「お頭のラショウさんも、あの馬鹿と同じドマ生まれさ。」
船酔いの若い海賊に薬を届けた後、アフミはぽつりとそう語り出した。
ラショウが海賊衆に身を投じたのは、25年も前のこと。
ドマが帝国の侵略を受け、国が焼かれたその混乱の中、彼もまた故郷を追われた一人だった。
「親兄弟を殺されて、行き場を失った若者が辿り着くのが、ここなんだよ。」
アフミの言葉には、どこか諦めにも似た感情が滲んでいた。
この海賊衆には、帝国の支配から逃げてきた者が少なくない。
過去に傷を抱えながらも、海を生きる道を選んだ彼ら。その中で、ラショウは自然と仲間を束ねる存在になっていった。
「お頭はね、口数は少ないけど、背中で語る男さ。帝国に追われた連中にとっちゃ、あの人は希望みたいなもんだよ。」
アフミが語るラショウの姿は、過去に囚われず、ただ前を見て生きる者の強さを感じさせた。
ドマで家族を失った男が、今や多くの仲間の頼れる存在になっている――その事実だけで、彼がどれほどの苦難を乗り越えてきたかがわかる。
「うちの連中は、どこかに傷を持ってる。それでもお頭の下で、力を合わせて生きてるんだよ。」
そう語るアフミの顔には、どこか誇りが浮かんでいた。
荒波に揉まれながらも、仲間を守り導くラショウ。
彼の過去が語られることは少ないが、その存在は確かに、海賊衆の心の支えとなっているのだろう。
「アンタも、何か背負ってここに来たんだろう?」
アフミの問いには答えずにいたが、彼女の言葉が胸に響いた。
この地には、過去を背負いながらも新たな道を歩む者たちがいる。
そしてその中心にいるのが、ラショウという男なのだ。
海は多くのものを飲み込むが、同時に新たな道を示してくれる。
ラショウが荒波の中で示してきた生き様は、その証のように思えた。
「船酔い海賊」より
補足
ラショウの背景は原作設定に基づいていますが、物語性を強めるために一部に描写を加えています。