君の絵は 三章 著作:ミコテ 絵:Lina=Rion
夜が明ける。
紗々はもういない。
凛音は、眠りの呪文により強制的に紗々を還した。
記憶は紗々がもどったことにより共有された。それに、紗々まで巻き込むことはしたく無かったというのもある。
仁繰を起こし。一緒に朝食を食べ。学校から支給された回復アイテムをいくつか腰に吊り下げ、万全の体制を整えた。阿須戸から連絡があり、ほとんどの村民は移動を開始したとの事。あまり長距離をうごけないものや老人等は逃げても仕方ないと言って聞かなかったため、凛音のばあやを頼り千年樹へ向かったという。
「阿須戸グッジョブ!これならなんとかなりそう!」
「凛音一つ聞いていいかしら?」
「なぁに?」
「、、、、定期船出てるのかな?」
「ほえ?」
まさかの事態だ。定期船がでていない?!
それもそのはず、昨日、衛星ダラガブに動きが見えたと占星台より連絡があり、ドマは戦時判断を行いすべての輸送、運搬の動きを制限した。さらに、家屋より出ないように戒厳令の通達が先ほど出されたところだと今、知った。戒厳令が出されると同時に通常リンクシェルの使用が制限される広域ジャミングも開始されたようで、一般的なリンクシェルが使用でき無くなった。
「まずい、、、、これは、帰れないんじゃ?どうしよう?仁繰!」
「どうしようもなにも、これは、、、、クガネから出れるのかしら?」
「まずいよ!どうにかしてクガネから出ないと!」
「仕方ない、、、凛音ついてきて。」
「どこにいくの?」
仁繰は着いてくるよう凛音に言い、先頭に立って歩き出した。
学校裏口から水道に降り、通路を数十分歩き、クガネの町はずれに出た。
「よく、こんな場所しってるわね」
「いつもこの辺は通ってるから」
「いつも?」
「さてと、、、、。」
海岸までくると、仁繰は口に指を銜えて、甲高く口笛を吹いた。
しばらくすると、ざぱーんと言う音共に、一匹のシルドラが海中より現れた。
「ファッ?!」
「よしよし、凛音、これに乗って移動しよう!」
「ええええええ?!」
「時間が無いんでしょ?早く早く。」
「ひぃえぇぇぇ。」
慣れた手つきでよじ登る仁繰の後から、おっかなびっくりよじよじする凛音。ローブがまとわりついてうまく足が上がらずシルドラをまたげない。恥ずかしさはさて置いて、スカート部分を手早く腰の所で巻き付けると登りなおした。
「じゃ、いくよ!シルドラ、ゴー!」
ざぱーん
「息を吐いて!凛音!」
「ちょっ!まっ、、、、!ごばごばばばばば」
進みだしたシルドラはいきなり潜水を始めた。
完全に海に沈むと仁繰は杖を使って印を結び水中呼吸と水中発声の魔法をかけた。
「事前に掛けておけないのがこの魔法の悪い処よね。」
「死ぬから?!死んじゃうから?!あれ?息が出来る?」
「あんまり声を出すと警戒船に、泡で気づかれるよ?」
シルドラは潜水したまま進み、海上を警備する警戒船の下をのんびりと通り抜ける。
そのまま進み、警戒船の船影が無くなった所で、シルドラを水上へ浮上させた。
「だばぁ!げほげほっ!死、、、死ぬかと思った?!」
「こほっ、けほっ。水を取り込まないと息が出来ないのはなんとかならないのかな。この魔法。」
水中呼吸はその名の通り水を取り込み空気を取り出す術。空気の代わりに水がその役目を果たす為、一度肺を水で満たす必要がある。
解除時は水が一度体外へ押し出されるので窒息する可能性は低い。
しかし、慣れないうちは苦労するので熟練が必要な魔法の一つだ。
水上を滑るように移動するシルドラに乗って二人は進む。
「けど、いつのまにこんなマウントを、、、?」
「この間、釣りあげちゃったの。それで、懐かれてしまって、、、かわいいよね!」
「うん。かわいいのはかわいいけど、やることがえげつないわ。」
当分の間、シルドラに乗るのがトラウマになりそうな気がした。
「あ。見て!エオルゼア大陸の方!」
「わわわ、始まった?!急いで!」
「がんばって!シルドラ!」
「クォーン!」
シルドラは一声鳴くと、スピードを上げた。
エオルゼア大陸の方に見えるのは大きな青い固まり。オサード大陸側から見ても、あの大きさで見えるという事はものすごく大きいのではないのか。
あれが、メテオ?
にしては、空から降ってくるものじゃないの?疑問は尽きないが始まったことは確かだ。いつ村を消滅させるほどの攻撃がくるのかわからないけども早く千年樹に向かわないと!
一時間はかかる海路を、30分程度で走破したシルドラにお礼を言って海に帰した二人は港より少し遠くの場所で降りると、走って港のレンタルチョコボ屋へ向かう。
港には人っ子一人、歩いていない。いつ終わるともしれない戒厳令に従っているようだ。警備兵まで引っ込んでいるという事はよほどの事態という事なのだろう。
「凛音!仁繰!こっちだ!」
「阿須戸?!なんで逃げてないの!」
そんな場所に阿須戸はいた。
二人が来ることを信じて待っていた阿須戸。
これで凛音達が来ていなければ下手をしたら犬死だ。
「来ると思っていたからな!父に手配してもらって、チョコボを用意してもらった!乗れ!」
「阿須戸んイケメーン!」
「わわ、チョコボなんてひさしぶりー。」
凛音達はチョコボに乗ると、一目散に村を目指した。
空の色が紅い。空気もなんだか重くなってきている気がする。
チョコボのスピードであれば10分程度で村には着く。阿須戸がいなければ歩けば30分はかかる道のりを走らないといけない所であった。
そんな状態で魔法の酷使は出来るはずもなく阿須戸には感謝だ。
「あ!凛音!阿須戸!なにか青い玉が変化してるよ!あれは、、、、?」
「なんだろう?なにか始まってる感じがする!急ごう!」
凛音達の所からは青い玉にしか見えないが、第七霊災の終わりを告げる神獣バハムートの出現だ。
これより、バハムートの攻撃による世界の終わりが始まるのだが、第七霊災により引き起こされた地形が変わるほどの攻撃に対して、十二神の力を使用し、軍師ルイゾワによる「神降ろし」によって神獣バハムートは封印され、自然は驚異的な回復をみせたあと、第七星暦が始まるというのが筋書なのだが。
そんなことはいざ知らず、凛音達は境内へ到着しエーテライトから千年樹へ移動。そのままばあや達と合流した。
「ばあや!無事?!」
「おお、凛音。戻ってきたのか。婆はほれこの通りピンピンしておるよ。」
「今からすっごいプロテスを張るから手伝って!」
「ほぅ?皆を守ろうと言うのか。巫女としての自覚が出てきおったか?よかろう。手伝おう。」
「凛音姉ぇ!私も手伝うよ!」
「お願い!阿須戸は千年樹に登って青い玉がみえる方角を監視して。なにか来たらすぐに教えて!」
「了解」
承諾し、ジャンプ一つで千年樹の天辺に上る。
「仁繰!授業でやってたあれを使うよ!」
「軍用回復陣ね。任せて。アレンジして、回復ではなく防御のほうへっと。」
「千年樹を中心にプロテスを展開する!持続時間は、、、、。」
「10秒もてばいいほうじゃない?」
「阿須戸からの報告後、即時起動!」
「わかった。まかせて!」
阿須戸が千年樹から降りてきた。
「きたぞっ!弾着まで、、、5秒くらいか!?」
「仁繰!」
「展開!」
ばあやと妹、そして千年樹のエーテルが目に見えてうねりあつまり仁繰に収束していく。そのエーテルが仁繰にバイパスされて凛音に注がれる。
凛音は叫んだ!
「いくよ!すっごいプロテス!!」
杖を構えて、両腕を開く。呪文が完成し青色の丸い球体が千年樹をほとんど包み込むように展開された。
その直後、エオルゼア大陸から気まぐれに飛んできたバハムートの攻撃が、村の中心に着弾し大穴があき村を瞬時に消滅させた。
さらに衝撃が拡散し千年樹のほうへの被害をもたらす。
着弾した場所は村の中心部。千年樹も距離的にはそんなに遠くない。凛音製すっごいプロテスは名前は置いておいて、よく防御力を発揮した。巫女3人と千年樹のエーテル量はそれらを食い止めるだけに値し、数秒耐えればなんとかなりそうではあったが、その数秒がとても長く感じられた。
「ぐぬぬぬ。」
「凛音!耐えて!」
「耐えろ!凛音!」
凛音が片膝を付き阿須戸が後ろで槍を突き立てそれを支える。杖を眼前に突き立ててプロテスを力いっぱい維持する。きっかり6秒後。唐突に衝撃が無散しそよ風となる。
耐えきった!
千年樹も吹き飛ばされることなくよくがんばったし、プロテスも途中で切れる事はなかった。
「ふひぃ。おわったぁぁぁぁ!」
「おつかれ、凛音」
「阿須戸もおつかれさま。」
「これは、疲れる!」
「あは、仁繰もありがとう。」
「どいたま!」
「へへ」
一気に疲弊して腰が抜けた凛音はその場に座り込んだ。
そこに婆が回復呪文をかける。頭の上から振りかけられる暖かい光を凛音はお風呂に入っているような気持ちで受けた。
「ありがたやー」
「ほれほれ、千年樹様のお力添えのおかげじゃぞ。以後、敬え。」
「はいはい。ありがとうありがとう!」
「なんじゃ、その適当な感謝は!」
「みんなのおかげじゃん。一人だけじゃだめだったし。」
「、、、ほぅ。凛音も言うようになったな。」
「へへーん、当代随一の巫女としてありがたるがよいー。」
「うつけめ!」
杖でごつんとやられた凛音は声も出せずにその場で悶絶した。
「それに、なんじゃ、その恰好は。いい年頃の若い娘が。」
「へ?」
そう言えば、急いでいたから気付かなかったが、シルドラに乗ったあたりからローブをたくし上げたままだった。
「・・・?!阿須戸見た?」
「、、、、見ていない。俺は、何も、見ていない。」
素知らぬ顔で明後日のほうへと視線を彷徨わせる阿須戸。
急いでローブを元に戻し、ぱんぱんとはたくと背筋を伸ばした凛音は、千年樹に向かって手をいっぱいに広げて腕を高く伸ばした。
そして思うのだ。
「この千年樹が紗々に届くといいな♪」
がばっと、飛び起きた紗々は一瞬ここがどこか分からなかった。
さっきまで、凛音と話をしていたはずである。意識はしっかりしていたはずだ。
少し話をしたあと、、。
「、、、眠らされた?」
そう、考えるとつじつまが合う。巻き込ませないようにと凛音は私を眠らせたのだ。最後の最後にやられた。これでは、なんとも出来ないではないか、、、。
外は雨だ。
変わりなく。
どうしようも変わりなく。
あの状況、あれは第七霊災のはずだ。バハムートに攻撃された自然は驚異的な回復力により元に戻っていることが後の査察によってわかっている。凛音の住む村があった場所も大きなクレータの跡地には緑が生い茂っている事からも、おそらく合っているはず。もしかすると、千年樹も再生されたのではないか?あの第七霊災のどうしようもなさは、エオルゼアの住民が一番知っている。自然は再生された。しかし、人は再生されなかった。何十万人と死んだのだ。あの霊災で死に還ってきたものは一人としていない。
二日酔いに似た頭痛を払いのけるように紗々はなんとか立ち上がった。スケッチブックを持ったままだったことに気付いた紗々は、油紙をもう一度被せ山を下りることにした。村は壊滅的な破壊を受けたはずだ。その後どのようになったかは今の私には知る由もない。
「帰ろう、、、。」
紗々は荷物をまとめ、スケッチブックをしっかりと抱え持つと山をくだっていった。
胸いっぱいに寂寥感を抱き、踏み出す脚は後ろ髪を引かれ、強く降る雨に顔を洗われながら、千年樹を後にした。
それから数か月。
紗々は冒険者稼業に戻っていた。
クガネに侵攻した同盟軍は快進撃を続け、ドマ城に攻め入らんとしている。その手前の段階で新しい蛮神が発生したとの事で同盟軍の侵攻は停止していた。冒険者達はつかの間の休暇を楽しむものと、未確認生命体オメガと呼ばれる神獣との攻防を繰り広げる者などがいる。
そんな中、紗々はいつもどおり襁褓っちゃんに呼ばれ、絵画の運び込みの手伝いをしていた。
「ちょっと、隙間が出来たからって、いいように使われている気がする、、、。」
「そんな事言わないの。あれでしょ?新しい蛮神の捕捉がまだなんでしょ?じゃぁ、無職じゃない?暇でしょ?」
「私だって忙しいのよ?」
「どこが?」
「ぐぬぬ。」
実際にやる事はあるのだ。ただ、気が進まないだけで。あの時に持って帰ったスケッチブックから風景画を画板へ移す作業をしようと思いながら数か月が経ってしまった。
しかし、なんだか勝手にそんなことをしてもいいのかどうか?迷っていたのだ。
「そんなあなたよりも画廊は忙しいの。新しい国からの交易船にのって様々な物が届いているんだから。今度、グリダニアでもオサード大陸物産展みたいなこともやるみたいだし、なによりも工芸品や絵画も新鮮なものが入ってくるんだから!」
「商人の顔ね、、、、。はいはい、わかりました。で、今日は何?魔物の等身大模型でも届いたの?」
「ううん。オサード大陸の絵画が一点持ち込まれたわ。クガネって言う所の風景画みたい。でも、変なのよね?なんでこんなにきれいな絵なのに致命的な部分が曲がってるのかしら、、、?」
「へぇ、そうなんだ。クガネ、、、え?」
襁褓っちゃんが取り出してきた絵画をみて紗々は停止した。
見たことがあるクガネ大門の絵。一つ一つの描き込みは丁寧であったが、それは、大門の致命的な部分の線が曲がっている絵であった。
紗々はそのまちがった絵画を知っている。
紗々はその間違った線を知っている。
紗々はその作成者を知っている。
その作成者である、、、
君の名は・・・
End