静寂を破るように、誰かが喚いている。
己が正しいと信じて疑わぬ者の声は、耳に障るほど甲高く、空虚だった。
ヨツユは静かに目を閉じた。
その声が何を叫んでいようと、もうどうでもよかった。
かつて名を捨て、尊厳を捨て、すべてを憎しみで塗りつぶしてきた。
踏みつけにされた人生の果てに、彼女が見たものは――復讐の炎に焼かれる己の影。
「ああ……愉しい……」
長いこと、腹の底に沈めてきたものが、ついに尽きた気がした。
この身は灰となるだろう。
だが、その灰は風に乗り、憎きこの国の隅々にまで届くだろうか。
「やりとげた……成し遂げた……復讐を……」
目の前の影が、何かを叫んでいる。
憎悪か、失望か、あるいは――悔しさか。
だが、その声ももはや遠い。
ヨツユの瞳に映るのは、ただ一人の男の顔。
それは彼女が最初に憎んだ、この国の人間だった。
そして最後に、彼女が見届けるべき男でもあった。
「……なんて顔……してるのさ……」
悪党が死ぬのだ。
この国の民にとっては、晴れ晴れとした気持ちで見送るべき場面のはずだ。
それなのに、どうしてそんな顔をする?
「……あの……じじいかい……」
思い浮かぶのは、柿の味。
あの甘さが、今はもう遠い。
「嗚呼……あの柿……おいしかった……かな………………」
風が吹いた。
ひとひらの花弁が、血に濡れた頬を撫でて落ちた。