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Bulwark Between Worlds

Juliette Blancheneige

Alexander (Gaia)

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『Mon étoile』(第二部三章中編)

公開
3-2

「……オズマ?」
 初めて聞く名を、冒険者たちは反芻する。
「そう、オズマだ。さて今こそ、その欠片を出して見せる時だぞ?」
 フィンタンはおどけたように言って、テオドールに向かって手を差し出した。
「――はい」
 あのとき砕けた、レース・アルカーナの欠片。貴重な手掛かりであり、テオドールにとっては敗北の証でもある。
 受け取ったフィンタンは、それを手にすると目を閉じた。口中で呪文が紡がれ、欠片を淡い光が包む。
「……ふむ。まあ、こんなモノを間違えたりする方が難しいのだが。間違いないな。諸君らが『レース・アルカーナ』と呼んだソレは、オズマの派生形だ」
 一人頷いたフィンタンは、欠片をテオドールに戻す。自分のなすべきことはもう終わったと言わんばかりの彼に、ノノノが眉を顰めて問う。
「待ってオズマが何か教えて」
「面倒くさい」
 肩を竦めたフィンタンが即座に返す。
「教えて」
「め・ん・ど・う・く・さ・い」
「……」
 無言で睨み合う師弟に、どう声を掛けるか皆が戸惑ったとき。
 ノノノが、立ち上がった。部屋の外に走っていき、すぐに戻ってきた。その腕にはいくつかの食材が抱えられている。
「……」
 無言で座ったノノノが、クリスタル作成法で調理を開始する。スピードと精度を両立した、てきぱきとした動きだった。
「……」
 あっという間にノノノの調理は完了した。ロランベリーチーズケーキだ。綺麗に切り分け、一切れを皿に乗せてフィンタンに、もう一切れを自分用の皿に乗せた。残りを三人の前に置き、頷く。『あとは勝手に切れ』――目が、そう言っていた。
「……」
 フィンタンとノノノが向かい合わせで、ケーキを食す。何が起きているのか分からないテオドールたちは、残りのケーキを切り分けるのも忘れ、固唾を飲んで見守った。
「……」
 食べ終わったフィンタンが口を拭く。ポットのコーヒーを自分のカップに注ぐ。少しだけ牛乳を注ぎ、一口飲んで、
「オズマというのはだな」
「喋んのかよ!」

「オズマ。それは魔法で作られた兵器だ。マハが、自分たちが使役する妖異の反乱に備えて創り上げた、と当初喧伝され、実際にピラミッドの防御を担ったが……」
 フィンタンは苦笑した。この場にいない誰かに向けてのように見えた。
「それを創った男は、それで終わらせるような奴じゃなかった」
「……どんな人?」
「マハ主戦派にして魔戦公の一人、エノク。稀代の天才と呼ばれた男だが、自身の野心と研究欲を満たすことに何ら躊躇の無い男だった。
 そいつが、ある日突然言い出したのだ。
 『古代の兵器を解析した。それを魔術的に再現してみよう』とな」
 フィンタンは飲み干したカップにコーヒーを注ぐ。砂糖も牛乳も入れず、そのまま口に運んだ。
「奴がどこでそれを入手したかはわからん。問い詰めてもはぐらかされたな。
 ともかく、奴が計画を主導し、ほとんど一人で創り上げた。他の者は奴の言う通りに動いただけだ。
 ――完成したオズマは、恐ろしい代物だったよ」
 フィンタンが軽くテーブルを叩くと、テーブル上に魔法陣が広がる。魔法陣は、空中に風景を投射した。
 それは、異様な光景だった。
 巨大な建造物の内部のようだ。そこかしこに映る小さな人影が、建造物の大きさを伝えてくる。どれほどの高みにあるというのだろうか。壁は無く、雲が眼下を流れていくのが見える。
 ドーナツのような中心の無い通路が、空中に浮いている。
 その、ドーナツ状の通路の中央。ドーナツの穴の中に、『それ』はいた。
 巨大な金属球。表面を様々な色彩が走る、レース・アルカーナを数十倍にも大きくした球体。
「これが……オズマ」
 呻くようにテオドールが言う。往時の映像だが、別に今と変わらん、とフィンタンが注釈した。
「人は死に絶えたが、オズマは稼働している。千五百年以上の間、なにも変わることなくな」
 映像が切り替わる。見知らぬ都市の上空に、オズマが浮遊している。無数の魔法がオズマへ撃ち込まれているが、それが動じる様子はない。
 やがて、それは黒い光を発する。
 暗黒の太陽が出現したように、黒い光の渦は瞬時に広がり、都市全体を包み込んだ。映像も黒く塗りつぶされ、戻った時には――何もなかった。都市だった場所は巨大な神の手で抉り取られたように消失し、そこが都市だった痕跡など毛ほども残っていなかった。
「……あれは、その内側に広大な別世界を有している。その中に、何でも圧縮して吸い込むのだよ。人でも建物でも、都市でも」
 フィンタンが憂鬱そうに言う。
「数多くの都市が、あれに呑まれて消えた。魔大戦の痕跡が今のエオルゼアにあまりみられないのは、おおむねオズマのせいだ。吸い込まれ消し去られてしまえば、遺跡など残らない。
 そして、もう一度言うが、それは今も稼働している。今も、マハのピラミッドを守護している。大妖異をこちら側の世界に留め、制御する“要”。それを今も守り続けている」
 全員、言葉がなかった。
 戦闘して勝てるか、という次元に無いと感じる。
 だが。
「……それで、そのオズマと、あのレース・アルカーナは、どのような関係なのでしょうか。『派生形』とは?」
 顔を上げたテオドールがフィンタンへ問いかける。オズマと戦うわけではない。今、欲しいのは、レース・アルカーナに対抗し、ヤヤカを救い出す手段だ。
「ふむ」
 問われたフィンタンが顎に手を当て、目を伏せ――それから、おお、と呟いた。
「そういえば。オズマを量産化しようという計画があったな。おそらく、それだろう」
「量産化……」
「オズマは強力無比だが、反面極めて扱いづらかった。防御兵器として置いておく分には楽だったがな。攻め込むための兵器として使う場合、微妙な調整が必要だと聞いた。まあそうだろうな。一歩間違えば、味方まで吸い込む。ゆえに、あれを操れるのはエノク一人だけだった。
 ……だが、それでは時間がかかりすぎる、と考えた者たちがいた」
「だろうな」
 メイナードが同意する。眉を顰めたリリが、わかりません、と首を振った。
「何に時間がかかるのです?」
「何って、そりゃあお前」
 唇を歪めたメイナードが吐き捨てる。
「侵略だろ。マハが覇権を獲る時間だ。ついでに言や、その量産化ってのは、手柄に噛みたい奴らの意見じゃねえか?」
 メイナードと同じように唇を歪め、フィンタンがおどけたように言う。
「その通り! 大正解だ。――世界征服だよ」
「せ……かい、征服!?」
 ガレマール帝国でさえ、“三大州統一”と言っているのに。世界となれば、南方や西方の大陸も視野に入れたものとなる。――だが、同じことを別の場所で聞いた気がする。
「……アラグ帝国のように、ということですか」
「そうだ。マハはかつてのアラグのごとく、惑星ハイデリン全土の征服を目指していた。少なくとも、エノクら主戦派はそうだった。
 そして後半の指摘も的を射ている。エノクは、自身の創造したオズマがあれば十分だと考えたいた。自分の才能に絶対の自信を持っていたからな。性能を落とし量産するなど、思考の埒外だったろうよ。
 さらに言えば、オズマの量産化にあたっては、改良と別の技術の追加が企図されていたはずだ」
 コアに人間を用い、ヒトの魂を制御装置として組み込むことで操作性を上げること」
「それは……!」
 ヤヤカが取り込まれたのは、つまり。
「――生体コアとして選ばれた」
 テオドールの驚愕に、ノノノが応じた。唇を強く噛んでいる。
「それから、吸い込んだ生命体を人造妖異へと改造する、兵器プラントとしての役目」
「……セインの報告にあったのは、それか……」
 レース・アルカーナに取り込まれたセインたちは、その内部で妖異化したギードたちと戦い、倒している。
「敵を吸い上げ、兵器へ改造する。まあ、阿呆の考えつきそうな愚策だ。マハ人以外は絶滅させる気だったのだろう」
「そんな……! それは征服とは言わないのでは!?」
 リリの抗議に、フィンタンは肩をすくめた。
「いちいちごもっとも。魔大戦最末期の主戦派どもは、選民思想という麻薬に嵌まっていた。ニームに病原菌をまき散らしたりもした。
 オスマ量産計画は、その思想が煮詰まった末の、イカレた果実と言える」
 あれは、誰だったか、とフィンタンは独り言のように言った。コーヒーを一口。それから、ああ、と呟いた。
「量産試験型――オズマ・トライアルとでも呼ぼうか。それを創る計画を指揮していたのは、アブロサムという主戦派の一人だ。実力が無いわけではなかったが、エノクよりは数段劣る男だった。
 それが証拠にアブロサムは試験型を創っただけで、実際の量産まで至っていなかったはずだ。さらには、目途が立つ前に、マハの課題は第六霊災からどう逃げるか、に替わっていたこともある」
 “第六霊災からどう逃げるか”、と語ったとき、フィンタンはほんの一瞬だけ沈痛な表情を浮かべたが、それに気付いたものは誰もいなかった。
「ヤヤカさんが選ばれたのは――やはり、鍵となる言葉を唱えて、封印を解除したからでしょうか」
 リリが首を傾げる。
「適合する何かがあったのだろうな」
 空になったカップを置き、フィンタンが答える。
「推測でしかないが、そのヤヤカという娘は古い家系の娘なのだろう? 主戦派の誰かの何らかの因子が、その家系には伝わっていたのかもしれない。
 古い家に生まれ、自らのルーツに興味を持つ……そこまでならありがちな話だが……。実際にマハを目指し、ヤフェームに踏み入り、偶然とはいえ遺構を見出しそれを起動させ、オズマ・トライアルに適合者として認識される……ふむ。偶然なのか……? 本当に?」
 後半の言葉は、ほぼ呟きに等しかった。それをノノノが問い質そうとしたとき、
「だが、それも済んだ話だ」
 顔を上げてフィンタンが言った。
「え?」
「結論から言おう。諦めろ」
「な……」
「おいおい」
 パスファインダーズの面々皆が色めき立った。フィンタンは予想済みだったのだろう。それを見ても全く動じることなく、言葉を続ける。
「デチューンされた劣化コピー品とはいえ、オズマはオズマだ。その辺の冒険者が敵う相手ではない。加えて、コアにされた人間を助ける方法など、あっても勝算はゼロに等しい。つまり、詰みだ。諦め」
「いやだ!」
 師の言葉を断ち切って、ノノノが叫んだ。立ち上がり、師を見つめる。
「聞きわけろ、ノノノ」
 冷徹な声で、フィンタンが言った。伊達や酔狂で『諦めろ』と言ったのではないことが、ノノノにも他の三人にも伝わる声色だった。
「いやだ! 諦めない」
「ノノノ!」
 初めて、フィンタンが声を荒げた。一瞬だけびくりとしたノノノが、しかし首を振って抗った。
「……ゼロじゃない、んでしょう!? 師匠は完全にダメなら完全にダメって言う。ゼロに等しいはゼロじゃない!」
 む、とフィンタンは唸った。
「それは、『解析もしていない事象に決定的な見解を述べたくない』という私の魔道士としての矜持が言わせたことだ。起死回生の秘策なりがあってそれを隠している、というような話じゃない」
「じゃあ解析してよ! 可能性を探ってよ!」
「あのな。例えそんなものを見つけたとして、実行するお前たちが敗北するなら意味が無いんだぞ!? 現にお前たちは完敗した。太刀打ちできなかっただろう!」
 そう。
 彼らは、レース・アルカーナ――オズマ・トライアルに、敗北している。例えヤヤカを救い出せる方法を見出せたとしても。彼ら自身がオズマ・トライアルに勝利する方法は、見つかっていないのだ。
 ノノノも、ノノノに加勢しようとしていた三人も、言葉が無かった。
「……諦めたくない」
 ノノノが言った。
「諦めたくない」
 涙がこぼれた。悲しさと悔しさと怯懦に打ちひしがれて、ノノノは涙を流す。だが、それでも。
 それでも、と叫び、ノノノは前を向き、師に訴えた。
「助けたいんだ! そこに可能性があるなら。死ぬまで、諦めたくない……!」


『私は行くよ、フィンタン。諦めないよ、絶対に。最後まで!』


 その、姿に。
 フィンタンは、かつての“彼女”の姿を思い起こしてしまった。
 息を呑んで、フィンタンはノノノを見つめる。
 遠い遠い記憶。けれど、今でも昨日のことのように鮮明に思い出せる記憶。その記憶の中で、“彼女”がフィンタンに告げた言葉。
 まさか、それを再現させられるとは。
「……師匠?」
 黙ったままのフィンタンへ、ノノノが怪訝そうに声を掛ける。
 無言のまま、フィンタンはしゃがんだ。ノノノに目線を合わせる。

 ほんの気まぐれだったのだ。
 村から外へ移住することを決めた一家がいて、彼らが隠し扉からサゴリー砂漠へ進んでいくのを遠見の魔法で見たのは。
 彼らがアマルジャ族に襲われるのを見てしまったのも、偶然だった。
 助けに赴いたとき、すでに荷は奪われ、生き残りは瀕死のノノノだけだった。
 そのまま村へ預けても良かったのに。
 そうしなかったのは、ソウルクリスタルのせいだ。
 第六霊災以来、ずっと所持していた“彼女”のソウルクリスタルが、淡く輝いた。
 ただそれだけだったが、それが――彼女の意志のような気がしたのだ。

 ……まったく。
 ノノノは実に、お前のソウルクリスタルを継ぐに相応しい相手だよ、クェーサル。
「やれやれ」
 苦笑して溜息をつく。
「わかった。協力してやろう」
「――!」
 一瞬だけ驚いた顔になったノノノが、フィンタンに駆け寄り抱き着いた。
「ししょう……!」
 泣きながら首にしがみついてくるノノノの背に腕を回して、優しく応える。
「ありがとうございます……!」
 テオドールが礼を言い、頭を下げた。メイナードとリリも倣う。
「うん」
 頷いたフィンタンは、にこやかに笑った。笑みのままノノノを優しくはがし、立ち上がる。
「協力してやろう。――我が試練場を踏破出来たらな」
 微笑を浮かべて言い放たれた言葉に、テオドールたちがぎょっとする。
「わかった」
 ひとり、したり顔で頷いたノノノが胸を叩く。皆を振り返り、大丈夫だというように頷いた。
「リンボでもミノスでもプルートンでもどんとこい」
 自信満々のノノノ。だが。
「阿呆」
 にこやかな笑顔のまま、フィンタンが罵声を浴びせた。
「個人用の試練場に行ってどうする。――トロメーアだ」
「ひょ?」
 きょとんとしたノノノが、数瞬後に目を見開いた。
「集団戦用の修練場は一度も行ったことがないだろう? 当然そっちだぞ?」
「ひょ!?」
 驚愕に叫ぶノノノを見て、フィンタンがにたりと笑った。先程までの優しい微笑ではなく、底意地の悪い企みの笑みだ。
 先程までの気勢は何処へやら、ノノノは小声で「えええー……」と悲嘆の声をあげている。
 弟子の顔を満足そうに眺めてから、千五百年以上の時を生きる魔道士は傲岸不遜に言い放った。
 
「マハ魔戦公フィンタンの手になる、『ゲヘナ試練場』。汝らにトロメーア深層の挑戦を許そう。――決して、易くはないぞ?」

(三章後編に続く)
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