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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander (Gaia)

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【魂を紡ぐもの セイン】1.5話前編『自ら先頭に立って戦うタイプの女王蜂』

公開
「――というわけで、依頼人がヤフェーム湿地の謎の遺構から発見したのが、さっき見せた板、レース・アルカーナだ」
 西ザナラーン。
 今日も強烈な夏の日差しが照り付ける荒野を、一騎の騎鳥が駆けていく。
 騎鳥は大柄で、仔細に眺めればチョコボによく似た別の生物だと分かるだろう。今は一組の男女を乗せて走っている。
 男の名はセイン・アルナック。二十代半ばだが、カルテノー帰りの経歴を持つ熟練冒険者だ。女の名はルクレツィア・エゼキエーレ。通称ルーシーと呼ばれる、謎めいた美女だ。
 二人はウルダハの考古学者、ヤヤカ・ヤカの依頼を受け、彼女が発見した謎の板『レース・アルカーナ』をウルダハからリムサ・ロミンサの巴術士ギルドへと移送する仕事を請け負った。
 この板は、完全なエーテル遮断状態にある。
 アラガントームストーン程度の大きさの板は透明で、内部に金属のような光沢と七色の色彩を持つ謎の球体が見える。窓から覗くようにその球体を上から見ているような格好だが、裏返すと球体の下部らしきものが見える。
 板は燃えず解けず、魔法はおろか物理的な衝撃にも完璧な耐性を有する。
 だが、これがなんのために作られたのかは分からない。その謎を解明するため、リムサ・ロミンサの巴術士ギルドに各国の碩学が集結するのだという。
 そして、この板は狙われている。仔細は不明だが、忍び込み奪取しようとし失敗した者を殺してしまう相手だ。
 テレポで輸送できず、狙われていることが明らかであれば飛空艇も危険。となれば、襲撃者を織り込んだうえで冒険者に輸送を任せる。それが、依頼人たちの出した答えだった。
「で、あたしらがそれを請け負った、と」
「そうだ。――どう見た?」
「あの板?」
「ああ」
 んー、と唸りながら、ルーシーは二人乗りの鞍の後ろで天を見上げた。
「少なくとも、アラグのじゃない。そんくらいしか分かんないな。――あの変態魔科学者なら何か判るかもだけどさ」
「今更訊く術もなし、か」
 嘆息したセインは、騎鳥を停めた。ノフィカの井戸にかかる橋を越えたあたりだ。彼らの行く手に、一人の男が立っていた。
 黒いローブを着た、フォレスターの男だ。顔にも腕にも、びっしりと細かい文字のような刺青を入れている。手には、禍々しい装飾の杖を持っていた。
「レース・アルカーナを渡せ」
 男はひび割れた声で言った。目の下の濃い隈と相まって、芝居に出てくる悪の魔術師然とした雰囲気だ。
「何のことだ?」
「惚けるな。お前たちがレース・アルカーナを持っていることは知っている」
「そう聞いたのか。奴の情報網も大したことはないな」
「……なんだと?」
 訝しむ男に、セインはにやりと笑った。
「生憎こちらは陽動でな。本物を持った者は今頃飛空艇でリムサに着いているだろう」
「なんだと!? クソッ、おい『コーディネーター』! 監視を怠っていないなどと……え?」
 男はそこで口を噤み、耳に付けたリンクパールから手を放した。
「何と言われた?」
「いいモノ持ってるじゃーん。ちょっと貸してみ?」
 すでに騎鳥から降りているセインとルーシーが言った。
「き――貴様らぁ!」
 はめられたと気付いた男が、顔を真っ赤にして叫んだ。慌てて後退する。中々のスピードだった。
「この『魔界幻士』バルビエ様を愚弄したことを後悔するがいい!」
 バルビエと名乗った男は吠え、杖を掲げた。杖からも男の体からも、黒い靄めいた魔力が迸る。その靄は男の周囲の空間を歪め――妖異を呼んだ。
「ふ――ふはははははは!」
 ナットと呼ばれる蠅状の妖異だ。それが、十数匹ほど出現していた。エオルゼア各地で見かけるこの巨大な蠅が実は妖異であると、知らぬ者も多い。それほどに定着し、物質界においても繁殖している存在であるが――
「ヴォイドから呼び寄せたナットは一味違うぞ! 魔界の瘴気を吸って育った邪悪の使いどもよ、愚かな敵を襲い、喰らえ!!」
 バルビエの持つ杖から発する魔気がナットたちを統率する。これほどの数を統率するのは手練れであると言えた。……だが。
 ナットの群れが二人に襲い掛かろうという直前に、ルーシーからやや離れた地点に雷の塊のような光の半球が現出し――そこに、銀色のクァールが出現した。
「ヘッ、蠅退治とは……」
 笑うクァール――マジャ・ト・セトランの全身に紫色の電流が走った。
「暇つぶしにもなんねーぜ!!」
 叫びとともに解き放たれた紫電は眩い光と轟音を伴い、妖異たちを灼いた。ただの一撃で、勝負は決していた。
「な……!」
 驚愕の叫びをあげるバルビエ。あまりのことに愕然としすぎて、彼は眼前までセインが滑るように接近して来るのを感知できなかった。
「あッ」
 そう叫ぶ間もあればこそ。セインの盾が直撃し、バルビエはあっさりと崩れ落ちた。
「よっわ」
 ルーシーの容赦のない評価は、気絶したバルビエには届かない。屈み込んだセインがバルビエの耳からリンクパールを取るが、
「さすがに残さないか」
 肩をすくめて投げ捨てた。大元のパールを破棄されれば、もう用をなさない。
「――あとはコイツに訊くしかないけど、時間あんまりないぞ」
「手短に済ませるさ。おそらく、あまり有益な情報は得られない」

 セインの言葉通り、バルビエはほとんど情報を持っていなかった。
 依頼主は自らを『コーディネーター』と呼称していたこと。
 “キザったらしいきらびやかな仮面をつけた若い男”だったこと。
 彼からの依頼と情報提供で、他の襲撃者たちもこの道でセインたちを待ち伏せていること。
 なお報酬は成功報酬であり、レース・アルカーナを持ち帰った組だけに報酬があるという提示だった。
 ゆえに。
 ベスパーベイに着くまでに数回の襲撃があったが、襲撃者たちは皆徒党を組まず、個別に襲い掛かってきた。
 それらすべてをあっさりと退け、セインとルーシーはベスパーベイに到着したのだった。
 
「アイツらは口封じされないのなんでだ?」
 ルーシーがフェリーゲートをくぐりながら言った。
 ウルダハを発つ前に依頼者から得た情報では、所有者の自宅に忍び込んでレース・アルカーナを盗もうとして捕らえられた男は、司直へ引き渡される直前で頭が破裂して死んだとのことだった。
「おそらく、俺たち向きではないからだ」
 支払いを済ませたセインが答える。
「“そうすること”で、己につながる証拠を掴まれることのほうを恐れているのかもしれん」
 例えば『頭が破裂する仕掛け』が魔法の類であれば、ルーシーの魔眼によって痕跡を辿られる可能性がある。もしもそれが植え込む形の呪詛ではなく、魔法をその場で投射しているのだとすれば、セインにも気配を気取られるかもしれない。
「はぁん。なるほどね。ってコトは……」
「ああ。『コーディネーター』は俺たちを知っている可能性がある」
 ルーシーは頷いた後に肩をすくめた。
「問題が一個あるよ」
 セインが後に続けた。
「心当たりがありすぎる、か?」
「正解!」
 くくく、と喉の奥で笑ったルーシーが、桟橋を歩きながら言う。
「ま、出たとこ勝負でいんじゃね? どう仕掛けてくるか興味あるし。――特に、ここからは」
 二人の目の前で、ベスパーベイとリムサ・ロミンサを繋ぐフェリーが入港しようとしていた。

 フェリーはメルトール海峡を滑るように進む。
 船室にいるのが退屈だと言って、ルーシーはセインの手を引いて甲板へ出た。海風を浴びて気持ちよさそうに伸びをする。快晴のためだろうか、他の乗客も甲板に出ている者が多かった。
「順調に行きゃ夜には終わるよな?」
 柵に寄りかかったルーシーの問いに、隣に並んだセインが頷く。
「順調に行けばな」
「そこは察して“そうだねハニー。ビスマルクのディナーを愉しもう”くらい言えよー」
 ルーシーがセインの胸を軽く叩く。胸甲が金属音を立てた。二人とも、移動時に着ていた装備ではない。戦闘用の装備だ。
 敵が本気で仕掛けてくるならこの海でだろう、というのが二人の共通見解だった。ここまでが拍子抜けすぎる。
「予約は入れてあるがな」
「ん。さっすが!」
 満面の笑みでセインの腕にじゃれついたルーシーが、そのまま固まった。
「ん」
「来たか」
 ルーシーが視線を後方へ流す。つられてみたセインの視界の中で、二隻の船がすさまじい速度でフェリーへ迫っていた。
「――迅い」
 セインが呟くころには、二隻の船――コルベットと呼ばれる小型の戦闘艦は、左右からフェリーを挟む位置にいた。あまりの速度に、フェリーの乗組員たちが慌てて警戒を始めている。
「なんだあの船?」
「速いぞ! 海賊か!?」
 甲板に出ていた乗客たちは半分が船室へ引っ込んだが、残りの半分は興味本位で両舷の柵へと近付いた。甲板員たちが制止にかかる。
「クソッ、なんであんなに速いんだ!?」
「青燐機関だろ!」
「帝国じゃねえだろうな!」
 帆を全開にしたフェリーは速度を増したが、コルベットは簡単に追いついてくる。というより、むしろ速度を抑制しているような余裕を見せている。
「――違うね。青燐機関じゃない」
 ルーシーが断定した。その目がライムグリーンの光を湛えている。
「アイツらの周りだけ、風属性のエーテルが強くなってる」
「魔法か」
 頷いたルーシーが、しかし眉根を寄せた。
「けど……」
 そのとき。
「あーあー、こちらは“何でも屋”アーヴァント一家!」
 女性の声が、辺り一帯に響き渡った。大声では済まない音量だった。
「これも風属性の魔法だぞ」
 ルーシーが言って、視線を自分たちが見ているコルベットへ向けた。「あっちからだ」
 声は続いた。
「そちらに乗船している冒険者から頂戴したいものがあーる! つきましてはぁー、貴船に停船を要求するーう!」
「海賊だ!」
 乗客が騒ぐ。
「なんてこった、とばっちりじゃあないか!」
「困るよ、停船などしてもらっては」
「その冒険者だけ下ろせないの!?」
 口々に叫ぶ乗客たち。彼らが、この甲板で最も“冒険者らしい”恰好をしている二人を発見するのには、さほど時間はかからなった。
「おいお前たち」
 商人風の身なりをした男がセインとルーシーへ詰め寄ろうとしたとき、
「やかましい!」
 肚の据わった大声が甲板に響いた。
 ゼーヴォルフの壮年男性が、斧を担いで現れた。
「しかし船長――」
「こちとら国を背負って海峡を行き来してんだよ。襲われて積み荷を引き渡したなんて知れ渡った日にゃあ、誰も乗らなくなるだろうが!」
 商人風の男が周りを見回す。他の乗客も皆、船長の迫力に呑まれていた。
 船長は鼻を鳴らすと、セインたちのほうを向いた。
「連中が言ってるのはアンタたちだな」
「へえ、どうしてわかんの?」
「この場でそうも泰然としてんのはアンタたちだけだからな。ま、安心してくれ。ここは――」
 言葉を区切ってから、船長が吠えた。
「旗を掲げろ!」
 応じる声と共に、マストや他の掲揚台に旗が上がる。――深紅の竜船旗が。
「俺たちの海なんでな」
 フェリーの船体各所の窓が開いた。突き出された大砲は、左右を挟むコルベットへ向けられる。
「砲撃準備!」
 おそらく、かつては戦闘艦の上で同じ号令をかけていたと思しき迫力の号令。そして応じる船員たちもまた、商船の乗組員とは思えない手慣れた動きでそれに応える。
「問答しないのな」
 ルーシーの呟きに、船長が獰猛に笑って答えた。
「いや、するさ。これが答えだ。構え――撃てぇ!」
 轟然と大砲が火を噴いた。コルベットへと襲い掛かった鉄の回答は、しかし襲撃者たちへは届かなかった。
「なにぃ!?」
 風が――渦巻く。
 フェリーとコルベットの間に突然発生した竜巻が、大砲の弾をことごとく逸らしていた。
「なんだ……アイツ」
 ルーシーの視線の先をセインも見る。フェリーの左舷――セインたちが見ている側を走るコルベットの先頭に、一人の女が立っていた。
 女は、アウラ族だ。年のころは二十代半ばから三十手前だろう。エオルゼアでは見ることの少ない東方由来の民族。女性は総じて小柄だと聞くが、その中でも背の高い部類だ。すらりとした肢体と豊かな胸が、純白のサベネアンビスチェによって際立っていた。
 長い金髪を風になびかせ、腰に手を当てて立っている。おそらくは、先ほどの声の主も彼女なのだろう。一味のリーダーであると、はっきりと判る態度だった。
「……風の精霊にめっちゃ依怙贔屓されてんだけど、どういう仕掛けだ?」
「なんらかの魔具か……契約なのか?」
 セインたちが訝しんでいる間に、アウラの女は先ほどと同じように声を風に乗せて拡大し叫ぶ。
「そっちがその気なら、このヴェスパ容赦せん!」
 いつの間にか、その手には金属製と思しき大きめの筒が携えられていた。その筒を肩に担ぐと、仲間が筒の先から緑色の珠を入れ込んだ。仲間は、イクサル族だった。
 そして、その珠に見覚えがあるのは、セインとルーシー、ただ二人だけだった。
「おいセイン、アレ……!」
「風生みの珠だと……!? 全員、船室へ逃げろ! さもなくば何かに掴まれ! 飛ばされるぞ!!」
 風生みの珠。
 それはイクサル族が、気球の推進力として使用している魔具の名だ。嵐神ガルーダの魔力を充填したと言われる。かつてセインとルーシーがゼルファトルで見たそれに酷似していた。
 セインの叫びにやや遅れて、筒が爆発音を放ち、珠を射出した。――フェリーの斜め上空に撃ち放たれたそれは、セインたちが迎撃するよりも早く、炸裂した。
「――!」
 一瞬、すさまじい暴風が吹き荒れた。甲板にいた船員や、逃げ遅れた野次馬の客が飛ばされて海へ落ちていった。――そして。
 次の瞬間、フェリーは静止した。
「なんだ……!?」
 船長が動揺する。
 風が吹き荒れていた。上からも下からも、あらゆる方向から風が乱れ吹いている。
「――さしずめ、嵐の結界ってとこか」
 ルーシーが空を見上げて言う。再び、彼女の眼は淡いライムグリーンに光っている。その目は、風が拮抗し合って静止の状態を創り上げている、豪快かつ精緻な風のドームを見て取っていた。
「船長、フェリーの青燐機関は?」
 セインの問いに、船員と話していた船長が首を横に振った。
「今まさにそいつを報告されたところだ。エーテルの逆流で吹き上がっちまったとよ!」
「成程。そこまで見越した効果なわけだな」
 言いながら、セインは剣と盾を構える。この風の中では自慢の快足を発揮できないのか、ゆっくりとコルベットが近づいてくる。ロープを懸け、甲板へと殴りこんでくるつもりだろう。海賊戦の常套手段だ。
 ところが。
 彼らはロープを懸けはしなかった。コルベットの甲板に出てきた二十人ほどの『アーヴァント一家』は、背中に機械仕掛けの羽根を背負い――空を飛んだのだ。
 ゴブリン族、特に『青の手』と称する集団がよく使用するグライダーに他ならなかった。
「マジかー!」
 驚きと喜びが入り混じった声でルーシーが驚嘆する。
「セイン! アレ! あたしもやりたい!!」
 飛翔する一家の者たちを指差し、セインの腕を掴んだルーシーが興奮してぴょんぴょんと跳ねる。苦笑しながらセインが返した。
「あとで教えてもらえ」
 言いながら、セインは油断なく警戒する。彼の視界の中で、アーヴァント一家の構成員が風に乗ってフェリーの周りを飛び回る。この嵐の中を、物ともせずに飛行しているのは驚嘆に値する。
 一家の構成員は、様々な種族で構成されていた。いわゆる人に分類される者たちはもとより、ゴブリンやイクサル族までいるのだ。揃いの服を着て、揃いのゴーグル――ガーロンド・アイアンワークスの社員が付けるような――を付けている。
 彼らに目掛け、矢を射かけたフェリーの船員もいた。だが、風に阻まれて矢がまともに飛ばない。
 ――そして。
 彼らは同時に、腰から光る珠を取り出した。ゴブリンの手のひらに乗るような、小型の球体だ。それを、彼らは同時に放った。閃光が発せられた。目眩しだった。
 咄嗟に盾で自分とルーシーを守り襲撃を警戒したセインだったが、彼らの元へは襲撃は来なかった。正確には――彼らの元にだけ、来なかった。
「はーい、全員動かない!」
 フェリーの船首に、ふわりとヴェスパが降り立った。彼女だけ、羽根を付けていない。
 甲板にいたセイン以外の乗組員と客に、アーヴァント一家の構成員が武器を突き付けていた。
「下手な真似すると死ぬし、自分以外の誰かも死ぬよ? だからおとなしく人質になってなさいね」
 腰に手を当てて、ヴェスパが人質となった船員と客に告げた。続いてセインたちのほうを向く。
「そこの二人。例のブツを――レース・アルカーナだっけ? 持ってるでしょ」
「そうなるな」
 セインの返答に、ヴェスパは目を細め笑った。
「ブツを渡してくれれば、さっさと帰るわよん?」
 笑みを浮かべてはいるが、その視線はセインたちにじっと注がれている。油断も慢心も見当たらなかった。
「くそ……っ」
 船長が毒づく。ちらりとそちらを見た後、セインが肩をすくめた。
「やむを得ないな」
 そう言って、セインはレース・アルカーナを取り出した。一瞬、アーヴァント一家の全員の視線がその奇妙な板に注がれた――瞬間。
 セインから近い位置で船長に銃を突き付けていたアーヴァント一家のララフェルが、突然セインの足元まで転がった。
「へ!?」
 ララフェルはずぶ濡れだった。一家が閃光弾を使ったタイミングで、ルーシーが呼んでいたカーバンクル・サファイアが、物陰からアクアオーラを放ったのだ。
「全員動くな」
 今度はセインが言う番だった。転がったララフェルの首元にはピタリと剣が当てられている。
「「「「ジョニーィ!」」」
 一斉にアーヴァント一家の構成員たちが叫んだ。卑怯者! と叫ぶ者までおり、セインたちの元まで逃げ延びた船長が「テメーらがいうな!」と吠えていた。
「お互い様だな。――さて。人質の数はそちらが上だが。『そういう勝負』を望むか? ならばこちらは負けるな。一人しか殺せない」
 最後の台詞を敢えてゆっくりと言って、剣を突き付けているジョニーの右手を蹴りつける。持っていた銃が、ヴェスパのほうへと転がった。
「ぐぬぬぬぬ!」
 ヴェスパが歯噛みをする。「姐さぁん!」「ジョニーが死んじゃう!」「やっぱり向いてないよこういうの!」
 構成員たちから口々に上がる悲嘆の声。ルーシーが小声で「さすが。読み通り」とセインに向けて言い、喉の奥で笑った。
「……ウチの結束力の強さを逆手に取るとはなんてヤツ……」
 ヴェスパが頭をがしがしと掻いた。顔を上げると、決然とセインに言った。
「こっちが退いたらジョニーを放しな。約束を違えたら、アタシら全員でこの船を血風呂に変えるよ」
 おそらくそれだけは掛け値なしに真実なのだろう。そうできる戦力で、そうしかねない圧力だった。もとよりセインに、約束を反故にするつもりなど無い。構成員たちからの無言の恫喝を平然と受け流し、頷いた。
「了解だ。約束しよう」
「――アンタたち、退きな」
 ヴェスパの命令に、構成員たちは粛々と従った。空を飛び、ヴェスパの立つフェリーの船首側へと移動する。誰からも異論が出なかった。
「どんだけ仲間想いさ」
 ルーシーが苦笑する。セインがジョニーを解放した。ジョニーが転がるように走り、仲間たちがそれを迎え入れた――そのとき。
 強烈な“風の弾丸”が、セインの顔をかすめた。
 魔本を開きながら、ルーシーが眉を顰める。
「なんだ今の? ……まさか、エアロなのか?」
「あーあ」
 それには答えず、ヴェスパが前に出る。その手には、優雅で古風な両手杖が握られていた。
「楽をしようとすると碌なもんじゃない、ってコトか」
 後ろを向き、首を振る。武器を構えようとしていた構成員たちが踏みとどまった。
「――アタシの名前はヴェスパ・アーヴァント。アーヴァント一家の……まあ、代表者みたいなもん?」
 肩をすくめて笑う。
「依頼によって、アンタの持ってるその板を奪いに来た。おとなしく渡してくれれば、すぐ帰る」
「断る」
「だよね」
 セインの即答に、ヴェスパは頷いた。
「――じゃ、力づくだ。アンタたち、手出しは無用だよ。本気出すから、離れてな」
 その宣告に、構成員たちは一斉に離れた。皆、我先にとコルベットへ戻っていく。
「――セイン」
 ルーシーの警告に、セインは頷いた。
「ああ。気を付けろ。ちょっとした蛮神並みだ」
 風が渦巻く。その中に立つヴェスパは、神々しいまでの威風をまとっていた。
「船長。皆と退避を」
「お――おう。船を壊さんでくれよ!」
「善処する」
 もはや暴風レベルに強まった風の中、セインとカーバンクル・サファイアは距離を詰めようとし、ルーシーは詠唱を開始した。だが。彼ら全員より迅く、ヴェスパの魔法が発動した。
「――エアロガ!」
 それは局地的な竜巻だった。身動きを奪われるほどの轟風に、セインたちの動きが止められる。船体がきしみ、甲板がめくれ、マストがたわむ。帆は結び目を残してちぎれ、空へと舞い上がった。
「これ……エアロガ……!?」
「くっ……!」
 完全に行動を一手奪われたセインたちの前方で、ヴェスパのさらなる詠唱が完了する。白い光が彼女の前に一度収束し、それから三つの光に分かたれた。
「ホーネット・ニードル!」
 叫びと共に光が放たれる。光はセインを、ルーシーを、カーバンクル・サファイアを打ち、その動きをさらに縫い留めた。
「これは……!」
 攻撃を受けて、セインたちは何を受けたかを悟る。ホーリーだ。白魔道士の使う上位魔法。だが。
「拡散追尾ホーリーってなんだそれ!?」
 人数分に分かたれた“ホーリー”による、各個攻撃。範囲魔法であるホーリーは、多くの敵にダメージを与えうるが、その分威力は減衰する。彼女の放った『ホーネット・ニードル』は、各個へ減衰しないホーリーを放つという規格外の攻撃であり、さらに回避しようとしたルーシーたちを追尾した。セインもルーシーも、初めて見る魔法だった。
「ふーふっふっふ。降参するぅ? まいったするぅ!?」
 ヴェスパが言い放ち、髪を後ろへ払う。
 
 そのとき。


「アムダプールの魔脈を確認」


 何かが言った。
 正確に言えば、それを意味ある言語と認識できたのは――この場には誰一人いなかった。
「なんだと?」
「へ?」
「なんて?」
 虚を突かれたセインたちをよそに、それは言葉をつづけた。


「防御行動を開始する」


 言い終わった瞬間。
 レース・アルカーナが宙に浮いていた。
 セインは咄嗟に腰のポーチを確認する。――空だ。
 フェリーのマスト頂上よりも浮き上がったレース・アルカーナは、大きさは変わらぬまま、球体になった。
 金属の光沢と、七色の色彩を持つ、球体に。
 それが、光った。眩いばかりの閃光。フェリーも、コルベットも、その光に飲まれた。
「ルーシー!」
 セインは咄嗟にルーシーを掴み引き寄せた。それが精いっぱいだった。光はすべてを包み、その場にいた全員の意識を奪った。


 光が失せた後、海上にはフェリーもコルベットもなかった。
 何事も無かったように、海は穏やかだった。


(1.5話後編に続く)
コメント(1)

Juliette Blancheneige

Alexander (Gaia)

何ということでしょう。
しょっぱなの一家の名乗りが間違えています。
アーヴァント一家が正しいです。
帰ったら修正しますね。
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