俺はオサード生まれのマラグルド族、シドゥ。
アウラ・レンを受け入れ、交流するゼラの一族出身だ。
ゆえにドマやオサード東方の部族とも交流がある。
酒好きが高じて、時折調理もするようになったが、東風の料理というのも、なかなか旨いモノだ。
だが、こんなことになるとは……。
------------------------------
「シシシシシ……師匠、元気そうだね、実は相談したい事があるんだ」
ここはヴァスの塚。
グナースの群体意識から”わかたれし者達”が集まる里である。
そして、こいつはウデキキ。
まあ冒険者の皆なら知っているだろう。
「相談ってのはなんだ」
「シシシシシ……一人新入りが入ったんだけど、自分のしたい事が思い出せないんだ」
「
思い出せない? 以前のお前の様に見つからない、ではないのか?」
「シシシシシ……そんなこともあったね」
ウデキキは懐かしそうに頷いた。
「実はソイツ、以前有るヒトに危機を助けられて、その時自我に目覚めたらしんだ……でも、よく思い出せないらしくて、「繋ぎ止めし者」の「意思の囁き」に今も呼ばれているんだ」
「そうか……」
「でも、よっぽど強烈な体験だったのか、そのことを思い出したいらしいんだけど……まあ、話だけでも聞いてやってよ」
俺はウデキキに案内されてソイツの元へ向かった。
「アア……ゴウ……ラ……」
そいつはうわごとのように何かを呟いていた。
確かに、精神が不安定なようだ。
「ド……ドマ料理……」
「な、なんだ? ドマの料理が食いてえのか?」
俺は首をかしげた。
と……。
……。 「なんでも、ドマから来たヒトにご馳走になったらしいよ。 シシシシシ……師匠は東の方の出身で、調理師もやってるんだろ? 何か作ってやってよ」
自身の境遇もあってか、ウデキキはこの新入りの自我をなんとか保ってやりたいようだ。
「帰りたくない……ナリタイ……ナリタイ」
「なにやら、こいつも自我を失いたくない様子だ。 そういうことなら何とかやってやろう」
俺はクエストを受注した。---------------------
「それなら先ずは、俺の一番得意な東方料理だ!」
俺は材料を求めて、ドラヴァニアを飛んだ。
ウデキキが教えてくれた情報によると、
さっきの新入りは、”高地ドラヴァニア”で取れる食材だけで作られた東方料理をご馳走になったという。
この辺で取れる材料で、グナース族が気に入るものといえば……コイツだ!
ロフタン。 原始的な羊であり、肉は芳香で珍味として知られる。
わざわざドラヴァニアまでこの肉を求めるイシュガルドの貴族も多いという。
グナースの塚の”ウマソウ”や”シブルロア”もこの肉のファンだ。
コイツを使えば、あの料理が作れるはずだ……。
「うおおおおおおお!!」 ファイアシャードが烈火と変わる。
油は上質な菜種油。
ガーリックとオリエンタルソイソースを絡めて、ロフタンを焼き上げる。
――アウラ・ゼラ。 オサードを放浪する薄暮の民。
俺たちはかつては各地で放牧し、狩りをし、暮らしていた。
俺がゼラらしい生活をしたのは、ほんのガキのころだけだったが。
それでも……血なのか、まあ忘れがたい。
ウルダハの都会生活ほうが、今じゃしっくり来ちまってるがな。
そんなゼラ族の中で、マラグルドはアウラ・レンとも交流があった。
当然、ドマの文化なんかも入ってきた。
そして――ドマから伝わった料理のうち。
日々狩りに勤しむ忙しいゼラ族の戦士たちに気に入られた料理があった。
狩りで手に入った肉を手早く料理し、直ぐに次の狩りに向かう。
ヴォリューム満点、早く易く旨い。
そう――これが――
出来たぜ、マラグル丼だ!! マラグルド族に伝わる伝統料理、マラグル丼だった。
「あら、ウマソウじゃない?」
「シシシシシ……いい香りだ」
「師匠……これはヨサソウだ、師匠、早速アイツもよんで食べてみよう」
そして……グナース族による試食会がはじまった……!
だが……。
「うう……チガウ……」
そいつの食べたかった料理ではなかったようだ。 「そうか……一番自信のあるメニューだったんだが」
「シシシシシ……確かに旨いけど、オイラは生のほうが好きかな」
「あらそう? これはこれでウマイじゃない」
「シシシシシ……ウマソウは変わっている、肉は生肉が一番だ……」
グナース族たちの評価も、ウマソウには好評だったが、ナンカイーターやウデキキもピンと来ていないようだった。
「しかし……グナース族ってのは、生が好きなのが多いのか? でも料理なんだろ……生モノの料理っていうと刺身か……寿司か……」
俺は頭を抱えた。
すると、
「スシ!!」 新入りは突然何かに気付いた表情になった。
「スシ!! スシ食べたい!!」 只ならぬ様子である。
もしや、コイツの食べたいものはスシなのか!?
「シシシシシ……師匠あたりみたいだね。 コイツの食べたいものはスシって料理みたいだよ」
スシ、スシねえ……。
だが、グナース族の好きな食材のスシか……この辺りで取れる魚でなんかいい物があったっけ。
ふむ……
あっ 俺はあるものを浮かべた。
すると、
うっかりメニューを思い浮かべたからか、俺の頭の中のレシピの一番下に見慣れない項目が浮かんでしまった。 こうなってしまっては、調理師として、作らざるをえないだろう。
-----------------------------
俺は、近くの川に飛んで、獲物を探した。
ニンキ・ナンカ。
このあたりで取れる両生類のようなバケモノで、背中に卵を乗っけている。
このタマゴはグナース族の好物で、最近はゴブリン族にも流行しているらしい。
スシのネタにするのは正直アレだが……グナース族へのショック療法とするなら、コイツ以外ないだろう。
俺は、ヴァスの塚に帰ると、早速調理を開始した。
シャリの部分には、グナース族の練り物を参考に高タンパクなクルザスの米と麦を使った練り物を作る。 味付けはホワイトビネガーだ。 ノリの部分には、海草は使えないので、乾燥させたギサールの野菜を刻み、貼り付ける。 そしてタマゴは大量のオリエンタルソイソースに一晩漬け込み、あとは豪快に盛り付けるのみ!!
…………。
………。
……。
…。
「出来たぜ、ナンカのグナー寿司だ」 完成品をヴァスの冒険者ギルド前においた。
すると、グナース達がどよめいた。
「シシシ……これはウマソウ」
と、ウマソウとナンカイーターが飛びつきそうになったが、ウデキキがソレを抑えた。
と……例の新入りがそこにやってきた。
「あ……ア……!」「思い出したか!?」 「アイエエエエエエ!!!」
!? 突然、例のグナース族が奇声を発した。
――と、ガクガクと痙攣を始めた。
どうやら、何か思い出しているらしい。
――と。
「カラス=センセイ!」 ……え? その瞬間、俺の超える力が発動した。
-------------------------------
「ウププ……、君なに、この辺の部族!? ケガしてるみたいだけどォ?」
「ヒ、ヒト……!?」
「ボクはムシが嫌いじゃないしネェ~面白いから助けてあげるヨォ!」
「見所あるよ、キミィ~」
「そ、そうか? シシシシシ……」
「君ならニンジャになれるよ?」
「ニ、ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」
「その身のこなし、なかなかだ。 そうだ、いい事を教えてアゲヨウ、ニンジャは皆寿司で栄養補給するんだよ」
「スゴイカッコイイ!」
「ウププププ、気に入ると思うよ、君達が好きな食材はたしかナンカだったね……ボクは詳しいんだ」
「グワァッー!! カラスセンセイ……ゴメン、サヨナラ!」
「ウププ……ラーヴァナが降臨した以上、君の自我も限界カァ。 自我科の病院でもあればいいのにネェ。 マァ君達グナース族の生態を調べるのに利用させてもらったけど、君がニンジャに向いているのは本当サァ~。 いつか君が”真面目な優等生”からまた脱却して、自我を持てたら」
「センセイ……」
「君は僕の弟子だ、いいね?」
「アッ、ハイ」 「じゃあ。 ボクもテンパードになるのはゴメンだ。 またね……カラダに気をつけてネ!」
「センセイ……
オタッシャデー!」
-------------------------------
(出鱈目教えてんなぁ……カラス) 俺はあきれた。
と、過去を完全に思い出したらしい新入りグナースは、文字通り寿司に飛び掛った。
「シシシシシ! 独り占めは行かんぞ」
「オイラの分ものこせよ!」
ストーリーテラーとウデキキも飛び掛る。
「ウマソウ……私も我慢できないわ」
「シシシシシ……この料理なら俺もタマゴが好きになれそうだ」
「ナンカはイイ、シシシシシ……」
その他の連中も、寿司に飛び掛った。
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
「イヤーッ!」「グワーッ!」 試食会は凄惨を極めた。
-------------------------------
それから暫くして、俺はヴァスの塚に行った。
すると、ウデキキが迎えてくれた。
「師匠! 新しい仲間が冒険者ギルドに入ったんだ! 紹介するよ、グナース初のニンジャの」
「ドーモ、シドゥ=サン、ワザマエです」 「お、おう」
ニンジャになった新入りのグナース族の
ワザマエが冒険者ギルドに入った。
「ウプシシシ……その節は、ドーモ。 拙者もカラス=センセイのような、スゴイツヨイニンジャになってグナース族の皆を護りたいです」
「お、おうやりたい事が見つかったんだな」
「カラス=センセイが言ってました。
やりたいこと、やったもん勝ち、それが青春だってばヨォ」
「……あ、はい」
「シシシシシ……夢はでかくなけりゃつまらないだろ、胸を叩いて冒険しようぜ」 ウデキキも笑った。
そして俺はナンカ臭くなった、包丁を新調した。