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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

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『Light My Fire』3(前)(『Mon étoile』第二部四章)

公開
3-1

 アドリアン・サニエがいない。
 フェルニゲシュとその眷属たちとの戦闘後、再び裂け目の洞窟へ戻ったメイナードたちは、休息後しばらくしてからその事実に気付いた。
 非戦闘員であるアドリアンは洞窟内に残っていたはずだ。最後にここを出て戦闘に参加したフレデリックは、彼が残っていたことを確認している。
『あの人間は』
 デンゲイが片目を薄く開けて言った。
『ずっと、こちらを見ていた』
「……あんたを?」
 メイナードが片方の眉を跳ね上げる。わずかに頷き、デンゲイは続けた。
『外の戦闘を見ていはいたが、意識はこちらに向いていた。どうということも無かったので放っておいたが。――だが』
 視線でジラントを見る。
『お前とフェルニゲシュの戦いが始まってから、ここを出て行った。特に言葉は無かった』
「身の危険を感じた……というわけでもなさそうな……」
 カリンが訝しんで唸る。
「……そういや奴さん、『各地に眠るドラゴンの研究をしている』と言ってた割に、あんたに質問もなにもなかったな」
 メイナードの指摘に、デンゲイではなくレオンが応えた。
「デンゲイ殿を見たときは感動していたようだったが。その後はだんまりだったな」
「泊地に戻ったのかもしれないすね」
「ありえるな。ま、どの道向こうに被害がなかったか確認に行くしな」
 エールはそう言うと洞窟を出た。

 カルゴキャポクス泊地の者たち、ついでに言えば産卵地のサハギンたちも、今回の騒ぎに仰天していた。
 結果的に言えば人的被害は無し。フェルニゲシュの眷属たちは泊地も産卵地も無視したため、彼らによる被害は皆無だった。
 ただ、最後にフェルニゲシュが海の魔物を呼び寄せた際、海中から現れた魔物たちによっていくつかの施設が破壊された。
 特に泊地の桟橋は壊滅的で、船も破損した。
「ここの資材じゃ修理にも時間がかかるし、新大陸側からの船もしばらく来ません。一か月は帰れないと思ってください」
 泊地の商人はそう言って肩をすくめた。
「ま、どうしてもすぐに帰らなきゃならないとなったら、テレポがあるしな」
 話を聞いたあとにメイナードが気楽に言った。
 今ここにいる全員が、エーテライト適性を有していたし、実際に使用したことがある。移動魔法であるテレポもデジョンも使用できる。持参した食料等も、泊地の者たちへ譲ってしまえばあとは手荷物だけになる。重大な問題ではなかった。
 そして――アドリアンは泊地へ戻ってはいなかった。
「……迷ってるとか?」
「巻き添えで死んじゃいましたかね」
「怪我をして動けないということはあり得るな」
 ただ、洞窟から泊地まではさして複雑な道程でもない。加えて戦闘の余波であちこちの木々がなぎ倒されていて、視界は確保できていた。
 帰り道に念のため周囲を探してみたものの、見つかることはなかった。
「まあ、ここまできたら、気にしてもどうしようもねえな」
 エールが肩をすくめた。全員がそれを素直に受け入れたのは、アドリアンにそもそも不審な点が見受けられていたからだ。今回の捜索で一般人であるという線は薄れ、むしろ何か企んで消えた可能性のほうが高くなった。

 さしもの彼らも、今アドリアンがどこにいて何をしているのかを知る由はなかった。
 
3-2

 泊地とは火山を挟んでちょうど反対側に砂浜があった。
 それなりの長さと広さもつ砂浜は美しく、ウルダハ商人あたりなら、サハギンとの約定を反故にしてリゾート地として開発を考えそうな景観だった。
 その砂浜で今行われているのは、のどかな休息――ではなく。
『オラッ!』
「ぐはっ……!」
 ジラントの尻尾の一撃を受けたエールが砂浜に転がる。
「勝負あり」
 レオンがよく通る声で宣言した。
『へへへ。リベンジさせてもらったぜぇ!』
「くっそー! ぬかった!」
 機嫌よく尾を振るジラントと悔しがるエール。共通するのは、どちらも笑顔だということだ。
「対主交代だな」
 こちらは不敵な、というよりわくわくした笑みを浮かべ、メイナードが進み出た。エールもメイナードも、ついでにいえばカリンもフレデリックも、手にする槍は木製で、刃の代わりに甲殻類の殻を加工した穂先が付いている。切っ先は鈍い。攻撃のためと言うより、“槍”としての重量比を出すための工夫だ。目的は殺傷ではない。
 また、彼らは防具も身に着けていない。レオンの治癒魔法があるため、怪我については心配がない。さすがに誰一人水着は持ってきていなかったが、皆気楽な格好で参加している。 
 つまり。
 彼らはここで、模擬戦闘を行っているのだ。
『もう譲らねえ。ここからは俺が王者としてお前らを相手してやるぜ!』
 ジラントがおどけて言いながら体を揺する。勝負は一本勝負で、打撃が綺麗に決まれば勝ち。クリーンヒットかどうかの判断は審判役であるレオンがするが、この場の誰もが自身への打撃がそうだったと認める者たちだった――要するにごねたりする者がいない――ので、対戦はごく円滑に進んでいた。
 ジラントは初戦でエールに敗北を喫したため、リベンジに燃えていたのだ。結果が出たため上機嫌のジラントに、メイナードは軽くステップを踏みながら言った。
「その初戦であっさりと負けたら……すげえカッコ悪りいなあ?」
 にやにやと笑ってジラントを見る。煽り方が堂に入っている。
『う』
 ジラントが動きを止めた。決して自信がなくなったわけではないのだが、初戦は落とせないぞ、という緊張が生まれてしまった。
「はじめ!」
 レオンの声と同時にメイナードは滑るようにジラントの前へ出る。やや反応の遅れたジラントが慌てて下がる。砂浜に棒で雑に引かれた範囲が戦闘域で、そこから出てしまうことも敗北だ。先程の対エール戦では、ジラントはそれを利用して尾の一撃でエールをエリアアウトさせて勝ったのだ。
 今回はそれが不利に働いた。下がり過ぎると巨体がはみ出してしまう。
『ち……っ!』
 翼を振るい上昇する。十五秒までの飛行はルール内だ。風属性のエーテルを伴った羽ばたきでメイナードの動きを止め、急降下して仕留める――そう計画し下方を見ようとしたジラントの視界に、動くものが映った。
 エーテル感知能力でメイナードがジャンプして上昇してきたと判断したジラントは、咄嗟に前肢を振るった。
 軽い音を立て、槍だけが弾かれた。
『!?』
 エーテルの気配はちゃんとあった。なのに、そこには槍しかない。ジラントはほんの一瞬混乱した。
 が、ほんの一瞬あれば十分だった。
 空中で回転する槍を、跳躍してきたメイナードが上昇しながら掴み取り――ジラントの後頭部へと降下した。
『ごがッ!』
 ほぼ打突武器のような木槍で突かれたとはいえ、ジャンプそのものの威力はある。加えて、ただの木槍が衝撃で破壊されてしまわないよう、メイナードはきっちりと武器に己のエーテルを徹してある。叫ぶ痛さになるのは避けられない。
 瞬間的に意識を絶たれて、ジラントは落下した。もともとそう大した距離を上昇できていなかったため、立て直せる猶予はなかった。
「勝負あり」
 おおっ! と歓声があがった。ジラントにほぼ攻撃させずに仕留めたメイナードは、快活に笑った。
「うはは! 決まり過ぎだろ!」
『今のどうやった!?』
 即座に起き上がったジラントが詰め寄る。ニヤリと笑ったメイナードが、投槍を空へ放つ。槍術士と竜騎士が使う投射攻撃、ピアシングタロンだ。この技は物理的な短槍を投げているのではなく、エーテルを瞬間的に物質化したモノを投擲している。ゆえに連射が効く半面、刺さり続けることで敵の傷を拡げるような使い方はできない。
『あ』
 気付いたジラントの前で、メイナードはもう一度投槍を放つ。今度は、木槍と一緒に。
『あー!』
 目を丸くしてジラントが首を縦に何度も振った。槍とメイナードのエーテルが上昇している。落ち着いて感じ取れば、それがメイナード本人ほどの量が無いことはわかるはずだ。だが、慌てていたジラントは早とちりしてしまった。
「開始前の揺さぶり含めて、しょせんは小手先のテクニックだがな。こういうの経験ないだろ」
『ああ。ドラゴン同士だとここまで細かいコトはしないからな……けど、効いたぜ! もう引っかからないがな!』
 笑い合うメイナードとジラントの間に、
「はいそこまで!」
 カリンが割って入った。
「負け抜けですからね! ジラントさんはおとなしく順番待ちに下がってください!」
『うぐぐ……』
 すごすごと下がるジラントにはエルダードラゴンの威厳は皆無だった。
「さあやりましょう! 隊長に勝ったジラントさんに勝ったあなたを倒せばわたしが最強です!!」
 一周目ですでにエールに負けていることを無視して、楽しそうにカリンは構える。苦笑して、メイナードが呼応した。
「やれやれ。お子様枠にも容赦はしねえぜ?」
「はじめ!」
「お子様っていうなぁああー!!!!」
 叫びながらカリンが飛びかかる。その彼女をじっと見つめながら、砂浜に胡坐をかいたフレデリックが嘆息した。
「ぬかったなあ……リムサで水着調達すればよかった」

 彼らはしばらく共に過ごした。
 ジラントは竜騎士たちと時に戯れ、時に互いの戦闘技術を見せ合った。エーテルを操ることがこの世界の戦闘法の定石だ。そしてそれは、ドラゴン族も人間も変わりはなかった。
 デンゲイが気にしないと許可をだしたので、彼らは裂け目の洞窟と砂浜にキャンプ地のようなものを作った。洞窟内には清浄な湧き水もあった。
 夜になると、デンゲイがぽつりと過去の話をする。それが皆の楽しみになった。

 彼らは友情を育んだが、特にエールとジラントは互いを好ましく思ったようだった。
 気性が合うのだろう。
 特に彼らは時間を共にすることが多かった。
 エールが最初にジラントと打ち解けたからこそ、カリンやフレデリックもジラントと忌憚なく会話できるようになったのだ。それはジラント側にしてもそうだったろう。

 月夜の晩だった。
 泊地で買った酒を呑んでうたた寝をしていたメイナードが目を醒ますと、洞窟には自分とデンゲイしかいなかった。フレデリックがカリンを夜釣りに連れ出しているのは知っていたが、エールとジラントの姿がない。
 ふとデンゲイと目が合う。彼が視線だけを上に動かしたので、メイナードは二人の行き先を知った。
「どこにいるかと思や、空か」
 夜空に青黒い鱗の竜が浮いている。風を捉えているのだろう。あまり羽ばたかずにゆっくりと飛んでいる。その背に、人影が見える。
『ジラントが語るところによれば』
 不意にデンゲイが言った。
『千年ほど前、ジラントがまだ生まれる前、邪竜と聖竜の眷属は人と共に暮らし……あのように人を背に乗せて飛ぶものもあったという』
「らしいな」
 応えながら、メイナードは手酌で酒を注ぎ、ゆっくりと飲んだ。
「千年の禍根とか、アイツらに限っちゃあってないようなもんだ」
 応えは無く、メイナードもまた言葉を返されるとは思っていない。しばらくの間、そこには無言で片目を開け空を見上げる竜と、酒を呑みながら空を見上げる人がいるだけだった。
「俺もいつか」
 今度はメイナードが、不意に呟いた。空を見上げたままだが、デンゲイが聞いているのは何となくわかった。
「俺もいつかあんたのように……戦いに虚しさを覚えるのだろうか」
 それは、偽らざる心情の吐露だった。
 デンゲイの話を聞いてから、ずっと考えていたことだ。
 この偉大な竜の足元にも及ばないだろうが、それでも人間としての自分はいままでずっと戦いを続けてきた。自ら求めているともいえる。
 いつか。
 そうなったとき、自分はどうするだろうか。
 二度と槍を振るえなくなったら。
 勇気を持てなくなったら。
『……人よ、子を成せ』
 穏やかに、くすんだ金色の竜は言った。
『血が繋がらなくともいい。次代を育て、伝えるのだ。お前の歩みを」
「俺の……」
『肉体は滅びようと、魂は……“道”は継がれる。それはとてもいいものだ』
 魂を継ぐ。自分が師から槍術と勇気を教わったように。
 たとえ肉体が滅びたとしても。
 伝えた道は先へと続く。
 それは。
「ああ。それは……いいな」
 呟いて、酒を飲み干す。
 そんなメイナードを見た後、デンゲイは目を閉じた。口の端が、薄く笑みを作っていた。

『Light My Fire』3(後)へ続く
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