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Dark Knight

Arusena Prele

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Once Upon a Time in Eorzea―黄金の炎―(前編)「5、十指のバデロン」

公開
   5 十指のバデロン

 造船会社「ナルディク&ヴィメリー社」の建物の屋根から突き出た金属製の大きな煙突が、もくもくと白い煙を吐き出している。
 バデロンはベンチに腰を下ろすと、ベルトに下げた革のポーチの中からタバコの箱を取り出し、底を叩いて飛び出した一本を口に咥えて抜き出した。
 吹き寄せる海風が汗ばんだ体に気持ちいい。
 ここはリムサ・ロミンサの上層――上甲板層にある広場「アフト・カースル(船尾楼)」。
 バデロンはズボンの両ポケットをまさぐっていた手を止めると口をヘの字に歪めた。ポケットから両手を抜き、片方の手でたくわえた顎鬚をさする。
 なんてことだ。自分としたことがマッチ箱を忘れてくるとは。
 一向に客足が止まらなかった長い昼の掻き入れ時を終えて、ようやく取れた休憩。外でベンチに腰掛け海風を浴びながら一服と思っていたのだが……。もっともここから店までは大した距離ではない。歩いてせいぜい二、三分。しかし今から取りに戻るのも貴重な休憩時間を無駄にするようで何だか億劫な気がした。
 思わず鼻息と共に唸りが漏れる。
 そこへ。
 「火がご所望?」
 「ん?」
 バデロンは顔を上げた。
 黒づくめの衣装に身を包んだ長身の[ヒューラン族]の女性が、火の点いたマッチを指で摘み、バデロンへと差し出して立っていた。
 つば広の帽子を目深に被り、差し出された腕には無骨な作りの手甲が装着されていた。袖を通した革の外套の衿を金色の龍の装飾が縁取っている。肩越しには拳四つ分はありそうな剣の柄が空へ向かって斜めに突き出ていた。
 「もらおうか」
 バデロンはその指からマッチを受け取るとタバコに火を点した。手首を振ってマッチの火を消す。
 煙を吸うと生の充足感が胸を満たした。溜まりにたまった疲労感が一気に吹き飛ぶ。
 「助かった」
 灰色の煙を吐き出すとバデロンは相手に礼を述べた。
 「しかしお前さんが来るとはな。てっきりキサカの奴かと」
 「マスターはもてなしを兼ねた夕食の準備中。最近ずっと野戦食ばっかり作ってたもんだから張り切ってる。セラさんとルルカは実況検分。それで手持ち無沙汰のあたしが来たってわけ」
 長身のヒューランの女性――アルセナは腰に帯びるベルトに差し込んだ革製のホルダーから、細巻きの長いタバコを一本取り出しながら答えた。
 「聞きたいことはわかってる」バデロンは頭に巻いたバンダナを取った。「何であの子をお前らの所に行かせたかだろ?」
 「それもあるんだけど……」
 アルセナは外套の内ポケットから紙切れを取り出し、ペラペラと揺らしてみせた。
 「ウチの組織の今月分のエーテル網利用料。その支払いも兼ねてね」
 「いいかげん口座引き落としにしたらどうだ?」
 「そう薦めてるんだけど、帳簿係が現金(ゲンナマ)での支払いじゃないと信用しない性質でね。知らない間にギルが差し引かれているのはどうも気持ちが良くないって」
 「ま、わからんでもないがな。」
 バデロンは傍らに置いた灰皿にタバコの灰を落とした。書面だけの取引というのはどうも信用できない。
 「それじゃ理由を話してもらえる?」
  アルセナはタバコを口に咥え、マッチを擦って火を点けた。
 「二つだ。一つはギルドじゃ扱いにくい案件だったことだな。情けない話だが、討伐依頼や調査依頼に関しちゃ客観的な人的被害が出てない限り[冒険者ギルド]も依頼を受け付けることはできん。そこはイエロージャケットのような治安組織と一緒だ。だからギルドの外で仕事を受理してもらった方がいいと思ったのさ。二つ目の理由だが、〈ラノシア〉を拠点に活動しているFCの中で実績、信頼、人員の三つの条件を満たしているのは限られている。だが「天の鐘」も「黒鱗隊」もいま大きなヤマを抱えているらしくてな。それでお前さんたちのところに白羽の矢を立てた」
 「なるほどね」
 アルセナはぽわっとドーナツ状の煙を吐いた。
 「で、おやっさんの見立てとしてはどうなの? あの子の話」
 「俺は嘘じゃないと思ってるがな」
 「根拠は?」
 「ここだな」
 バデロンは指でこめかみをトントンと叩いた。
 「元冒険者の勘?」
 吸殻を陶製の灰皿にぐりぐりと押し付けながらバデロンは頷いた。
 「それと目だ。ありゃ心底行き詰まって助けを求めているっていう目だった。受付にたまに来る、こっちに返事する間も与えないで一方的に妄想をいい連ねる連中とは違うよ」 
 「さすが場数が違うね。あたしは最初疑っちゃった。あの話を聞くまではね」
 「話?」
 アルセナはバデロンに、エリスが語ってくれた部屋に現れた存在の話をした。

                      ◆

 「ふむ、そんなことがな。以前は冒険者だったと名乗っておけば、もっと踏み込んだ話ができて現在とは違った対応ができたかもしれないな……」
 バデロンは声の調子を落としてそう言うと頭にバンダナを巻き直した。
 「それは仕方ないと思うけど? 向こうは向こうで話すのを怖がってたみたいだし――何があるかわからないからね。それに冒険者と学者と一部の物好きならいざ知らず、一般市民が[妖異]と出くわすなんて滅多にないから、目撃したとしてもなかなか人には話しづらいと思うよ。頭がおかしくなったと受け取られるかもしれないから」
 アルセナは差し出された灰皿に縮くれた灰の塊を落とした。
 「しかしだな……」バデロンは唸った。「一般人に向けての[妖異]の説明とその対策。[冒険者ギルド]の今後の課題かもしれん。もともと懸案としてあったんだ。霊災の混乱期のどさくさに紛れて禁書が大量にヤミに出回ったからな。来月の会合の時に改めて議題として挙げてみるか」
 「その方がいいかも」
 アルセナはタバコを咥え直すと、バデロンの背後にそびえ立つ巨大な塔を仰ぎ見た。
 「ミズンマスト」。
 飛空艇の発着所も備えた海都のシンボルにして政の中枢。その名称は約七〇〇年前にこの地に漂着、座礁した大型船「ガラディオン号」の後方マストがあった場所に建てられたことに由来している。アルセナたちがいるこの広場の呼び名はこの塔との位置関係から名付けられたものだ。
 アルセナは建物の二階部分へと視線を落とす。
 「溺れる海豚亭」、そして[冒険者ギルド]の窓口はそこに設けられていた。

                      ◆

 [冒険者ギルド]。
 現在、市民の生活には欠かすことのできない存在となっているこの組織だが、その歴史は意外にも浅い。
 第六星歴一五六三年。ガレマール帝国との間に小競り合いもなく、戦争に対する根拠の無い楽観論と空論が街の酒場や街頭で交わされて、世間に弛緩した空気が流れていた頃。
 [エオルゼア同盟軍]は、発足当初からその維持による国家予算の圧迫を問題視されていた軍の解体を宣言し、軍備の縮小化に向けて動き出した。
 その結果、都市は職にあぶれた傭兵たちで溢れ返ることとなる。
 家を出れば傭兵。酒場に入れば傭兵。ランチに行っても傭兵。デートに出かけても傭兵。
 しだいに彼らのことを快く思わない一部の都市民との間で小さな軋轢が生じ、街に不穏な気配が蔓延し始めた。
 鬱屈した不満がいつ暴発してもおかしくない状況の中、一人の傭兵隊長が立ち上がる。
 ロードウィカス。歴戦の勇士として傭兵たちの間で名を馳せていた彼は戦友たちを召集すると、小さな互助組織を設立した。
 これが[冒険者ギルド]の歴史の始まりとなる。
 その優れた戦闘技術と厳しい条件下で生き残る術に長けた彼らは、都市民から魔物退治をはじめとした危険な仕事を引き受けるようになり、徐々に信頼を獲得、その粗野なイメージを払拭することに成功した。
 組織が国家間を跨ぐ巨大なものへと成長するに従い、請け負うその仕事内容も拡大、多様化していくこととなる。
 街道の哨戒や隊商の護衛といった傭兵任務はもちろん、物品の外注製作、鉱石や植物の採掘及び採集、災害発生時における人命救助、小麦の刈り取りや果実もぎといった農作物の収穫期の肉体労働、果ては迷子の猫探しや家庭教師、夫婦喧嘩の仲裁といった市民の生活に関わる仕事までこなす何でも屋となった。
 五年前に発生した大厄災以降は特にその需要が高まりを見せている。
 厄災からの復興に要する資源と資材の確保、混沌とした世相が生み落とした野盗や山賊の跋扈による治安の悪化、[環境エーテル]の不安定化が原因と考えられる異常気象及びそれを引き金にして発生する自然災害、生息環境の変化に伴う魔物の大量繁殖と突然変異、土地や資源の確保を巡って武力行使を活発化させる一部の獣人勢力、[エオルゼア]の各地に拠点を築き、侵略の機会を虎視眈々と狙う帝国との小競り合い。
 霊災特需。皮肉と称揚の意味を込めて呼ばれるこの好景気の大波に乗って[冒険者ギルドは]大躍進していたのだった。

                      ◆

 「おい、どうした?」
アルセナはタバコを口から離し、頬を膨らませて肺に溜まった紫煙を「ミズンマスト」の方に向けて細く吐いた。
 「ちょっと考え事。あたしがやっている仕事ってのは困った商売だなと思ってね」
 「確かもう三年目だったか?」
 「そ、早いもんでね」
 「そろそろ卵の殻が外れる頃合いだな」
 バデロンはアルセナに苦笑してみせると灰皿を差し出した。
 「さすが熟練者(ベテラン)。言うことが手厳しいね。チョコボ屋に雇われるにはまだまだ時間が掛かるか」
 アルセナは拳を握ってタバコの火を消すと、短くなった吸殻を灰皿へと落とした。
 「ところで」アルセナはサイブーツのつま先で地面を叩いた。「報酬の話なんだけど……」
 「それなら……」
 「まさかあの子に請求しろ、って言うんじゃないでしょうね?」
 アルセナはバデロンの言葉を遮るとジロリと睨んだ。
 「わかった、わかった。そうおっかない顔するな。それで一人当たりいくら欲しいんだ?」
 アルセナは右手の平を広げ、左手の四本の指を立ててみせた。
 「九〇〇ギルか。お前さんにしちゃ珍しく気前がいいんだな」
 「ギルドの顔役ともあろう人が面白い冗談を言うね。桁がひとつ足りないよ」
 「おいおい、あんまり足元を見るな」
  鼻で笑うバデロンにアルセナはきっぱりとした調子で言い放つ。
 「調査、護衛、討伐。その他諸事にかかる経費。そして相手が妖異だった要素を足して考えると妥当な値段だと思うけど?」
 「八〇〇〇だ」
 「じゃあ八五〇〇」
 「八二〇〇でどうだ?」
 「八三〇〇」
 「八二五〇で勘弁しろ」
 「八二七〇」
 二人の値切り合戦はその後も繰り広げられたが、最終的に折れたのはバデロンの方だった。
 「わかった!」右膝を叩いた「それで手を打とう。まったく、レモラみたいにしつこい奴だ……」
 アルセナは口笛を吹いた。報酬額は八〇一四ギル。最終防衛ラインである八〇〇〇ギルを死守したかたちだ。
 「さっすが! エオルゼア一の酒場の店主。気前がいいね」
 「褒め叩いてもギルはこれ以上出ねえぞ。それにしてもお前さん、相変わらず暑苦しいんだか涼しいんだかわからん格好をしているんだな」
 「ん?」
 アルセナはバデロンに指摘され改めて自分の格好に視線を落とした。
 大胆に露出した鎖骨と胸元。胸を覆っているのは心許なそうな布製の胸当のみだ。
 「この格好、敵と相対したときに結構な心理的効果があるんだよ。人間の――特に男性相手にはね。魔物や妖異には効かないけど」
 「戦闘の前衛を担当するには防御性能的に不安じゃないのか?」
 「一応、製作の過程で素材に色々と細工を施したオーダーメイド品なんだけどな。それに使える武器は徹底的に利用する。当たるくらいなら見切る、避わす、受け流す。それがあたしの戦い方。商通りの店頭に平積みされている小説の世界ならいざ知らず、どんなに優れた防具で身を固めていてもクァールの爪撃や巨人族の棍棒、ガ級の攻撃魔法が直撃したら防御魔法(プロテス)の恩恵下でも致命傷は免れないんだし」
 アルセナはホルダーから二本目のタバコを引き抜きながら毅然とした口調で言った。
 「確かにな。まあせいぜい怪我はしないように気をつけるこった」
 バデロンの言葉にアルセナは肩をすくめた。
 「それにしても」
 アルセナはバデロンに口端を吊り上げて見せた。
 「肌を露にした女性の格好に注目するところを見ると、おやっさんもまだまだ枯れてないみたいだね」
 シッシッシと意地悪そうに笑う。
 「アホ」バデロンは乾いた口調で言った。「色欲の類とは三〇に突入した頃にオサラバしてるわ」
 「何だ、つまんない」
 アルセナは心底ガッカリしたように唇を尖らせた。
 「あんまりおじさんをからかうない」
 「こりゃ失礼いたしました」
 帽子の天辺に手をやり、舌を出して見せる。
 「それじゃ報酬の件よろしく」
 「おう。そっちも気をつけてな。解決したら教えてくれ」
 アルセナは片手を上げて応えると、外套の裾を翻して踵を返した。その足を〈ミズンマスト〉の方へと向ける。
 「そういえば」立ち止まり振り返る。「おやっさんはもう冒険者に復帰しないの?」
 アルセナの問いにバデロンは肩で小さく笑って見せた。
 「五年前のカルテノーで七獄の底を見ちまったからなあ」
 バデロンはアルセナに分厚そうな両手の平を繰り返し開いて見せた。短い皺が勲章のように刻まれた一〇本の指。
 「残りの人生を使ってこいつが全部無事だったことに恩返ししなきゃならん。お前さんも引退する時は五体満足でいれるようにしとけよ」
 先輩からの忠告に小さく口元を綻ばせると、アルセナは前を向き直し歩き出した。
 横から吹きつける海風が頬を叩いた。
 霊災。
 階段に足を下ろし、火の点いてない煙草を咥えるアルセナの脳裏に当時の記憶がよぎった。
 赤々と燃える南の空、その空に浮かぶ黒く巨大な影、降り注ぐ光閃の嵐……。
 その前後のことは記憶が朧気でよく覚えていない。
 自分の故郷はそれからほどなくして大寒波に見舞われ、凍てつくような冷気で支配された白の氷獄と化した。
 アルセナは階段を降りると足を止め、マッチを擦り、手で包み込むようにしてタバコに火を点ける。
 マッチの火を振り消し、煙を吐くと、帽子のつばを親指で押し上げて西の空を振り仰いだ。
 視線の彼方。青いカーテンに覆い隠されて浮かぶ銀色の月。
 いまから約五年前、その傍らには赤い血に似た色をした星が瞬いていた。
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