君の絵は 序章 著作:ミコテ 絵:Lina=Rion
ここは、ひんがしの国にあるコウシュウと呼ばれる地域の山奥にある農村。帝国が入り込む前の時代。
昔からこの農村では毎年一度、執り行われる祭りにて、巫女の踊りを奉納し豊作を願う風習があった。
しかし、ある年の祭りでの事。
どこからともなく現れた怪しい地神により豊作の祭りは一転、農村を守る為の巫女を供物として差し出す儀式となった。
そして今年もまた、一人の巫女が従者を伴い山を登る。
「里奈よ、疲れはしないか?」
「いい。私は疲れてないから、、、。」
「そうか、、、もう少しで社が見えるはずだ。その手前まではついていってやろう。」
「ありがとう。でも、大丈夫。奉納の手順は覚えてきたから。」
里奈と呼ばれた齢16ほどの少女は、婆にそう応えた。
この先の事は村長以外の者には秘匿とされていた。
しかし、毎年奉納される踊りを執り行う巫女が、帰ってこないという事実から、推測される事はあまり楽観視が出来ないものであると、里奈は知っている。
従者共々何も知らされてはいないが、母と父の様子から、自身が今年の供物として捧げられる事は当然の事実として受け入れざるを得なかった。
でなければ、農村が壊滅的な蹂躙を受ける事となる。
里奈は肌寒さを感じた。
山の中腹まで登ってきており、時間も深夜に近い時間となっている。
気候はまだ秋になる手前と言ったところだが、少し薄手の巫女服は里奈の体を守るものでは無く、それよりも最近たわわに成長してきた胸のふくらみで、押し上げられた巫女服の隙間から差し込む風が、心もとなさをさらに冗長させる。
白色の服と、紅色の袴に包まれた肢体は、淫靡さを感じさせない躍動的な曲線を描いている。また、臀部より少し上辺りにある揺れるリボンがかわいらしさの方を強調させていた。
「ここから先は巫女一人で行く決まりだど、、、。」
「はい。」
すこし開けた場所で従者ともお別れだ。
婆と離れるのが少し寂しくはあったが、ここから先は聖域とされ、簡単に誰でも入れないように結界が張られているとの事だ。
「恋とかしてみたかったなぁ、、、。」
その独り言に応えるものはいない。
里奈はついに聖域の中心部へ、足を踏み入れた。
境内を通り抜け社の奥へ。さらに、裏手へ回り開けた場所へ。そこに一本の千年樹と呼ばれる樹がある。
本当に千年前からある樹で、村の守り神として屹っていたのだが、ここ数年は変わっていた。守り樹の袂には、邪神めいた者が少女を供物とし、延々と生きながらえる魔物となり、住むようになってしまっていた。
まずは、その魔物を呼び出さなければならない。覚えてきた事を手順通り行う。
豊作の踊りを踊り終え、一房持ってきていた稲穂から玄米を少しだけ取り出し、手ぬぐいに包み両手に挟んでこすり合わせ、軽く脱穀した後に口に含み咀嚼する。咀嚼した物を小瓶に吐き出す。これを何度か繰り返し小瓶を満たせば、あとは定刻まで待つのみだ。
衛星ダラガブが天頂よりずれた頃、小瓶を奉納し祝詞を唱える。
唱え終わった里奈が天上を見上げると、衛星ダラガブとは別に一つ光が見えた。
「綺麗な流れ星ね、、、。」
「そうだの、、、。時が満ちるのは早いものだ。」
里奈がハッと振り返った所にいたのは、大仰な体の魔物であった。
元は人間を思わせる体形。だが巨躯に加えて、顔の中央に一つ目の人間など普通は居はしない。
「此度はそなたが供物となるのかの?」
「そのようです。口惜しいことですが。」
「良い良い、少しは遊べるだろうて。前回の供物はすぐに壊れてしもうて、すぐに喰ってしまったわ。」
「この、、、外道が、、、。」
「まぁ、そう言うな。小娘。我とて、このような姿に好きで生まれたわけではない。」
「だけど、供物として嬲ってきたのでしょう?!」
「一年に一度の楽しみじゃ。簡便せい。あまり、聞き分けが無ければこのまま村に降りて行ってもよいのじゃぞ?」
「くっ。殺せ!」
「そう簡単に殺しはせんよ。言うたじゃろう?前回の供物はすぐに壊れてしもうたと。此度はやさしくしてやらんでもない。」
「この、外道!」
「元気なのは良い。しかし、それもそこまでじゃな。」
「うわっ、何をする!」
一つ目の巨躯が一足で近づき、里奈の両腕を片手で掴みあげた。そのまま掲げられると、身じろぎする里奈の袴の裾に長い舌が伸び入った。
「こら!なにを!あっ!」
「ひさしぶりの供物じゃからの、丹念にな。」
「ひっ」
里奈が観念した瞬間、一つ目に向かって突如、大きな轟音と光が落下し炸裂した。
光と爆風に吹き飛ばされ、転がり仰向けになって体に異常が無いとわかるまで数十秒を要した。
さきほどまで、魔物に拘束されていた自身の身にいったい何が起きたのかも分からず、突然のことに、状況整理が追いつかない。
自分は、魔物に今にも嬲られようとしていたのではなかったか?
ぱちぱちと爆ぜる爆発後には一つ目の魔物の死骸が横たわっていた。天災?何かの攻撃?よくわからないけれど、里奈が助かったようだと気づいたのは朝も明けようとした頃であった。
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