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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

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『Light My Fire』1(前)(『Mon étoile』第二部四章)

公開
まえがき:
本作は前作『Light My Fire/ignited』の直接の続きではなく、『Mon étoile』第二部四章のひとつ、という位置づけになります。
『Light My Fire/ignited』がマーチ・オブ・アルコンズ以前の(いわゆる『新生』の)時間設定であったのに対し、今作は『Mon étoile』第二部四章本来の時間軸、
蒼天のイシュガルドのメインクエストが『教皇庁』終了時……という時間設定です。
同じ第二部四章のひとつである『黒と蒼』同様、本作もパッチ3シリーズ『蒼天のイシュガルド』のネタバレがふんだんに含まれています。
『蒼天のイシュガルド』をすべて終了させ、『紅蓮のリベレーター』以降へ進んでから読むことをお勧めします。
(おそらく今後も上記同様、メインクエストの展開を踏まえたストーリーになっていくと思います。ネタバレを喰らわないためには『紅蓮』以降へ進んでからが推奨となります)


1-0

 戦った。
 長い時を、ただそれだけに費やしてきた。
 安息を捨て、子も成さず、ただ、己の強さのみを求めた。
 ――いや。違う。
 強さを求めて戦っていたのではない。戦いに狂った結果、生き残り続けただけだ。強さなど結果でしかない。
 戦いに狂った。
 そうなのだろう。
 あのとき。
 父が死んだときに、自分は狂い始めていたのだ。
 母の哀しみを止めたかった。血族としての母ではないけれども、自分にとっては敬愛すべき母だった。
 母の慟哭を終わらせたかった。
 だが。
 現れた父の紛い物をみたとき、自分のなかの何かが音を立てて壊れた。
 甘言に乗せられて誤った決断をしたこと。
 母を再び絶望させたこと。
 それらが怒りとないまぜになって、自分の目を塞いだ。
 後は、狂気しかなかった。
 戦って戦って戦いに狂った。
 果ての無い闘争。敗走しても戦いをやめず、反抗と言う名の闘争を始める。同士討ちも裏切りもあった。仲間が誰もいなくなっても、戦い続けた。
 敵は、霊災という巨大な鉄槌があっても残党が残り、さらには同じ種族での内紛もあった。
 千年を超える時間を彼は戦いに費やし――
 ついに狂気の炎は吹き消された。
 なにをしていたのだろう。
 振り返っても、そこには何もない。無だ。
 勝利は次の戦いへの切符でしかなかった。
 生み出したものは、ただの死体だ。無数の死だ。
 それを自覚したとき、もう戦えなくなった。

 以来――光竜デンゲイは、死に場所を求め続けていた。
 
1-1

「お久しぶりです。――アルベリク師匠」
 アドネール占星台の篝火の傍らに佇む男に、メイナードは頭を下げた。
「うむ、息災で何よりだ。以前よりも逞しくなった気がするぞ」
 朗らかに笑い、先代『蒼の竜騎士』、アルベリク・ベイルはメイナードの肩を親し気に叩いた。
 エールから彼の弟のソウルクリスタルを受け継いだ後、メイナードはエールと共にアドネール占星台へと赴き、そこでこの先代『蒼の竜騎士』より手ほどきを受けたのだった。アルベリクは現『蒼の竜騎士』エスティニアンの師であり、エールもまた彼に師事した。数多くの竜騎士が彼の薫陶を受けている。
 加えて、アルベリクは槍術士ギルドの長、イウェインの親友でもある。
 改めて、凄い男たちに囲まれているな、とメイナードは自身を誇りに思う。

 ノノノの故郷からテレポでグリダニアへ移動した後、メイナードは槍術士ギルドへ顔を出した。そこで、彼は師イウェインよりふたつ、頼まれごとをした。
 ひとつは親友への手土産を渡すこと――渡された酒には短く、『近いうちに飲もうぜ、兄弟』と書かれた紙が挟まっている。
 ふたつは――どう考えてもこちらが本命なのだが、イウェインから頼まれた順番は土産の件が先だったのだ――、イシュガルドの情勢について聞き出すことだ。現在は交流が途絶えているとはいえ、グリアニアとイシュガルドはもっとも近しい隣国だ。個人的な友誼も踏まえ、対ドラゴン族の面で協力できることは無いのか。それを問うて来て欲しい、というのがイウェインの頼みであった。
 断る謂れはどこにもなく、メイナードは二つ返事で引き受けた。もとより、竜騎士の技を磨くため、アルベリクやエールと会いたいと思っていたのだ。
 アルベリクとの連絡は取れた。アドネール占星台で会ってくれるという。ただ、エールの所在は掴めなかった。任務中であり、所在は回答できない、というのが竜騎士団からの返答だった。
 個人的な連絡用のリンクパールなどを持っていれば話は違うのだろうが、メイナードもエールもそういうものを作る心遣いや配慮の能力をあまり持ち合わせていない――平易にいえば、がさつなのだ。
 エールについてはアルベリクに訊くことにして、メイナードはアドネール占星台へ向かったのだった。

「ここだけの話だが、皇都は今、揺れていてな……」
 占星台を中心として形作られた集落の酒場に、二人は腰を落ち着けた。金を多めに払い、奥の個室を借りる。
「政変の類ですか」
 メイナードの問いに、アルベリクは首を振った。その顔にも、戸惑いが浮かんでいる。
「人同士の話ならば、まだよかったのだがな……。イシュガルドという国家そのものの存在意義についての話だ……」
 呻くように言って、アルベリクは杯を干した。
「この話を君にするのは、君が竜騎士であることと、エールに会ってほしいからだ。ゆえに……」
 メイナードは頷いた。
「わかりました。イウェイン師には黙っておきます」
 頼む、とアルベリクは重々しく言い、頷き返した。それから、メイナードが注いだ葡萄酒を一気にあおると、先代『蒼の竜騎士』は語り始めた。

 千年以上前の、竜と人との蜜月。イシュガルド建国王トールダンによる、詩竜ラタトスクの殺害と『竜の眼』の奪取。怒り狂った邪竜ニーズヘッグによる復讐。
 竜詩戦争の発端は人の強欲によりもたらされた、人が責を負うべき裏切りであった。
 それを隠し、イシュガルド正教は人々を竜との戦争へと駆り立てた。
 守らなければ死ぬ。それは真実であったろう。座して滅するわけにはいかぬ。
 しかし。
 それはあまりに――不誠実ではないのか。
  
「そいつぁ……」
 メイナードは唸った。自分たちの拠って立つ正義が、他者への害意を糊塗した上に成り立っていた。そんな秘密は、衝撃的に過ぎる。
「……まだ、このこと自体は国民全体には知らされていない」
 賑わいを見せる店内のほうをちらりと見て、アルベリクは溜息を吐いた。
「現在のところ、神殿騎士団総長アイメリク殿より、神殿騎士団のコマンド以上の者と――竜騎士団に対し説明があったのみだ。逃亡した教皇一派の処遇、正教司祭たちの待遇、それらがはっきりとするまでは、国民全体への布告はしない」
「……竜騎士団はどうなっちまうんです?」
 メイナードはエールを気に掛け、そう問うた。
「現状維持だ。ニーズヘッグを討ったといっても、彼の意志がドラゴン族全体の総意ではない。それに、我らは未だドラゴン族と対話する準備など何もできていないのだ。“真実”が明らかになったとはいえ、それだけで即、現状の体制を崩すことはできない」
「そうか……」
 メイナードが一息に杯をあおる。その彼に、アルベリクは逆に問いを投げる。
「君は今回、どうして私とエールに会おうと思ったのだ? イウェインの頼みはほぼついでのようなものだろう」
 まあそりゃあそうですが、と苦笑してから、メイナードはふと口をつぐんだ。
「おまちどう! ラムローストだよ!」
 女給が、大きな皿にこれでもかと乗せた骨付きの羊肉をカートで持ってきた。空いた皿と酒瓶を回収し、代わりの瓶を置いて去った。
 香ばしい匂いを誇るラムローストを噛み千切ると、メイナードは己の事情を語った。

 かいつまんだ事情だ。すべてを話せば夜を徹する長さになる。
 自らの敗北の事、倒さねばならない相手のこと。助けたい相手がいる。敵への勝利ができなければ、彼女の救出は叶わないだろうこと。
 それを成し遂げるため、今一度己の技を鍛えるために、師や兄弟子の力を借りたいと思ったこと。

「そちらも……困難な道程だな」
 アルベリクは大きく嘆息した。テーブルの上には骨だけが置かれた皿と、飲み干された杯。夜は更けようとしており、さらに今夜は日没後からぐっと気温が落ちた。物理的な温度と、交流という意味、二つの暖を取るために、酒場は一層賑わっていた。半ば忘れ去られた個室で、二人の男は最後の葡萄酒を互いの杯に注いだ。
「残念だが、私は今回役に立てそうにない」
 苦い顔で、アルベリクは続ける。
「神殿騎士団内部の動揺も激しい。教皇に忠誠を誓う派閥もあってな、彼らが離反しないように説得を行ったりもしている。私自身の余裕はほとんどないと言っていい。すまない」
 アルベリクの謝罪を、メイナードは手で遮った。
「よしてください。押しかけてきたのはこっちだ」
 杯の葡萄酒を飲み干す。アルベリクも同様に杯を干す。
「さきほども少し言ったが、私は君にエールと会ってほしい。彼――いや、あいつが心配でな」
 あいつ、と言い直したところで、アルベリクの顔に苦笑が浮かぶ。
「スアーラを倒し復讐を遂げたことで、あいつは大きく変わった。竜騎士団の者たちとも和解し、上手くやっているようだと聞いてはいた。だが、この“真実”があいつの心をどう動かしたかはわからん。会えてはいないからな」
「アイツは今どこに?」
 その問いに、アルベリクは遠くを見る目をした。ここではない――空を見る目だ。
「ドラヴァニア雲海。ニーズヘッグの住処であった、『竜の巣』の監視にあたっている」

1-2

 翌日、二人は大審門をくぐり、イシュガルドへと赴いた。現役の神殿騎士であり、竜騎士団の顧問のような存在であるアルベリクの同伴者ということで、ほとんど咎めは無かった。むしろアルベリクが『冒険者なれども竜騎士』であると紹介したことで、門の警備にあたる兵たちから非常な好奇の目で見られ、メイナードはやや閉口した。
「すまんな」
 雲廊を渡りながら、アルベリクが苦笑した。
「かの“光の戦士”と同じ存在、ということで、彼らも興奮してしまったのだろう」
「アイツと一緒にされちゃあ敵わねえ」
 メイナードも肩をすくめて苦笑した。
 
 雪のちらつく皇都は、ざわめいていた。
 立ち止まり、不安げに話す貴族らしき者たち。
 足早に歩きながら、声を低めて喋っている騎士たち。
 店から出てきた商人は、慌ただしくしながらもきょろきょろと辺りを見回している。
 教皇の不在。神殿騎士同士の対立。それらは緘口令を引こうとも、目撃した者たちによって既に広められている。
 この国はどうなってしまうのか。皆が戸惑い、囁き合っている。
「……なるほど。ここにさらに上乗せするってのは……」
 メイナードもまた、声を潜めて呟いた。傍らのアルベリクは何も言わないが、深く頷いていた。
 現在の皇都で、“真実”を発表すれば大混乱に陥るだろう。宗教組織であると同時に統治機構である教皇庁が機能不全になっている今の状況では、場合によっては内乱が発生しかねない。
 アイメリクという男の判断は正しいと、メイナードには感じられた。

 飛空艇発着所『イシュガルド・ランディング』は、現在は軍港としての運用が行われている。
 国防を担う神殿騎士団や貴族の私兵団が、遠隔地に向かう場合に使用されることがほとんどだ。
 アルベリクが係りの者に話をつけ、二人は発着場へと足を踏み入れる。
「ドラヴァニア雲海行きの飛空艇が、もう少ししたらここへ来る」
「そいつで向かえばいいんですね」
 アルベリクは頷き、再会した時と同じようにメイナードの肩を軽く叩いた。
「頼む。私はそろそろ行かねばならない。見送りできなくてすまない」
「いえ。貴重な情報をありがとうございました」
 メイナードは頭を下げた。ではな、と言ってアルベリクは都市内エーテライトの方へと歩いて行った。幾度かこちらを振り返っている。本当は自分も行きたいのだろうな、とメイナードは苦笑した。
 それから、発着場の外に広がる空を見つめる。蒼穹と山々。眼下に広がる雲海から、幾つもの建造物が顔を出している。不思議な光景だ。
 しばらく所在なくぼんやりしていると、こちらへ向かってくる一団があった。その特徴的な鎧は見間違えようがない。竜騎士たちだ。その後ろから、荷車に乗せた物資を運ぶ工兵たちが続いている。
 背格好からして、四人の竜騎士のうち二人はエレゼン、もう二人はそれぞれミッドランダーとミコッテのようだ。皇都に入ってから見た神殿騎士たちがほとんどエレゼンであるのと対照的な気がする。
 兜で見えないが、態度と口元の表情で竜騎士たちが自分を不審に思っていることをメイナードは察した。
 アルベリクの語ったところでは、ドラヴァニア雲海とは現代のイシュガルド人にとってみれば竜の棲む魔境、邪竜ニーズヘッグの本拠地が置かれた敵地だ。今回の飛空艇も特別に航行するものだと言っていた。そんな場所に、一見して冒険者にしか見えない者が立っているのは、それは不審に思うだろう。
 アルベリクから話が通っているかが分からない。手間だが説明したほうがいいのか? とメイナードが考えたところで、一行の先頭に立っていた背の高い竜騎士が一歩前に進み出た。
「メイナード・クリーヴズ殿とお見受けしたが、相違ないだろうか」
「ああ。その通りだ」
 おお、とエレゼンの竜騎士が安堵の声を出した。
「今朝、アルベリク殿からのリンクパール通信で、今日貴方が来るとの話は聞いていたのだが――こちら側の事情で詳細を聞く余裕がなかったのだ」
 竜騎士はそう言うと、改めて礼をした。
「竜騎士団団長補佐、セドリック・ギヨンだ」
 セドリックは残りの三人を紹介した。メイナードも改めて名乗る。
「冒険者、フリーカンパニー『パスファインダーズ』のメイナード・グリーヴズだ。縁があって、竜騎士のソウルクリスタルを継がせてもらった」
「知っているよ。――それはアロイスのソウルクリスタルだ」
 セドリックが穏やかに言った。他の三人も、エールの弟であるアロイスの名を聞くと、皆故人を悼む顔をした。エールの言っていた通り、アロイスは多くの人に愛された好人物であったのだろう。
「ああ。その名を汚さぬことを、俺は自分の槍に誓う」
 メイナードは真摯に告げた。その一言は、彼と竜騎士たちの間の見えぬ壁を取り払う効果があったようだ。皆、メイナードに向ける視線が暖かなものになったと感じる。エールもそうだったが、一度打ち解けると柔らくなるのがイシュガルド人の傾向のようだ。
 そのとき、発着場に風が渦巻いた。飛空艇が近付いたことで、風属性のエーテルが大きく動いたのだ。
 中型の飛空艇が青燐機関の特徴的な駆動音を立てながら、発着場へ滑り込んできた。
「竜騎士団用、ドラヴァニア雲海行きです!」
 甲板から桟橋へタラップをかけながら、ガーロンド・アイアンワークス社の制服を着たララフェルが声を上げた。セドリックが頷き、工兵たちに声を掛ける。
「運び込んでくれ」
 物資を入れた木箱や帆布袋を、工兵たちが運び込む。
「さて、あとは……」
 セドリックが呟き、後方を見た。ランディングの先へ視線を飛ばしている。
「協力してくれている占星術師殿が来れば、乗り込めるのだが……遅いな」
「占星術師?」
 メイナードが問うた。アドネール占星台にいる、竜の動きを星を見て予測するという、メイナードから見て奇妙な一団のことはアルベリクから聞いていたが。
「占星台にいる連中……おっと、方々が協力を?」
 メイナードの物言いに、セドリックが苦笑した。
「貴方は大分直截な男だな。そのままで構わないぞ。――色々と複雑なのだが、占星術師には二種類あるのだ。占星台で星を見ている『占星術士』と、癒し手としての『占星術師』だ」
「そうだ」
 突然背後から声がしたので、セドリックもメイナードも驚いて振り返った。
 そこに、白いローブの男が立っていた。ミッドランダーだが、その中でも極めて背の高い部類だろう。癖のない赤い髪は長く伸ばされ胸元まで。細面だが、強い光を放つ目と跳ね上げられた眉が、華奢な印象を与えない。
 傲岸不遜。
 そういう印象を与える男だった。
 そして、男はその印象通りに語りだした。
「シャーレアンより来たりて、この地に真の占星術を根付かせようとする者。先駆にして本道、開明にして整然。自然の理と人の叡智を極めたる者に許される業。それが、占星術だ」
 立て板に水で語られた言葉に、メイナードも、セドリックも、竜騎士たちもあっけに取られている。
 それを見て、男はもう一度言った。先よりも大きい声で。
「それが、占星術だ」
 あまりの大声に、周囲の工兵や、ランディングの係り員たちまでもがこちらを見た。
「お、おう……」
 メイナードが辛うじて返事をする。男は満足げに微笑んだ。
「分かれば結構」
 頷いてから、セドリックを見る。ようやく我に返ったセドリックへ、男は告げた。
「竜騎士団に協力する占星術師とは俺のことだ。レオン・アストルガ。シャーレアン人ゆえ、この地の作法に疎い。よろしく頼む」
「あ、ああ……」
 メイナードと変わらない返事をして、セドリックはレオンの差し出された手を取った。すかさず強く握ったレオンが、力を込めて握手をする。大きい手だ。手甲があるはずのセドリックが顔を顰めた。力は強いらしい。
 何度か握った手を上下に振ると、レオンと名乗った占星術師は一方的に手を離し、そそくさと飛空艇に乗り込んだ。
「さあ! いくのだろう!」
 腕を組み、甲板に仁王立ちになる。
「それはそうだが、補給物資の積み込みをしている最中だ。すぐには出発できない」
 セドリックが説明すると、レオンは片眉を跳ね上げた。
「む。そうか。では待たせてもらおう」
 そう言うと、甲板で仁王立ちのまま、微動だにしなくなった。
「……なんなんだ……」
「どうにもマイペースなやつだなぁ」
 メイナードは苦笑した。リ・ジン辺りが面白がって構いそうな奴だ。
「シャーレアン人とは、ああいう輩なのだろうか……」
 セドリックが呟く。そういえば、自分のシャーレアン人の知己とは……とメイナードは考えたが、一人くらいしか思い浮かばない。聖コイナク財団の、ラムブルース・ゼーシルティルシンだ。非常に明晰な考古学者だが、ユーモアも解する好人物だ。あのレオンという男とは共通項がありそうもない。
「いやあ、あいつの個性だろ」
 肩をすくめるメイナードに、セドリックは生真面目に「なるほど……」と言っている。
 その様子がおかしくて、メイナードはつい笑ってしまう。
 そういえば、エールが以前言っていた。ロジェと似てる奴を知っている、セドリックという竜騎士団の同胞だ、と。
 なるほど、たしかに似てんな。エールに会ったら言ってやろう。メイナードは心の中で呟いた。

1-3

 物資積み込みの後、メイナードと竜騎士団の竜騎士たちは飛空艇に乗り込んだ。
 雲海が広がる空を飛空艇が飛ぶ。それはメイナードには非常に珍しく、眼下に雲が広がる光景は彼の眼を大いに楽しませた。
「この先はさらに驚異的な光景が広がっているよ」
 セドリックが言った。
「ああそうか、人がいる場所がなきゃあ、監視できねえもんな」
 こんな高空でどうやって監視をしているのだろうか。雲海からまれに顔を出している山の頂上などに監視所を置いたりしているのだろうか。
「そこにエールがいるんだな」
「ああ」
 頷いた後、セドリックはメイナードをしばし見つめた。
「――メイナード殿」
「いまさら殿はよしてくれ」
「そうか。では、私のこともセドリックと呼び捨ててくれて構わない。――メイナード。私は君に礼を言いたい」
「礼?」
「ああ。エールのことだ。我々は偏狭な意識に凝り固まって、彼の瞋恚を理解しようとしなかった。彼の人生をかけた復讐を、血みどろで昏いまま終わらせずに、前へ歩き出すきっかけへと変えたのは、君たちだ」
 そのセドリックの物言いで、メイナードはエールが本当に竜騎士団の皆と打ち解けているのだと察した。
「拗れてるときってえのは」
 敢えて軽い口調で言いながら、メイナードはセドリックを見上げる。
「外から突っついた方がほぐれることもある。それだけのことさ」
 肩をすくめて、笑う。つられてセドリックも笑みを浮かべた。
 そのとき。
「見えてきたな」
 レオンが誰に言うともなく呟いた。それは呟きだったのだろうが、声は朗々と飛空艇中に響いた。
 つられて視線を動かし――メイナードは言葉を失った。
「…………!」
 空に浮かぶ島々。そこに、明らかに自然物ではない巨大な宮殿が見える。
「ここがドラヴァニア雲海だ。あの遠くに見える巨大な宮殿は、聖竜フレースヴェルグの領域である白亜の宮殿。――そして」
 白亜の宮殿と島々を挟んで正対するような位置に、巨大な雷雲の塊があった。
 雷雲はその中から刃のように尖った岩塊を突き出させており、その周囲には城の残骸のような遺構が浮いていた。
「あれが『竜の巣』。我らが仇……としていた、邪竜ニーズヘッグとその眷属たちの本拠地だ」
 離れていてもなお、雷気が肌をピリピリさせる気がする。
「……なあ」
 『竜の巣』から目線を離すことができぬまま、メイナードはセドリックに問いかけた。
「ニーズヘッグ、ってえのは討たれたんだよな?」
「――ああ。我らが長、“蒼の竜騎士”エスティニアンと、英雄『光の戦士』殿が討ち取った。それは間違いない」
 光の戦士か。あいつがやったんなら確実だろうが……。
「……主がいねえって感じがしねえな」
 メイナードの感慨に、セドリックが目を見張った。
「――やはり、そう思うか」
 メイナードが振り向く。
「あんたもか」
「ああ。そして、これはエールも同意見だ」
 二人は徐々に近付く『竜の巣』を見つめた。
「だからこそ、我々竜騎士団は『竜の巣』の監視を続けているのだ」
 やがて飛空艇は、一つの浮島に到着した。イーストン・アイと呼ばれるその浮島は桟橋を持ち、部分的に崩れてはいるが、中心部に砦を有している。『竜の巣』までに視線を遮る物はなく、監視にはうってつけの場所だった。
「かつて、ここは騎士たちの屯所だったらしい」
 降り立った桟橋の両脇に立つ飛竜の彫像を眺めながら、セドリックが言った。細かな装飾は、人の手によるものなのだろう。
「行こう。エールはこの先だ」
 踵を返すセドリックの後を付いて行きながら、メイナードはふと疑問に思った。そういえばこの実直な男は“真実”をどう捉えたのだろうか?
「あんたは」
 顔だけ振り返ったセドリックに、メイナードが問うた。
「あんたは、“真実”を聞いてどう思った?」
「――」
 無言のまま前へ向き直り、セドリックは首を振った。
「どうもこうもない」
 努めて大きい声で言ったのだろう。言葉の端が揺れていた。
「我らは竜より人を護り、人に害する竜を討つ。それだけだ」
 硬い、務めをはたす者の声でセドリックは告げる。それから、呟くように付け足した。
「――そう、自分に言い聞かせているよ」
 それきりセドリックは口を閉ざした。メイナードも、それ以上は訊かなかった。

『Light My Fire』1(後)に続く
コメント(1)

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

Juliette's note
イーストン・アイはドラヴァニア雲海のマップ右上のほうにあります。
ゲーム上ではドラゴンたちがウロウロしているのですが、小説上では(一時的にせよ)駆逐したことになっています。
見晴らしがよく、レベル70↑で行けば絡まれることもありませんので、SSスポットとしても中々風情のあるところですよ。
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