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White Knight

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『Sweetest Coma Again』9(3)(『Mon étoile』第二部四章) 

公開
9-7

 光弾の雨に対し、オーディンはマントでその身を包んで防御した。血の赤のマントが命あるように蠢き拡がり、闘神の体すべてを覆いつくした。そして、押し寄せる光弾をすべて飲み込んだ。
「嘘!?」
「吸収した!?」
「止めて! グレア止めて!」
 三人が驚愕する中、オーディンはマントを払うと跳躍した。一瞬で間合いが詰まる。
 振り下ろされる剣が地を裂く。迸る剣気がそのまま全体攻撃と化し、三人を撃った。
「――!」
 吹き飛ばされる中、リリは懸命に横へ飛んだ。マントが赤い波と化して、リリを捕えようと迫ったのだ。どうにか躱しきりながら、詠唱を完了する。
「サンクティファイド・トルネド!」
 オーディンを捕えた竜巻が、その動きを封じる。
「今です!」
 叫んだ時には、すでにラヤ・オのグレア光弾とソフィアの光臨武器がオーディンへと撃ち込まれていた。
「落ちろー!」
 無数の光弾が鎧を打つ。それから、ブリトルマティスが接近して打撃を加えた。動きを封じられている今が好機と、三人は攻撃を続ける。
 だが。
「ウルズよ……抗うは無意味ぞ!」
 オーディンが、バティストの声で叫ぶ。その途端、周囲の空間に無数の『穴』が開いた。『穴』には規則性がなく、横向き、下向き、上向き――あらゆる方向の『穴』が存在した。
 『穴』の方向を三人が確認するよりも早く。
 そこから射出された槍が、彼女たちへと襲い掛かった。
「うぁッ!!」
 槍に突き刺され、全員が叫びを上げた。そしてダメージを受けたリリたちに、槍は更なる影響をもたらす。それは刺さったまま変化して彼女たちの体に取り付き、凄まじい重さを与えたのだ。
「く……!」
 ヘヴィという状態異常に括り切れないほどの重さだ。あまりの重さに、三人と――ブリトルマティスさえもが膝をついた。
「――まずい!」
 ラヤ・オが自分を後回しにして、リリのそれを解除しようとする。オーディンがリリへと迫るからだ。だが、タールのような黒い泥と化した槍は消えない。
「効かない!?」
 驚愕するラヤ・オ。オーディンのマントが波うつ。赤い波がリリを飲み込む寸前。
「させない!」
 叫びと共に、ソフィアが『救出』を使った。ほとんどうつ伏せに倒れたような姿勢だ。傍らに引かれたリリも膝をついたままだが、かろうじて躱すことができた。
「ありがとう……!」
 礼を述べたリリは、しかし次瞬間戦慄した。
 跳躍したオーディンが、抜き身の剣を突き立てるようにして急降下してきたのだ。狙いは――ソフィアだ。
「だめ!」
 咄嗟にリリはソフィアに覆いかぶさった。そして、二人のうちどちらへ『救出』を使うかをほんの一瞬だけ躊躇したために、ラヤ・オの行動は手遅れになった。
 剣が迫る。振り下ろすオーディンさえも、止めきれないタイミング。
 切っ先がリリに触れる寸前。
 黄金の壁が、突き立てられる剣を防いだ。
 それは、幾重にも重なった“斬糸”の壁だった。切っ先に断ち切られながらも、何層にも重なった糸が剣を押しとどめている。
「リリ! ソフィア!!」
 叫びながら、走ってくるエレフテリオスが腕を振るった。
 壁の状態から解かれた糸が、一斉にオーディンに絡みつき、そして後方へと投げ飛ばした。人間相手ならばそれだけで死亡するだろう威力で、蛮神は地を削りながら城壁に激突し、崩れる壁の下敷きになった。
「レフ!」
 ソフィアが叫ぶ。ほぼ同時に、三人とブリトルマティスに付着していた黒い泥が消えた。時間で消えるモノだったようだ。
 駆け出したソフィアがエレフテリオスに縋り付く。それを一度思いきり抱き締めてから、彼は彼女を優しく引き剥がした。
「すまない。遅れた」
「レフくん……!」
「エレフテリオス、あんた……」
 集まってくるリリとラヤ・オに、エレフテリオスは厳しい顔を向けた。
「説明は後でします。僕はソフィアの味方で、あなたたちの味方でもある。そして――」
 糸が瞬時に壁を作り、撃ち込まれた弾丸や魔法を防いだ。
「……すいません。合流を最優先したために、彼らを排除しきれなかった」
 攻撃の方を向いたリリたちの視界に、ゆらり、といくつもの人影が現れた。アステラの『戦隊』だ。かなり数を減らしているが、それでも六、七人程度は残っていた。
 ただし、その体は奇妙に捻じくれている。腕や肩、脚や腰が一度切り裂かれたものを後から付け直したような、微妙な歪さがある。極端なものでは、首がそうであったり、正中線に沿って切断された跡がある者もいる。
 彼らに共通するのは、接合面に沿って金色の粘液のようなものが付着していることだ。それは仔細に見れば、震え、蠢き、こうしている間も傷口に浸透し続けている。
「何あれ……!」
「あれがアステラの光臨武器、『粘菌』です。『四善』の中でアステラだけが直轄の兵団を率いているのは、あの『粘菌』によってダメージを修復し、継続回復を行い、欠損した部分さえ接続してしまうためです。
 それに白魔法を加えれば、彼女の軍勢は想像を絶するタフネスを有します。ですが」
「……むしろ、もう死んでいる人たちを動かしているように見えるよ……」
 リリの指摘に、エレフテリオスは頷いた。
「ああ。『聖隷眼』で意思を奪い戦闘人形に仕立てた彼らは、『粘菌』をあらかじめ仕込まれていたようだ。アレはもはや、『粘菌』が動かす動死体だ」
「話、終わったァ?」
 彼らの後方から、マノスを伴ったアステラが歩んでくる。その体にもいくつもの傷があり、それも金色の粘液が塞いでいる。マノスだけが、その体に傷らしい傷が見当たらない。もっとも、彼が装備している全身鎧はズタズタになっている。
「アステラ……!」
 リリの声に、アステラは目を細め笑った。細めた目の奥で、昏い殺意が燃えている。
「はぁいリリ。アタシの“配役”、どうだったァ? バティストくんに抱かれるの気持ちよかった? ねェねェ今どんな気分? ねェ! あははははは!!!」
「……!」
 無言でリリが唇を噛む。そのリリをかばうように、ラヤ・オが前へ出る。
「いい加減にしなさいよこの下種。逆恨みで狂ってりゃ世話ないわ!」
「あんたにはわかんないよラヤ・オ先生。生まれながらに全部持ってるあんたには、奪われ続けるアタシのことなんかわかりゃしない。それにさァ」
 アステラの視線の先で、瓦礫が跳ね飛ばされた。崩れた城壁の中から、黒い鎧がゆらりと起き上がる。
「アタシの相手ばっかりしてらんないんじゃない?」
「ウルズよ……!! 汝が……欲しい……!!」
 ごう、と蛮神が吠えた。次の瞬間、オーディンの影が広がった。蛮神自身を中心にして、かなりの広範囲に亘って地面を黒い影が覆っていく。比較的近い距離にいたリリたちは避けられず、アステラはマノスに抱き上げられて崩れていない城壁の上へと退避した。
「うぁっ!」
 影に触れたリリたちは少なくない魔力を奪われた。ブリトルマティスは機能を停止し、そして『戦隊』の兵たちは。
「――!」
 声にならぬ悲鳴を上げながら、一瞬にして黒い炎に包まれた。影の劫火は兵士たちを溶かし――更なる異形へと作り替えた。
「我が不死の兵士――アインヘリアルよ! ウルズを強奪せんとする者共を殺せ!」
 オーディンの宣言と共に炎は消え、蛮神とよく似た黒い鎧の戦士たちがそこに出現していた。
「眷属を生み出す依り代にされたのか!」
 エレフテリオスが目を見張る。そこへ、城壁の上からマノスとアステラが攻撃魔法を降らせる。
「へえ? 出世したねえあの子たち! いいね、やっちゃいなよ!」
「あんた正気なの!?」
 ラヤ・オの怒りに、アステラはけらけらと笑った。
「正気ィ? んなワケないじゃない! あははは! 皆死ね!! 今死ね!!!」

9-8

 襲い掛かる蛮神オーディン、そしてアインヘリアルたち。
 対するはリリ、ラヤ・オ、エレフテリオス、ソフィア。
 リリが、オーディンから距離を取りながらオーディンを攻撃する。アインヘリアルたちはリリだけを攻撃しない。一方で、エレフテリオスがオーディンの足止めを行い、ラヤ・オとソフィアが連携して一体ずつアインヘリアルたちを撃破していく。
 だが。
 エレフテリオスへ、アステラのパライズが詠唱される。即座にエスナを使用することはできるが、その瞬間はオーディンの足止めができない。さらに、降下してきた鋼をまとう大男――マノスがエレフテリオスを狙う。彼の意識がそちらに割かれる分だけ、オーディンはリリへと肉薄する。
「くっ……!」
 斬糸の一撃をマノスが躱す。この男は、おそらくは特殊な能力を使用せず、いわゆる戦場勘と予測、そして先の戦闘で得た経験を元に糸の軌道を読んでいる。その精度は徐々に上がってきている。恐ろしい男だった。
「サンクティファイド・トルネド!」
 リリがオーディンへ幾度目かのトルネドを放つが、それを蛮神はいち早くマントを広げ吸収する。こちらも、確実にこちらの手を読んできている。
「あはは! そろそろ観念してオーディンに抱かれちゃいなよォ!」
 アステラが狂笑しながらグレアを放つ。かろうじて躱したリリの足を、オーディンのマントが捕らえる――寸前、ソフィアの短機関銃が赤い波と化したマントを撃ち抜いた。どうやら捕獲のための波状態の時は、魔力吸収はしないようだ。先端を破壊され、波はマントに戻り収縮した。
「あーあ。余計なコトしちゃって」
 嘆息するアステラに、ソフィアが怒鳴った。
「アステラ! キミはどうして蛮神の味方をする!? アレはこの世界に仇なす敵だぞ!?」
「はぁ? この期に及んでまだ姫様気取りなワケ? ただの現世人のクセして」
「――え?」
 動きが止まったソフィアへ、アインヘリアルの一体が双剣をかざし襲い掛かった。
「あっ!!」
「ソフィア!!」
 マノスと戦っているエレフテリオスは反応が遅れ、ラヤ・オも別の一体を倒すところで手が出せなかった。背中を切り裂かれたソフィアは、しかし倒れこみながら両手の短機関銃をアインヘリアルの頭部へ集中して撃ち込んだ。頭部を破壊され、消失するアインヘリアル。
「う……」
 倒れこんだソフィアは、かろうじて回復魔法を唱える。ダメージは回復したが、しかし目に見えてその動きは停滞した。
「駄目じゃないレフゥ。ちゃあんと教えてあげなきゃ。――あんたはソムヌスが地上に顕現したときの依り代。能力だけが必要で、地上に侵攻するときに記憶も個性もぜええええんぶ消されるんだ、って」
「アステラァ!!」
 絶叫したエレフテリオスが、マノスを糸で捕らえ、纏う鎧を粉々にしながら城壁に叩きつけた。マノスは崩れる城壁の中に埋まり、動きを止めた。
「ソフィア!」
 駆けつけたエレフテリオスに、ソフィアは泣き笑いの顔を向けた。
「…………そうじゃないか、って思ってた」
 ソフィアの頬を、ほろほろと涙が転がっていく。
「私は、母様の本当の子供じゃないんじゃないか、って」
 その顔を、エレフテリオスが見つめていられたのは数秒だ。槍を持ったアインヘリアルがソフィアめがけて突きかかってくるのを、糸が防ぎ、同時に斬糸が奔る。
 敵を見据えたまま、彼はソフィアへと告げる。
「その通りだ。君は、『ソムヌスの依り代たりえる資質を持つ』ゆえに、地上から攫われてここに来た子供だ」
 本来ならば。エレフテリオスがその事実を告げる同時に、彼女の洗脳を解除するはずだった。
「レフは、知ってたんだよね」
「ああ。だから、それを告げてから、君をここから連れ出すつもりだった。……けれど、結果的に、長い間君を騙していたことに変わりはない。君は、僕に報復する権利がある」
 頭蓋を断ち割られてもなお襲い掛かってくるアインヘリアルを、斬糸が迎え撃つ。その背に自らの背を預けて、ソフィアがエレフテリオスの背後を狙ったもう一体のアインヘリアルへ光弾を叩き込んだ。
「報復なんて、しない。……だって」
 エレフテリオスがオーディンへ攻撃する。それを邪魔しようとしたアステラを、ソフィアが光臨武器で牽制する。
「レフだけが、私をちゃんと見てくれてたことに変わりはないもの」
 戦いの最中だけれど、一瞬だけソフィアはエレフテリオスのほうを向いて笑った。
「ソフィア……」
 彼女の選択に安堵しつつ、エレフテリオスは彼女の精神の有り様から気付くことがあった。
 これは、洗脳が自然に解けていると言っていい。本当なら――つまりアステラが狙った通りなら――洗脳状態にあるソフィアはその事実を受け入れられず混乱するはずだった。それが、たとえソフィア自身のコンプレックスが介在するとしても、あまりにもすんなりと受け入れられている。拒否反応もない。
 つまり。
「リリ!」
 エレフテリオスはオーディンへの攻撃を続けながら叫ぶ。
「君の『超える力』は拡大している!」
「えっ!?」
「接近しなくとも使える――というより、今君の力は周囲全体に影響を与えつつある。そうなっている理由はあとで説明するが、とにかく今言えることは、君の語りかけが意味を成すということだ!」
「それって! バティストを戻せるかもしれないってコトね!?」
 最後のアインヘリアルを倒したラヤ・オが駆けつける。
「ああ!」
 答えたエレフテリオスが、すべての斬糸をオーディンへと巻き付けた。黒い鎧を黄金の糸が絡めとる。
「お……お」
 ギリギリと音を立てて、オーディンが糸の支配に抗う。
「くっ……!」
 エレフテリオスの指が血を噴き出す。握りしめた拳が開かれようとするのを歯を食いしばり耐える。そこに、ソフィアの手が重ねられた。
「私の魔力も使って!」
 注ぎ込まれるエーテルと手の強さが、魔法の出力と言う意味でも、心の強さと言う意味でも、エレフテリオスに力を与える。
「ざっけんな!! そんなの――」
 焦燥の叫びを上げながら、アステラが魔法を詠唱しようとした瞬間。
「アンタいい加減邪魔」
 ラヤ・オが言い放ち、アステラの周囲を無数のリフレクで覆った。
「あ……!」
 気付いた時にはもう遅かった。球状に覆われたリフレクの結界の中へ、ラヤ・オのサンクティファイド・グレアが襲いかかった。
「あああああッ……!!!」
 絶叫とともに、ずたずたになったアステラが城壁から落下した。奇しくもマノスが埋められた、崩れた城壁の上へ。
「今よ! リリ!」
 ラヤ・オの声に、リリが頷く。
「いきます……!」
 宣言し、リリは目を瞑った。心を鎮め、精神を研ぎ澄ませる。幻術士として、白魔道士として、幾度となく森で行ってきたことだ。
 エーテルの流れを――魂の鼓動を捉える。
 
9-9

「――」
 精神世界の中で、リリは自分を意識する。現実世界でそうするように、リリは周囲を見渡した。
 目の前に、真っ暗で巨大な塊がある。オーディンのそれだ。とても、本体ではなく残滓であるとは思えない。それほどの深さと昏さをもつそれへ、リリはゆっくりと手を伸ばす。
 できるだろうか。
 この中から、バティストの魂を見つけることができるだろうか。
 恐怖に竦みそうになる。
 そのときだった。

「だいじょぶだよ」
 
 懐かしい声が聴こえた。
 そして。
 声の主は、リリがオーディンの魂へ伸ばした手に、自らの手を重ねた。
「一緒にいこ!」
 それが誰かなんて。
 確かめる必要すらない。
「うん。行こう、セレーネ」
 親友に頷き返すと、リリは彼女と共に、その手を闇の中へと差し入れた。

§

 暗い海の中から、漂う小さな宝石を見つけるに等しい行為だった。
 巨大で昏い暗黒の空洞。
 その中に、オーディンの意識が刻まれている。
 遥か、遥かな昔に人であった男の意識。擦り切れてボロボロになったその記憶と、蛮神となり果てたあとの戦いの記憶。
 そのなかには。
 ずっと、一人の女性の姿があった。
 もう、顔すらも思い出せない、その人を探して。
 蛮神と化した男は、生涯を共にした剣に己の魂を封じて彷徨う。
 蛮神の膨大な戦いの記憶と、ウルズへの慕情。アラグ帝国への憎悪。折り重なりないまぜになったその世界は、今、依り代となった男の心と記憶をも反映している。
 バティストの、リリへの慕情。
 それが、オーディンの記憶へと混入し、ウルズをリリへと書き換えている。
「……本当に、好かれてるんだねえ」
 そっと、セレーネが言った。
「うん……」
 リリは頷いて、優しく、けれど哀しく笑った。
「これだけ蛮神に強く影響を与えているのに、バティストさんの魂は見つからないなんて」
 セレーネが周囲を見渡す。記憶や願望、慕情や妄想が泡のように浮かんでいる。しかし、魂は見つからない。
「――兄さん」
 そっと、リリは呼びかけてみた。
「もう、帰りましょう」
 耳を澄ませる。
「――」
 微かに。
 とても小さな声を、リリは聴いた気がした。
「今、反応あったよね」
「うん」
 周囲を見渡したときだった。
『邪魔をするな』
 暗く、しかし煮えたぎるマグマのように熱を帯びた声が降ってきた。同時に、二人の眼前に、バティストの体を模したモノが現れた。
 それがバティスト本人ではないことは明白で、だとすれば、この世界にはもう一人しか該当者がいなかった。
「オーディン……!」
 身構える二人へ、オーディンはバティストの姿、バティストの声を以て語りかける。
『この者の魂は、我と共にある。
 娘、汝を求める心が、ウルズを求める我が魂の叫びと重なり合一がなされたのだ』
 古の闘神は、リリへと手を差し伸べる。
『この者を救いたくば、汝はこの者を受け入れるがいい。――誓え。この者を愛すると』
 オーディンは笑わない。勝ち誇りもしない。ただ真摯に、同化しているバティストの願いを叶えるように、リリへと要求を突き付けている。
「……」
 一度目を閉じ、少ししてから、リリはバティストの顔をしたオーディンへ顔を向けた。
「それは、出来ません」
 はっきりと告げた。
「そうやって得られるものは、愛ではありません。心を操って得られるもの、何かを代償に要求することで得られるものは、愛ではなく、“恐れ”です」
 まっすぐに見つめて答えるリリを、オーディンはじっと見つめた。
 そして、その手には片刃剣がいつの間にか握られていた。
『拒絶か。ならば、奪うまで。蹂躙するまで!』
 リリの心を壊すための斬撃。振るわれたそれを――
『なんだと!?』
 振られるた刃を、リリは素手で受け止めた。
 蛮神は驚愕する。この領域――蛮神自身の魂の世界において、己の斬撃を受け止めることなど、あり得ないはずだ。
 だが、目の前の女はそれを成している。それどころか、握られた刃は引くことも押すこともできない。
『汝は……一体……!?』
 リリのもう片方の手を握りながら、セレーネが語りかける。
「これでいいの、バティストさん! リリを傷つけたくないって……想いが叶わなくても、リリを護ろう、って決意したあなたが、これを許すの!?」

 ああ――

 バティスト=オーディンの体に亀裂が走る。

 そうだ。私は――

『な……!』
 胸を中心にして広がる亀裂から、バティストの手が、消え入りそうに不確かな、おぼろげな像を結んで現れた。
「これが答えだよ、蛮神オーディン!」
 セレーネが言って、リリと同じように片刃剣を握る。そこから注ぎ込まれる光の力に、オーディンは完全に動きを封じられた。
「リリ!」
「うん!」
 リリとセレーネ、二人の手が伸ばされ――バティストの手を握った。
 その瞬間。
 リリは力を解放した。今ならできる。その確信があった。
 彼女を中心として、爆発的に光が溢れる。万物を透過する、影を作らぬ光。柔らかく優しい、暖かな熱を帯びた光。それが、蛮神を貫いた。
『これは――この輝きは……!』
 バティストの姿をしたオーディンの体が、光に溶けていく。その度に、バティスト自身の体が像を結び生み出されていく。
 やがて。
 完全に元の形を取り戻したバティストを、リリとセレーネが抱き留める。そして、かりそめの体が消えた後、そこには黒い兜が残っていた。
 それさえもが、光の中へ解け崩れる。
『ああ……ウルズよ……願わくば……汝の……元へ……』
 仮面は泣かない。嘆きはしない。
 けれど。
 呟かれた言葉と共に消えた仮面が、涙を溢したように、二人には見えた。

『Sweetest Coma Again』9(4)へ続く
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