キャラクター

キャラクター

Dark Knight

Arusena Prele

Valefor (Gaia)

このキャラクターとの関係はありません。

フォロー申請

このキャラクターをフォローするには本人の承認が必要です。
フォロー申請をしますか?

  • 0

Once Upon a Time in Eorzea―黄金の炎―(前編)「2、ミスト・ヴィレッジ①」

公開
   2 ミスト・ヴィレッジ

 晴れ渡った空に海鳥たちが舞い飛ぶ。
 ミスト・ヴィレッジ。
 〈アルデナード小大陸〉の西に横たわるメルトール海峡を越えた先に浮かぶ活火山を有する巨大な島〈バイルブランド島〉。その南部〈ラノシア〉を領する海洋都市国家リムサ・ロミンサの東の玄関口であるテンペスト陸門を越えた向こう側――低地ラノシアと呼ばれる一帯にある谷間の道を抜けた先に広がる開放感溢れる居住区だ。
 高台から見渡せる雄大な紺碧の海。滑らかな弧を描いてそれを縁取る白い砂浜。砂浜と湾を跨いで伸びる桟橋には帆を畳んだ大小の帆船が数隻停泊していた。台地を背にして切り開かれたなだらかな傾斜地には庭つきの白亜の家並みが段々に連なり、縦横に走る水路の中を澄んだ水が滔々と流れている。所々に覗いた青い草地には赤や黄色や薄紫色をした花々が鮮やかに咲き乱れ、頭を垂れたヤシの木の葉が吹き寄せる海風にそよいでいた。そんな街並の中央を横切るかたちで見下ろしているのは、この居住区のシンボルであり、全戸に新鮮な生活水を供給している海都の首長の名を冠する巨大な水道橋だ。
 まさに風光明媚。[エオルゼア]に数多く存在する景勝地の中でも、これほどこの言葉がピタリと当てはまる土地は他に無いだろう。
 といってもここで生活を送るのは金貨の泉に浴する大商人でも、赤い制服に身を包んだ高給取りの役人でも、星神ニメーヤに微笑まれた賭博師でもない。
 冒険者。自由を愛し、命を的に、報酬と名誉を求めて危険な任務へと身を投じる者達。それがこの居住区の住民だ。建ち並ぶ家や屋敷は、そんな彼らの疲弊した体と心に束の間の安らぎを与えるための「安息所」なのである。
 居住区には外からの来訪者も多い。どこかに腰を落ち着けたいと考えてる冒険者はもちろんのこと、観光目的の旅人、住民相手に商いをする行商人。
 そしてある特殊な事情を抱えた者。
 たとえば、先程からとある屋敷の門の前に立って、物憂げな表情を浮かべて建物を見上げているこの少女がそうだ。
 黒縁の分厚いレンズが嵌め込まれた眼鏡を掛け、肩で切り揃えられた黒い髪の上に若草のベレー帽をのせている。茶褐色の革のベストに皺の寄った長袖のシャツ。肩から斜めに掛けた色褪せた革の鞄。足首までをすっぽりと隠す長いスカートの先からは紐のついたブーツが覗いていた。
 そしてどことなく野暮ったい印象を人に与えるような雰囲気を纏っている。
 少女――エリス・リーは目の前の建物を振り仰ぎながら、胸の中は疑問と不安と期待に満ち満ちていた
 門の横に立つ木の柱に吊り下げられたサインボードにエリスは目をやった。
 [七区三六番地 フリーカンパニー「紅牙団」本部「眺海荘」]。
 エリスはベストのポケットから、くしゃくしゃになった手の平ほどの大きさの紙を一枚取り出し、紙とサインボードを交互に見やる。
 区、番地、組織名、屋敷の名前。紙に書いている内容と相違ない。たしかにここだ。
 それでも敷地の中へと足を踏み入れるのにはためらいがあった。
 フリーカンパニー(FC)。冒険者のみで構成された傭兵団的性格をもった組織。ここを紹介してくれた人物からはそう聞いていた。
 エリスは再び建物へと視線を戻した。
 だが眼前に佇む建物の外観はどうだろう? その言葉に染みついた物騒なイメージとは程遠い。
 敷地を取り巻く優美な細工が施された黒い鉄製の柵と門。砂利を敷き詰めた道で結ばれたその奥には、チョコボを模した風見鶏を突き出した赤い瓦葺きの屋根に外壁を漆喰で覆った大きな屋敷。それが自分のような来訪者を待っているかのように悠然と構えている。屋敷の玄関と門の間にある庭先には、石で囲まれた蓮の葉が浮かぶ小さな池。池の中には金属製の台座が据えられ、その上には小さなクリスタルが浮かんで淡い輝きを放ちながら旋回している。他には水色の縞模様が描かれたビーチチェア、金属で縁取られた木製の丸テーブルといくつかの腰掛け、そして小さな緑をいくつも芽吹かせた菜園らしきものが設けられていた。
 エリスは首を傾げた。目的の場所は本当にここなのだろうか? 大金持ちの別荘と言われた方が信じられるかもしれない。
 ある程度の予備知識を持ってこの土地を初めて訪れたとしても、エリスのような一般人なら誰もが抱く疑問と感想であった。だがこの一軒だけが特別ではないことはここに来る道すがら目にした数々の家の様子が証明していた。
 自動演奏器をかけながら庭の木に吊るしたハンモックの中でうたた寝していた者、生け垣の剪定に精を出していた者、庭先で楽器の演奏をしていた者。
 どれもこれも命のやり取りを生業にしている者たちのイメージからかけ離れていた。
 でも外と内が違うことだってある。エリスは海都での一年間の生活を経てそれを十分身に沁みていた。
 不安がとぐろを巻き始めたその時。
 「嘘じゃねえって!」
 突然、聞こえてきた声にエリスは肩を縮こまらせた。声のした方をちらりと窺う。
 「信じられなーい」
 「また始まった……」
 「まったくお前って奴は、もうちょっとマシなデタラメを言えないのか?」
 「ところで聞いた? 今日、シーゲイズにペット売りの行商人が来てるって」
 何のことはない。種族もバラバラの数人の男女が陽気に笑い合い、冗談を交わし合いながら坂道を下っていくところだった。
 彼らも居住区の住人だろうか? 会話の内容から察するに買い物にでもいくのだろう。坂道を下って左に曲がった先には、人で賑わう商通りが砂浜に沿って走っていることを、エリスは居住区を一時間ほど迷った中で知っていた。
 楽しそうだな……。彼らの後ろ姿をぼんやりと目で追っていたエリスの胸中を何かがちくりと刺した。それは放っておくとズブズブと深く入っていき、中で暴れまわって心をどうしようもなくかき乱すようなものだった。
 早く入ってしまおう。エリスは頭を振り、屋敷へと向き直った。
 さっきの声がまだ聞こえている。エリスはそれを背にして石段にゆっくりと足を掛け、門をくぐった。そして庭を小走りに横切り、玄関の前で立ち止まってふと頭上を見上げる。
 玄関の上の外壁には紋章が掲げられていた。黒地に青い盾が描かれ、その前にFCの名の由来と思しき紅い色をした牙が二本交差している。
 玄関へと視線を戻す。磨りガラスの嵌め込まれた木製の扉の向こうからは、うまくは聞き取れないが何やら会話する声が聞こえてくる。エリスは玄関の取っ手に手を伸ばした。
 中にいるのが恐い人たちだったらどうしよう……。門をくぐる前に抱いていたそんな思いが甦り、取っ手まであと数イルムのところで手が止まる。
 見知らぬ土地の見知らぬ人物が暮らしている家の玄関の扉を開ける。それはこの少女にとって、たった一人で真夜中の墓地へと足を踏み入れるに等しい勇気を要することだった。
 エリスはおもむろに後ろを振り返った。青い空を背景にしてたったいま歩いてきた砂利道とくぐった門があるだけだ。さっきまで背を叩いていた男女の声はすでに遠くに消え失せ、商通りの喧騒がそれにとって代わっていた。
 もう引き返せない。何故だかそんな気がした。仮に引き返せたとしてもさっきのようにに門をくぐることは二度とできないだろう。
 エリスは正面を見据えた。何度目かの深呼吸の後、目に決意と微かな期待の光を宿す。
 頼みの綱はもうここにしかないのだ。 
 エリスはそう願いを込め取っ手を掴むと、恐る恐る扉を押し開けた。

                      ◆

 扉には来客を知らせるためのベルが取り付けられていたらしい。涼やかで高らかな響きが耳朶を打った。同時に漂ってきた食欲をそそる香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。 
 玄関の扉を開けた先。そこは豪奢なシャンデリアに照らされた板張りの広々としたエントランスだった。
 向かって正面には食堂などで見かける木製のカウンター。そこから少し離れた手前側には小さなテーブル席がいくつか並んでいる。どことなく酒場を思わせる内装だった。カウンターの奥は台所になっているらしく、匂いはどうやらそこにかけている鍋から漏れてきているようだった。
 そして五人の人影があった。
 想像していた強面の男達の姿はなかった。代わりに待っていたのは種族は異なるが五人の女性たちだった。突然の来客に会話の流れが中断され、その場にいた全員の視線が一斉にエリスへと注がれる。
 視線の束を一身に受け、エリスはバジリスクに睨まれたみたいに固まった。膝が泣きだし、たじろぎそうになる。唇が震え、舌がもつれ、喉が強張ってうまく声が出せない。
 五人はエリスを試すかのように何も喋らずじっと見つめている。ある者は冷ややかな視線で、ある者は興味深そうな目で、ある者は笑みを湛えて。
 言わないと……。その思いがぐらつきそうになる体を支えた。エリスは口を歪ませ、何とか息を呑み込むと、喉に巻きついた緊張の鎖を振り解いて声を絞り出した。
 「あ、あの……こ、ここってFC「紅牙団」の本部……ですよね!?」
 滑稽なほど大きく、ガチガチに凝り固まった声を唇が吐き出した。鏡を見ずとも顔が赤くなっているのが自分でもわかった。
 「そうですよ」
 テーブル席の一人掛けのソファに座った、頭の両側から猫のように大きな尖った耳を生やした種族――[ミコッテ族]の女性がおっとりと、そしてエリスの勇気を称えるかのような口調で言った。
 女性はソファから立ち上がると、エリスに優雅な一礼をする。
 「はじめまして。ようこそ〈眺海荘〉へ。私は「紅牙団」の団長のナ・キサカです」
 「は、はじめまして」
エリスはぎこちない動作で会釈を返した。
 「立ち話をしてもらうのもなんだから座ってもらったら?」
 キサカと名乗ったミコッテにそう告げたのは、テーブルを挟んで向かい側のソファに座っていた銀色の長い髪をしたミコッテだ。
 「そうね。勝負は次の時までお預けよ。セラ」
 セラと呼ばれたミコッテはキサカの言葉に諸手を上げて応えた。見るとテーブルの上には駒が複雑に並んだ遊戯盤が置かれていた。エリスにゲームのルールはわからなかったが、駒の並び方から察するに、どうやら自分が来るまでかなり白熱した勝負が繰り広げられていたらしかった。
 「それではこちらへどうぞ」
 キサカはカウンターと二階へと上がる階段の間のスペースに設けられた、壁際のテーブル席を手の平で指し示した。壁にはリムサ・ロミンサの[グランドカンパニー]――「黒渦団」のポスターが貼られていた。
 エリスはいつのまにか震えが止まっていた足でエントランスを斜めに横切ると、高級感を湛える布張りのソファに腰を下ろした。中にふんだんに詰めこまれた綿の弾力が気を張りすぎた身体を優しく受け止めた。
 エリスは小さくため息を零す。肩の力が抜け屋敷の中へと入った時よりはだいぶ心が落ち着いた。すると先ほどから自分を見つめている視線があることに気づく。
 エリスはそちらへと顔を向けた。
 カウンターのスツールに尖った耳にずんぐりとした小柄な身体をした種族――[ララフェル族]がちょこんと腰掛けていた。栗色の髪を後ろで二つに結わえて、口元にニコニコと笑みを浮かべて興味津々といった様子でこちらを見つめている。
 スツールをひとつ隔てたその隣には自分と同じ[ヒューラン族]の女性が座っていた。横顔からでもわかる鋭い目。肩を流れる波打つブラウンの長い髪。丸みを帯びた耳には銀のイヤリングが光っていた。こちらはララフェルの方とは対称的にエリスには目もくれず畳んだ新聞を片手にティーカップを傾けている。なんとなく苦手なタイプだとエリスは感じた。
 その姿を人影が遮り、テーブルにティーカップを載せた皿が置かれた。皿にはスプーンと蜂蜜が注がれた小瓶が添えられ、カップの中身はカモミールティーだった。立ち昇る湯気が仄かに甘い香りを運んでくる。
 エリスは礼を述べようと顔を上げた。しかし「ありがとうございます」と紡ごうとした唇が止まる。
 雪のような白い肌に肩にかかる黒い髪。そこまでは自分たち[ヒューラン族]にもよく見かける容姿だ。違うのは[ヒューラン族]でいうと耳に当たる部分から突き出た角状の器官と、頬と眉間の一部分を覆っている照明に煌く黒い鱗だ。
 見たことのない種族だった。
 返事を返せないままでいると、女性は何も言わずに小さく会釈し、盆を小脇に抱え踵を返してカウンターの奥へと戻って行く。ひょっとして自分の反応に気分を害してしまっただろうか? エリスの心に罪悪感が芽を吹いた。
 「お待たせしました」
 キサカが向かいのソファへと腰を下ろす。
 エリスが暗い面持ちでカウンターの方を見ていることに気づいたのだろう。助け舟を出した。
 「彼女はルアン。[アウラ族]といって、東方にある〈ひんがしの国〉や〈オサード小大陸〉を生活域としている種族よ。彼女が属していた部族はケスティル族。行動のみを純粋な表現と捉えて、嘘の源だと信じている言葉を発するのを極端に避けている部族なの。だからあまり気にしないで。いい人であることは私が保証するわ」
 「はあ……」
 キサカの説明をエリスは苦労しながらも何とか飲み込んだ。自分の価値観に柔軟さが無いことを改めて思い知らされる。 
 「じゃあ始めましょうか。まずはお名前とご職業を伺ってもよろしいかしら?」
 「そ、そうでした。すみません。エリスです。エリス・リー。リムサ・ロミンサで絵描きをやっています。まだ駆け出しですけど……」
そう言って小さく肩を縮こまらせたエリスにキサカは柔らかく微笑んだ。
 「ところでどうしてここへ?」キサカは首を傾げた。「順序が逆だから。本来なら私たち冒険者がギルドに直接足を運んで仕事をもらってくるのが通常の手続きなの」
 「あ……、えっと、〈リムサ・ロミンサ〉の「溺れる海豚亭」の店主さんにここを訪れるように言われました。きっと力になってくれるはずだと……」
 「バデロンさんの紹介かあ!」
  ララフェルが表情を輝かせ、あどけない声を弾ませた。
 「海都の[冒険者ギルド]の顔役直々のご推薦とはウチも随分と信頼されてるねえ」
ヒューランの女性が太く嗄れた声で、新聞から目を離さずにどこか皮肉混じりに呟いた。
 「もうアルさんってば。素直に喜べないの?」
 「心根がねじくれてるもんで。悪いねルルカ」
  唇を尖らせたララフェル――ルルカにアルさんと呼ばれたヒューランの女性が自嘲気味に返した。
 「じゃあ真っ直ぐに伸ばさなきゃ。フライングトラップみたいに」
 「残念。モルボルの脚みたいにこんがらがってもう手遅れだよ」
 「モルボルの脚はこんがらがってないよ?」
 「主観の相違」
 「ちょっと二人とも」
 キサカのピシャリとした声が二人の会話に割り込んだ。ルルカは悪戯を叱られたかのように舌をぺロッと出し、ヒューランの女性――アルセナは肩を小さくすくめた。
 「ごめんなさい。ここを訪ねて来た理由は了解したわ。それでご依頼というのは?」
 キサカに尋ねられエリスは一瞬返答に詰まったが、息を呑み込んで「溺れる海豚亭」で語った内容をそのまま話すことにした。
 「その、何といいますか……。部屋が……変なんです」
 「変?」
 「はい」エリスは頷いた。「家に帰ってみると部屋の鍵が開いていたり、真夜中に起きてみると部屋の中が真夏でもないのに蒸し暑かったり、火を使っていないのに突然、焦げくさい臭いがしたり……。」
 「それはいつぐらいから?」
 「二週間前くらいです」
 「鍵が開いていた件はイエロージャケットに相談した?」
 キサカが海都の治安維持と沿岸警備を担う組織の名前を口にした。
 「はい。最初は誰かの悪戯だと思って、二、三日の間だけ近所を巡回するかたちで警備に就いてもらいました」
 「その間は何も?」
 「ええ。鍵も開けられませんでしたし、何かを盗られるということもなかったです。イエロージャケットの方は『鍵破りは海都の子供がよく度胸試しでやるんだよ』と仰っていましたけど……」
 「部屋が暑くなったり、悪臭が漂うになったのはそれからね?」
 「そうです。最初は疲れているからそう感じるだけかなと思ったんですが、その後も何度かそういうことが続きました。それで怖くなって、またイエロージャケットの本部に行ったんですが……」
 「そうなると自分たちじゃなくて[冒険者ギルド]の領分だ――こんな風に言われなかった?」
 「はい……。いま言った通りの返答でした」
 沈んだ声で返答したエリスにキサカは苦笑した。
 「[冒険者ギルド]にはそれからすぐに?」
 「はい。身の危険を感じていましたので……。ただ対応した受付の方はすごく困っている様子でした」
 「そこにバデロンさんがやって来たのね?」
 「そうです。それでいま言ったことをお話しました。これってどうなんでしょうか?」
 エリスは眉を曇らせてキサカを見た。
 キサカはサイブーツに包まれた脚を組み、口元に手をやった。
 「[妖異]の仕業と考えられなくもないけど……。どう思う?」
 キサカはゲームの駒を金属製の箱の中へと片付けているセラに顔を向けた。 
 「蒸し暑さに焦げた臭い。触媒――[シャード]や[クリスタル]で火属性の元素を宿したものを大量に抱え込んだりしてるとそういうことが起きる可能性もあるわね。あれって実は微弱だけど熱を放っているから。大量に積まれた触媒の近くに藁の束を置いていたら発火したって事件が過去にあったわ。でも、そんな偶然そうそうあるわけじゃないし。それに個人の生活の範囲で触媒を大量に所持してることなんて滅多にないわ」
 セラはゲームの駒を指で弄びながら言った。。
 「だからといって、すぐに[妖異]の仕業だと判断するには少し振れ幅が狭いわね。もう少し決定的な――異質と言い換えていいかもしれない、そんな現象が起きていれば話は変わるけど。どうかしら?」
 セラは駒から視線を離し、エリスの方を見た。
 セラの問いかけにエリスは口を噤んだ。ただしそんな現象が起きていないからではなかった。
 異質な現象。それは確かにエリスの身に起きていた。だがあまりにも現実離れした体験であったがために言うのを躊躇っていたのだ。信じてもらえないだけならまだしも気が触れていると思われるのを想像し、イエロージャケットやバデロンにも話していなかった。
 また、それとは違った意味で口に出すのを恐れていた。
 他人に話したら命を取られるかもしれない。
 そんな漠然とした不安と恐怖が心の奥底で激しく揺らめいていた。
 エリスの表情から何かを感じ取ったのだろう。長い睫毛で縁取られたキサカの青い瞳が彼女を真っ直ぐに見つめていた。
 エリスはカップを手にし中身を少しだけすすった。適度な熱さの液体が乾いた舌を潤した。命を取られるというのは自分の被害妄想に過ぎない。それに恐れて口に出さずにいたら何も解決しない。
 このチャンスを逃すな、と自分の中にあるちっぽけな勇気が耳元で囁いている。
 それにこの人たち――冒険者たちになら安心して話せる気がした。ここへ来た時に抱いていた彼らに対する恐れや警戒心はすでに薄らいでいた。
 カップを置き、少しの沈黙の後、エリスは重々しく口を開いた。
 「ありました……」
 確かにこの目ではっきりと見たのだ。決して夢や幻なんかじゃない。
 あんなものが人間であるはずがない。
 「何があったの?」
 あの時、必死になって握り締めていた毛布の感触が膝の上に置いた拳の中に蘇った。
 胸の内に渦巻いていた恐怖を一気に吐き出す。
 「見たんです。暗闇よりも真っ黒くて、寝室の天井ほどもある人間のようなシルエットをした大きな影が、夜中に寝室の中をゆっくりと動き回るのを……。そして、それが息を立てながら小さく光る黄色い眼で私を見下ろしていたのを……!」
コメント(0)
コメント投稿
フォーラムモグステーション公式ブログ

コミュニティウォール

最新アクティビティ

表示する内容を絞り込むことができます。
※ランキング更新通知は全ワールド共通です。
※PvPチーム結成通知は全言語共通です。
※フリーカンパニー結成通知は全言語共通です。

表示種別
データセンター / ホームワールド
使用言語
表示件数