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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

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『After all』(1)

公開
まえがき:
本作は時系列としては前作『Light My Fire/ignited』と同じく、『Mon étoile』第一部四章前編に相当します。
第一部四章前編の下記の記述、

『また、テオドールたちの行動はヤヤカを驚かせた。
 彼らは前回の戦闘から、自分たち個々人の能力をさらに磨く必要があると結論付けていた。そのため、彼らは一度個人活動に軸足を移し、それぞれの強化を模索することにしたという。
 リリとメイナードは故郷グリダニアへ。ノノノは詳細を語らなかったが、師の元へ戻るという。
 そしてテオドールは、知己の騎士を通じて、銀冑団へ教えを乞うのだという』
(『Mon étoile』(4)前編)
https://jp.finalfantasyxiv.com/lodestone/character/5088645/blog/4032275/

こちらを受けるかたちで、登場人物の一人リリ・ミュトラを主人公格として描かれています。
本来ならば第一部四章後に発表するべき話でしたが、本編とはほぼ関係のない外伝的要素が強いため、本編優先の当時の環境では書くことができませんでした。

本作は前作『Light My Fire/ignited』と同じ時間軸の物語です。本編をお読みいただく前に、ぜひ前作『Light My Fire/ignited 1 (前)』の1-2をお読みください。
今作は直接その続きとなっています。

https://jp.finalfantasyxiv.com/lodestone/character/5088645/blog/4349114/

それでは、お楽しみください。



1-1

 南部森林、蛇殻林。
 リリ・ミュトラは、木々の間で瞑想を続けていた。
 眼を閉じ、エーテルの流れを全身で捉える。森の木々、草花。動物たち、魔物たち、それから、精霊たち。
 森に溢れる巨大なエーテルの流れを感じる。無論、人の身ではそれらすべてを把握することはできない。無理に感覚を開きすぎれば、自身のエーテルも森に攫われてしまうだろう。
 ゆえに。
 人は修練するのだ。
 それは、素潜りを行う者が鍛錬と経験を重ね、より長くより深く潜れるようになるのに等しい。
 彼ら幻術士もまた、修練によってエーテルの流れをよりよく捉えられるようになる。それは、森の精霊の囁きを聞き分けられるようになるということだ。精霊たちの予言めいた意思や、森の異変をいち早く知ることができるということだ。
 またその修練は、自身の体内エーテルや自然に偏在する環境エーテルを制御する術にも通じる。
 つまりは、この修練そのものが幻術士としての力量に直結するものなのだ。
 幻術自体は三大陸中に広まっている技能だ。アバラシア山中の山岳民からひんがしの国の民まで、あまねく国の者がこの術を使う。だが、その中でも、幻術士ギルドで学んだ幻術士たちが頭抜けた力量を有しているとリリは思う。
 エ・スミ・ヤンという優れた指導者と、黒衣森と言う環境。その二つが相乗効果をなしているのだろう。
 
 リリは帰郷しメイナードと別れた後、園芸師ギルドに帰郷の挨拶をしてから、故郷ともいうべき幻術士ギルドに赴いた。
 そこで師であるエ・スミ・ヤンに帰郷と今までの旅の成果を報告した。
 師は黙ってリリの話を聞いた後、南部森林での修行を提案してきた。
 冒険者になってグリダニアを飛び出すまで、リリが修行の地としていたのが南部森林だった。
「私が出した課題をそのままにして、貴方は森から旅立っていったのですよ。憶えていましたか?」
「はい。ずっと――心残りでした」
 ならば、と少年の姿をした聖人は微笑んだ。
 かくして、リリは数年ぶりに――冒険者としてではなく、幻術士として――南部森林へと足を踏み入れたのだった。
 
 深い集中から、ゆっくりと覚醒へと己を導く。
 少し深く潜り過ぎたようだ。意識が森に引きずられて拡散してしまう前に、リリは己が人であることを強く意識した。
 ――そのとき。
 微かな“声”のようなものを、彼女の感覚が捉えた。
 精霊の声ではない。森と共振状態にある幻術士には、黒衣森の精霊の意思を音として聞くことがままある。が、リリが今聴いた“声”は、精霊の意思ではなかった。
 もっと生々しい、肉声のような温度をもった声。
『――けて。…………たす……て』
 目を開け、リリは思わず周囲を見渡した。それほどにはっきりと、肉声のように聞こえた懇願だった。
「たすけて、って聴こえたけど……」
 視界には“人”は誰もいない。森に住まうものたちが蠢いているだけだ。
 精霊ではないとするならば、可能性としてあるのは死屍綱の魔物――いわゆる死霊やアンデッドの類か、もしくは『ほうっておけば死霊と化すかもしれない死者の魂』だと思われる。
 どちらであろうとも、無視できる存在ではない。
 それに。
 あの“声”は心の底から助力を請う声だった。
 唇を引き結んで、リリは再度目を閉じた。
 予定は狂ったが、これも修行だ。迷いは微塵も無かった。
 自身の感覚を閉じ、エーテル感知能力だけを研ぎ澄ます。さっきの声をもう一度捉えるためだ。
「――……」
 風が森の木々を揺らす。日が落ちかかり、少しずつ夜の気配が森を覆いつつある。物理的には大きい動きが無くとも、エーテルの流れでいえば、昼から夜への転換は大きな流れを生む。その流れは、感覚を研ぎ澄ませている今のリリには軽くない負荷だった。
「っ……!」
 捉えたと思った瞬間に、リリの近くで動きを止めていたトレントが動き出した。川の流れに目を凝らせて川底を見つめている最中に、間近で川へと踏み入れられたようなものだ。
 だが、今の一瞬で方角だけはわかった。
 目を開くと、エーテルの感知能力を上昇させたまま歩き出す。危険なことをしているのは承知の上だ。もし今何かに襲われでもした場合、まともに対処すらできないだろう。それでも、放ってはおけない。そんな気がした。

1-2

 気が付けば、根渡り沼の外れまで歩いてきていた。
 湿地に足を取られながら、リリはロウアーパスのほうへと歩を進める。
 ここへ辿り着く前に、何度か“声”を捉えた。呼びかけもしてみたのだが、通じていない気がする。
「もっと、奥かな……」
 呟いたときだった。
「そこの幻術士!」
 若い女性の声がした。立ち止まり振り向いたリリの視界に、こちらに駆けてくる赤い髪の女性と――二つの白いふわふわが映った。ふわふわは赤い玉のようなものと繋がっていて、小さな羽が生えている。モーグリだ。
 モーグリを従えた赤い髪の――角のある女性と言えば、この黒衣森には一人しかいない。
「ラ……ラヤ・オ・センナ様!?」
「ええそうよ。角尊、ラヤ・オ・センナで間違いないわ」
 直截に肯定すると、ラヤ・オは足早にリリのところに向かってきた。
 ラヤ・オ・センナ。それは、グリダニアを導く三人の角尊、“三重の幻術皇”の一人の名だ。黒衣森の大精霊と交信できる稀有な才を持つ三人の大神官。グリダニア国民としても、幻術士ギルドの幻術士としても、リリが敬意を表するべき相手であった。
 慌てて跪こうとするリリを、ラヤ・オが止めた。二つに分けた赤毛の髪を揺らして首を振る。
「そういうのいいから、話を聞かせてくれる?」
「は、はい!」
 リリは、ここへ来るまでの経緯を話した。話が終わると、ラヤ・オはモーグリたちと頷き合う。
「間違いないクポ」
「そうね」
 ラヤ・オは真っ直ぐにリリを見る。
「あんた、名前は?」
「リリ・ミュトラです」
「リリ……どっかで聞いたような……」
 反芻してから、ラヤ・オが眉を跳ね上げた。
「あんたが? あのミュトラ冒険団の首領で、同期で一番の道士候補生だったのに幼馴染と駆け落ちして冒険者になったっていうリリ・ミュトラ!?」
「違います!」
 悪評をまくしたてるラヤ・オに、リリは思わず叫び声を上げる。
「確かにわたしはリリ・ミュトラですけど! 冒険団はアレックス――リ・ジンやアーシュラたちがわたしを勝手にリーダーにしただけで! 冒険者になったのも駆け落ちじゃなくってちゃんと許可は取ってます!!」
「そうなの!? あたしてっきり……」
 ラヤ・オがリリの抗議に驚き、さらに問いかけようとしたとき。
「ラヤ・オ」
「いい加減にするクポ」
 モーグリたちがリリとラヤ・オの間に割って入った。
「こうしている間にも、“声”は弱々しくなっているクポ」
「“声”!?」
 驚くリリに、表情を改めたラヤ・オが頷く。
「そう。あたしたちもあんたと同じ“声”を聴いて、場所を探していたところだったの。正体を突き止めなければならないし、なにより……」
「はい。あの“声”は真剣に救いを求めているように聞こえました」
 リリは断言する。エーテル感知は不確かなことも多く、感知する本人の心理が受け取り方を歪めることもある。だが、リリには奇妙な確信があった。
 そのリリを少しの間見つめると、ラヤ・オは大きく頷いた。
「うん。あたしも同意見だわ。――決まり」
 ラヤ・オは満足そうに微笑んで続ける。
「リリ・ミュトラ、あんたはこれからあたしたちと、この“声”の正体を探る。そして、それが救えるものなら――救うわよ」
 決然としたラヤ・オの言葉に、リリもまた頷き返し、応えた。
「はい! よろしくお願いします!」

1-3

 リリとラヤ・オ、それからモーグリのクプチャ・クパとプクノ・ポキは、切れ切れに聴こえる“声”の主を探し、森を進む。
 森と言っても、ロウアーパスは隆起した岩が多く、奥へと進むのが相当に困難な地形である。そこを苦心して乗り越え、一行は森の深部へと辿り着いていた。

 奥に進み、岩よりも木々の密度が増した箇所を抜けると、唐突に森が開けた。
 そこに、おびただしい蔦や草に覆われた遺跡が存在していた。
「これ……!」
 石造りの建物だったのだろう。壁や屋根だったと思しき石があちこちに転がり、蔦がそれを隠すように覆っている。かなりの規模だ。東部森林の十二神大聖堂と同等――いや、それ以上の規模だったことが分かる。
「こんなところに遺跡が……!?」
 角尊であるラヤ・オが驚愕して見回すほどだ。モーグリたちも困惑して辺りを見回している。本当に、今まで発見されてこなかったのだろう。
「クポたち、この辺りにも来たことあるクポ」
「こんな遺跡はみたことないクポ」
 二人は口々にびっくりクポおどろきクポと言いながら飛び回った。
「……」
 その間に、リリは周囲を観察していた。森が急に開けたのは何故か。そう思いながら、森と遺跡の境界線まで戻る。
 よく見れば、焦げて炭化した木々がいくつもある。昨日今日ではないが、木々が埋もれてしまうほど昔ではない。
「……たぶん、強力な結界に護られていたんだわ。でもそれが、何らかの理由で消失した」
 ラヤ・オが喋りながらリリのほうへ歩いてくる。リリに話しかけているというより、自分の考えを整理するために喋っているようだった。
 そのラヤ・オに声を掛ける。
「消失した原因には心当たりがあります」
「え?」
 ラヤ・オが木を指し示したリリの傍へ来る。眉根を寄せてそれを見てから、ハッとして顔を上げた。
「第七霊災……!」
「おそらくは」
 二人は顔を見合わせて頷き合った。
「あのとき、バハムートが放った破壊の光がここにも落ちたのでしょう」
「光は結界を破壊して、この辺一帯を灼き焦がした。そのあと五年かけて、森がここまで遺跡を覆った、か……」
 会話しながら、二人とモーグリたちは遺跡の中へ足を踏み入れた。
 ――そのとき。

『助けて……!』

 一際大きい“声”が響いた。
「……!」
 強力な精神攻撃を受けたようなものだ。リリもラヤ・オもモーグリたちも、その衝撃に動きを止めざるを得ない。

『私を……解き放っては……だめ……!』

 もはや物理的に聴こえるその声に顔を顰め、ラヤ・オが声を絞り出す。
「あんたは何者なの! 何処にいるのよ!?」
 だが、応えは無い。“声”は再び悲鳴のように助けを求める。
「アタマが割れるクポ!」
 モーグリたちが地に落ちる。
「……探しましょう! この遺跡のどこかに、声の主がいるはずです!」
 どうにかそれだけを告げると、リリは遺跡の奥へと歩き出す。
「それしかないか……!」
 片手で頭を押さえながら、ラヤ・オも進む。
 どれほど時間が経過しただろうか。痛みと、“声”で歪んだエーテルの流れに吐き気を覚えながら、リリとラヤ・オは遺跡の内部を探索した。

『助けて……!』
「……そうしたいよ……けど、どこにいるの……?」
 頭のなかに響く叫びに耐えかねて、リリは遺跡の壁に寄りかかる。小一時間ほど探したろうか。遺体のようなものも、魔力を発する装置のようなものも、無論アンデッドの類も発見できていない。
 そろそろ限界だ。一時撤退をラヤ・オに提案しようか。そう考えた時だった。
 ぐらり、と寄りかかった壁が傾いだ。
「あっわっ!」
 離れようとするが、疲労から深く体重を壁に預けてしまっていたため、とっさに身を起こすことができなかった。石造りの壁が覆う蔦を巻き込んで倒れる。リリはその上に乗るかたちで一緒に倒れ込んでしまった。
「……!」
 石畳に倒れ込んだ壁が大きな音を立て砕ける。もっとも、蔦に覆われているために飛び散ることはなかった。
「痛ぁ……」
 全身を打ち付けられ、リリが悶える。ラヤ・オがどうしたの、と叫んでいるが咄嗟に返せない。ようやく目を開ける――と、そこには別の部屋があった。
「……外壁じゃなかったのか」
 言いながら体を起こす。部屋はさして広くなく、今倒れた壁以外の三面――外への扉も付いていた――がすべて内側に傾き、崩れかかった屋根を辛うじて支えていた。屋根や壁の亀裂から、月光が白く降り注ぎ、部屋は意外なほど明るかった。
 いや。
 月光だけではなかった。
 部屋の床に落ちている小さな石が、白い光を放っていたのだ。
「これは……?」
 リリは身を起こすと、石のところまで歩き、拾い上げた。白い、滑らかな楕円形の石。
「助けて。誰か……この声を……聞いて……」
 石がエーテル振動だけではなく、切れ切れに物理的な音――声を放つ。女性の声だ。
「あなただったの……」
 リリが石に呼びかけるのと、こちらへ向かっていたラヤ・オが待ちなさい、と叫ぶのはほぼ同時だった。
 次の瞬間。
 石は眩い光を放った。
 光はリリとラヤ・オを包み――唐突に消えた。

「……声が消えたクポ」
 プクノ・ポキは身体を起こす。もう、あの強烈なエーテル振動は無い。静かな森そのものだ。
「ラヤ・オとリリが何か見つけたのかもクポ」
 クプチャ・クパが宙に浮く。プクノも羽を動かし、クプチャの後を追う。

 だが二人は、リリとラヤ・オを見つけることはできなかった。
 二人が見つけたのはただひとつ。
 遺跡の奥で白く光る――白魔道士のソウルクリスタルだけだった。


『After all』(2)へ続く
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