石の家に戻ると、待ちわびていたかのようにシドが現れた。
忙しい合間を縫って駆けつけてくれたらしく、グ・ラハ・ティアと固い握手を交わす姿に、胸の奥が温かくなる。
アラグの球体──“玉っころ”に隠された情報。
その解読を進める中で、辿りついた答えは、驚くほど簡潔なものだった。
パスワードは「自由」。
解放された記録には、かつての魔科学者オーエンによる研究が刻まれていた。
闘神の加護を浴び、魂そのものが歪められることで生まれる「汚染者」──
今でいうテンパード化の原理を解き明かし、遮断する素材までは開発したものの、治療法を求めた彼は弾かれ、追放されたという。
ページの行間に滲む悔恨。
それでも未来に希望を託すように記された言葉を、わたしたちは黙って受け止めた。
「魂を活性化し、自我を呼び戻す……だが、信仰心まで増幅させては意味がない」
グ・ラハ・ティアの思案に、アリゼーも深く頷く。
アラグの記憶継承術を応用し、活性化すべき記憶を選り分けられれば──
偽りの信仰を取り払い、本来の意志を呼び覚ます道が拓けるかもしれない。
難題に思えたその試みも、シドの発想で一歩進んだ。
魔導端末を使い、膨大な術式を短時間で試し続けることができるというのだ。
「技術は自由のために」
グ・ラハ・ティアとシドが交わした言葉は、単なる研究を超えて、ひとつの信念として胸に残った。
レヴナンツトールに工房を整え、仲間たちの手を総動員する段取りが決まる。
その熱意に引き込まれながら、わたしもまた力を尽くそうと心に決めた。
自由のために。
そして、テンパードとなった人々を救うために。