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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

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『Mon étoile』第三部 一章

公開
1-0

「ダアトからの侵入成功、介入開始」
『ケテル、ビナー、コクマー防壁展開。アンチCFT投入開始』
「かまわない。ティファレト制圧を優先。アディシェスよりタイムエラー投入!』
『実行中――タイムエラー発動』
「クリフォト因子注入! 一気に制圧して!」
『注入開始』
「早く……早く!」
「――防壁の支配を忘れているよ」
「えっ」
『ティファレト内にアンチCFT出現。因子が消滅していきます』
「っ!!」
「他のセフィラが健在なら、トライエンフォースが使用できるからね。遠隔出現も可能だよ」
『因子消滅。ダアトゲート、アンチCFTにより制圧。約二時間は再展開不能です』
「そんな……! 止められないなんて……!」
「そうだね。でも、キミはまだ接続を解かない方がいい」
「……どうして?」
「見届けなければならないからさ。コレが、これから成そうとしていることを。キミの失敗が招いたことを」
「……!」
「ちゃんと見るんだ。これにはヤヤカ、キミのすべてがかかっているのだから」

1-1

 道中さしたる危険もなく――途中でアマルジャに襲われたりもしたがあっさりと片付けた――ノノノ・ノノはレッドラビリンスを抜け、リトルアラミゴへ向かっていた。
 もうすぐ。
 もうすぐ、みんなと会える。
 期待に胸を膨らませながら、ノノノはチョコボを駆る。じきに、岩山に掘られた集落、アラミゴの民が暮らす居住区であるリトルアラミゴが見えてくる。
 だが。
 ノノノが見上げる空に、そこにはあるはずのないモノが浮いていた。
 あのとき――ウルダハで自分たちが交戦した時よりも格段に大きい。映像記録で見た、オリジナルのオズマと同程度――否、大きさでいえばそれよりも大きいかもしれない。巨大な、七色に変わる表面を持つ金属球。
「オズマ・トライアル……!」
 思わずノノノは叫んだ。
 それは、エーテル迷彩――高い魔力を持つ者、あるいは高性能なエーテル検出装置でなければ発見できないよう偽装する機能――を用いている。ゆえに、おそらくはリトルアラミゴの誰も気付いていないのだ。
 エーテライトの直上に浮いているというのに。
「……!」
 どうする。
 師の言葉が思い出される。

 いかなる形であれオズマ・トライアルに接触することを禁ずる。オズマ・トライアルらしきものがどこかで人や都市を襲っていてもだ。

 手も足もでなかった。
 蹂躙され、ヤヤカに助けてもらわなければ死んでいた。
 だから、戦ってはならない。
 きちんと師に実力を示し、戦い得ることを証明しなければならない。

 極力接触を避け、もし偶然遭遇してしまっても、交戦せず逃亡しろ。これは絶対だ。いいな。

 師の言葉は、冷たく厳しい。けれど、それは正しい。
 実力のなかった自分たちは、オズマ・トライアルに遭遇しても蹴散らされるだけだ。
「でも……」
 逡巡するノノノの目の前で、オズマ・トライアルは偽装を解いた。宙に浮く巨大な球体によって、エーライトの周辺に陰が落ちる。
 人々の驚愕の声が聴こえてきたことで、ノノノは我に返った。
 せめて警告しなければ。逃げろと言わなければ。
 ノノノはチョコボを置いて走る。巻き添えにしたくなかった。
「逃げて!!」
 叫ぶノノノの視界の中で、オズマ・トライアルは形を組み替えた。
 正方形になったそれが、地上に向けた面を光らせる。その光を浴びた人々が、宙に浮いた。――吸い上げられ始めた。

 吸い込んだ生命体を人造妖異へと改造する、兵器プラントとしての役目。
 
 フィンタンがそう言っていた。敵を吸い上げ、兵器へ改造するのだと。
 言葉の警告はもう間に合わない。
 アレを止めるには。

 交戦せず逃亡しろ。
 
 師の言葉は、冷たく厳しい。けれど、それは正しい。
 でも……!
 
 そのとき。

『やっちまえ、ノノ! オマエならできる!』 

「リシュヤ……?」
 声が聴こえた。耳ではなく、心に。
 未だに眠り続けている姉弟子の声を、ノノノははっきりと聴いたのだ。
「……」
 そうだね。
「わたしなら……できる!!!」
 叫ぶ。
 魔力を高める。そして――
「――フレア!!」
 迅速魔で詠唱破棄したフレアが、オズマ・トライアルの底面に直撃した。一瞬だけ正方形が崩れ、光が途切れる。浮き上がっていた人々が次々に落ちた。まだ数ヤルム程度だったため、大きな怪我を負った者はいないようだった。
「みんなを逃がして!!」
 リザードクリーク側の広い入り口からエーテライトプラザに飛び込み、駆け寄ってきた不滅隊員に叫ぶ。この地の不滅隊を指揮する、ギシルベールト少闘佐だ。
「一体何が起こっているんだ!?」
 それにノノノが返答することはできなかった。オズマ・トライアルが姿を変える。逆三角錐になった直後に、それが形を一瞬崩す。無数の三角形の集合体になった瞬間、ノノノ目掛けて赤黒い破壊光線が降り注いだ。
「!!」
 咄嗟にギシルベールトに体当たりして、彼ごと光線の範囲外へと倒れる。赤と黒の魔力光が、さっきまでノノノがいた場所を焼き、逃げ遅れた人々を消し炭にしていった。
「う……!」
 だめだ。ここにいては、住人たちを巻き添えにするだけだ。
 ノノノは立ち上がると駆け出した。入ってきたリザードクリーク側の入り口を抜け、外へ出る。振り向きざま、コラプスを放つが、それはオズマ・トライアルの直前で弾かれた。魔法障壁だ。
 でも、それでいい。もともとそんな攻撃でダメージを与えられるなどと思っていない。オズマ・トライアルを誘い出すのが目的だからだ。
 三角錐が球体へと形を変えながら、ゆっくりと移動を始めた。ノノノを追い始める。
 よし……!
 最初の目的は達した。走りながら、ノノノはリンクパールに向かって叫ぶ。
「緊急事態発生! リトルアラミゴでオズマ・トライアルと交戦中! みんな来て!!!」

1-2

「はあ!? 何言ってんだオマエ!?」
 ウルダハ、クィックサンド。ノノノから突然もたらされた報告に、メイナードは思わず叫び返した。周囲の冒険者たちが振り返って彼を見る。
 ここには既にノノノ以外の三人が揃い、彼ら全員がその通信を受け取っていた。
「どういうことなの!?」
 リリが聞き返す。それが終わるか終わらないかのタイミングで、テオドールは席を立った。剣を取る。
『人を攫おうとしてたから我慢できなくて攻撃した! いじょ――わああ!』
 通信が切れる。ノノ! とリリは叫んだが反応がない。攻撃されて落としたかもしれない。
「モモディ。荷物を頼みます」
 大声を出しているメイナードやリリを見て既に察していたのだろう。カウンターからこちらに向かってきていたモモディが頷いた。
「ええ。ここは任せて。いってらっしゃいな」
 頷き返すと、テオドールは二人に言った。
「行こう」
「応」
「はい」
 フィンタンに言われたことを、忘れたわけではない。三人ともちゃんと憶えている。
 ――人を攫おうとしてたから我慢できなくて攻撃した。
 ノノノはそう言った。それがすべてだ。そして、全員がわかっている。
 たぶん、自分がノノノの代わりにそこにいたとしても、まったく同じ結果になるだろう、ということが。
 『ネヴァンの牙』が完成していない以上、ヤヤカを救い出す手段はまだ無い。
 だが。それでも。
 人を助けない選択肢は、彼らの裡にはなかった。
 だから余計な問答はない。
 頷きあった三人は、その場でテレポを詠唱する。エーテライトが正常に稼働することを祈って。
 詠唱が完了し、三人の姿は消える。
 地脈をたどり、彼らは向かうのだ。
 ――リトルアラミゴへ。

§

 オズマ・トライアルの周囲に無数の光が生まれる。それが一斉に、破壊光の雨と化してノノノへと降り注いだ。
 リトルアラミゴから出て、開けた斜面を駆け下りた場所。そこで、ノノノはオズマ・トライアルに戦いを挑んだ。
「……!」
 魔力光をマバリアで耐えながら、歯を食いしばり集中を完了する。
「ブリザガッ! ――サンダガ!!」
 詠唱しながら、意識の集中によるブースト効果であるエノキアンを起動する。魔法はオズマ・トライアルの魔法障壁に阻まれるが、ノノノは意に介さない。それを――魔法障壁そのものを壊すためにやっているからだ。
 彼女の高まった魔力が、その瞳をライムグリーンに輝かせている。今のノノノには、『オズマ・トライアルの魔法障壁そのもの』が視認できている。
 ゆえに、着弾点そのものを魔法障壁にしているのだ。
 本体を狙った魔法攻撃が障壁で阻まれることと、障壁そのものが着弾点なのでは威力が異なる。
 ――みんなが来る前に、この魔法障壁を破壊してやる……!
 オズマ・トライアルが降らせた破壊光の雨が一瞬途切れる。
 そこに、すかさず魔法を撃ちこむ。
「ファイガ!」
 ほぼ同時に、三角形の魔法陣がノノノを中心に完成し、魔力を吹き上げた。三連魔。
「ファイジャ!!」
 ほぼ同時詠唱に等しい速度で、ファイジャが三発、立て続けに炸裂した。その途中で、詠唱速度を速める魔法陣である黒魔紋も起動している。
 オズマ・トライアルの周囲にあった魔法の光が結集し、太い光条となってノノノを襲う。極度の集中状態にあるノノノは、それをギリギリで躱しながら詠唱をやめない。
「ファイジャ!」
 移動したときに黒魔紋と自分の間に通した魔力を伝って高速移動。魔法陣の中で、詠唱を続行。
「ファイジャ!!」
 障壁に亀裂が走る。不可視だった障壁が、少しエーテル視力を用いれば見える程度に実体化している。――もう少し!
 そのとき、ノノノの頭上に赤い光が灯った。先端を下にした円錐形の光だ。
 メテオが来る。
 走ってその場を離れる。オズマ・トライアルが放つ魔力光の雨でダメージを喰らいながら、それでもノノノはその『照準』を捨て、走りながら魔法を唱える。
「サンダガ!」
 更に降り注ぐ魔力光を避けながら、迅速魔で詠唱破棄。
「デスペア!!!」
 巨大な白光が結界に直撃し、紅蓮の炎と変じて吹き上がる。障壁は既に実体化し崩壊しようとしている。――だが。
 ノノノの『魔眼』は、オズマ・トライアルの表面に展開した魔法印を捉えていた。それは“次”だ。新たな障壁を再創成しようとしている。
「それを――待ってた!」
 以前戦った時から気になっていた。あの戦いで破壊した魔法障壁は、本当にそれでおしまいだったのか。再創成できる能力があるのではないか? だとしたら、それにどう対処すればいい?
 それをノノノはフィンタンにもリシュヤにも――ソウルクリスタルを通じてクェーサルにも問い、彼らからのアドバイスをもとに作戦を練っていたのだ。
 再創成するための魔法。
 その魔法そのものを、撃ち抜いてやる!
 マナフォント。枯渇状態のエーテルを、マナ――すなわち環境エーテルから吸い取る。
「ファイジャ!」
 放たれた火炎魔法が、魔法印そのものに直撃する。障壁を生み出す魔法を、ノノノの魔法が破壊する。だが、まだだ。完全に破壊しきれていない。
 それも――予想内だ!
 既に次の魔法は唱え始めている。
 しかし。
 オズマ・トライアルの周囲に浮かぶ魔力光が、ノノノへと殺到する。
 躱せない。今躱せば詠唱が途切れる。
 なら。
 相討ちでも潰し切る!!
「――デスペア!!!」
 残りの全魔力を絞り切ったデスペアが、劫火と共に魔法印に直撃する。七色の輝きを歪ませて、オズマ・トライアルの魔法障壁は創成機能ともども停止した。
 同時に。
 ノノノも倒れた。
 魔力光に撃ち抜かれたノノノは既に体力の限界だった。
 けれど。
 ノノノは笑った。
「タイミングばっちり」
 倒れ見上げた空。七色に輝く金属の球体に、遥かな高みから蒼い閃光が直撃するのをノノノは見た。
「おおおおおおッ!!!!」
 雄叫びと共に、メイナードのドラゴンダイブがオズマ・トライアルへと炸裂した。ぐらり、と球体が空中でかしぐ。
 次の瞬間、眩い光刃が地上から空中へと奔った。オズマ・トライアルを刃が切りつけた直後から、雪の結晶のような美しい魔力光がさらに七色の金属球を打った。立て続けに四度。そして次の瞬間、魔力で創成された巨大な『剣』が地より発してオズマ・トライアルへと突き立った。
「待たせた!」
 テオドールが叫ぶ。白銀の鎧に身を包んだナイトに狙いを定めたオズマ・トライアルが、高度を下げる。より強力な攻撃をするには射程が足りないからだ。
「よう! やったな!」
 着地したメイナードが倒れているノノノに笑いかける。
「……うへへ」
 倒れたまま笑ったノノノが親指を立てた手を掲げてみせる。と、その体が光に包まれ、ふわりと起き上がる。
「ノノ!」
 リリが駆け寄ってくる。続けて唱えられる回復魔法で、あっという間にノノノは元通りになる。
「だいじょぶ?」
「全快!」
 顔を見合わせ笑う二人を見て、メイナードも唇を跳ね上げる。
「いくぜ。新生パスファインダーズの力、見せつけてやろうじゃねえか!」
 跳躍してオズマ・トライアルへと突きかかるメイナード。ノノノとリリは頷き合い、杖を構えた。
 そうだ。
 祝っている暇もないけれど、四人揃った。
 口元が緩む。前回あれだけ敗北したというのに、今は――全然負ける気がしなかった。

1-3

 ノノノとメイナードの頭上に赤い光が灯った。先端を下にした円錐形の光――メテオインパクトだ。
 二人は速やかに互いの距離を取り、マーカーが消えた時点でそこから退いた。その場から黒い魔力が吹き上がり、空に発生した魔法陣より赤熱した岩塊が降ってくる。
 地に触れた途端それは大爆発を起こす。衝撃波が全員の体力を削るが、即座にリリの全体回復がそれをリカバリした。
 その直後、ノノノが叫んだ。
「落下地点に増援!」
 ノノノのライムグリーンに輝く魔眼が、土煙の中の敵をいち早く見定めていた。
 以前この状況で現れた魔物とは形状が違う。妖異の先兵たるデーモンに似ていたが、それよりももっと筋肉質だ。数も多かった。一つの落下点につき五、六体ほどいる。
「こっちは任せて!」
 ノノノが叫んで、片方の敵集団にフリーズを、もう片方の集団にサンダジャを放つ。
「任せたぜ!」 
 叫び返したメイナードが、オズマ・トライアルへの攻撃に戻る。
「――ッ」
 メイナードの全身を、青と金の闘気が彩る。高位竜騎士が使う『蒼の竜血』と同様の技だが、『竜の島』でジラントとデンゲイの教えを受けたメイナードの闘気は、彼らの竜気に強く影響を受けていた。
「るぁッ!!」
 暴風のように波濤のように、その攻めは迅く鋭く、そのうえ一撃一撃が重かった。轟音を立てて槍が金属球の表面を抉る。あの日、全力を出してやっとのことで傷つけただけだったオズマ・トライアルを、今、メイナードの槍は確実に削っている。
 槍もまた特別製であった。刃は光竜デンゲイより贈られた彼の『牙』だ。人の力では到底加工できないそれを、デンゲイが自らの魔力で刃へと加工して授けてくれたのだ。
 オズマ・トライアルが震える。メイナードを脅威と認識はしているのだが、その敵視は目前のナイトに向けざるを得なかった。
 テオドールの防御は硬く、堅い。オズマ・トライアルの攻撃を防ぎ、いなし、絶妙のタイミングで防御の技を用いる。そして攻撃は堅実で、着実にオズマ・トライアルへとダメージを蓄積させていた。
 盾役であるテオドールが硬いということは、癒し手であるリリの負担が減ると言うことだ。無論完全に攻撃だけをするわけではないが、それでも回復しかできなかったあの時とは全く異なる。鍛えられ成長したヒールワークと、あのときとは雲泥の差である攻撃魔法。パーティの要であるリリが、今の仲間たちの実力を最も感じているかもしれなかった。
「ファウル!!」
 とどめの魔法をノノノが唱える。三連魔フレアとファウルによって、妖異たちはすべて灰燼に帰した。
「雑魚処理終わり!」  
 ノノノが叫んだときだった。
 オズマ・トライアルが立方体へと変化する。直後に、自身を中心とした範囲攻撃フレアスターを放つ。オズマ・トライアルの周囲が安全地帯だ。立方体に変化した時点でリリはメイナードの横へ走り込んでいて、そのリリ目掛けてノノノはエーテリアルステップを使った。リリの隣へ移動する。
 間髪入れずに詠唱されるホーリー。だが、それはリリから詠唱開始の時点で「ホーリーきます!」と警告が飛んでいる。吹き飛ばされないように全員がそれを防ぐ技を用いた。
「――」
 白い光が炸裂するが、直前にリリが合わせている回復魔法の結界と、直後の回復魔法で全員のダメージは抑えられる。
 即座にオズマ・トライアルは逆三角錐に変化する。赤黒の破壊光――エクセクレイションをテオドールへと放つが、彼はそれを見切って躱す。
 ノノノとメイナードの攻撃が鋭さと威力を増す。オズマ・トライアルは破壊された部分を即座に修復するが、徐々に自己再生のスピードが下がってきていた。
「このまま機能停止に追い込んで、それをフィンタン殿に託す!」
 自身と決意をみなぎらせてテオドールが宣言する。三人の誰にも異論はなかった。
 さらに。
 さらに、彼らの攻撃は速度と威力を高めていく。

§
 
「まずいね」
 オズマ・トライアルの内部で、エノクが言った。外部の状況を視認できる画面を見て、そして別の画面で各種データを確認している。
 狭い空間。そこを占めるようにシートがあり、ヤヤカはそのシートに座っている。シートから出ているいくつものケーブルが、ヤヤカの背に繋がっている。
「何がまずいの?」
 ヤヤカの問いに、エノクは外の状況を映す画面を指さす。
「コレは最初、モニターモードで戦闘をしていた。『敵がどれだけ有益な者たちか』を調査し、有用だと決まれば吸収して人造妖異へと改造する。けれど、彼らの実力は予想以上だった。こちらが舐めてかかっているうちに、コレはもう追い詰められている」
「……」
 ヤヤカは周囲に浮かぶ画面を見る。そこに示されているデータが、エノクの言葉を証明していた。オズマ・トライアルはすでに本気だが、その本気さえ凌がれ、耐え切られ、そして彼らの攻撃によりすでにかなりのダメージを受けている。
「これって」
「このまま追い詰められれば、コレは機能停止前に暴発して極大攻撃を行うだろう。不完全な状態の『ブラックホール』を」
「……!」
 それはダメだ。
 ヤヤカはこれを完成させられていないし、支配権を確立できてもいない。致命的な欠陥があることは把握していても、その原因をまだ見つけられていない。
 未完成なままで『ブラックホール』を放てば。これも、パスファインダーズの皆も、当然自分も、全てが次元の狭間に呑まれて消える。後には何も残らない。
「どうすればいいの!?」
「どうすればいいと思う?」
 エノクはあくまで他人事だ。彼はそもそも本人ではなく、本人がコントロール・コアに仕込んだコピーで、そして彼の口ぶりからすると、コントロール・コアだけは次元の狭間に呑まれないのだろう。全部終わってから、新しく作り替えるだけ。そう、こともなげに告げている。
 彼は面白がっている。ヤヤカがどう考えるかを。
「……もう一度介入する」
「どうやって?」
「……アイーアッブスからマルクトにダイレクトアタック。モード改変の選択肢に『撤退』を仕込んで、条件設定をブラックホール発動よりも低くする。でも……」
「でも?」
「具体的な手段がわからない」
「ふむ?」
 エノクには仄めかしは一切通用しない。その代わり、学びたいという要求には応えてくれる。
「だから、教えて」
「いいとも」
 エノクはあっさりと頷いた。彼の周囲に、幾つもの画面と、そこに表示された無数の式やデータが現れる。
「一度しかやらない。しっかり覚えて」
 囁くように言うと、エノクは笑った。

§

「デスペアッ!!」
 何度目かの極大火炎魔法が、オズマ・トライアルに直撃した。オズマ・トライアルの球面全体に、細かなヒビが入り始めた。もはや形態変化もできないようだ。
「沈んどけ!」
 叫んだメイナードが跳躍する。普段のジャンプよりもずっと疾く、そして高い。あの島で、エールとジラントとデンゲイとで完成させた技だ。宙を蹴り再跳躍する方法も、デンゲイから教わった。爆発的な、もはや竜そのものと言っていい闘気をまとい、螺旋を描く竜槍がオズマ・トライアルへと突き刺さる――寸前。

「それを喰らうわけにはいかないな。落ちちゃうからね」

「え」
 その“声”を聴くことができたのは、ノノノだけだった。
 次の瞬間。
 オズマ・トライアルは形態変化した。星型とでも言えばいいだろうか。幾つもの三角錐を球体から生やした形状だ。それは変化と同時に強大な『斥力』を発生させた。
「ぐ……!」
 空中のメイナードは不可視の力に弾き飛ばされた。他の三人も吹き飛ばされ、オズマ・トライアルから大きく離された。
「まだあんな形態が……!」
 リリの戦慄は全員が抱いた感想だったろう。だが、誰も絶望はしていない。これから初見の攻撃が押し寄せるのだろうが、それさえも乗り越えてみせる。
 四人が気概に燃えて立ち上がったとき。

 オズマ・トライアルは消えた。あっという間のできごとだった。

「……!」
 テオドールが駆け寄るが、そこにはもうなにも無い。
「逃げた……のか?」
 メイナードが周囲を警戒する。リリとノノノも倣ったが、三人の出した結論は同じだった。
「そう……みたい」
 ノノノが呟き、へたり込んだ。
「もう少しだと思ったんだけどな」
 杖を下ろしながら、リリが「でも」と言った。
「互角以上に戦えましたよね」
「ああ。――だがな」
 槍を回転させてから収め、メイナードがテオドールのほうを向く。テオドールが頷く。
「最後の形態変化を含め、まだ先があるだろう」
「うん……」
 それには、ノノノもリリも同意した。
「……」
 テオドールは、無言で手を伸ばした。さっきまでオズマ・トライアルがいた場所で、その手を握る。
 掴めなかった。
 また、この手をすり抜けていった。
 だが、諦めない。
 必ず。
 必ずあなたの手を、掴んでみせる。

1-4

 光の届かぬほどの深海。
 その海底に、オズマ・トライアルは転移していた。
「ボクが何をしたか、わかったかい?」
「何をしたかはわかった。そのレベルで使いこなせる気はしないけど……」
 顔を曇らせながら言うヤヤカを見て、エノクはにやりと笑う。
「ふうん」
「……何?」
 訊き返すが、肩を竦められただけだ。
「いや。――さあ、キミはこれから修復に勤しむコレの支配権を簒奪しつつ、コレの強化にも協力しなければならない。今回の実質敗北を糧に、コレはさらに強化されるだろう。皮肉なモノだね。助かりたいと思うからこそ、コレを完成させねばならないとはね」
「わかってる。もう覚悟はできてるわ」
 エノクの元にあったデータや魔術式の画面を、こちらへ引き寄せる。
「……」
 無言で作業を始める。
 あのとき。
 ノノノが止めに現れたとき、心臓が止まるかと思った。逃げて、と叫んだ。
 でも。
 ノノノは遥かに強くなっていた。魔法障壁を再生機構を含め完全に破壊した。凄かった。
 それからみんなが来た。
 テオドールの姿を見て、涙が止まらなかった。
 強くなった彼らにこのまま壊されてもいい。そう願いさえした。
 でも。
 彼らには何か策があるのだ。自分を救い出す策が。それを悟ってからは、息を詰めて彼らの戦いを見つめていた。
 なのに。破滅を避けるためには逃亡しなければならないとは。
「……」
 大丈夫。まだ、希望はある。
 ヤヤカの指が画面の上を動き、魔術式を書き換えていく。分からないところはエノクに教えを請いながら、一歩一歩、着実に進む。

 彼女はまだ知らない。パスファインダーズとは別に、この兵器を狙う者たちがいることを。
 彼女はまだ知る由もない。
 次の戦いが、予想だにしないものになることを。

第三部第二章へ続く
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