シオサイは毅然とした態度で話し始めた。
「我ら『スイの里』は、争いを避けるために海底で静かに暮らしてきました。
その始まりは、アウラ・レンが各地に散った時代に遡り、争いを恐れた先祖が海底に身を寄せ、この地を安住の地と定めたのです。
そして、紅玉姫を中心に独自の文化を築きました。」
アリゼーが眉をひそめて尋ねる。
「でも、外界との接触を完全に断つのは難しいはず。物資の調達くらいは?」
シオサイは小さく頷きつつも、表情を崩さなかった。
「確かに、物資の調達のために外界との接触はありますが、25年前、ドマの侵略後からは紅玉姫の指示で、外界との関わりを極力断っています。」
彼の言葉には揺るぎない信念があった。
「外界の争いは、この里にとって危険です。特に、ヤサカニノマガタマのような宝物を巡る騒動は無縁であるべきもの。宮司として、紅玉姫の意志に背くことはできません。」
リセが口を挟む。「でも、争いを持ち込むつもりはない。ただ話を聞きたいだけ。」
シオサイは静かに首を振った。
「争いは、意図せずとも広がるもの。この里の平穏が損なわれることを何よりも恐れています。それが紅玉姫の意志であり、我ら全員の願いです。」
アリゼーはため息をつきながら言った。「せめて特例として認めてもらえない?騒ぎ立てはしない。ただ話を聞きたいだけ。」
それでも、シオサイは変わらなかった。
「申し訳ありません。里全体としては『否』です。
個人として声をかける者がいれば、それを咎めませんが、協力することはできません。」
重い沈黙の後、一行は集落の奥へと足を進めた。
リセが呟く。「拒絶されるのは何度経験しても辛いね…」
アリゼーは深いため息をつき、険しい表情で言った。
「25年も外界と切り離されてきた里…。壁だらけだわ。方法を考えないと…」
彼女の視線は遠く、焦燥感が滲んでいた。
「ゴウセツ、無事でいてね…。」