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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

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『Mon étoile』(第二部三章後編)二

公開
3-3-2

 第二エリア。
 それは、あまりにも不運な試練だった。

 禁則事項:技能禁止
 
 オーダー:強敵の排除

 盾役の防御技も、攻め手の攻撃力を上昇させる技も、癒し手の補助となる技も封じられた状態で、四人は強敵との対峙を余儀なくされた。
 それだけでも十分不運なのだが――
「総員後退!」
 テオドールが叫び、盾を掲げる。強烈な棍棒の一撃が容赦なく彼の体力を奪う。同時に発生した衝撃波が周囲を薙ぎ払っていく。後退を指示したのは正しかったようだ。
 眼前にいるのは、サイクロプス種の『強化改造魔骸』。オーダー対象、排除しなければならない敵、いわゆる“ボス”だ。
 第二エリアは第一エリアとは打って変わった広い空間で、通路でさえも四人が並んで武器を構えても余裕があるほどだ。スタート・ピットからその通路に出た途端――
 いきなりボスと遭遇したのだ。
 互いの距離はほんの僅か、ボスが突進してきて詰められるほどしかなかった。『巡回している場合がある』と説明されていたが、まさかスタート直後に出会うとは、四人の誰もが予想をしていなかった。
 逃げることもできぬまま、パスファインダーズはボスとの交戦を強いられた。
「ぐ――ぅッ!」
 棍棒を力づくで押しのけ、さらに抜刀して一撃を与えながら、テオドールがサイクロプスの横を回り込む。仲間たちへ背を向けさせるためだ。
 だが。
 ボスの横を抜けた彼の視界は、通路のさらにその先から魔物の集団がこちらへ向かってくるのを捉えていた。
「増援! 到着まで五秒!」
「マジか!」
 メイナードの叫びとほぼ同時に、コブラン種の『強化改造魔骸』が八体、テオドールへ殺到した。範囲攻撃で敵視を奪った彼へ魔物たちが攻撃を開始する。
 鉱物に触手と口、目が生えた奇妙な魔物、コブラン種。彼らの特徴的な攻撃は、身に纏った鉱物を弾き飛ばしての範囲攻撃だ。直前に雷属性のエーテルを纏い動きを停止する予備動作があるため、攻撃は比較的躱しやすい。
 だが、それを八体が連続で使用するとなると話が違ってくる。それも、時間差でだ。
 きわどいタイミングで攻撃を躱すテオドール。しかし、四体目の攻撃を大きく離れて回避したときだった。
「――――!」
 雄叫びを上げて、サイクロプスが周囲に魔力を放った。引き寄せだ。避ける術もなく、パスファインダーズの四人はボスの周囲に集められる。しかも、この魔法には相手の動きを数秒留めるスタン効果が付随していた。
 まずい。
 声も出せない四人の視界の中で、サイクロプスが棍棒を大きく振りかぶった。コブラン種が帯電する。
 スタンが解けた。全力で駆け出す四人を、怪力の暴風と鉱物の破片が襲った。
「うぁ……!」
 ノノノとメイナードが倒れ、動かなくなった。どうにか立ち上がったリリも瀕死だ。かろうじて継戦可能なテオドールへ、間髪入れずコブランたちが殺到する。その動きは戦術を理解した者の動きであり、明確な殺意を有していた。
 そして。
「リリ! 躱せ!」
 テオドールの叫びと共に、サイクロプスの単眼から光が迸った。細く鋭い光線が凄まじい速度で奔り、白魔道士を貫いた。
 叫びをあげる間もなく、リリも倒れた。
 サイクロプスが嗤った。はっきりと、意図的な行為であることを示唆していた。
「これは……!」
 勝てない。ただの魔物ではなく、戦術を有し、どうすれば効率的かを思考する敵であると分かっていなかった。
 次の瞬間、魔力でできた鎖が自分とボスを結んだ。サイクロプスの技だ。逃げられない状況下で、単眼の巨体が突進してくる。
 防御を高める技も奥義たるインビンシブルも使えない状態で、受け止められる打撃ではなかった。
 居合い抜きのように振り抜かれた一撃に、テオドールは吹き飛ばされ――意識を失った。

 目を覚ますと、試練場のロビーだった。
 思わず体を確認する。最後の打撃は、下手をすれば死んでいたレベルだった。
「お疲れ様でぇす。排出時に治癒される仕様ですので、傷は無いはずですよー。もっとも、即死したらリカバーできないですけど」
 顔を上げると、ビログがにこにこと笑っていた。仲間たちも皆、自分と同じように床に座り込んでいるが、異常は見受けられない。
 しかし。
 敗北した。その事実が、彼らを言葉少なにさせていた。実力不足。このままレース・アルカーナに挑めば死ぬ。改めて突き付けられた事実と、諦めを拒否する心が擦れ合って軋む。
「――コンティニューしますかぁ?」
 唐突にビログが言った。予想外の発言に、四人は全員ぽかんと口を開けて彼女を見つめた。
「い……いけんのか!?」
 動揺してどもったメイナードに、ビログが笑いかけた。
「マスターの発言からは「踏破出来たらな」「挑戦を許そう」とのコメントだけしか検索できないです。一回限り、とは明言していません。いいんじゃないですかぁ?」
 詭弁だ、と誰もが分かっていた。けれど。
「やろう!」
 ノノノが立ち上がった。
「悔しいからやろう。今のやつ、絶対許さん。ぜつゆる。リベンジぞ!」
「ランダムだから出会えるか分からないと思うけど……」
 リリが苦笑した。
「でも、これで終わりたくないです、わたしも。頑張ってクリアして、ノノのお師匠様に認めてもらいましょう!」
「おう! 要は勝ちゃあいいんだよ勝ちゃあ!」
 メイナードが拳を掌に打ち付けた。
 ……なんという。
 なんという、前向きで、諦めない仲間たちだろう。レース・アルカーナとの戦いで一度は心が折れかけたリリでさえ、今は諦めたくないと言っている。
「――ふふ」
 自然と笑みがこぼれた。テオドールは立ち上がり、力強く頷いた。
「やりましょう。お願いします、ビログさん」
「りょーかいです!」
 扉が再度開いた。
 四人は互いに頷き合うと、再び『試練場』へと向かった。

「いかんいかん。つい没頭してしまった」
 気付けば六時間以上が経過していた。フィンタンは慌てて自室へ戻る。
 フィンタンの予測では次か、その次のエリアで失敗しているはずだ。だとするとそこから数時間待たせてしまったことになる。打ちひしがれた状態を長引かせるのは本意ではなかったし、食事の時間も過ぎている。
 試練場の映像を呼び出し――
「第四エリアだと!?」
 思わず叫んでから気付いた。同時に表示されている彼らの踏破記録には、この数時間で何度も彼らが失敗し、再挑戦を繰り返していることが記されている。
「ビログ!」
『はーい?』
 呼びつけた魔法生物は呑気な調子で応えてくる。
「どういうことだ。私はコンティニューを許したつもりはないぞ」
『聞いてません』
「なんだと?」
『マスターはワタクシにコンティニュー不可って命じてません。それに、皆さんにも「一回で」って言いませんでした』
「そんなことは」
『ご覧になります? ご自分のログ』
「うっ……」
 ビログは嘘をつかない。軽薄っぽい個性付けをしてあるが、嘘は言わないように作っている。それに、自分で思い返すと確かに心当たりがない。自明の理だと思い込みすぎて、おろそかになってしまったのだろう。
「ですのでコンティニューです。それにしても粘りますね皆さん。心が折れないのがすごいです」
「ふむ……?」
 フィンタンは今現在のパスファインダーズを見ながら、別の画面でこれまでの記録を確認する。
 十回以上の失敗。そして再挑戦。
 決して、右肩上がりな訳ではない。第四エリア踏破目前まで至った次の回では第一エリアで全滅することもある。禁則事項とオーダーの組み合わせ、毎回組変わるエリアの形状との相性もあるため、そういう結果が出ることも不思議ではない。
 だが、その結果の乱高下に対し、彼らはモチベーションを落としていない。
 今も、第四エリア踏破目前で全滅した。 
 しかし彼らは排出されるとすぐに集合し、対策を話し合っている。持ち越せたアイテムの確認、ギミックの復習と解説。徐々に、彼らはこの試練場に適応しつつある。
「……やれやれ」
 溜息をつくと、フィンタンはエーテライトへ向かった。試練場へ一飛びに向かう。
「ちょっといいかね君たち」
 ロビーの床に車座に座って議論し合う冒険者たちに声を掛ける。
「なに師匠忙しいから後にして」
 食い気味に返される。
「お前たちは何が目的か忘れているだろう」
「忘れてない」
「言ってみたまえよ」
「トロメーアを踏破して、師匠に認めてもらう。そしたら、協力してもらう」
「……まあ、不正解ではないが……ちょっと違うぞ」
 パスファインダーズの面々はきょとんとした顔をする。理性的だと思っていたリーダーのナイトさえ同じ顔をするので、フィンタンは吹き出しそうになった。が、堪える。ここで笑うと台無しだからだ。
「私はお前たちに、実力の無さを思い知ってもらいたかったのだ。今のままでは、挑んでも死ぬ。それを理解して貰えればよかった」
 ああ、とテオドールが言った。得心した、という顔だ。
「それであれば。――全員理解しています。今の我々では勝ち目がないと」
「…………ではなぜ、試練場を続ける?」
「理解したからこそです。だからこそ、今、自分たちの実力とはっきりと向き合って挑戦をしています。――貴方に、理解してもらうために」
「……私に?」
 フィンタンの視界の先で。ノノノと同じ目をした冒険者たちが自分を見ている。
 実力が無いこと。力及ばないこと。
 それが諦めと同意義ではないこと。
「やれやれ……」
 これを執念というのだろう。あがき続けること。模索し続けること。それは、自分と何ら変わらないということに、やっとフィンタンは思い至った。
「わかった。オズマ・トライアルの解析をしてやる」
 一瞬、何を言われたのか理解できない様子だった冒険者たちは、次の瞬間喜びを爆発させた。
「うおおお!」
「やったああああ!」
「きゃー!」
「……ああ!」
「ただし。ただし、だ。……いや、聞きなさいよ! ただし、って言ってるぞ私は!」
 怒鳴るフィンタンの横で、ビログが声を殺して笑っていた。それをじろりと睨みつつ、向き直った一同にフィンタンは告げる。
「条件がある」
 強い口調で言った。
「ひとつ、時間はどうしてもかかるぞ。二か月は待ってもらおうか」
「……はい」
「ふたつ、トロメーアを踏破できないお前たちは明らかに実力が足りていない。それはお前たちで解決しろ。
 試練場の使用は禁ずるが、それ以外の修行手段もある。ここで修行しても構わんし、それぞれの技を極めるために師の元に戻るなりするも自由だ。二か月後、再度トロメーアに挑戦してもらおう。今度は一度で踏破しろ。できなければ、お前たちはオズマ・トライアルに挑む資格は無い」
「……うん」
「みっつ。――この二か月の間、いかなる形であれオズマ・トライアルに接触することを禁ずる。オズマ・トライアルらしきものがどこかで人や都市を襲っていてもだ」
 全員の表情が険しくなった。
「極力接触を避け、もし偶然遭遇してしまっても、交戦せず逃亡しろ。これは絶対だ。いいな」
「……それは……」
 抗弁しようとしたリリを、メイナードがその腕を掴んで首を振った。唇を噛む伴侶を見ながら、竜騎士はフィンタンに頷いた。
「よろしい。ではテオドール。欠片を預かろう」
「お願いします」
 テオドールから差し出された、オズマ・トライアルの欠片を受け取る。忙しくなりますねー、と間延びした声で言うビログにフィンタンは釘を刺す。
「お前もやるんだよ。我が工房総出だぞ」
 ひえ、と声を出すビログにニヤリと笑う。
「では諸君、私はこれから忙しくなる。もてなしもできずすまないが、食事はそこの床ペロララフェルが出すだろう」
 足早にエーテライトに向かうフィンタンに、ノノノが問いかけた。
「待って師匠! もしみんなそれぞれのところで修行するってなったら、わたし、どうするの?」
「案ずるな。お前は――『兄弟子』に任せる」
 エーテライトに消えるフィンタン。いつの間にか、ビログもいなかった。
 取り残されたノノノは呟く。
「はつみみ……誰て?」

 その後話し合った結果、冒険者たちはそれぞれの技を磨くことを選択した。特に、自分に『兄弟子』がいたことを全く知らなかったノノノが興味を持った、ということもある。
 フィンタンにそれを報告し、ノノノ以外の三人はそれぞれの師の元へ旅立つ。

 テオドールはイシュガルドへ。彼の師は“元・蒼天騎士”オーギュスト・ド・ガルヌラン。一度皇都へ帰郷したのち、今はクルザス西部高地と高地ドラヴァニアの境となる山に隠遁している彼の元へ向かうつもりである。
 
 メイナードはグリダニアへ。槍術の師である槍術ギルドのイウェインを訪ねたのち、アドネール占星台へ。竜騎士としての彼の師、アルベリクに会う。義兄弟ともいえる竜騎士、“血踏の”エールの消息を知るためだ。
 
 リリも同じくグリダニアへ。幻術の師であるエ・スミ・ヤンを訪ね、幻術士として、白魔道士としての修行を行う。

「――この辺りでいいでしょう」
 トーラーの隠れ里の牧草地帯で、四人は揃ってひとたびの別れをすることになった。
「テレポで飛ぶんだからよ、地下のエーテライトのとこでよかったんじゃねえの?」
 笑うメイナードをリリが窘める。
「いいんですよ。こういうのは風情と情緒です。青い空と風! ここはとってもいいところだと思います」
 両手を広げ、風と日差しを満喫するようにリリが言う。
「でも、このよいところを、わたしたちだけで楽しむのは不公平でしょう?」
「――うん。ここには一人足りない」
 合点がいった顔のメイナードが空を見上げた。
「そうか。そうだな。ここにあの学者馬鹿を連れてきてよ、歴史がどうの様式がどうのって大騒ぎするの見てえよなあ!」
 全員が笑った。ここにヤヤカを連れてきたら、確かに大騒ぎになるに違いない。
「確かに。おそらく『大師の塔』へ至る前に数日かかると思いますよ」
 テオドールが微笑む。
「そして師匠は質問攻めにされる。たぶん、途中でめんどくさくなる」
「違えねえ!」
 四人の笑い声が風に吹き上げられて青空へ抜ける。ひとしきり笑った後、皆は顔を見合わせた。
「それぞれ、切磋琢磨を。そして、二月後。生きてここで会いましょう」
「応!」
「はい!」
「うんむ」
 突き出した拳を合わせ、パスファインダーズはそれぞれの旅へと向かう。
 三人がテレポで消えていく。それを見送って、ノノノは空を見上げた。息を吸う。今まで出したことのないような大声で、空に向かって叫んだ。
「ヤヤカ! ぜったい助ける! だから待ってて!!」
 叫びが風に乗って飛んでいく。
 しばらく空を見つめたノノノは、誰にともなく頷いて、塔に向かって駆け出した。

(四章(一)『黒と蒼』に続く)
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