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【腹が減っては妖異も見える?】※シーズナルネタです

公開

鬱蒼とした森の奥深く、道に迷った一人の冒険者が彷徨っていた。この辺りは道が分かりにくいから、暗くなる前に戻ってこい――そう言われていたのに、この有り様である。

「まいったなぁ……」

森の中は昼間でも薄暗いが、夜ともなれば一寸先は闇。
月明かりも曇天に遮られて頼りなく、風が枝を揺らすたびに何かが動いた気がして心臓が跳ねる。

「……いや、落ち着け。ここは……そうだ。たぶん、北部森林だろ……きっと」

そう言ってみたところで、見渡す限りの木々に見覚えはなく、腹の虫が容赦なく鳴く。
疲れ切っていた。空腹で、冷えて、心細かった。
それでも、ただじっとしているわけにもいかず、冒険者はふらふらと足を動かす。

そのときだった。
茂みの向こう、木々の隙間から――明滅する橙色の灯りがぼんやりと見えた。

「あれは……人の気配か?」

導かれるように灯りの方へ進むと、開けた場所に出た。
そこには森の中にあるまじき立派な屋敷がぽつんと建っていた。

「なんだ、こりゃ……」

石造りの門柱、蔦の絡まる鉄柵、尖塔屋根と大きな扉。
屋敷から漂うどことなく陰鬱な雰囲気に、やや躊躇もするが背に腹は代えられない。ええいままよと、冒険者はそっと足を踏み入れる。扉の軋む音が、静まり返った森の中にいやに大きく響いた。

屋敷の中は薄暗く、床はぴかぴかに磨かれているが、どこか不自然なほどに整っていて、まるで人の気配があるような、ないような――そんな妙な居心地の悪さがあった。

「……誰か、いないかー?」

恐る恐る声をかけるも返事はない。代わりに、風がすうっと吹き抜けたかと思うと、廊下の奥でカタリと何かが落ちた音がした。

ぞくりと背筋を這う冷気に思わず足を止める。

「……気のせいだ、気のせい」

仄暗い廊下をひとまず進んでみる。壁にかけられた肖像画の目がこっちを見ている気がする――否、今その目が動いたような? やっぱり気のせいじゃないかもしれない。絨毯の模様だって今にも動き出しそうだ。いや、もしかしてほんとに動いたかもしれない。

得体が知れず、不気味な屋敷だという感想しか出てこない。
とにかくなにか食べ物だけでも見つけてこんなところさっさとおさらばしたい。

あの庭にあったカボチャ、食べられたりしないかなと、そんなことを真剣に考え始めたあたりで、突然、廊下の奥から「ばあああああああああっ!」という叫び声とともに、白い布の塊が飛び出してきた。

「うおああああああああああああああッ!?」

思わず反射的に叫び声を上げ、後ろによろけて尻もちをついた。その姿を見て、布の中の影――小さなララフェルが、ころころと笑いながら布を脱ぎ捨てた。

「ふっふっふっ、キミ、実にいいリアクションだねぇ~! 今年も大成功っと!」
「……な、なんだよ……!」

思わず呻き声のような言葉が漏れる。腰は抜けるわ心臓はばくばくだわ、正直なところ食欲どころの話ではなくなっている。

「ようこそ、ホーンテッドマナーへ! 来る者拒まず、帰す者は選ぶぞ! ひっひっひぃ!」

なんだその物騒なキャッチコピーは。

唖然とする冒険者を尻目に、ララフェルはどこからかランプを取り出し、ふわりと空中に放ると、魔法の光がぽっと辺りを照らした。すると廊下の両脇のドアが一斉に開き、奇妙な仮装をした者たちがぞろぞろと顔を出し始めた。

骨の絵柄がついた全身タイツに身を包んだヒューランの青年、やけに本格的な魔女装束のヴィエラ、そして、何を思ったか大きなでぶチョコボの着ぐるみを被ったルガディンまで――。

「……なんだ、夢か」
「いやいや、夢じゃないよぉ~。さっきから言ってるでしょう。ようこそ、パーティ会場へ!」

ララフェルがいたずらっぽくウインクする。
なんということか、迷子になって行き着いたのは、どうやらお化け屋敷のイベント会場だったらしい。

「夢じゃないのか……」

それにしても、腹が減ったな――ああ、腹が……減った……。

空腹というのは実に恐ろしいものだ。幽霊だの妖異だのが飛び出してくる廃屋敷よりも、今この瞬間に、冒険者にとってみれば胃の裏がぎゅるぎゅると音を立てる感覚の方がよほど現実味があって、なおかつ死の恐怖を感じる。

「なんか……腹の虫の方が、先に叫びそうだ……な……」

冒険者は立ち上がり、壁に手をつきながら、ふらふら、のろのろと歩き出した。目の前で踊るチョコボの着ぐるみに、骸骨のダンス隊、煙と光でおどける仮装の一団。お祭りだかパーティだか知らないがそんなことより――

「――く、食い物はないのかァ……!?」

その瞬間、視界がぐにゃりと揺れて回った。
次いで意識がふっと浮かぶような感覚――冒険者はついに力尽き、ぱたりと床に倒れ伏した。

「うぇえ……ちょ、ちょっと!? こいつ倒れたぞ!」
「や、やばいやばいやばい! 驚かせすぎた!? ねえ、誰かポーション持ってないの!? えぇ、ないの!?」
「仕込みに全振りしたからなあ……いやでもこれは、さすがにやりすぎたかな……」

慌てふためく仮装パーティの一同。
その正体は――コンチネンタル・サーカスの旅一座。実は守護天節の間だけ人間に化けて活動する妖異たちであった。ダンチョーを中心に恐怖の夜を取り戻そうと躍起になっていた時期もあったが、近頃は方針転換し、人を笑顔に、感謝される際に生じるエーテルを少しだけ頂くことに力を入れている。

が、今回はさすがにやり過ぎたらしい。

「……このままじゃ、通報されちゃうよ……!」
「いや、すでに通報レベルだろ……」

冷や汗をかく(化けているから見た目は笑顔のままだが)妖異たちの元に、コツン、コツと、かかとの高いブーツが床を鳴らす音が近づいてきた。軽やかでいて、不思議と重みのある足音が、慌ただしい空気の中に割って入る。

「――騒がしいわねぇ、今年はずいぶんと盛況みたいじゃない?」

その声に、仮装の者たち……いや、正体を隠した妖異たちが一斉に凍りついた。音の主が姿を現すと、彼らは反射的に姿勢を正す。現れたのは、まるでそれが顔の一部かのように自然に収まった頭部がカボチャの女性だ。漆黒のドレスに身を包み、裾を引くように優雅に歩くその姿には、どこか異質でいて抗い難い魅力があった。

「ま、ま、魔人様……!」
「や、やばい……お怒りだ……!」
「こ、これはその、予定通りの……演出でして……」

パンプキンヘッドの魔人――守護天節を司るとされる、いたずら好きの魔女にして妖異の領主は、倒れた冒険者を見下ろして小さく首を傾げた。

「ふぅん……ずいぶんと楽しませてもらったみたいね、この子。……でもねぇ、空腹で倒れるまでっていうのは、いささかサービス過剰じゃないかしら?」

仮装パーティの妖異たちがしおらしく頭を垂れる中、魔人はその顔に似合わぬ繊細な手を差し伸べ、冒険者の額にそっと触れる。

「さあ、お目覚めの時間よ。『夜の宴』は、まだ始まったばかりなのだから――」

ふわり、と漂う甘い香りが漂う。

「……ん、う……?」

冒険者がゆっくりと目を開けると、目の前にいたのはカボチャ頭の女性であった。

「……カボチャだ。なんで、頭……に?」
「目が覚めたみたいね。ふふ、驚かせすぎたことは謝るわ。でも……楽しかったでしょう?」
「まぁ………」

――ぐぎゅぅるるるるるるるるるう。

冒険者が気力を振り絞って答えた返事は物凄いお腹の音で搔き消えた。

「……腹が減って……死にそう」
「はいはい、お腹がすいたんでしょう? こちらへどうぞ」

カボチャ頭の女性が指を鳴らすと、薄暗く不気味だった屋敷の廊下が色を変えた。照明は柔らかな橙色になり、壁にはカボチャやコウモリを模した飾りが浮かび上がる。そうして奥の扉が開くと、そこには豪勢な料理が並んだ大広間が広がっていた。

パンプキンパイに、リンゴのキャラメリゼ、骨型ビスケット、黒いチョコのケーキに、目玉を模したプディング、そして魔女のキノコスープ。どれもこれも見た目は怪しげながら、心をとろかすような甘さと温かさに満ちていた。

「夜の祝宴へようこそ。空腹で倒れるまで楽しんでくれたあなたには、特別席を用意しておいたわ」

冒険者はまだ少しふらつきながらも、夢見心地でその光景に歩み寄る。仮装した妖異たちも、いつの間にか優しげな笑顔に変わっていて、料理を運んだり、踊ったりしていた。

「……なんだ、夢じゃなかったんだな……」
「ええ、夢じゃないわ。ここは、夢と現の境目。年に一度あなたたち人の子と私たちが交わる、たった一夜の約束された宴なの」

カボチャ頭の女性は笑いながら言った。

「さあ今宵は思う存分楽しみなさい。これは、いたずら好きなあの子たちに代わって私からの、ほんのお詫びのつもりよ」

そうして、屋敷の中はますますにぎやかに、楽しげな音楽と笑い声に包まれていった。



翌朝――宿屋〈とまり木〉の一室。
朝の光がカーテン越しに差し込むなか、冒険者はのそのそと目を覚ました。木組みの天井をぼんやりと見上げながら、ゆっくりと身体を起こす。

「……あれ、いつの間に帰ってこれたんだ?」

落ち着いた木の香り。確かにここはグリダニアの宿屋だ。昨夜のことを思い出そうとするが記憶は曖昧だ。道に迷い、空腹の中、森を歩いていたはずが、気づけば屋敷にいて、ララフェルに驚かされて、奇妙な仮装パーティに巻き込まれて……。

いや、最後には――カボチャ頭の……パンプキンヘッドの魔人がいた、ような。

「……夢だったのか?」

思わず呟いたその言葉をかき消すように、朝の鳥のさえずりが窓の外から聞こえてくる。いつもと変わらない穏やかな朝だ。ただの夢であったとしても不思議ではない。それにあんな奇妙な夜、現実にあるはずが――

かさり。

荷物の奥から、小さな包みがこぼれ落ちた。

それはオレンジ色のリボンで結ばれた小袋だ。拾って開けてみると中には香ばしいパンプキンクッキーがひとつ。

「……マジかよ……」

確かに見覚えがある。それはあの宴でふるまわれていたものと、まったく同じ物だった。

これは現実なのか。それとも、まだ夢の中なのか。

冒険者は袋を見つめたまましばらく動けずにいた――が、やがてふっと肩の力を抜いて小さく笑った。

「……まぁ、悪くなかったしな」

クッキーを一口かじると、甘さの奥に、ほんのりとスパイスの風味が広がる。窓の外では、森の精霊たちがそっと風を運び、遠くで守護天節の飾りがカラカラと揺れていた。

彼らの夜は、きっと、まだどこかで続いている。

(終)
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