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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

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『Sweetest Coma Again』2(前)(『Mon étoile』第二部四章)

公開
2-1

 グリダニアへ帰郷したリリは、修行の日々を送っていた。
 エ・スミ・ヤンの指導の下でより微細なエーテルの制御を学び、ラヤ・オ・センナの下で白魔道士としての技を磨いた。
 やるべきことはいくらでもあった。
 その日、リリはエ・スミ・ヤンから依頼された東部森林の老トレントとの対話を終え、ギルドへと帰還したところであった。
 碩老樹瞑想窟に入ると、見知った――けれど、この場所では初めて見る人物がいた。
「バティスト兄さん!?」
 思わず声をあげてから、しまったと思う。静寂を重んじるこの場所で出していい声量ではなかった。周りの道士たちからの咎める視線が一斉に飛んだ。
 師エ・スミ・ヤンと会話していた男が振り向く。背の高いフォレスターだ。鬼哭隊士の装備を身に着けているが、今は槍も持たず、仮面も付けていない。
 バティスト・バズレール。リリとメイナードの家のすぐ近くに住んでいた、二人にとっての幼馴染。特に一人っ子だったリリはバティストを兄のように慕い、「兄さん」と呼ぶほどだった。
 幼いころから礼儀正しくまっすぐだったバティストは、学業でも武術でも優秀な成績を残すと、僅かな見習隊士期間を経て鬼哭隊伍番槍へと配属された。現在は、隊の副隊長だったはずだ。
 慌てて口を押えたリリに、バティストは生真面目に一礼した。今の大声を黙殺して、鬼哭隊士として振る舞っている。だが、礼をする直前の目が笑っていた。
「お帰りなさい、リリ。老トレントはいかがでしたか」
 エ・スミが穏やかに問う。
「はい。説得に応じてくれました。今はラークスコールの奥に戻っていかれました」
 ナインアイビーとシルフ領の緩衝地帯的な場所であるラークスコールに、巨大な老トレントが現れた。トレントはバエサルの長城から来ているガレマール帝国の偵察部隊を相手に大暴れして、彼らが撤退した後も興奮が鎮まらず、暴れ続けた。
 リリと数名の幻術士が対話に赴いた。同時に鬼哭隊・双蛇党の部隊も急行したが、トレントを刺激しないようにシルフの仮宿に待機し、まずはリリたちによる対話が試みられたのだった。
「精霊の力が弱まっているため、自分がなんとかしなければ、という……義侠心のような動機がきっかけだったそうです」
「そうですか……。それで帝国兵を?」
「それが、帝国兵と戦ったのはついでのようなものだったそうです。――本当は、南部森林へ行くつもりだったと」
 リリの発言に、バティストとエ・スミが顔を見合わせた。南部森林で何かがあったのだろうか。そういえば、バティストは伍番槍所属――南部森林クォーリーミル周辺を管轄する部隊の所属だ。
「南部森林に何か危機があると感じた、と?」
「はい。『具体的に何かは分からないが、森が異常を感じている。精霊はこれを察知しているが、手を下すことができない』と」
「だから自分が行こうと決心した、ということですか」
 トレントは“森に巣食う魔物”ではない。黒衣森を構成する要素の一つであり、ある意味精霊の眷属ともいえる。第七霊災以前では、精霊の怒りを受けて森の奥から次々と現れ、森を乱すものを誅することもあった。
 つまり、人間たちよりも精霊の力を感じることに長けている。
「はい。最終的には、その使命をわたしたちが引き受けると誓い、信用してもらえました。――『精霊の嘆きがやまぬ場合は、再び立つ』と釘も刺されましたが……」
「なるほど……」
 エ・スミは頷くと、再度バティストを顔を見合わせた。頷き合う。
「つまり貴方は、南部森林にあるかもしれない異常を探しにいかねばならなくなったのですね」
「はい」
 答えたリリに、バティストが告げた。
「その『南部森林の異常』については、南部森林にいた複数の道士様たちからも証言があった。精霊が異常を訴えているものの、具体的なことは何も告げない、と」
「そんなことが……」
 精霊は人ではない。ゆえに、異常や異変を具体的な言葉では語らない。何が異常なのかは、人が探すしかない。それが、黒衣森の難しいところだ。
「今のところ、南部森林に危機的兆候はない。だが、我々が見落としているだけかもしれないのだ。それを、エ・スミ・ヤン様へご相談していたところだった」
 エ・スミ・ヤンは、リリを見つめた。
「どのみち、貴方が帰ってきたら行って貰うつもりだったのですが、トレントと誓いを交わしたならなおさらです。バティスト副隊長と共に南部森林へ行き、精霊のいう『異常』とは何かを見定めてください」
「わかりました」

 碩老樹瞑想窟を出たところで、二人は顔を見合わせた。白魔道士と鬼哭隊士、ではなく、幼馴染の顔だ。
「ひさしぶり、兄さん」
「ああ、また綺麗になったな」
「ふふ。そうでしょうそうでしょう」
 リリが得意満面で頷く。バティストはそこで突っ込みを入れるでもなく、にこやかにリリを見つめている。
 チョコボ留めに向かいながら、二人はそれぞれの近況などを話しながらそぞろ歩いた。近況と言っても、ほとんどはリリのメイナードに対する愚痴や無自覚な惚気話だ。
「まあ……なんだ、仲良くやってるみたいで安心だよ」
 苦笑したバティストを、リリが覗き込むようにして見上げる。
「そう言えば兄さんは? ゲイレール商会のお嬢さんとお付き合いしてたでしょう?」
 言われたバティストは何ともいえない表情をした。強いて言うなら、諦め、だろうか。
「親同士の紹介だったが、私は私なりに彼女を好ましいと思ったんだが……」
 溜息をひとつ。
「少しばかり仕事に重きを置き過ぎたようだ。つまらん男、と言われてしまった。――行こうか」
 言いながら、バティストは鬼哭隊の仮面を付けた。チョコボ留めが近い。“世間話はここまで”という意志表示ではあったが、それ以上にこの話題を続けたくない態度が明確だったので、リリは黙るしかなかった。
 気になったのは、バティストの物言いには未練らしいものがほとんど感じられないことだった。さりとて嫌悪のようなものもないと思える。強いて言うなら、無関心、だろうか。彼女を好ましいと思った、と言いつつ、そこに気持ちが込められていないように感じる。
 それを問う前に、バティストはすでにチョコボ留めから自分の愛鳥を連れだしに向かっていた。
「……」
 気にはなるが、今はそれが本題ではない。リリもチョコボを借り受けるべく、チョコボ留めの従業員の元へ向かった。

 南部森林、バスカロンドラザーズ。
 中央森林から南部森林へ入った場合に、南部森林各地への中継点になる拠点だ。物流や情報はここを通って南部森林各地へ届けられる。
 リリとバティストはまずここで情報収集を行ったが、特に収穫はなかった。
 そこで、リリは森の精霊に直接伺いを立ててみた。
 森の中で一つの樹を見定めると、それに触れながら精神を研ぎ澄ます。報告にあった通り、南部森林の精霊たちは一斉にざわついているが、誰も具体的な危機を提示する者はなかった。
「――」
 リリはさらに深く集中する。微細なエーテルの操作こそ、白魔道士の真骨頂だ。細かな揺らぎにも耳を傾け、感じ取りはしても自らが森に飲まれぬようにする。共感と冷徹。それらを同時に操ることが重要なのだと、リリは教わった。――あの、遠く懐かしいアイ・ハヌムで。
「……」
 固唾を飲んで見守るバティストの前で、リリは閉じていた目をゆっくりと開いた。
「……どうだ?」
「アッパーパスのどこかだと……告げているようでした」
 得られた情報はそれだけだったが、それでも大きな進展だ。リリとバティストはそのままアッパーパスの森の中を慎重に探索し――森の中を歩く、冒険者風の人影を見た。
「そこの冒険者!」
 バティストが呼び止めつつ、二人は人影へ向かって歩く。
 地味なマントと幅広の帽子姿の冒険者が、リリを見て声を上げた。
「ん? リリか?」
 精悍な顔立ちのミッドランダーに、リリは見覚えがあった。
「サイラスさん!? お久しぶりです!」

 こうして、リリとバティストは冒険者サイラス・エインズワースと出会い、アッパーパスの奥地にある集落、ハイヴ村へと向かった。
 だが――

2-2

 森のなかにぽっかりと開けた、陽の当たる集落。
 真昼の茫洋とした日差しのなかに、人影はどこにもなかった。
「……なんてこった」
 サイラスが溜息を吐き、肩をすくめる。
「これは……一体」
 バティストが呻いた。慌てて駆け出そうとする彼を、サイラスが止めた。
「何が潜んでいるかもわからん。慎重に」
 冷静な指摘に、バティストも唇を結び直した。
 全員で、集落を探索する。集落と言っても、十戸程度の小集落だ。すぐに、誰もいないことがはっきりした。
「どういう……ことだ」
 困惑したバティストが、誰かいないか! と声を張り上げた。反応するものはなかった。
「周囲には異常ありません」 
 森の間隙を埋めるようにして成立している集落ゆえ、柵のようなものはない。村の外側、つまり森の中を見て回ったリリが、緊張した面持ちでそう報告した。
 サイラスは、村の入り口で足跡を調べていた。
「――まただ。少人数の移動の痕跡はあっても、大勢で移動したそれはない」
 争った形跡もなかった。
「消えた……のか?」
「何らかの魔法でなら、可能かも……」
 言いかけたリリが、何かに気付いたように言葉を飲み込んだ。ゆっくりと周囲を見渡す。
「どうした?」
 サイラスの問いに、すでに感覚を探知へと振り向けているのだろうリリは、目を閉じながら一言だけ答えた。
「エーテル濃度が」
「――!」
 その一言で悟ったサイラスも、同じように周囲のエーテルを探査する。結果はすぐに分かった。
「これは……!」
 この村の中だけ、環境エーテルの濃度が薄かった。
 枯渇するような深刻な減少ではない。そうであれば、村の景観自体に影響が出ている。そこまでではないが、森の中と村の濃度の差は歴然としていた。ぽっかりと開いた空隙に、周囲からエーテルが流れ込んできているのが分かる。
「サイラスさん」
 目を開けたリリの呼びかけに、目線で先を促す。
「サイラスさんが見つけたナダー村の住民消失は、発見時点で十日ほど前と思われるのでしたよね」
「ああ」
 もう、サイラスもリリが何を言いたいか分かっている。
「あそこも周囲は森だ。減少した環境エーテル――マナも、十日もあれば流れ込んだそれで補填され、分からなくなる。――くそ、気付けなかったな」
 もちろん、確証がある話ではない。だが、状況が酷似しているこの村で大規模なマナの消費があったことが確認されたのだ。ナダー村でも同様にそれがあったとしても不思議ではない。
 そして。
 大規模なマナの消費。
 それは、サイラスにとっての、あるトリガーでもあった。人知れず、握った手に力がこもる。
「何らかの魔法の行使があったことと、この村の住人が消失したこと。――これが精霊の告げた異変で間違いない、と思います」
 リリが、厳しい顔をして結論付ける。
 そのとき。
「これは……?」
 バティストが声を上げた。
 彼は、家や広場などを丹念に見て回っていた。そして今、一つの家の扉前に落ちていたモノを見つけたのだ。
 リリとサイラスが駆け寄る。
 そこには、掌に収まるほどの、円形の金属加工物――つまりは大きめのメダルがあった。外周に紐を通すと思しき、穴の開いた突起がある。
 メダルには、七つの円が刻まれていた。
 一部の狂いも無い、完璧な七同心円。
「え……?」
 それが。
 それが何かを、リリは知っていた。
「それは」
 リリが発言する前に、バティストがメダルを拾い上げて言った。
「……見覚えがある」
「え」
「ほう」
「これは、光迎教会のシンボルだな」
「えっ」
 予想外のことを告げられ、リリは目を見開いた。
「言ったろう、彼らも森の秩序の担い手だと。先日、魔物の討伐で負傷した兵の治癒で手を貸してもらったことがあってな。そのとき、彼らが揃いの白カウルの下に、この印を首から下げているのを見た」
「信者なら誰でも持つものか?」
「そこまでは分からない……あ、いや、前に街道の表札を直す等の奉仕活動をしている者たちと話したことがあったな……。彼らは印を身に着けていなかった。白いカウルと聖印は、出家している『内陣』の証だと言っていた」
「なるほどな」
 サイラスは腕組みをした。『光迎教会の巡礼』――あるいは、そう自称する者たち――を、この村へ呼んだのは、ほかならぬこの村の住人だった。村の誰かがすでに信者であったという線は、聖印が出家信者の証なのだとしたら捨ててもいい。
「光迎教会、あるいはそれを自称する何者かがここへ来て、この印を落としたか、わざと置いたかした。そこまでは間違いないな」
「……後者は無理があるな。そう知名度の高くない集団の、まして限られた者しか持てぬものをここへ置いても、認識されない可能性もある」
 バティストが慎重に指摘する。たしかに、とサイラスが同意したところで、
「――あの」
 硬い声と表情のリリが割って入った。
「リリ?」
「見せて、もらっても、いいですか」
「ん? ああ。――どうした?」
 メダルを手渡しながら、バティストはリリの態度を訝しむ。その手は微かに震え、目は見開かれていた。
「いえ。大丈夫……です」
 受け取ったメダルを見つめる。
「……やっぱり」
 間違いない。
 これは。
 リリはこのメダルを知っている。
 かつての学び舎に、掲げられていた聖印だ。
「この七同心円は、七天を意味すると同時に、『完全』『調和』『純粋』を意味します」
 教えが、澱みなく語られる。
「この聖印は」
 懐かしさと痛みが、胸に満ちた。
 リリが白魔道士として学んだ場所。
 夢幻なる疑似世界アイ・ハヌムで見た聖印。大聖堂や、『内陣』の教師たちが――学園長メリナ・コムヌスが身に着けていた聖印。
「かつて古都アムダプールにおいて、『純潔派』という教派で掲げられた聖印、『聖七天』です」

『Sweetest Coma Again』2(後)へ続く
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