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Mel Trex

Durandal (Gaia)

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第5話 「"何でも屋"メル&トレックス」

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前話 第4話「漆黒の双角」




「おーいメル!」

自分を呼ぶ声に気づき、わたしは商品の在庫を確認する手を止め「はーい」と大きな声を返す。

「ああ、そこにいたか。忙しいところ済まないが、これを望海楼まで届けてくれないか?」

倉庫の戸口に立ったアウラ・レンの熟年男性が笑顔を見せている。その手には着物が包まれていると思しき風呂敷包みが抱えられていた。

彼の名は"ヤギリ"という。ここ、クガネでそこそこ名のある呉服問屋を営む商人で、わたしはこの呉服問屋で小間使いとして働いている。元々両親がここで働いていたのだが、わたしが幼い頃に"旅先で事故に遭い"亡くなった。そして孤児となったわたしをそのまま引き取る形で置いてくれているのだ。両親の詳しい死因は聞かされていない。

ひんがしの国において圧倒的多数を占める種族はヒューラン族である。ここクガネもその例に漏れず、人口構成の主はヒューラン族なのだが、わたしやヤギリのようにアウラ族も別に珍しくはない。元々交易の中心として栄えている街である。港にはひっきりなしに各国の交易船が出入りし、種族問わず多くの人で賑わっている。

「はーい!わかりました!」

わたしは笑顔で答えると、襷を解き、着物の袖を正しながらその風呂敷包みを受け取った。

「それが終わったら今日はそのまま上がってよろしい。温泉にでも浸かって来なさい。」

「本当!?やったぁ!」

優しく微笑むヤギリに言われ、わたしは飛び上がって喜んだ。後ろに結われた長い髪がわたしの心と同じ様に軽く踊る。

「こらこら!慌てて転んで着物を台無しにするんじゃないぞ。」

と笑うヤギリへの返事もそこそこに、大急ぎで下駄を突っ掛けると、店を飛び出した。

いい天気だ。
空は青く澄み渡り、柔らかな日差しが眩しい。季節は春、気温も良好、熱くも寒くもない最高の散歩日和だ。わたしは立ち止まると目を閉じて、いっぱいに空気を吸い込んだ。微かな潮の香りと共に春の匂いが鼻をくすぐる。

「おっメルちゃん、こんにちは!今日はお使いかい?」

立ち並ぶ店先の顔見知りの番頭が声をかけてくる。

「シノノメさんこんにちは!はい、望海楼さんまでちょっと!」

わたしは考えられる限り最高の笑顔でそれに答えた。

「あらメルちゃん!すっごく可愛い髪飾り入荷したのよ!見て行って!」

今度は通りの向かいから声が飛ぶ。わたしはそちらにも笑顔を向けると「お使いが終わったあとで覗きます!」と返した。わたしはこの皆が明るいクガネが大好きだった。また違う方向からかけられた声に手を挙げて応える。着物の袖からアウラ・ゼラ特有の黒い鱗がちらりと覗いた。



それからしばらく後、わたしは大好きだったクガネを発つことになる。呉服問屋を取引で訪れていたウルダハという国の商人が、世にも美しい織物を持ち込んだのだ。当然、向こうの住人からすれば、こちらの織物が珍しく、美しい物として重宝されるのであろう。だからこそ交易、というものが成り立つ。わたしは見知らぬ土地の見知らぬ紡織技術によって創り出された"美"の虜となった。

わたしはその日のうちにヤギリにせがんだ。ウルダハに行きたい、他の国の織物を直にこの目で見たい、と。初めヤギリはなかなか首を縦には振らなかった。あまりに長い旅路、ガレマール帝国を始めとした各国の緊迫した情勢、そして何より、同じくエオルゼア地域へと旅立ったまま消息を絶った、わたしの両親の事も彼の頭にはあったのかも知れない。しかし、織物を扱う職業人として、他国の技術を学ぶことは当然の事だと食い下がるわたしに、彼はついに折れた。後日クガネに逗留していた件のウルダハ商人に話をつけてくれ、わたしは晴れてウルダハへの帰路に同行する運びとなった。

クガネを出立する日には、ヤギリだけでなく大勢の顔見知りが見送りに来てくれた。楽座街の住人、小金通りの商人達まで勢揃いで手を振ってくれた。わたしはいつもにも増した飛び切りの笑顔で皆に別れを告げ、必ず帰って来ると約束した。

乗り込んだリムサ・ロミンサ行きの船は、真っ白な帆に紅玉海の潮風をいっぱいに受け、力強く出港した。わたしは甲板から、小さくなりゆく皆の顔が見えなくなっても、いつまでも手を振り続けていた──。



             ♦︎



「──で、途中であいつらに捕まったってわけか。」

トレックスは軽く首を横に振ると、目の前のジョッキを手に取り、一気に飲み干した。

「おい!バーテン!ビールだ!」

空のジョッキを高く上げ、背後を振り返って大声で催促する。テーブル席から少し離れたカウンターから「あいよぉ!!」という威勢のいい声で、赤ら顔のルガディンが応えた。あの野郎、今日はやけに機嫌がいいな…。トレックスは訝しみながらも正面に視線を戻す。そこには、ウルダハの掃き溜めのような酒場に不釣り合いな、可愛らしいアウラ・ゼラの女性が座っている。アマルジャ族の牢獄から助け出してからひと月半が経ち、当初のやつれ果て、見窄らしい姿から一変していた。

彼女──メルを助け出した当時、すぐにウ族のオアシスに連れ帰ったトレックスは、ウ・オドに彼女を治療するように依頼した。まさか"ウルダハの商人"が生きているとは思っておらず、その上トレックスが抱えていたのがアウラ族の女性であったことに、ウ・オドは心底驚いていた様子だったが、すぐに一族の治療士を連れて来てくれた。しかし、大した設備も薬もない砂漠の中の集落では、彼女の命を救うことは難しかった。結局、ウ・オドが手配してくれたチョコボキャリッジでウルダハに戻り、顔が利く軍病院にメルを入院させたのだ。帰還する途上で既に意識を失っていたメルが、目を覚ますまでに一週間。それから満足に自分の脚で歩けるようになるまで、更に三週間を要した。そしてそこから二週間後の今日、漸く退院し、"祝い"と称してこの馴染みの酒場に連れて来たのだ。

「それで…お前はどうやって生き延びた?一緒だった筈の商人さんはとっくに死んじまってたようだが…。」

前髪を指先で弄りながら落ち着きなさげにしているメルに、トレックスは疑問を投げかけた。助け出した当時は長髪だったが、流石に傷みが激しかったためだろう、今では短く切り揃えられ、染めて貰ったのか、淡い茶髪となっていた。

「食事も碌に与えられなかったんだろ?よく半年近くも持ち堪えたな。」

メルはそう聞くと、少し考える素振りを見せ、そしてやや俯いてつぶやくように答えた。

「…食べ物は、時々、ほんの少しだけ貰えてた。それでおじさんは…スレイマンさんは、それを全部わたしに食べろって。」

「なるほど。」

そういえばあの商人の名は初めて聞いたな…。スレイマンというのか。

「おじさんは『君は預かりものだから、絶対に生き延びてうちに帰るんだぞ。』って言って渡される食べ物や飲み物を全部わたしによこしたの。はじめは断ったけど、受け取ってくれなくて…。」

そう言葉を続けるメルの目にはみるみるうちに涙が溢れて来た。

「それで…それで…最後は水も飲めなくなっちゃって…。『もし帰る事が出来たなら妻によろしく頼む。』って…。」

「わかった!わかった…もういい、済まない。嫌な事を思い出させてしまった。」

声を震わせポロポロと涙を溢すメルを慌てて制止し、トレックスは詫びた。
そうか…あの商人、なかなかに気骨のある人物だったようだ。ウルダハに帰還し、メルを入院させた後、トレックスは依頼人の夫人の元を訪れ、悲しい結果と遺骨、それに依頼されていた指輪を手渡した。夫人は泣き崩れながらもトレックスに感謝の意を表し、報酬として約束の4倍、200万ギルを支払った。その上メルの話を聞いた夫人は、彼女の治療費を全額負担する、と申し出てくれたのだ。まぁ、この話はメルがもう少し落ち着いてから伝えることとしよう。

「よぉトレックス!!なんだぁ?いきなり泣かしたのか!お前はこんな可愛い子ちゃんもマトモに扱えねぇんだな!」

突然横からルガディンのバーテンが大きな声で割って入ってきた。声と同じく大きな手で持ったジョッキを勢いよくテーブルに叩きつける。例に違わず中身のビールが宙を舞う。

「かわいそうに!お嬢ちゃん?こんなむさ苦しい髭面より、俺とカウンターでおしゃべりしないかい?」

全くもって似合わない猫撫で声でメルに話しかけるバーテンに、トレックスは大袈裟にため息を吐いた。溢れたビールでびしょびしょになったジョッキを掴み、ぐいと煽る。ははーん、こいつが妙にご機嫌なのは、メルのせいか。まぁ無理もない、こんな場末の酒場に来る女は大抵は情婦か兵士だ。可憐で見目麗しい"お嬢さん"なんて来ることはないからな。

「おら、酒を置いたならさっさとカウンターの後ろに帰れよ飲んだくれ。」

トレックスは片手でシッシと払いのけるジェスチャーをしながら言い放つ。

「なんだよ、いいじゃねぇか少しくらい。今日は暇なんだ、酒飲むくらいしかやる事がないからよ。」

いつもじゃねぇか。トレックスは声に出さずに突っ込みを入れる。

「それで?お嬢ちゃんは名前はなんで言うんだい?」

バーテンはトレックスに構わずメルに話しかける。

「メル。名前はメルです。」

メルは涙を拭いながら少し微笑んでバーテンに答えた。優しい子だ。こんな酒臭い粗野な野郎にも少しも嫌な顔せずに愛想良く応対している。トレックスは傾けたジョッキ越しに二人の様子を見ながらそう思った。赤ら顔のバーテンは嬉しそうにガハハと高らかに笑っている。

「おじさんは、なんていう名前なんですか?」

そう聞かれたバーテンは、待ってましたと言わんばかりに、得意げに答えた。

「おう!俺の名前は"バーテン"だ!職業もバーテンだが、名前もバーテンだ!」

そう言うとバーテンはまたガハハと笑う。酔っ払いめ、何がそんなにおかしいんだ。

「名字は無い、故郷を出る時にとっくに捨てたんだ!名前なんてな、誰のことかわかりゃあ何だっていいんだ!なぁ、トレックス!」

「うるせぇな。またその話かよ。」

唐突に話を振られたトレックスは苦々しい顔をしながら渋々応える。

「こいつもな、いつのまにか"トレックス"って呼ばれてただけで、本当の名前なんか誰も知らねーんだ。でも誰も気にしねぇ、トレックスはトレックスだからな!もしかしたら…本人は気にしてるかも知れないがな!」

バーテンは心底おかしくてたまらない、といった様子で腹を抱えて笑い転げる。いかれちまってるのかコイツは。だが、確かにそうだ。記憶にもない頃に俺は親に捨てられ、物心ついた時には既に掃き溜めの一員だった。誰が呼び始めたのかもわからないが俺は気づいた頃には"トレックス"だった。

「そうなんですね。ならわたしも同じです。名字はありません。ただの"メル"です。」

そう言ってにっこりと微笑んだメルを見て、バーテンは笑うのをやめ、トレックスと顔を見合わせた。そして「なんていい子なんだぁ。」と言いながら両手を顔の横で組み、腰をくねらせながらカウンターの方へとフラフラと去って行った。その様子を見てメルはクスクスと笑い、「面白い人だね。」とトレックスに笑いかけた。トレックスはその言葉に苦笑いで答えるので精一杯だった──。



          ♦︎



数日後、トレックスはいつものように酒場の掲示板に貼られた依頼書と睨めっこをしていた。相も変わらずマトモな依頼が無い。トレックスは腕を組み、唸るような声を漏らしながら掲示板を睨みつける。背後からは眠りこけたバーテンの高いびきが聞こえてくる。スレイマン夫人から200万もの大金を受け取ったとは言え、仕事もせずにフラフラしていたらあっという間に資金は尽きてしまう。何かありつかねえと…。そう考え込むトレックスは背後から近づいてくる人物に全く気づかなかった。

「よっ、トレックス!」

背中をつつかれ、初めて気づいたトレックスは驚いて振り返った。そこには革のジャケットに身を包み、ハーフパンツにブーツという出立ちのメルが得意げな顔をして立っていた。その上どこで拵えて来たのか、小振りな片手剣まで腰に下げている。ハーフパンツから伸びる白い脚が眩しい。トレックスは少しばかり狼狽し、視線を上下させながら答えた。

「なっ…お前…。なんだその格好、何しに来た?」

「へへー、格好良いでしょ。」

メルは白い歯を覗かせながら笑う。

「トレックスから貰ったお金で揃えたんだ。ありがとうね。」

「あ、ああ。いいんだよ、別に礼なんかよ。それよりいつまでこんなとこに居るつもりだ?クガネに戻るんだろ。さっさと戻らねえと、心配されてるだろう?」

トレックスは少し照れ臭くなって視線を逸らし、顔の前で片手を振った。

「うーん。」

メルは何故か考えるような素振りをしている。

「なんだ?違うのか?」

そう聞いたトレックスに対し、メルは笑みを浮かべると、こう言った。

「しばらくウルダハに留まって、トレックスのお手伝いをすることにしたんだ!トレックスって"何でも屋"なんでしょ?」

突然の申し出にトレックスは更に驚く。

「んな!何を言ってんだお前…。それに、なんだその"何でも屋"って。俺は傭兵だ!ようへい!」

「えー?そうなの?バーテンさんが言ってたんだけどな。『あいつは"何でも屋"だー』って。」

あの野郎…。俺の知らないところで勝手な事を吹き込みやがって…。トレックスはカウンターにもたれかかり大いびきをかくルガディンを忌々しそうに睨みつけた。

「でもさ、トレックス。ここの掲示板に、その"傭兵さん"がするような依頼、あるの?」

メルは状況を知ってか知らずか、悪戯っぽい声でトレックスに問いかける。

「ぐ…。」

痛いところを突かれたトレックスは答えに詰まる。

「でしょ?ならさ、選んでないで"何でも"やらなきゃ!ね?わたしも手伝うから。」

それ見た事かとメルの声が弾む。

「ほら、これなんかどう?『アルドゴートの角と肉求む』…ゴートっていうくらいだから山羊かな?ラクショーじゃん!」

一枚の依頼書に目をつけたメルが嬉しそうに指差してこちらを見る。馬鹿野郎、見たことねえのか。ゴートって言ってもな、クソでけえんだよ。お前なんか一発で吹っ飛ばされちまうよ。トレックスは無言で答える。

「そうそう!見て!わたしもトレックスみたいな剣作って貰ったんだ。これでわたしも戦えるよ!」

トレックスの心中を察してるのか察していないのか、メルは無邪気に剣を抜き振り回して見せた。

「うお!危ねえ!!?馬鹿、やめろ!」

唸りを上げる切先をすんでのところで躱したトレックスは慌てて静止する。

「はぁ〜、ったくよ。マジでどうなっても知らねぇからな。」

トレックスはため息を吐いた。仕方ない、こうなったら一度だけ連れて行ってやろう。どうせ泣きべそかいてもう二度と行かないと言うに違いない。そうなれば、さっさとクガネ行きの船に乗せておさらばだ。

「やったぁ!いいの!?」

相変わらずメルはトレックスの心中を察しているのか察していないのか、未だに無邪気に振る舞っている。

「へいへい、さあ行きますかね、お姫様。」

トレックスは露骨に嫌味ったらしく返事をしながら『アルドゴート──』の依頼書を掲示板から剥がす。

「へへっ、それじゃあ…"何でも屋"メル&トレックス、出発ー!」

可愛らしく片手を挙げたメルの明るい声が酒場に響き渡る。

「だからその"何でも屋"ってのはやめろよ!それになんでお前の名前が先なんだ。トレックス&メルだろう。」

「ええー?いいじゃん別に……!」





──騒々しくやり合う二人が去り、酒場にはいつも通りの静寂が戻って来た。酔客はひとりもいない。そこにはただ、飲んだくれのバーテンがかく大いびきだけが、ハーモニーを奏でていた────。






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