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Bulwark Between Worlds

Juliette Blancheneige

Alexander (Gaia)

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『Mon étoile』(5)その一

公開
5-1

 それから数か月の間、ヤヤカは研究に没頭した。
 仲間たちとパールで会話をすることもしなかった。
 ビアストに強要されるパーティやセレモニーの類も、本当に冒頭だけ出て帰った。そうして、寝食を削り、黙々と研究を続けた。
 その甲斐あって、ヤヤカの執念は結実した。扉の文字は、おそらく解読できた、と思う。無論、正解を確認するには、あの場所へもう一度行かねばならないが。
 仲間たちに連絡を取ろうとして、そこでヤヤカは逡巡した。
 自分の立場をどう説明すればいいのか。資金面の話がある。説明しないわけにはいかない。
 けれど――テオドールにどんな顔で会えばいいのか。
 無論、この想いはヤヤカの一方的な想いだ。テオドールに自分の気持ちを伝えたことはないし、知られていないだろう。
 だとしても。だからこそ。
 再会したら、泣いてしまいそうで。
 ヤヤカは迷った。けれど、彼らと一緒でなければヤフェームへは行けない。行けないし、行きたくない。彼らと共に、マハへと辿り着く。それが今のヤヤカの望みだった。ゆえに、ヤヤカは彼らを呼ばなければならない。
 迷った末に、ヤヤカはまずモモディに自分の立場を説明に行こうと決めた。
 冒険者ギルドの顔役であるモモディは独自の情報網を持っている。おそらく自分がどうなったかを知っているはずだ。彼女に相談してみようと思ったのだ。
 
 ギルドへ向かう支度をしているヤヤカの元へ、珍しく直接ビアストが来た。
「どこへ行く?」
「……クイックサンド。ヤフェームへの現地調査を再開するって、この間言ったでしょう。その打ち合わせよ」
「おう、そうか。しっかりやりな」
 意外なことに、ビアストはスポンサーとしては極めて誠実で協力的だった。
 言った通りシシフカの三倍以上の資金を提供し、その代わりにヤヤカの研究の進捗状況を報告するよう求めてきた。模範的なスポンサーの在り方だった。ある意味、ヤヤカが一月で成果を形にできたのは、ビアストの進捗管理があったからと言えなくもない。皮肉な結果であった。
 お飾りとして引っ張り出されることと、研究の進捗。それ以外のところでビアストはヤヤカに干渉してくることはほとんどなかった。だから、少しだけ忘れていたかもしれない。
 この男が、ブライトリリーの家を乗っ取った男だということを。
「じゃあそのまま準備しながら聞いてくれ。今日からお前に専属の側仕えを付ける。クラリッサ、入れ」
「――失礼します」
 抑揚を感じさせない冷たい声と共に、ミッドランダーの女性が入ってきた。ミッドランダーとしては背が高い方だ。年の頃はヤヤカより少し上くらいだろうか。表情に乏しく、眼鏡の奥の瞳は無感動にヤヤカを見ている。黒髪をきつく束ね、地味な色のチュニックとサルエル。意図的に目立たないようにしているのかもしれない。
「側仕えなんて……」
「クラリッサ・リーガンと申します。誠心誠意、務めさせていただきます、ヤヤカ様」
 思い切り顔をしかめたヤヤカに、クラリッサは一礼した。親愛の情の欠片もない、オートマタのような挨拶だった。
「さすがにヤフェームまでとは言わねえが、ウルダハにいる間はこいつを使え。寝起きに着替えもしねえ生活よりはマシだろうぜ!」
 ビアストは笑うが、ヤヤカは欠片も笑えなかった。それは要するに監視だったし、何より――目が。
 ガラス玉のような目でじっと見つめられるのが、ヤヤカには堪らなく不愉快だった。

 結局、ヤヤカはクラリッサを伴ってクイックサンドへ向かった。
 クラリッサは必要な事柄以外全く喋らず、またヤヤカもビアストの部下と会話をする気は無い。ゆえに、並んで歩きながらも二人はずっと無言でいた。
 道中、一度だけヤヤカはクラリッサを見上げた。
 真っ直ぐに前を向き、無表情で歩く彼女は、こちらに気が付いていないようだ。背が高いせいでヤヤカの視線に気付かないのかも知れないし、実は気付いていて無視をしているのかもしれない。
――ビアストさんは背の高い女が好みなんだよ。
 オスカーの言葉が思い出される。
 あのとき寝室で見た顔ではないが、この女もビアストの愛人ということなのだろうか。そう考えると、ますます嫌悪感が増した。

「いらっしゃい。久しぶりね、ヤヤカ」
 モモディはカウンターの向こうから、変わらぬ笑みでヤヤカを迎えてくれた。
「後ろのかたは?」
 水を向けられたクラリッサが、ヤヤカにしたのと寸分違わぬ挨拶をする。
「初めまして、モモディ様。クラリッサ・リーガンと申します。ヤヤカ様のお世話をさせていただいている者でございます」
「……気にしないで。ミニオンかなにかだと思ってて」
 ヤヤカは冷たく切って捨てると、クラリッサに「離れてて」ときつい口調で命じた。無視されるかと思ったが、クラリッサはかしこまりました、と言ってカウンターから数ヤルム離れる。ちょっと意外な感じはしたが、それよりもせいせいした気分のほうが勝ったヤヤカは気にも留めなかった。
「色々大変なことになってるみたいね」
 苦笑しながら、モモディは座ったヤヤカの前に冷えたロランベリーラッシーを置いた。初めて出してもらって以来、お気に入りの飲み物だ。
「ありがとう。……何があったかは、知ってる?」
「ええ。おおよその事情はね。厄介な男につけ込まれたわね」
「ビ――ビアストのことを知ってるの……?」
 大きな声を出してしまってから、ヤヤカは慌てて声を潜め、ちらりと後ろを振り返った。クラリッサはテーブル席とカウンターの間にある柱の傍らに立っている。大きな声を出せば聴こえてしまうだろう。
「少し前から話題にはなっていたのよ。飛ぶ鳥を落とす勢いで事業を拡大する新進気鋭の商人、って。――だけど、やり方が利益偏重で、貪欲過ぎる。そういう批判もあったわ」
 そうなのだろう、とヤヤカは思った。この数か月に何回かパーティやセレモニーの類に出させられた時も、そういう声を聞いた。性急で容赦がなく、腰を据えるということを知らない、と。
「それに」
 モモディも声を潜めた。やはりちらりとクラリッサを見てから、続ける。
「犯罪まがいのこともしている、ってウワサよ」
 それも、ヤヤカには頷ける話だった。屋敷に出入りする男たちの中には、明らかに暴力の雰囲気を身にまとった者がいる。冒険者とは違う、“人”に暴力を振るうことを生業としているような者たち。
「……そう、かも。――でも」
 ヤヤカは声を潜めたまま、モモディに事の発端が両親の借金にあることを告げた。彼らを、いわば人質に取られているのだということも。
「……難しいわね」
 モモディは肩をすくめた。
「ビアストが貴方を暴力で服従させているならともかく、貴方にも利があるように仕向けている。貴方自身ではなく、ご両親と貴方の夢、どちらもを盾にしているのね」
 そう。ヤヤカが夢へ向かって歩むことは、今やビアストの後押しが無ければ成立しない。それを享受している以上お前も共犯だ、と、ビアストは言外に示している。
「…………」
 黙りこくったヤヤカの前に、モモディがパイナップルケーキの皿を置く。その仕草のまま、彼女はヤヤカへ耳打ちした。
「――少し調べてみるけれど。冒険者ギルドとビアストが対立するようなことにはしたくないわ。私個人の動きになるから、時間がかかる。よくって?」
「ありがとう……!」
 顔を上げたヤヤカに、モモディは微笑を返し――
「それと、テオドールたちにはもう伝えておいたわ」
 ヤヤカが一番気にしていたことを、さらりと告げた。 
「え」
 心臓が跳ねる。もう、テオドールたちは知っているのだ。自分が、形式上にしても、あのルガディンの妻になっていることを。
 どう思われているだろうか。
 軽蔑されていないだろうか。
 怖い。
 顔がこわばって、喋ることもできなかった。
 我知らずうつむいていたヤヤカに、モモディが少し声を落として言った。
「……みんな、怒ってたわよ。ゴールデン・ビアストに」
「……え?」
「リンクパール越しだから、どんな顔をしていたかは分からないけれど。少なくとも、貴方に対し怒っている人は誰もいないわよ」
「…………っ!」
 ――涙が。
 我知らず零れ落ちていた。
「だから、安心して呼びなさいな。皆ウルダハに戻ってきているわ」
「……うん」
 ヤヤカはやっとそれだけを返した。涙が止まらず、しばらくヤヤカは泣き続けた。

 数日後。
 ヤヤカは仲間たちと再会した。
 泣くまいと思っていたヤヤカだったが、皆の――テオドールの姿を見た途端に涙が溢れてしまった。
 全員無事に帰ってきてくれた。そのことだけで、ヤヤカの胸はいっぱいになってしまう。だから、収まり切れない気持ちは涙になって外に出てくるだろう、とヤヤカは思った。
 驚いたのは、会うなりノノノに抱きしめられたことだった。
「ごめん」
 問う前にノノノは言った。
「ヤヤカが一番つらかった。わたしたちはいつものように、どたばたしてただけ。ヤヤカがたいへんなときに、そばにいられなかった。ごめん」
「そんなこと……ないよ。命を懸けて戦ってる皆のほうが、大変だったでしょう? わたしは――怪我も何も……ないから」
 想いを上手く言葉にできず、ヤヤカは泣いた。ノノノも泣いた。しばらく二人のララフェルは抱き合って泣いていた。
「全部、ノノノに言われてしまいましたね」
 テオドールの優しい声に顔を上げると、跪いた彼と目が合う。青い瞳。優しい微笑が、こちらを見返していた。
「ただいま戻りました、ヤヤカ・ヤカ」
「……おかえりなさい、テオドール・ダルシアク」
 いつものように言葉を交わす。たったそれだけのことで――ヤヤカの心は引き裂かれた。
 安堵。思慕。逃げたい。このひとと一緒に、すべてを捨ててしまいたい。
 うしろめたさ。怯懦。夢のためと称して、両親を助けるためと言い訳して、このひとを裏切った。
 思いがないまぜになって、気を失いそうだった。
「ヤヤカさん?」
 案じたテオドールに、涙を拭いて笑い返す。
「ううん。大丈夫。――皆も、お帰りなさい」
 テオドールだけではなく、メイナードにも、リリにも笑いかける。そうだ。わたしは、大好きな皆と共に戻るんだ。――あの場所へ。
 今はそれだけを。
 ただ、それだけを想おう。

 落ち着いてから、ヤヤカは仲間たちに自身の研究の成果を報告した。
 扉の文字は、おそらく解読できたこと。
 そちらに注力したために、『石壁』の調査はほとんど進んでいないこと。
「いや、十分じゃねえか? この短期間で解読しちまう方がすげえぞ?」
 メイナードの指摘に、リリとノノノが頷いた。テオドールが言う。
「どのみち、我々の目下の懸案事項は例の扉の文字ですしね。それを試しに行きましょう」
 ヤヤカと冒険者たちは、扉の開封について話し合った。
 結論として、やはりテオドールたち四人以外の護衛役が必要だ、ということになった。例の妖異――ペルソナは、あの場にいる自分たち以外の『侵入者』のいずれかの背後に出現する。そのときヤヤカを護る者がいなければ、ヤヤカの安全が確保できない。
 スポンサーに話を通し、ヤヤカの護衛ができる冒険者を追加で雇う。具体的な人選に関しては、ギルドに選定してもらうのがよいだろうということになった。
 話がまとまった後、ヤヤカと冒険者たちはそのままクイックサンドで食事をした。そのとき、ヤヤカはこの飲食代を自分が払う――つまりは自分の奢りだと言った。ビアストから渡された金ではなく、自分自身のそれまでの蓄えを使って、無事に帰還した彼らの労をねぎらいたいと言ったのだ。
 多少の躊躇はあったが、結果的に冒険者たちはその申し出を受け入れた。
 そうして、ささやかな酒宴が始まった――のだが。

「我らがナナモ陛下にぃー! かんぱぁい!」
「かんぱぁい!!」
「そして今日の恵みを与えてくれた、ヤヤカ・ヤカ嬢に、かんぱぁーい!」
「かんぱぁーーい!」
 本日何度目かの大合唱が、クイックサンドに響いた。掲げられる酒杯、もしくは骨付き肉。
 今や酒宴はクイックサンド全体を巻き込んでいた。
 元はと言えば、仲間たちと知己の冒険者が通りすがったことがきっかけだった。
 彼もテオドールたちが一時期分かれて活動していたことを知っており、その顛末を聞きたがった。いつもはやや人見知りなヤヤカだが、今日は少しだけ、騒がしい方がよかった。だから、ヤヤカは彼の同席を許可した。
 ところが。
 後から彼の仲間が来た。当然ではあった。ウルダハの冒険者ギルドに所属する冒険者ならば、合流や打ち合わせはここですることが多いからだ。
 彼らの同席も、ヤヤカは許した。彼と彼の仲間たちはとても人当たりがよく礼儀正しかった。だから、ヤヤカは彼らの同席を許した。
 そこに、駆け出しの冒険者と思しき一団が通りすがった。
 彼らはメイナードの語るドラゴンとの闘いを興奮した面持ちで聞き入っていた。だから、ヤヤカは彼を席に招いた。仲間に向けられる尊敬の眼差しは、自分のことのように嬉しかったからだ。
 さらに、ララフェルだけの冒険者集団へ、自分と同種族だという理由で同席を許した。
 ついでに、もはや規模が大きくなった酒宴のテーブルが足りず、他のテーブルに付いていた商人や観光客のテーブルを拝借し、当然彼らも招いた。
 明らかにヤヤカは酔っていた。
 けれど、いつもならそんなヤヤカをたしなめるはずのテオドールも、いつもより深酒をしていた。飲めば陽気になるメイナードとリリも、普段は酔った素振りも見せないノノノさえも、ヤヤカの奇行を止めなかった。
 かくして、クイックサンドは店全体を巻き込むような大宴会の会場となった。ヤヤカの蓄えはこれで吹き飛ぶようなものではなかったが、それでも大変な出費であることは間違いない。モモディはヤヤカに「貸しにしておくわよ?」と言い、肩をすくめた後に笑った。

「――いっぱい笑っちゃった! こんなに笑ったの、久しぶり」
 ルビーロード国際市場のテラスで、ヤヤカはテオドールを見上げて言った。
 夜風が心地いい。酔い覚ましにと、喧騒が続くクイックサンドから出て正解だった。
「少しでも気晴らしになれたなら、よかったです」
 こんな酒宴は私も初めてですが、と言ってテオドールは苦笑する。
 深夜に差し掛かろうという時間ゆえに、さしものルビーロードも閑散としていた。踊り子たちの姿もない。それでも、人通りが絶えはしないのがウルダハらしかった。
 ヤヤカの視界の端に、クイックサンドの扉近くに立つクラリッサが映る。あの大宴会の最中でも、彼女は余人と一切かかわらず、彫像のように立ち尽くしていたのだ。不気味さを感じる。頭を振ると、ヤヤカは彼女の姿を脳裏から追い払った。
「……テオも、お父様の真意が知れてよかったね」
 テオドールの父であるダルシアク伯爵が失踪し、異端の嫌疑をかけられたことが、彼の帰郷の理由だった。紆余曲折の末に疑いは晴らされ、テオドールは父と五年振りの再会をした。
 五年前に皇都を出奔したことで、テオドールは父から叱責されると思っていた。代々神殿騎士である生家を捨て義務を捨て、一介の冒険者にの身をやつした自分はきっと疎まれている。そう、思っていたのだが。

――ダルシアク家の家訓は『この身は人の剣なり』。これはな、ただこれだけのモノだぞ。神殿騎士団になれという深読みなど、周囲の者の思い込みよ。
 この家の者は皆、自分がどうすれば“人の剣”足り得るかを考え、結果的に神殿騎士団を選ぶものが多かった。ただ、それだけの話だ。
 お前はお前のやり方で、“人の剣”たらんとしている。
 これに何の異を唱えることがあろうか。
 堂々とせよ、テオドール。我が自慢の息子よ。

 父はそう言って、テオドールを送り出したのだ。
「ええ。――背中を、押された気がします」
 テオドールが嬉しそうに微笑む。彼の心が晴れたことがよくわかる笑みだった。
「だから」
「え?」
 はっきりと声を張って、テオドールは真っ直ぐにヤヤカを見た。
「今ならより強い覚悟をもって、貴方に誓うことが出来ます」
 真摯な表情に、ヤヤカは目を離すことが出来ない。
 テオドールは跪いた。騎士が誓いを立てる姿勢。片膝を立て、その上に腕を乗せ、首を垂れた。剣こそ捧げ持ちはしなかったが、美しい所作だった。
 それから、不意に。テオドールは声を潜めた。
「……私の想いは、変わりません。貴方が、どんな立場になろうとも」
「……え?」
 問いただす前に、テオドールは顔を上げる。再び、よく通る声でヤヤカに告げた。
「かの地で、伝説のマハを見出すこと。これはもう、私にとっても――仲間たちにとっても、叶えるべき夢です。貴方と共に叶えるべき、夢です」
 私にとっても。貴方ともに叶える、夢。
 その言葉がヤヤカの中で、暖かな火を灯した。
 嬉しい、と心から言えた。
「わたしも、あなたと――あなたたちと一緒がいい。一緒に、マハへ辿り着きたい」
 見つめ合う二人は頷き合った。テオドールが言う。
「共に、かの地へ」
 ヤヤカも応えた。
「共に、かの地へ……!」
 言い終えたヤヤカの手を、テオドールが取って――キスをした。騎士が貴婦人にする、一瞬だけの、触れるか触れないかのくちづけ。
「…………っ!」
 驚いたヤヤカは息を呑んだまま、言葉も出ない。テオドールの唇が、自分の手の甲に触れた。その事実を心が認識した途端、顔はおろか耳も首も真っ赤になってしまった。
 立ち上がり、戻りましょう、とテオが言う。戻れるわけがなかった。
 というか、その手を握る余裕もなかった。
「…………だいじょうぶだから」
 かすれる声で必死に告げると、ヤヤカはテオドールに背中を向けた。彼の顔をまともに見ていられる気がしなかった。
「しかし」
「お願い。すぐ戻るから。ちょっとだけ、一人にして」
「――わかりました」
 テオドールが立ち去る靴音もよく聞こえない。心臓の音がうるさい。
 嬉しい。
 嬉しい嬉しい嬉しい!
 大好きな人が、自分の夢を共有してくれた。ともに歩もうと言ってくれた。
 それだけで。
 天にも昇る心持なのに。
 でも。

 私の足には鎖が付いている。天には昇れない。

 視界の隅に、あの女が映る。あの男の監視役が、こちらをじっと見ている。
 くちづけされた手の甲をもう片方の手でぎゅっと握る。
 どうして。
 どうしてこんなことになっているのだろう。
 言いたい。
 言ってその胸に飛び込みたい。

 あいしてる、って、言いたいのに。

 大粒の涙が一滴、握りしめた手にこぼれた。
 哀切と慕情と――そして、暗い怨嗟が。ヤヤカの心に染みを作っていった。

(五章その二に続く)
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