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White Knight

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

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『Fire after Fire』(3)1『Mon étoile』第二部四章)

公開
3-1

「……そうか。スカアハの『棺』はヴォイドアークからいずこかへ隠されたのか……」
 暗い部屋の中で、微かに金髪を揺らせて男は言った。床はすべて魔法装置となっており、ここではない空を映し出している。雲海の夜。
 その床の上に、男よりずっと小さい生物の姿がある。その姿は時折揺らめき、透けるようになる。これも魔法だ。本当の体は、この場にはない。ピンと立った耳と長いしっぽ。立ち上がった猫――というには、頭が大きい。
『は。現在、妖異に満ちたアークを踏破した冒険者と、空賊と申す輩に協力を依頼しておりますが……』
「冒険者?」
『はい。名を――』
 その名を聞いて、男は何度か頷いた。それは、アシエン・ラハブレアを斃した者。今エオルゼアに響き渡りつつある英雄の名だ。会ったことは無いが、彼の足跡はチェックしている。いつどこで自分たちと関わり合いになるか分からず、またもし関われば大きく事態が動くことになりかねない。それほどの者だ。
「そうか。その者は信頼するに足る者だ。よい協力者を得たな、ケット・シー」
 男が告げると、ケット・シーと呼ばれた使い魔は、大きな目を細めた。
『おお、それは重畳。やはり、私めの目に狂いはありませんでした』
「……それはそうと、ケット・シーよ」
『は』
 男は、やや間をおいてから続けた。
「私を恨むか? 『アビス』に狙わせるため、敢えて魔航船を放置し続けた私を」
 使い魔は驚いたように目を丸くした後、すっと細めた。
『……いえ。『アビス』は撃滅されねばなりません。そして、外ならぬ貴方が――クェーサル様の夫である貴方が、どのような気持ちでアークに手を出さずにいたか。それをわからぬケット・シーではございません』
 告げられた男は、しばし無言でケット・シーを見つめた。何度か口を開きかけてやめ、それからただ一言だけ「そうか」と呟いた。
『では私はこれで。進展があり次第ご報告をいたします』
「――……たのむ」
『我が主人もきっと喜んでいるでしょう。それではよい夢を、フィンタン殿』
 優雅に一礼して、幻像が消える。あの礼はフィンタンが面白がって覚えさせたものだ。クェーサルの前で披露させたとき、それを見た彼女はとても喜んだ。それからだ。あの使い魔が礼儀作法を学び始めたのは。結果、マハ社交界に出しても恥ずかしくないほど、その道に通じた使い魔になってしまった。
「……」
 無言で、足下の画像を見つめる。もはや雲海に魔航船はいない。眠っていた妖異たちのうちどれだけの数が封印を解かれ、ディアボロスと共にあるかは不明だ。どちらにせよ、あの船を支えていた妖異がいなくなることは、いつかあの船が墜落することを意味する。そうなる前に破壊しなければならないだろう。
「それはこちらで引き受けるか……」
 呟いて、画像を消した。すぐに別の画像が現れる。
 それは、洋上に浮いている。様々な色彩に変化する、金属の球体――オズマ・トライアル。
 本物のオズマの半分ほどの大きさだろうか。しかし、そもそも『レース・アルカーナ』と呼ばれていたとき、かの球体は最初薄い板の中に封じられた小さな球体で、解き放たれたあともララフェルの女性を収めるほどの大きさだったのだ。
「成長しているな……」
 今もそれは、周囲の環境エーテルを吸い上げ続けている。内部に広がる広大な空間の構築を行いながらであるため、即座に完了はしないだろう。しかし。
 この画像は、超高々度からのものを拡大している。そうでもしなければ、感知されてしまうからだ。
 そして、こちら側の処理によってその姿を映し出してはいるが、かの怪球は物理欺瞞と魔法障壁によってその姿を隠している。よほどの精度を持つ計測機器か優れた術師でもいない限り、オズマ・トライアルがエーテルを吸い上げていることは感知されない。
 それほどの能力を得るまでに成長しているのだ。
「間に合わないかもしれんぞ、ノノノ」
 弟子の名を呼び、フィンタンは首を振った。もし、オズマ・トライアルが生体コアを完全に組み入れてしまうなら――。
「私を恨むか? お前の友を殺す私を」
 その問いに答える者はなく。やがて床の画像は消え、暗闇に沈む部屋には誰の姿もなくなった。

3-2

「待たせたな」
 部屋に入ってきたフィンタンは、そこに出来上がっているものを見て感嘆の声を上げた。
「もうできたのかね!」
 彼の目の前には、本棚が置かれている。平均的なエレゼン男性の背を少し過ぎるくらいの、大きめの本棚だ。数時間前には材料でしかなかったものが、今は機能性と優美さを両立させた一級の家具に仕上がっている。
「素晴らしいな……」
 賛辞を向けられた男――ハルドボルンは、首の後ろに手を当てて照れた。笑うと思いがけずあどけない顔になる。
「いやあ、まだまださ」
「触っても?」
「ああ。仕上げだけはクリスタル生成法とカララントを使ったんで、もう使える状態だぜ」
 フィンタンが指で触れる。棚板はすっと滑るように彼の指を運んだ。両手で枠を掴み揺するが、軋むことはない。
「うん。……うん」
 満足げに何度も頷く。
「これは、逆に報酬を払わなければ」
「いいってことよ。どうせ暇だったんだ。しかも今日のは俺が無理言ってアンタに調べてもらったんだし、こいつで釣り合いが取れるってんなら、それで十分さ」
 ハルドボルンは慌てて首を振った。腕組みをしたフィンタンはしばらく沈黙していたが、やがて「わかった」と言い微笑んだ。
「ではありがたく使わせてもらおう。――本当に、君には驚かされる」
 応接室とは名ばかりの、本棚がいくつもいくつも並ぶ部屋。その片隅にある応接スペースへ二人は移動した。
 フィンタンが淹れたコーヒーを飲む。しばらくして、フィンタンが言った。
「私は、君のその義腕を、戦闘用に作った」
「ああ。感謝してるぜ」
 ハルドボルンは己の両手を見つめ、手を握り開いた。
 彼の両腕はその根元から義腕である。元の腕は、骨を砕かれ肉を千切られ、治癒魔法であっても癒しえないほどに破壊されたのだ。
「『アビス』と戦うという君の目的に沿うように、戦えればいい、強靭であればいいという精度で作った。訓練して日常生活をどうにか送れるかどうか、という精密さだった筈だ」
 二人はほぼ同時にカップを空にした。フィンタンが代わりを注ぐ。
「――それが。君はいつの間にか、あれほどの作品を作れる様になっている。かつての名工の域には達していないが、それでも並の職人の域を遥かに越えている」
 器用に片目だけを瞑り、フィンタンは笑った。
「まさに驚嘆に値する。とんだ木工バカだ!」
「ははは! そりゃ俺にとっては何よりの褒め言葉だなあ!」
 ハルドボルンは呵々と笑った。二人の笑い声が、本棚たちの間に転がって消えていく。
「――で? 俺の身体はどうなってる?」
 笑みを収め、ハルドボルンはフィンタンを見た。千五百年生きる魔法使いは肩を竦める。
 ハルドボルンがフィンタンを訪ね依頼したのは、自らの体に起きる変調のことだった。
 戦いが激しくなればなるほど、敵が『アビス』のより上位存在であるほど、ハルドボルンは戦闘中に己の意識が何かに“呑まれて”いくことを感じていた。
 激しい怒り。マグマのような赤黒い衝動に意識が埋め尽くされていく感覚。
 それに呑まれることは、はっきり言って――心地よかった。
 己の全力を振るえる解放感。怒りを力に変え、それが自らをより強く激しく作り替えていくことへの充実感。その前では、自分の理性などちっぽけなものだ。
 だからこそ。
 だからこそ、ハルドボルンは恐怖し、こうして彼の知る中でもっとも知恵者と思える者に助言を乞いに来たのだ。
 意外なことにフィンタンは厭な顔をせずに了解してくれた。体内のエーテルを測定したりと諸々の検査を行い、その解析結果を今聞こう、というわけだった。 
「……特殊な状態を調べるのは骨が折れるが、幸い過去データに該当するモノがあった」
 原初の衝動、という言葉を、フィンタンは口にした。
「原初の衝動……ヒトが本来秘めている野生、戦闘衝動を解放した状態だ。破壊衝動と言ってもいいだろう」
「……けど、そいつぁ……」
「ああ。それは諸刃の剣だ。その衝動は理性を、思考を呑み込んで消しとばす。いわゆる暴走だな。敵味方の区別無く暴れる――悪鬼になる恐れがある」
 思った通りだ。
 あの衝動に呑まれれば、自分を無くすのだ。
「どうすりゃいい?」
 しばらくの沈黙の後、フィンタンが言った。
「……『戦士』が、その衝動を制御する術を編み出したと聞いたことがある」
「戦士、って、あの戦士か。冒険者にもいる?」
 戦士。
 かつて都市国家間の戦争が絶えなかった時代に活躍したという『古のジョブ』。その技を受け継ぐ者が、冒険者の中にも何人かいるらしい。
「そうだ。心当たりはあるか?」
 ハルドボルンは首を振った。
「……いや、いるって話は聞いたことがあるが、実際に会ったことはねえな……」
「なるべく早期に接触することをお勧めするよ。度重なる暴走にその義腕が持ち堪えられるかも怪しい」
「……そうか……」
 ハルドボルンは天井を見上げ、言葉と共に溜息を吐き出した。長い長い溜息だった。
 
3-3

 リシュヤは、百年以上戦い続けているという。己の体を改造し、記憶を奪った『アビス』を滅ぼすまで戦い続ける。彼女はそう言った。
 そのために、長く生きれるのは都合がいい。
 リシュヤはそう言って笑っていたが、それは逆に、彼女がいつ死ぬかを誰も知らないということだ。
 ある日突然死ぬかもしれない。
 リシュヤほどの人がそれに気づいていないはずがない。次の瞬間には突然死ぬかもしれない――それは、恐怖だと、ノノノは思う。
 それでも戦い続けられる。恐怖を背負ってもなお足を前へ踏み出せる。
 リシュヤのその強さを、ノノノは尊敬する。
 追いつきたい。
 同じ強さが欲しい。
 もっと――もっと、強くなりたい。 

 魔戦騎たちとの戦闘に勝利したリシュヤたち『アージ』は、戦闘後にその場所を調査した。
 『アビス』の小規模拠点である『サイト』に分類されるそこは、彼らが実験に使用するために人間を『加工』する処理設備のようだった。
 『加工』された人間たちは二度と元に戻らない。その状態を生きていると定義しないのであれば、結論として当該サイトには生存者は一人もいなかった。ただの一人もだ。
 他の基地に関することなど有益な情報を入手し、リシュヤたちはそのサイトを破壊した。内部から自壊し土砂に埋もれていくサイト。『加工』体たちも土砂に埋まった。もしカプセルが壊れずに生体反応を継続した個体があったとしても、エーテルが供給されなければやがて停止する。
 勝利よりも、苦々しさの方がつのる戦いだった。

 それからしばらくは、依頼も無い日々が続いた。
 ハルドボルンはファタタの強い勧めもあって、ノノノとリシュヤの師であるフィンタンの元に赴くことになった。ファタタは癒し手として、戦闘中の盾役の状態が尋常でないことを誰よりも把握していた。
 当初は渋ったハルドボルンだったが、やがて素直に支度を整えて隠れ里へと向かった。本人も不安があったことは間違いなかった。
 そのファタタは、サイトで得られた情報をカウサフと共に分析していた。分かりやすい地図のようなものが遺されていたわけではない。多くは『加工』体をどこへ送ったかという記録だ。分析された情報を基に、ラクヨウはエティエンヌと共同で候補地を絞り込んでいく。
 そして、リシュヤとノノノは、来る日も来る日も修行に明け暮れた。
 冒険者ギルドやグランドカンパニーからの依頼――主に討伐任務――を受け、各地で実戦を繰り返していた。
 リスキーモブと呼ばれる危険な魔物を専門に狩る集団に参加し、彼らと共に討伐をすることもあれば、二人だけで挑むこともあった。リシュヤがラクヨウやエティエンヌと会わねばならないときは、ノノノは一人で冒険の募集などに乗ったりして修業をした。ハルドボルンが戻ってきたあとは彼を加えて依頼を受けることもあり、そのうちファタタも混じり、結局『アージ』の四人でダンジョン探索などをしたりもした。

「結局四人でやるのなら、お仕事を用意しましたのでこちらをどうぞ」
 苦笑したラクヨウが持ってきた仕事は、以下のようなものだった。

 アバラシア雲海で、研究者が一人行方不明になった。
 名をウリム・ナホリムという。プレーンフォークの男だ。三十六歳。
 現地の蛮族であるバヌバヌ族の間に流布する伝説、『動く浮島』を探し求めていたという。
 元々イシュガルドに出入りしていた酒保商人だったが、家業としてのそれを継ぐ前は考古学者だった。仕事でアバラシア雲海まで行き、そこで伝説を耳にして興味をもったらしい。家業を早々に弟に譲ると、研究のために雲海で暮らすようになった。 
 その彼が行方不明になったのは、つい四日ほど前のことだ。
 “伝説に辿り着いた”――その言葉を残し、ウリム・ナホリムは雲海へと消えた。
 今回の依頼人であるウリム・ナホリムの妻は、雲海の警備や開拓を担当するアインハルト家の薔薇騎兵団にかけあったが、多忙を理由に断られた。
「それで、冒険者ギルドに引き合いがあったのですが、雲海を移動する手段――例えば飛空艇――を所有するような冒険者など、ごく少数でしょう」
「確かにな。それで俺たち、か」
「ええ。当地には飛空艇を用いて略奪行為を行う『空賊』なる犯罪者集団の拠点が多くありますが、彼らは人助けなどしませんからねえ」
「……遭難しているとすれば、早めに行ったほうがいいでしょうね」
「そこだ」
 ファタタの指摘のあと、リシュヤがぽつりと言った。
「依頼人は、覚悟してんのか?」
「はい。生死は問わず、見つけて欲しい、とのことです」
「……わかった」
 リシュヤが立ち上がる。話は決まりだった。
「キ・ラシャには?」
「すでに話を通してあります。ランディングで待機していますよ」

3-4

 鎖国から解放されたばかりのイシュガルドは、未だ混迷の途にあった。ランディングは民間に開放されてはいたが事務手続きが遅く、リシュヤたちは上陸するのに半日以上待たされた。
「話にゃ聞いてたが、寒いな!」
 ハルドボルンは顔を顰め、天を仰いだ。ちらちらと雪が舞っている。
「そういや、オマエの仲間はココにいるんだろ?」
 リシュヤがノノノのほうを振り向いて言った。ノノノは頷く。
 『パスファインダーズ』の面々とは、頻繁にリンクパールで連絡を取り合っている。とはいえ、最近までテオドール以外とは連絡が取れなかった。西の孤島とやらから帰ってきたメイナードや、地下? にいたらしいリリと連絡が取れたのはつい先日のことだ。
 メイナードはイシュガルドの竜騎士たちと一緒だと言っていて、戻ってきたらテオドールと合流することになっている。リリはまだグリダニアで色々あるらしい。
 つまり、運が良ければ二人と、そうでなくとも確実にテオドールとは会うことはできるのだが。
「今会ってもどうにもならないし。やめとく」
 首を振るノノノに、リシュヤはおや、という顔をしたが、それだけだった。わかった、と答え、もうそれ以上の追及はなかった。

 『忘れられた騎士亭』という安酒場が、冒険者ギルド……というよりは、この地に集まり始めた冒険者たちの溜まり場のようだった。
 元々平民出身の騎兵や雲霧街というスラムの民が顔を出す酒場だったのだが、かの光の戦士と関わって以降、この地に現れ始めた冒険者たちも姿を見せるようになったのだという。
 店主のジブリオンには事前に話を通してある。店の上が旅籠になっており、そこで一行は依頼人と会った。
 依頼人であるウリム・ナホリムの妻はミッドランダーの女性だ。無理に笑おうとしていたができていなかった。
 生きていてほしいという願いと、こうしている間にも衰弱して死んでしまうのではないかという焦燥、そして――もう死んでいるのだろうという諦念が、瞬間ごとに入れ替わって彼女の顔色を土気色にしている。
 保証はできない。だが、全力は尽くす。
 そんなようなことを言い置いて、リシュヤたちは宿を出た。冒険者をしていれば、こういうことは何度もある。
「それでも、慣れねえな」
 ハルドボルンがぼそりと言った。それはそれと徹しきれない。依頼人の心を救いたいという願いが、逸る気持ちとなってしまうのだ。
「うん」
 ノノノが頷く。――そのときだった。

「待ってくれ!」
 忘れられた騎士亭の扉が開き、四人の男女がこちらへ走り込んできた。聖バルロアイアン広場を通り抜けようとしていたノノノたちは、像の前で止まった。
「あんたら、ウリム・ナホリムさんの捜索を受けた冒険者か!?」
 先頭の青年が問う。慌てたような口調だ。悪意があるとは感じられなかった。
 青年は黒に近い褐色の肌のハイランダーで、背に斧を背負っている。
 ノノノは他の三人も見た。青年の隣に立った少女は真っ黒な肌のムーンキーパー。腰に二つの短刀を提げている。その後ろにいるのは少女と同じ黒い肌のムーンキーパーの青年。大きな本を持っているのは巴術士だからだろうか。最後に、三人に後から追いついてきたのは赤黒い肌のローエンガルデ女性だ。背負った杖から、幻術士だろうと思われた。
 若い冒険者パーティ。ただ、装備はそれなりに使い込まれているように見える。
「……ああ」
 なぜかしばらく黙っていたリシュヤが、ようやく口を開いた。青年はそれに斟酌せずに話し始める。
「俺たちは『グリフィンズ』、ウリム・ナホリムさんの護衛を務めてた冒険者なんだ」
「ああ? じゃあなんでお前たちに依頼がいかないんだ?」
 ハルドボルンが怪訝そうに問うた。最後方で腕組みをしているローエンガルデ女性が、溜息交じりに答えた。
「飛空艇がオンボロでね……。壊れっちまったのさ」
「なるほどね。飛べない冒険者じゃ捜索できない、って判断されたのね」
 ああ、と頷いて、ハイランダーの青年がうなだれた。
「それだけじゃないけどね……」
 傍らの少女が沈んだ口調で言った。
「ボクたちが飛空艇の修理に手いっぱいになってるときに、ウリム・ナホリムさんは友達になったバヌバヌ族からサヌワを借りて、一人で行っちゃったんだ……」
 ムーンキーパーの青年がその後を継いだ。
「俺たちはミランダさん……ウリム・ナホリムさんの奥さんに、役立たずだと詰られてな……志願したけど……外されちまった」
「そういうとき、人はだいたい錯乱する」
 ノノノは『グリフィンズ』の四人を見据えて言った。同じようなことはノノノも経験している。それだけ依頼する方は精神的に追い詰められているのだ。
「で?」
 リシュヤがやや突き放したような声で訊いた。
「アタシらに何の用だ?」
 普段と違うな、とノノノは首を傾げた。いつものリシュヤなら、面倒くさそうな対応はするだろうが、ここまで冷たくあしらいはしない。この四人のどこかに気に障ることがあったのだろうか。
「頼みがある」
 ハイランダーの青年は物おじせずリシュヤを見た。たぶん冷淡な対応をされていると気付いていない。彼は彼で余裕がないのだろう。
「報酬はいらない。俺たちを、ウリム・ナホリムさんの捜索に加えさせてくれ」
 ローエンガルデ女性が続けて言った。
「仕事っていうより、自分たちのけじめのために、この件を終わりまで見届けたいんだ」
「勝手なこと言ってるのはわかってるけど、お願い!」
 黒い肌の少女と青年が、揃って頭を下げた。
「……」
 リシュヤは無言で四人を見つめている。その間に、ファタタが口を開いた。
「あなたたちは、彼の研究がどこまで進んでいたかを知っているの?」
「知っている。護衛役として“予備”の研究日誌を預かっているんだ」
 ルガディン女性が答える。アバラシア雲海の浮島の一つに、ウリム・ナホリムの研究施設――といっても、掘っ立て小屋が二つ三つ程度のものだが――がある。そこに、ウリム・ナホリムが普段持ち歩いている研究ノートの写しがある。そしてその場所の鍵を預かっているのだそうだ。
「それはとても助かる話だと思うのだけど――リシュヤ?」
 ファタタがリシュヤを見上げる。彼女もまた、リシュヤの態度がいつもと異なることに気が付いている。
「……いいぜ」
 ゆっくりと、リシュヤが言った。わっと四人組が沸いた。
「ありがとう! 恩に着る!」
 嬉しさと安堵をないまぜにした顔で、ハイランダー青年が頭を下げた。純粋な人なんだな、とノノノは感心する。
「名前。……名前教えてくれよ」
 リシュヤがつっけんどんに返すが、青年は気にせず快活に答えた。
「俺はヴァルター。ヴァルター・ロングブランド。こっちの双剣士が――」
「ミナ・ペリャーハ! よろしくね!」
 ムーンキーパーの少女が明るく言った。
「で、こっちが兄貴の巴術士」
「ジリ・ア・ペリャーハだ」
 ムーンキーパーの青年が一礼する。
「最後が、ウチの要。幻術士の……」
「持ち上げられると照れるだろ。キーン・ソーンだ。よろしく頼む」
 ローエンガルデ女性がにこやかに手を差し出した。リシュヤがその手を取らないので、ハルドボルンが代わりに握手をした。
「おう、よろしくな。こっちは――」
 ハルドボルンが、ラクヨウを含むメンバーを紹介する。それが済んだところで、リシュヤが告げた。
「あたしらにも準備がある。二時間後に、ランディング前に集合してくれ」
 わかった! と即座に請け負うと、彼らはその場を立ち去った。
 ノノノがリシュヤに問おうとするより先に、リシュヤが鋭く言った。
「ラクヨウ」
「――お任せを」
 委細は問わず、ラクヨウはごく自然な態度で歩き出す。あっと言う間に、雑踏の中で見分けがつかなくなった。
「どういうこと?」
 ファタタの問いにリシュヤは答えず、ただ手を軽く上げた。待て、と声を出さずに告げた。

『Fire after Fire』(3)2に続く
コメント(1)

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

よく見たらキーン・ソーンだけ“ルガディン”表記ですね。他の三人を種族表記してるので、ローエンガルデが正しいですね。
あとで修正します。
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