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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander (Gaia)

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『Fire after Fire』2(後)(『Mon étoile』第二部四章)改訂版

公開
2-4

「目標の船が“積荷”を収容しました。連絡船出航前に軽く確認しましたが、人間で間違いないかと」
 偵察から帰還したラクヨウが報告する。目標は連絡船を用いて洋上の船へと“積荷”を集め、運ぶようだ。
「行くぞ」
 リシュヤの指示に、キ・ラシャとカウサフが頷いた。
 岩陰に潜んでいた『サンセット・スカイ』号は夜の空へゆっくりと上昇する。カウサフが、船体全てを覆うミラージュシフトを起動した。
 音も無く、船は七色の膜に包まれ――消えた。外部からは青燐機関の駆動音も聴こえない。内側では、透明な膜を一枚挟んで少し白濁した視界で外部が視認できる。
 ミラージュシフトは本来起動者単体で使用するものだ。その状態ならば戦闘も可能だが、ここまで膜を拡大すると維持に集中を必要とし、また座標を移動させる必要が出てくるため、飛空艇はスピードが出せない。
 慎重に進む飛空艇は眼下の海に連絡船を捉えた。
 やや見難い視界の中で、“積荷”――買われた者たちを乗せた転売屋の船が洋上を進み始める。
 幸いに、転売屋の船もそこまで速いスピードではない。遅れつつも追跡が可能だった。

 やがて、船は洋上で停泊する。
 気付かれたのか、と緊張が走ったが――そうではなかった。
 海上に波紋が広がる。巨大な鯨のような艦体が浮上してきたのだ。
「潜水艦……!」
 冒険者が探索に使用するような潜水艦とは規模が全く異なる。物資の輸送を前提に考えられた、大型の潜水艦だ。武装も確認できる。
「ガレマール帝国でも、あんな規模の潜水艦は所有していないでしょうね……」
 ファタタが眉根を寄せて呟いた。
 艦体の中央部分が開き、船の甲板の高さまで広いリフトがせり上がってくる。さらにリフトから幅広の橋が伸び、甲板にピタリと接舷された。
 船の転売屋のほうも、潜水艦の浮上と同時に準備を始めていた。船倉から、買われた人間たちが歩かされ甲板まで出てきていた。ざっと五十人はいるだろうか。今にも餓死しそうなボロボロの者から、それなりの身なりをしている者までいた。
 そうした人間たちは反応もまちまちだった。身なりが良い者のほうが抵抗や懇願を多くする。ボロボロの者たちは多くが無抵抗だった。転売屋は一切の抵抗を許さなかった。抜刀してまで、彼らをリフトのほうへと追いやる。
「……相手は出てこないわね」
 ファタタが指摘する。『アビス』側は全く姿を見せない。
「いわゆる『検品』みたいなことはしないのね」
「拠点に帰って品定めしてから後払いなのか。――それとも、質は問わねえのか」
 リシュヤが感情の色を見せずに呟く。
「胸糞悪りいな。ぶち壊してやりてえ」
 ハルドボルンが嫌悪感をあらわにして唸った。
「まだだよ」
 ノノノが言う。
「一網打尽にするんだから」
 冷ややかな声。だからこそ、抑えられた感情の大きさを物語っていた。
「……ちげえねえ」
 奥歯を噛み締めて頷くハルドボルンに、ノノノも頷き返す。
 全員がリフトに移ると、潜水艦はリフトを艦内に納めた。現れたときと同様、速やかに沈んでいく。
「追えるか?」
「艦体はエーテル遮断されていません。ミラージュシフトを起動したままでも、感知できます」
 カウサフが答え、キ・ラシャの操縦席へと目を向けた。設置された表示器の一つが、飛空艇と潜水艦の位置関係を示す光点を表示した。
「わかりますか」
「いけるっす」
「よし。いくぞ」
「はいっす」
「畏まりました」
 キ・ラシャと、その隣に立つカウサフが応じる。ミラージュシフトが維持でき、かつ潜水艦が追跡できる速度を保たなければならない。

 再開された追跡の最中、ノノノは出発前にリシュヤから聞いた説明を反芻していた。
 『アビス』の活動拠点には二種類がある。
 『サイト』と呼ばれる小拠点と、『ベース』と呼ばれる大拠点だ。なお、この大小は規模の大きさよりも重要度を指しているらしい。小規模でも重要な研究を行っている拠点は『ベース』と呼ばれる。
「サイトには奴らが数合わせで使ってる魔道機械兵や、マハの血を引かない連中を改造した人造妖異、妖魔兵。それから、その上位種である魔戦騎がいることが多い。魔戦騎は強敵だが、あたしらなら勝てる。
 だが、ベースには魔戦公がいる。
 マハの血を引き、ヴォイドレリック――その身に異界の魔神を憑依させる人造クリスタル――をその身に埋め込んだ魔人ども。
 そいつらは強い。全力で戦わなければ、こっちが死ぬ」
「それが、『アビス』のトップ?」
「いや」
 リシュヤはかぶりを振った。それから、緊張と恨みを吐き出すように言った。
「十二魔戦公がいる」
「十二……?」
「ヴォイドから手に入れた十二個のヴォイドレガリアを継承した、十二人の“王”。それが『アビス』の頂点たる十二魔戦公だ。
 こいつらと戦うには、全力以上のなにか――犠牲を覚悟しなければ、ただ戦っても死ぬだけだ」
 その顔から、シルヴェーヌを殺した相手がそうなのだとノノノは悟った。仇も討ててねえ――つまりは、そういうことだ。犠牲を払ってもなお勝てなかった。
 そんな奴らとは戦いたくない。けれど、もしオズマ・トライアルからヤヤカを救い出すのを、彼らが邪魔をしたら?
 ――戦うしかない。選択肢はない。
 夜の暗い海面を見つめながら、ノノノは手をきつく握った。
「……強くならなきゃ」

2-5

 結果的に、追跡は成功した。二人が巧みに息を合わせた結果だ。
 潜水艦は西ラノシアの幻影諸島へと向かい、その一つの島に近付いて再浮上した。
 この辺りは暗礁が多く、船の墓場と呼ばれる。潜水艦が近付いた島にも、座礁した船の残骸が多く流れ着いている。
 その残骸の一つが、消えた。
 魔法で欺瞞していたのだろう。大型の船を模した結界が消え、地下へと続く通路が露わになった。
 潜水艦は艦体横の搬入口とおぼしき扉を開け、買われた者たちを降ろしていく。単眼で鎧を付けたスケルトンのような姿をした魔道機械兵たちが、買われた者たちを地下へと追いやるように威嚇する。
 全員が下りた後、潜水艦は搬入口を閉ざし、航行しながら海中へと没していった。
「今だ。いくぜ!」
 すでに地上すれすれまで降下していた飛空艇から、リシュヤが叫びながら飛び出した。ノノノたちも続く。
「ファイガ!」
 迅速魔で詠唱破棄した火炎魔法が、機械兵の一体を焼いた。それを合図にして、戦闘が開始された。とはいえ、機械兵は所詮数合わせの雑魚でしかない。あっという間に戦況はノノノたちへと傾く。
「死にたくなければこちらへ! そのまま進めば死にますよ!」
 ラクヨウが大きな声で買われた者たちに呼びかけた。
 ほとんどの者たちが、慌ててラクヨウのほうへと駆け寄る。僅かながら、やせ衰えボロボロの服を着た者たちの中に、そのまま進もうとする者がいた。もう生きる希望を無くしてしまっているのだろう。“死”がキーワードにならなくなっているのだ。
 片手の指で足りるほどの者たちだったが、それらは拠点側から上がってきた機械兵に撃ち殺されてしまった。
「クソが!」
 毒づきながら、リシュヤがフリーズを放つ。ほぼ同時にノノノのフリーズも着弾し、機械兵が凍り付きながら破壊された。
「突っ込むぞ!」
 ハルドボルンが叫び、先頭を切って走りだす。ノノノたちも続いて突入した。

 地下通路は横幅がある構造で、十人以上の機械兵が横並びに銃を構えて迎え撃てるほどだった。
 それらを叩き潰しながら、『アージ』の面々は先へと進む。
「侵入者だと!?」「何者だ!?」
 口々に叫びながら、数名の男たちがやってきた。彼らは接敵前に、その姿を異形へと変えた。妖異の先兵たるデーモンの姿――人造妖異である、妖魔兵だ。 
「うるっせえ!! ザコに用はねえ!!!!」
 言い放ったリシュヤのフレアが妖魔兵、機械兵を灼く。ノノノのファイガが妖魔兵の一体を倒す。ファタタの気炎法が追い打ちをかけ、ハルドボルンが戦斧を縦横無尽に奔らせる。
 さほどの苦労もなく、妖魔兵を含む迎撃者は途絶えた。
「……終わりか?」
 兜のバイザーを跳ね上げて、ハルドボルンが周囲を見回す。通路にはそれ以上の敵が現れない。
「罠の可能性もある。警戒しつつ前進」
 端的なリシュヤの指示に、そうだな、と呟き、ハルドボルンはバイザーを下した。四人は再び前進を開始した。

 通路の先は、大きな扉をもつ広々とした空間だった。
 一見して、倉庫のような印象を受ける。周囲にいくつもの扉があった。
 その広々とした空間の壁際に、円筒形をした物体がいくつも置かれていた。円筒は様々な大きさがあり――透明になった外板から、内部に収納されたものが視認できた。
 人だ。
 様々な種族の人間が、一糸まとわぬ姿で、膝を折りたたんだ格好で円筒の中に浮いている。内部には液体が詰まっているようだった。
「……!」
「おい……こいつァ……」
 彼らは皆一様に体毛がない。睫毛や細かな産毛までもがない。肌の色を失い、漂白されたような、のっぺりとした白さの肌を晒している。
 目は開いている。だが、焦点が合っていない。瞬きもしない。
「……生きてるの……?」
 誰にともなく呟いたノノノに、リシュヤがぽつりと答えた。
「生きてる。――生きてるだけだ」
「え?」
「生体実験しやすいように、『加工』された。もう何も感じないし、何も思わない」
「……な……にそれ……」
 愕然と、ノノノは周囲を見渡した。広い倉庫内に積まれた円筒はざっと五十はあるだろう。それらのすべてが、『加工』された人間だった。
「……ここは『加工』工場ってことね」
 ファタタが顔を顰めて言った。
「……治るの?」
「治らねえ」
 リシュヤは即答すると、杖を構えた。魔力を集中し始める。そうするしかない、とその背中が言っていた。
 そのとき。
 入ってきた通路に正対する壁にある、大きめの扉が勢いよく開いた。
「はァ? ここまで侵入許してんの、クソども」
 よく通る声が悪態をついた。
 
2-6

 先頭に立っているのは、三人の男たちだ。その背後から、ざっと十人ほどの妖魔兵が既に変異を終えた状態で現れた。
 三人の男たちは、全員がミッドランダーに見えた。総じて若い。
「……魔戦騎……!」
 ファタタが呟いた。聞きつけたノノノは彼らをまじまじと視る。魔戦騎。妖魔兵の上位種。人間を改造した、人造妖異。妖魔兵が人間の姿から変わるように、彼らも変異するのだろう。
「なんだよ、たった四人かよ」
 悪態をついた少年――リシュヤたちから見て右側――が続けて言った。あちこちが跳ねた銀髪で、三白眼の吊り上がった目が特徴的だ。
「……オルト、シャニアがやる気だから任せよう? 僕はダルいから観てるよ」
 左側の少年が肩を竦めながら言った。金髪で、肩まで伸ばした髪を指で弄んでいる。少女のような顔立ち。背も低く華奢だ。
「俺はいいぜ。クロスはすっこんでろ」
 シャニアと呼ばれた少年が息巻いたが、中央の青年――オルトが首を振った。黒髪短髪で、ミッドランダーにしては彫りの深い顔立ちをしている。黒い鎧を隙なく身につけていて、後の二人が平服でいることと対照的だった。
「駄目だ。全員でかかるぞ」
 えええ、というクロスの不平声と、シャニアの舌打ちが同時に上がったが、オルトは取り合わなかった。仲間二人に構わず、既に集まり陣形を整えたリシュヤたちに語りかけた。
「迷い込んだ、というわけではなさそうだな。何者だ」
「ハッ、アタマ湧いてんのか? てめえらの拠点にカチ込む奴らが、あたしら『アージ』意外にいるってのか」
 獰猛に歯を剥き出して、リシュヤが笑う。
「『アージ』……! そうか、貴様らが……!」
 オルトが目を見張る。シャニアが獰猛に笑い、クロスは不愉快そうな表情でリシュヤを見た。
「能書きはもういい。いくぜ」
 それ以上彼らの反応を待たず、リシュヤは杖を構えた。ハルドボルンが一歩踏み出す。
「ハッハァ! いいなお前! 気に入ったぜ!」
 叫びながら、シャニアがリシュヤ目掛けて突撃する。その姿が――変わる。
 全身に毒々しい色の豹紋が広がり、その腕がずるりと伸びた。太く長い、蛸の触腕に酷似した腕。魔戦騎としての変異だ。
 その腕が振るわれるのをリシュヤは躱したが、仲間たちとは分断された。
 ハルドボルンがそちらのフォローに動く前に、妖魔兵たちが一斉に襲い掛かった。
「チッ……!」
 戦斧が奔る。妖魔兵たちの敵視を奪うと、リシュヤへと叫んだ。
「こっち連れてこい!」
 だが、リシュヤは仲間たちから離れるように、さらに距離を取った。
「一人こっちで引き受ける! ノノノ! 雑魚を潰せ!!」
「……! わかった!」
 黒魔道士が一人で敵を引き受けることなど、通常はありえない。だが、リシュヤははっきりとそう言い、ハルドボルンもファタタもそれを諫めない。
 なら、手段があるんだ。
 今はそれを説明している暇もないだろう。だから、ノノノは姉弟子を信じた。
「はァ? 舐めてんのか!!」
 シャニアが嘲り、触腕を殺到させる。それを、リシュヤは前へ出て躱した。両手杖を投げ捨て、シャニアめがけて疾駆する。
「接近戦だぁ!?」
 信じられない馬鹿を見る目をしたシャニアに、オルトの警告が飛んだ。
「躱せシャニア! そいつはリシュヤ・シュリンガだ!」
「な――」
 その警告は遅きに失した。
 シャニアの予想を遥かに超えるスピードで殺到したリシュヤが、閃光のごとき飛び蹴りをシャニアめがけて放ったのだ。その蹴り足には黒い稲妻が走っていた。
「ガッ……!!」
 叫び声をあげ、シャニアが壁へ激突する。全身を黒い雷が走る。その過程で、何本もの円筒が倒れて破損した。内側からどろりとした液体が漏れ出るが、中の人間はぴくりともしない。
 着地したリシュヤは、それまでとは少し異なっていた。
 全身に黒い文様が生じ、暗紫光を放っている。その文様は、黒魔道士が使う魔紋のそれに酷似していた。そして、もっとも大きな変化は、髪だ。特徴的な長い黒髪は、内側から紅く発光していた。まるで、炎のように。
「……クソがァ!!」
 壁から身を起こしながら、シャニアが触腕をリシュヤへと殺到させる。その途中で、触腕は分裂して細かい触手となった。逃げ場を無くす面の攻め。さらに、シャニアの触手には細かな棘が無数に生えている。それに触れれば、常人なら数秒で死に至る猛毒に犯される。
 だが。
 押し寄せる触手の先に、リシュヤはいなかった。一瞬でシャニアの眼前まで移動する。それが、エーテリアルステップの応用技であるとシャニアは知らない。
「……!!」
 伸ばした触手はすぐに収納できない。がら空きにあったシャニアの顔面をリシュヤの掌が掴み、
「ファイガ」
 静かな、しかし鋼を断ち切る鋭さを込めた声が、魔法の名を告げる。音の衝撃だけで周囲の円筒が弾け飛ぶほどの爆発が、シャニアの頭部を破壊した。
 崩れ落ちるシャニアの体目掛け、リシュヤが黒雷を纏わせた足を奔らせる。必殺の回し蹴り。
 しかし、その一撃は割って入った者の盾によって受け止められた。凄まじい轟音と衝撃が走り、割って入った者は盾を構えたまま数ヤルム後退した。
「ぬぅ……ッ!」
 オルトだ。その身は魔戦騎としての変異を完了していた。変異前から身に着けていた黒い鎧はさらに禍々しく強化され、今リシュヤの蹴りを受け止めた堅牢な盾と剣を装備している。背から、黒い翼状の附属肢が生えている。それを使って、崩れ落ちたシャニアの体を受け止めていた。
「そっちは任せるぞクロス! 皆殺しにしろ!」
 リシュヤと対峙しながら、オルトが叫ぶ。妖魔兵たちは、『アージ』の残りの三人によって着実に数を減らされつつある。言われたクロスは実に厭そうに首を振ると、
「……っがないなあ!」
 叫び、変異した。身体が数倍に膨れ上がり、二本の角、二本の剣を持つ異形の姿へと変わる。
「この姿嫌いなんだよ!!! さっさと殺して元に戻るから!!!」
 絶叫しながら、最後の妖魔兵を倒したハルドボルンへと襲い掛かった。

「ぬぅあ!」
 オルトが放つ剣撃を、リシュヤが手の甲で捌く。そのまま踏み込む。オルトの体に叩きつけられるはずだった掌底は、左腕の盾が防いだ。
「――させん!」
 数度の攻防が経過したが、リシュヤの攻撃はすべてオルトの盾に防がれていた。間合いが近すぎると発動しないのか、最初の蹴りの時のように魔法が炸裂したりはしていない。反対に、オルトの剣はリシュヤを浅くだが斬り付けていた。あちこちに細かな傷を作り、血を滴らせたリシュヤは、しかし動じた様子もない。
 そこに。
「獲った!」
 倒れていたはずのシャニアが、触腕をリシュヤの腕へと絡みつかせた。頭部は破壊されたままだ。だが、胸部に蛸のそれに酷似した顔が生えていた。
 触腕には猛毒の棘がびっしりと生えている。絡みついた段階で勝ちは確定のはずだ。
 だが。
 リシュヤは意に介さなかった。同時に突きかかったオルトの剣を躱しながら、低く魔法の名を口にした。
「ブリザジャ」
 たちまち、触腕が凍り付いた。凄まじい冷気が、腕の付け根まで急速に冷凍していく。
「な……っ!」
 驚くシャニア。だが、本当に驚くのはこれからだった。
 リシュヤがシャニアの凍った触腕を掴む。そして、
「――シッ!」
 鋭く呼気を吐いて、その体を振り回した。持ち上げられ、振り回され、
「なああ!?」「なっ!?」
 シャニアの体はオルトに激突した。
 その刹那。
「フレア!!!」
 リシュヤが叫び、シャニアの体は大爆発を起こした。それは、まごうことなきフレアの閃光。一切の詠唱を挟むことなく、リシュヤはフレアを行使してみせたのだ。
「ぐ……っ!」
 爆発の閃光の中から、オルトが脱する。全身を灼かれてはいるが、致命傷ではない。
「何がどうなっている……!」
 オルトが首を振る。この戦闘に入ってから、リシュヤはただの一回も呪文詠唱していない。素手の戦闘力が高いとは聞いていたが、それは戦闘方法そのものの切り替えだと思っていた。だが……
 そのオルトに、リシュヤが腕を振りながら答える。腕から細かい無数の棘が落ちた。どれ一つとして、リシュヤの肌には刺さっていない。
「顔面にファイガ撃ち込んだときに、フレアの火種を“植えた”」
「植え……!?」
 思わず鸚鵡返しにしたオルトへ、リシュヤは淡々と告げる。
「テメーもな」
「!?」
 馬鹿な。攻撃はすべて防いだはずだ。そう思ったオルトが口に出すまでもなく、リシュヤが続けた。
「防いだと思ってんだろ。アレは全部“火種”を付けるための布石だ」
「……!」
 慌てて探知能力を上げる。先の攻防でリシュヤが触れたところすべてに、小さなエーテルの塊のようなものが付着している。
「あ……!」
「ファイジャ」
 死刑を宣告するように。静かに告げられた言葉。
 その直後に、十発以上のファイジャが同時に炸裂した。
 断末魔の声すらなく、魔戦騎オルトは文字通り消滅した。
「さて」
 リシュヤが視線を仲間たちに向ける。

「死ね死ね死ね死ね死ね!!」
 呪詛そのものを撒き散らしながら、クロスが両手の剣を振るう。その剣にも、様々な状態異常の呪詛が付与されている。範囲で広がるモノと合わせて、十種類以上のデバフを叩き込んでいるはずだ――目の前の斧術士には。
 だが。
「ガアァ!!」
 轟然たる叫びと共に振り抜かれた斧の一撃にクロスは怯む。何故だ? 何でまだ戦える?
 後ろにいるヒーラーが次々に解除しているのもあるだろう。だが、解除不可のモノも含まれているのだ。何故動く。
 ハルドボルンの兜の奥で、赤い瞳が光を放つ。獣の唸り。荒れ狂い拡大する内在エーテル。
「こいつ……もしや!?」
 しかし、クロスは推論を進めることはできなかった。ノノノの魔法が着弾する。
 ブリザガ。既にエノキアンは維持している。サンダガ。継続ダメージを叩き込む。次にブリザジャを唱えた時点で、ノノノは息を深く吸って、止めた。
 ファイガ。極性を星極性へ。
 ここだ。
 ずっと準備していた。木人相手は成功している。実戦ではこれが最初だ。
 高まった魔力を編む。操作は精密に、されど遅滞なく。一歩間違えば暴走した魔力が自分を消しとばすだろう。
「う……ぁ!」
 集中する。もう、敵と自分しか目に入らない。荒れ狂う魔力を噛み砕くように奥歯を噛む。
 負けない。
 もう負けない。
 あの日の、オズマ・トライアルに敗北した光景が、ノノノの脳裏に焼き付いている。瀕死で見上げた空を埋め尽くした隕石の群れ。絶望と恐怖と慟哭。
 強くなる。
 誰よりも強くなる。
 そのために手にした力だ。
 それを、今、磨かないでどうする。
 駆け上らなくてどうする!
 覚悟と決意が、ノノノの魂を燃え上がらせ、そして冷静にさせる。心は燃えよ。思考は冷めよ。師の教えのまま、透徹した意識が精密な魔力操作を可能にする。
 ――今だ。
「三連……魔ァ!!!」
 ノノノの周囲に、紅紫の魔法陣が出現する。最初にリシュヤが行使しているのを見た時からずっと憧れていた。やっと辿り着いた。
 間髪入れず、ノノノはありったけの声で叫んだ。
「ファイジャ!!!」
 火炎魔法がクロスへと炸裂する。だが、まだ止まらない。
「ファイジャ!!!」
 クロスの体がぐらつく。まだだ。もう一撃!
「ファイジャ!!!!!」
 激情を込めた三発目が着弾すると同時に、クロスの体は光を放ち――声を上げる隙もなく消失していった。

2-7

「……片付いたわね」
 へたり込むノノノを横目で見ながら、ファタタはハルドボルンに歩み寄った。いくつかのデバフは残っているが、それももう消える。肉体的にはほとんど問題はないはずだ。
「ハルドボルン?」
 斧を構えたまま立ち尽くす彼を見上げ、その甲冑の脚に触れる。
「あ、ああ……」
 びくり、としたようにハルドボルンが身じろぎした。
「大丈夫?」
「……問題ねえ……」
 しゃがれた声が、兜の奥から絞り出された。
「本当に?」
 きちんとエーテルを視たほうがいいだろうか。怪訝そうな顔をしたファタタに、ハルドボルンは突き放すように言った。
「問題ねえ。俺より、リシュヤとノノノは平気かよ」
 ため息をついて、ファタタは視線を流した。
「ノノノは無事よ。リシュヤは――」

「……やっ……た?」
 極度の集中から解き放たれたノノノはぺたりと腰を落とす。脱力しすぎて、霊極性への切り替えさえ忘れている。
 ぽかんとしていたら、くすくすと笑う声がした。
「なんて顔してんだ」
 目の前に来たリシュヤが手を差し伸べる。その手に縋って、ノノノはどうにか立ち上がった。
「教える前にできちまった。お前すげーな」
 笑顔で告げられた賞賛に、ノノノは嬉しくなって笑った。
「羨ましかったから、コソ練してた。コレでダメなら訊こうと思ってた」
 いや最初から訊けよ教えてやんよ、とリシュヤが笑いながら言った。笑いに合わせて髪が揺れる。身体の魔紋は消えつつあったが、髪はまだ赤く光っている。炎のようなエーテルの揺らめきが、長い髪から湧き上がっては消えていく。
「それ」
 ノノノの指摘に、
「ん? ああコレな」
 リシュヤは頭を振ってみせた。エーテルの赤い光が火の粉のように舞う。
「じきに戻る」
「……それ、なに?」
 問われたリシュヤは、少しだけ黙ってから、目を閉じた。
「……あたしは、ガキのころにどこかから『アビス』に攫われて――記憶を消されて、体を改造されたんだ」
「……え?」
「コレはその改造の結果。あたしの中には、ヴォイドから拾われた『聖石』がある。たぶんそのせいで、あたしはごくゆっくりと歳をとる」
「ゆっくり?」
「ああ。――ざっくり百年。あたしは『アビス』を潰すために生きてる」 
「ひゃ……」
 驚くノノノの額を、リシュヤは指で軽く突いた。
「ババアっつったら殺すぞ? ――さあ、内部探索といこうぜ」
 リシュヤがおどけて言い、魔戦騎たちが来たほうへと歩いていく。
「……」
 ノノノは少しだけ、その背をみつめ、それから後を追った。

『Fire after Fire』3へ続く
コメント(1)

Juliette Blancheneige

Alexander (Gaia)

Juliette's note

魔戦騎はベースになる妖異と人間を融合させています。妖異側の魂を抜いて、姿と能力だけを人間に移植するイメージです。
今回登場した魔戦騎三人のベース妖異は以下。

オルト
ブラックガード。ヴォイドアークの道中や、エキドナ戦で途中呼び出されたりする、羽の生えた黒い鎧の妖異。

クロス
ガーゴイル。ゼーメルのボスや、古代の民の迷宮のベヒーモス戦前のボムがいるところで出てくる、双剣の妖異。

シャニア
ヴォイドモンク。アムダプールハードなどで出現する、タコに似た姿の妖異。なお、猛毒があるのは本作のオリジナルです。
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