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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander (Gaia)

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【魂を紡ぐもの セイン】1.5話後編『圧縮世界 フォルス・ヴォイド』4 屍の森

公開
4 屍の森

 通路に出ると、風景が一変した。
 洞窟の中は重苦しいほどの湿気に包まれている。天井から何本も蔓が垂らされ、壁や床にはびっしりと苔やシダが生えていた。
 水溜まりがそこかしこにある。
 壁に生えている大振りの花弁を持つ花が、青白い光を放ち、周囲を照らしていた。
「洞窟の中っつーより」
「森の奥深くみたいな感じだよね」
ルーシーとヴェスパが口々に言う。
「……だが、ひとつ違う点がある」
 セインの指摘に、ヴェスパが頷く。
「腐臭がする」
「ああ。しかもコイツは――」
 ルーシーが言い終わるより早く、天井からブツリ、と何かが千切れる音がした。
 間を置かず、一行の周囲に音の正体が落下してくる。
 それは、死体だった。
 死体は男女種族問わずあり、皆凄惨な傷を負った惨殺死体だった。皆一様に腐っている。
 その死体が、起き上がった。
 かはぁ、と口が開き、強烈な負の気を吐き出す。動死体が、一斉に襲い掛かってきた。
「いくぞ」
 セインが即座に呼応して動く。動死体たちの敵視を奪うと、
「マジャ、解析を」
「おう」
 マジャが一体の動死体に触手を突き刺す。それは攻撃でもあるが、敵能力を解析する効果も持っていた。
「攻撃に毒付随! 範囲でゾンビー化撒いてくるぞ!」
「うわ面倒くせ」
 動死体は一体一体の強さはさほどではない。だが、数が異常に多かった。
 戦っている最中に天井から落下してくるのだ。
 マジャが雷撃魔法で天井を灼いたが、あっという間に蔓草が伸びて天井は再び植物に覆われ――死体も生えた。
 死体は天井から生えてきて蔓草に吊るされる。そして、この洞窟の天井には、最初からびっしりと死体が吊るされているのだ。
「キモぉ……」
 ヴェスパが心底嫌そうに呟いた。そうしている間にも、死体は降ってきて動死体となり、襲い掛かってくる。
「――なあ、気付いたか?」
 戦いながら、ルーシーがセインに言った。
「ミコッテの女だけ少ないな」
「そうそれ。それってさぁ」
「死体で区別がつきにくいが、“ムーンキーパーだけいない”ということだろうな」
「えーそれもう決まりってコトでは」
「じゃねーの? この先にいんのは」
「イーヴ・アシャール――“牙喰らい”のガエル・パジェス」

 死体は次々に降ってくる。
 洞窟は単純な構造で迷うことは無かったが、ひっきりなしに襲い掛かってくる動死体を倒し続けたため、一行は非常に疲弊し――態勢を整える暇もないまま、最後の広間へと到達した。
 そこは、おびただしい肉体で埋まっていた。
 広間の中央に、大きい樹が生えている。その樹の周囲に立てられた篝火によって、広間の床が照らされている。――ミコッテの女で埋められた床を。
 女はすべてムーンキーパーだ。皆死んではおらず、一様に瀕死で呻いていた。
「ころ……して」
「いたい……」
「……おかあさん……たすけて……」
「――!」
 咄嗟に助けようとしたヴェスパは、ルーシーに止められた。その目がライムグリーンに光っている。
「乗せられんな。全部マガイモノだ」
「心象世界の具現化というわけか? ――その女性も」
 セインが、樹の根元にうずくまる男に声を掛けた。男の頭上にある枝には、一人のムーンキーパーの女が吊るされている。腹を裂かれたその女だけが、死体だった。
「……無粋な連中だヨ……」
 言いながら、男が立ち上がる。かつてイーヴ・アシャール――もしくはガエル・パジェスと名乗っていた男は、異形の姿をセインたちに晒した。
 腕が長い。元々長い方で、猫背でさらに長く見えていた腕だったが、今は真っ直ぐ立っても膝を超すくらいに長い。
 全身を黒い短毛がびっしりと覆い、蜥蜴のような尻尾が生えていた。そこだけ、毛ではなく黒い鱗に覆われている。
 極めつけの異形は顔だろう。真っ赤な円形の目が、三つ。本来の両目があった場所と額に、瞼も瞳孔もないただ赤く光る目があった。鼻は無く、口が耳まで大きく裂けている。
「せっかく心地よい夢を見ていたのに……女の股に……この爪を突き込んで掻き回す夢だったのにサァ!」
 イーヴの両手の先が変容し、長く鋭い、赤黒い光を放つ爪が生えた。
 そして、言葉が終る前に――イーヴの姿は消えた。
「マジャ!」
 セインが叫びながら剣と盾を構える。気配が絶たれている――一瞬でそれに気付いたセインの対応策だ。
「応よ!」
 叫びに応え、マジャ・ト・セトランが雷を放つ。広間の大部分を覆う、広範囲に放たれた雷撃魔法が、床に敷かれた紛い物の生者を灼いていく。たとえ姿を消したとしても、こちらを攻撃するために近付いているならば、雷撃を喰らうはず――だが。
「セイン!」
 ルーシーが叫びと共に放ったルインラが、今まさに空中からセインの首を刈ろうとしていたイーヴの爪に直撃した。
「ヒヒッ……!」
 甲高い笑い声をあげながら、イーヴの姿が掻き消えた。
「嘘だろ!?」
 ライムグリーンに瞳を輝かせたルーシーが呻く。ルーシーの魔眼を以てしても視えない。イーヴの姿は完全に掻き消えていた。
「おいおい! 今のアリかよ!」
 マジャが悲鳴に近い驚きの声を上げた。今のイーヴは、『マジャの雷撃魔法はすり抜けたが、セインの首を狙っていた爪だけは実体化していた』のだ。
 しかも、セインの気配察知でもルーシーの魔眼でも追跡できない隠形。
「都合よすぎでしょ!」
 周囲に目を走らせながら、ヴェスパが叫ぶ。その背を、イーヴが切り裂こう――として、セインの剣に阻まれた。
 見知った人間の“危機”を察知できる――セインの異能だ。能動的な能力ではないが、今回はそれがぎりぎりで発揮された。
「ヒヒ――どこまでもつかねエ?」
 イーヴが嘲弄する。事実、このあとセインたちは三度四度と攻撃を受け、その度にルーシーの魔眼かセインの異能で対処したが、徐々に傷を負うようになってきていた。
「殺させておくれよ――弄らせておくれヨ! もう殺しの記憶を再現するだけじゃ満足できないんだヨ!」
 狂笑と共に、イーヴの爪が奔る。
「く――!」
 セインがイーヴの出現に対し、剣ではなく我が身で受け止める。首を狙った爪を、己の掌で受け止めたのだ。
「セイン!」
 ルーシーの叫びを受けながら、セインは爪に手の甲まで突きさされながら、もう片方の手でイーヴの手首を掴んだ。
「逃がさん」
「ヒ……ッ!」
 もう片方の爪がセインの顔面を狙い繰り出される。だが――フラッシュ。閃光の魔法を受けて、イーヴが怯む。そこへルーシーの魔法と、カーバンクル・サファイアの爪が襲い掛かる。
「ヒッ……ヒヒヒッ!」
 慌てたような声が途中から嘲笑うそれになり、その姿が消えた。掴まれていることは、その隠形の妨げにはならないようだった。
「ちょっと無茶しちゃって!」
 ヴェスパがセインの掌を掴んで治癒を施す。当然そこを狙うものと警戒したルーシーたちの裏をかいて、マジャの背が切り裂かれた。
「ぐぁっ!」
 反射的に放った雷撃も通じない。その姿は再び掻き消えた。
「あーくそっ! ジリ貧だぞこれ!」
 幾度目かの襲撃をしのぎながら、ルーシーが叫ぶ。
「奴の隠形の仕組みが分かれば……対抗策も考えられるが」
 答えるセインが、振り向いて剣を振るう。背後に迫っていたイーヴは、剣を透過させて再び姿を消した。
「たぶん、だけど。ヴォイド・クラックを複数発生させて、こっち側とあっち側を行き来しているんだと思う」
 ヴェスパの指摘に、なるほど、とセインが頷き、
「有効なのは次元系か」
「ってことは!」
 ルーシーが起死回生の策を得たりとセインを見るが、セインは首を横に振った。
 ルーシーの“切り札”、さらにその必殺の技であれば、次元の扉すら叩き切るだろう。だが、それは一度使えばしっかりとした休息を必要とする。この洞窟の中で、それだけの時間はかけていられなかった。
「ダメだ。まだ一体いるはずだ。切り札は温存しておきたい」
「けどさ!」
「あの!」
 二人の言い合いに、意を決したようにヴェスパが割って入った。
「?」
「対抗策は……あるんだけど」
 そう言ったヴェスパの足元に出現したイーヴの爪に、カーバンクル・サファイアが体当たりをした。ヒヒ、と嘲る声だけを残し、再び姿は消える。
「ありがと!」
 礼を言うヴェスパに、カーバンクル・サファイアがシャッ、と短く鳴いて返す。油断するなとよ、とマジャが通訳する。
「よっしイけヴェスパ!」
 今のやりとりなど無かったように、ルーシーがヴェスパを急かす。
「けど」
「?」
 ヴェスパが、ルーシーとセインをまっすぐに見る。その顔は怯えを含んで、唇が戦慄いていた。
「アタシさ」
「んだよ」
「実は、ふつうの人間じゃないんだ。んで、これからちょっと姿も変わっちゃうんだけど……」
「へー」
「へー!?」
 あまりにも薄いルーシーの反応にヴェスパは戸惑う。見れば、セインも特に驚いた様子もなく、イーヴの襲撃を弾いていた。
「わかった早くやれ」
「えええ!?」
「だってさ」
 焦れたように、ルーシーがヴェスパを見返す。
「うん」
「あたしもそうだし。どうでもよくね? そんなん」
「え」
 今が死地にあることも忘れて、ヴェスパは立ち尽くしてしまう。すかさずイーヴが首を刈ろうとするが、これはセインが十分に読んでいた。
「あたしもセインも、そんなん気にしないけど」
「ああ。想定内だ。むしろこれでただの人間だった場合、逆の興味が出る」
 あまりにも。
 あまりにも予想外の言葉過ぎて、本当にヴェスパは何もできなくなった。胸が苦しい。呼吸さえ止めていたからだ。
「そ……」
「それで?」
 ルーシーが笑う。その笑みが――嫌悪も憎悪も偏見も含まない、屈託のない笑みが、ヴェスパに覚悟を決めさせた。
 そのとき。
 背後から襲い掛かったイーヴの爪がヴェスパに迫り――
「そこッ!」
 ヴェスパの裏拳が、イーヴの顔面に直撃していた。
「が……ァ!」
 慌てて後退し消えるイーヴ。
「無駄よ」
 断じたヴェスパの瞳は、銀の輝きを宿していた。髪が煌めき、白銀のそれへと変化する。背より、光を織りなした翼が生えた。そして、アウラの角とは異なる角が、額よりやや上から生えた。すらりとした、丸い角だ。
「んだよ」
 ルーシーが楽しそうに笑った。セインがその笑顔を見て、おや、と呟いた。花が咲くような、美しい笑みだった。
「超綺麗じゃん!」
「そう?」
 はにかむ様に笑ってから、ヴェスパは表情を改めた。
 彼女の体から発した輝きが、玄室中を照らし上げていく。
「この身はアムダプールの秘術で作られしモノ。汝のごとき妖異を屠るために生み出された白魔道の化身なれば――」
 光が強まり、弾けた。
「あ……?」
 イーヴの姿が、露わになっていた。
「その隠形、封じたり!」
「バ――バカを言うんじゃないヨ!?」
 イーヴが隠形術を行使する。その姿は再び掻き消えた――が。
 光が。
 イーヴの体の中から白い光の命脈が発せられ、その姿を断続的に映し出していた。
 そこに、カーバンクル・サファイアが矢のように襲い掛かった。咄嗟に身を捻ったイーヴの肩を食いちぎり、反対側に着地する。
「あ!?」
 驚愕にイーヴの動きが止まる。降りかかる魔法と、セインの剣。慌ててイーヴは後退する。
 しかし。
 その動きは、体内の白光が炸裂したことで縫い取られた。これも――ホーリーだった。
 そして、動きの止まったイーヴの正面に走り込んだヴェスパが、白光に輝く右正拳をイーヴの胸に叩き込み――魔力が次の瞬間爆発して、光の奔流を生み出した。
「が――ああああ!」
 絶叫と共にイーヴがその場に膝を付く。拳を戻したヴェスパが再び構えを取る。
「今のは技名ねーの?」
 すかさずイーヴに弱体魔法を降らせたルーシーが、笑って茶化した。
「ないよ!」
 照れてうろたえながらも、その瞳はイーヴを逃がさない。逃走しようと立ち上がったイーヴの顔面に、鮮やかな踵落としが叩き込まれた。――むろん、ホーリーの追撃付きだ。
「…………!」
 あとはもう、徹底的に完封されるのみだった。
 全員に総がかりで攻め続けられ、攻撃をセインによって完封され、イーヴだったモノはエーテルへと分解されていった。
「……ア……ボ……僕……は! 還り……たか……った……のに!」
 おそらくは、歪み切るまでに葛藤があったのだろう。酷く深い心の傷があることは、この階層を見ればわかることだった。
 だが。
 それは解きほぐされることもなく。
 狂気の暗殺者は、消滅していった。
 ふぅ、と大きく息を吐いて、ヴェスパが肩の力を抜く。同時に、その身体は元の姿に戻っていく。
「久々過ぎてめっちゃ疲れた」
「お疲れぃ!」
 ルーシーが笑いながらヴェスパの背を叩いた。
「しばらく無理系?」
「うん。たぶん半日は無理かな」
「了解した。ありがとう、助かった」
 セインが礼を言うのを、ヴェスパが慌てて首を振る。
「ううん! お互い様だし、やるべき時だったとおもうよアタシも」
「ああ。いい決断だった」
「あとの切り札的なのは任せな。あたしとセインがバッチリドッキリ決めっから!」
 そう言ってルーシーが笑ったとき。
 玄室の奥が崩れた。
「ムムショのときと同じだぞ」
「ああ。次の領域だ」
「ていあーん! 次んとこ覗いて、すぐ敵が出てくる感じじゃなかったら、そこで小休止しよーぜ。ここで休むのヤだ」
「同感」
「わかった。ただし、敵が出てきた場合は連戦になるぞ。覚悟してくれ」
「おけ」
「はいな」
 二人に頷き返してから、セインは次の領域へと歩を進めた。

(5に続く)
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