)

このキャラクターとの関係はありません。

フォロー申請

このキャラクターをフォローしますか?

  • 0

『Mon étoile』(5)その三

公開
5-3

 数日後、出発の日。
 ヤヤカは集合時刻よりも早く、朝のウルダハを歩いていた。例によってクラリッサが付いてきているが、今日はそのことをあまり気にしないでいられた。これから十数日間、場合によっては一か月は、彼女の顔を見ないで済む。その代わり別の問題――自分の護衛役となっているギードたちのこと――はあるが、今はそのことを考えたくなかった。
 やがて、ヤヤカは目的地にたどり着いた。不滅隊本部だ。定刻前に“仲間だけで”集まりたいと、昨夜リンクパールで告げられていたのだ。
 クラリッサに監視されている状況では、パールで話し込むこともできない。ゆえに通信は手短であり、ヤヤカも仔細は問わず了承の意だけを伝えていた。なので、なんのために集まるかは分かっていない。
 それでも、ヤヤカは嬉しかった。
 たとえ、何もなくてもいい。
 気心の知れた仲間と一緒にいられる。それだけで、楽しい心持ちになれるから。

 まだ朝も早いというのに、グランドカンパニー前には数組の冒険者が集まっていた。
 その中に、テオドールたちもいる。
「テ――」
 テオドールの名を呼びかけ、彼めがけて走り出そうとして、ヤヤカは思いとどまった。クラリッサの前でそうすることはできない。それはそのままビアストに報告されるだろう。あの男の気分一つで、この探索行は立ちいかなくなってしまうのだ。
 やがて、彼らのほうがヤヤカを見つけた。皆に呼びかけられて、始めてヤヤカは走り出した。
「みんな、おはよう!」
「おはようございます」
「よお!」
「おはようございます、ヤヤカさん! よく晴れましたね!」
 三者三様の挨拶に、口角が緩む。約一名ほど反応がないのでのぞき込むと、ノノノはほぼ目が線のようになっていた。
「……まだ夜……まだよるだよ……?」
「こいつ朝まで起きてたらしいぜ」
「え……今日船旅だけど、大丈夫なの、ノノノ?」
 薄目を開けたノノノが頷く。十回くらい頷いた。
「きあい」
「え?」
「きあいでなんとかする」
 抑揚の無い喋り方に、全員が苦笑した。
「それで――集合時刻前に、わたしたちだけで集まりたいっていうのは……?」
 ヤヤカの問いに、リリがうふふ、と笑って言った。
「実はですね。わたしたちのフリーカンパニーは名前が無かったんです」
「え?」
 そういえば、とヤヤカは思い至った。冒険者が気心の知れた者同士で結成する集団。それがヤヤカのフリーカンパニーに対する認識で、そのフリーカンパニーには通常、名前が付けられているはずだ。フリーカンパニーは基本的に各国いずれかのグランドカンパニーに属し、様々な任務をこなす代わりに多様な便宜を受けられる。集団ごとに登録するのだから、名前が無ければ登録できないだろう。
「……それは、こいつがわるい」
 眠い目のまま、ノノノがテオドールの足を蹴った。ヤヤカの視線を受けて、テオドールが弁明する。
「いえその……結成当初に全く思いつかず、苦し紛れに付けた『四人組(カルテット)』という名前で活動してきたのですが……納得はしていなかったんですよ」
「ソイツはオメーだけだろ」
 俺たちは別に気にしちゃいなかったんだぜ、とメイナードに指摘され、テオドールは苦笑した。いつもよりずっと情けない笑みだった。
「しかし、つい最近になって、ひとつの名前を思いたのです」
 その名に変更したいと三人に申し出て了承をもらい、それからグランドカンパニーに名称変更の申請を申し出て――
「今日、正式に変更されました」
 テオドールの言葉に合わせて、リリが待ちに待ったように、一枚の紙を広げて見せた。不滅隊の押印がなされた通達文書。そこには、
 
 『パスファインダーズ』
 
 そう、書かれていた。
 パスファインダー――踏破者。 
「本来は、名称変更自体はすぐに済む手続きです。少し時間がかかったのは、ですね」
 リリが言って、テオドールを見た。メイナードも、ノノノも、テオドールを見ている。
 皆の視線を受け、テオドールは頷いた。軽く咳払いしてから、跪く。目線をヤヤカに合わせると、テオドールは言った。
「ヤヤカさん。あなたも、メンバーとして登録したいのですが――いかがでしょうか」
「え」
 一瞬何を言われているか理解できず、ヤヤカは呆けた。が、理解が追いつくと同時にヤヤカは混乱した。
「え? え? わたしが? 冒険者じゃないのに?」
「はい。不滅隊からその了解を取るのに、少し時間がかかってしまいました」
 本来フリーカンパニーの構成員は冒険者に限られる。それは、冒険者に対する優遇措置を、拡大解釈で都市民に対して解放しないようにしたい各国の思惑だ。
 だが、いくつかの例外がないではない。
 例えば、冒険者居住区域。冒険者と一般市民が結婚したり子供を産んだりした場合、そこで生活していくことは認められている。
 それら世帯の構成者も、広義の構成員として登録されることはある。だが、それはあくまでも“冒険者”としての登録ではない。
 今回テオドールは、ヤヤカを正式なメンバーとして登録しようとしたのだ。
「多少反対はされたがよ。ま、俺たちの実績がモノを言ったな」
 メイナードがニヤリと笑う。テオドールが、再度ヤヤカに問う。
「いかがでしょうか。私たちは貴方と共に、まだ見ぬ国を見出したい。この探索の旅を、貴方と共に完遂したい。その決意を込めて、貴方の名を我々の名簿に刻みたいのです」
「…………!」
「こまけーことはいい。わたしたちとヤヤカは仲間。そんだけ。いい?」
「いいも、なにも……」
 泣いてはダメだ、と考えるのはあまりにも遅かった。後から後から涙が溢れてきて、ヤヤカは声を出さずに泣いた。
「……嬉しい」
 やっと、それだけを口にした。
 ノノノが抱き着いてきて、ヤヤカも腕を回してノノノを抱きしめた。
「……いいけど……もしマハが見つかったらどうするの……?」
 泣きながら抱きしめられながら、ヤヤカはテオドールに問う。最初に会ったときからずっと変わらない微笑で、テオドールはヤヤカに答えた。
「それはそれで。“見つける”だけで、貴方の探求は終わらないでしょう?」 
 その問いに、否やなどあろうはずもなく。
 ヤヤカ・ヤカは、正式に彼ら『パスファインダーズ』の一員となったのだった。

「――ま、蓋を開けてみたらまさかの展開だったがな」
 ヤヤカが泣き止んでから、メイナードがぽつりと付け加えた。
「……?」
 視線で問うヤヤカに、抱きしめ終わってもヤヤカの手を握っているノノノが言った。
「ヤヤカ、冒険者登録されてた。五年前以上前に」
「え?」
 告げられた事実に、ヤヤカは戸惑った。そんなことをした覚えは――
 記憶が、不意に頭をよぎった。
「待って。五年……霊災前!?」
「そう。それから、一緒に登録されてた人の名前……シンシア・ストーンコールド。おぼえ、あるよね」
 ノノノが、いつもよりどこか優しい声で言う。
 ――ああ。
 たぶんノノノは、その人物のその後も知ってしまったのだろう。
 シンシア。
 シンシア・ストーンコールド。
 それは、ヤヤカの親友の名だ。
 『学究院』で机を並べ、ともに切磋琢磨して。
 冒険者になり、道は違えてもずっと友達で。
 そして――カルテノーで散って。遺体と対面すら叶わなかった、シンシア。
「わたしが……その名を忘れるはずがないわ。そして、思い出した。
 ……あの日、わたしは彼女と一緒に冒険者登録をした。もちろん、本気じゃなかった。冒険者になると言っているくせに、一人で行くのが気後れすると言い出した、人付き合いが苦手な親友に付き合って登録したんだわ。呪術士としての手ほどきは受けていたし」
 その時の記録が、偶然残っていたのだという。霊災で失われた記録が山ほどあるなかで、なぜこの記録が、他愛のない駆け出しの冒険者の名前が残っていたのかは分からない。
 ただ、その残された記録に従って、冒険者ギルドは名前の再登録を行い、不滅隊へそのリストが届けられていたらしかった。
「……あとから発覚するなんて。貴方らしい空気の読めなさね、シンシア」
 ヤヤカは呟いた。
 臆病で人見知りなのに、魔法のことになると猛烈に語る変人。
 でも、冒険者になってからは、どんどんしっかりしてきて、恋人までできて。
 ヤヤカは空を向いて微笑んだ。もう、彼女のことでは泣かないと、ずっと昔に決めていたから。
「行こう。そろそろ、時間だから」
 前を向いて、ヤヤカは歩き出す。仲間と共に。
 見ていて、シンシア。
 わたしは必ず、夢を叶えるから。

(五章その四に続く)
コメント(0)
コメント投稿
フォーラムモグステーション公式ブログ

コミュニティウォール

最新アクティビティ

表示する内容を絞り込むことができます。
※ランキング更新通知は全ワールド共通です。
※PvPチーム結成通知は全言語共通です。
※フリーカンパニー結成通知は全言語共通です。

表示種別
データセンター / ホームワールド
使用言語
表示件数