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執務室で書類に目を通す中、引っかかる報告を見つける。
”国境近くで未確認の飛翔体の目撃情報”
それだけであれば警備の人員を多めに回す程度だが、重ねて同地区で軽微ながらエーテルの揺らぎを観測したとの記録がある。記録者のサインはユウ。
執務室に呼び出して話を聞くことにした。
「はい。僕ともう一人測量士が一緒だったんですが、特に感じなかったと。計測器でも正常値の範囲だったらしくて迷ったのですが、報告だけでもと思って。それからよくは分からないのですが、感覚の話ですみません。自然天候とは違って少し嫌な感じがしました」
「正常値の範囲内か…また行けば見分けられそうか?」
「……はい、頑張ります」
「OK.4日後に視察予定だ、一緒に出られるように準備を。そっちには代わりの人員を回すように言っておくから配置依頼を提出しておいてくれ。他になければ以上」
「ありがとうございました!失礼します」
ペコリと頭を下げて、ユウが足早に執務室から出ていく。
深く息をつき椅子にもたれかかる。ユウを視察に同行させるのは初めてだ。
ユウの働きぶりは──白状しよう。惚れた欲目をマイナスしてもすこぶる評判だ。目が使えないハンディで補助員を一人つける必要はあるが、予定通りの業務をこなす上、業務外は同僚たちの精神ケアにも貢献している。……おっと、同僚だけではなかったか。
近辺に砦があるので、村自体は警戒レベルはそれほど高くない地域。視察には俺とユウの他に3人、計5人のごく少数で行う。
予定通りの4日後正午過ぎ、大型チョコボの後ろ席にユウを乗せ、野営を一泊挟みつつ一行で走らせて、特にトラブルもなく夕刻前には村に到着することができた。
夜まで周辺を調査し、村人に用意させた部屋に泊まって翌朝帰路につく。
病気で臥せっているという一人を覗いて村人全員に聞き取り──それとなく”手も取り”調査をするが取り立てて異常は認められなかった。
もちろん、長引く戦争への不満と小競り合いに巻き込まれやすい国境周辺である苛立ちは大小抱えており予想の範囲内ではあったが。
持参した食糧で簡単な夕食を取って休むが、ユウの顔色が思わしくない。
「大丈夫です。すみません……わからないんですが、何か良くないものの気配がします。エーテルの揺らぎが気持ち悪くて…。警戒をお願いします」
最低限の軽装備は身につけたまま、交代に仮眠を取っていた夜半、虫の音を年老いた女らしき悲鳴がかき消した。視察メンバーは半身を起こし、目くばせして事態を静観する。結局ろくに眠れずにいたのだろう、ユウもすぐに気配を察知して身構えている。
叫びと、それを留めようとする看病役らしい男の声が重なる中、ほどなく世話役が状況の説明に飛んできた。
「す、すみません病気のやつがひきつけを起こしたみたいで…」
こんな小さな村に常在の医師などおらず、最寄りは砦だが時間がかかりすぎる。
警戒は怠らないよう、隊の一人へ、村人が集まりつつあるあばら屋の様子を見に行かせる。戸口から安全を確認しつつこちらに目配せしてきたのであとに続いて広場に出たところで、暗がりから何かが飛んできたため咄嗟に身を反転して避け、襲撃があった方を見やる。かすりもせずダメージはなかったが、待機しているユウから癒しの術が投げられるのがわかった。
と、影が飛びかかってくる。とっくに受け身の体制はできていたため初撃を盾でいなす頃には小隊が戻ってきて、闇へと追いに行った兵にも連れられ、ほどなく襲撃の主はすぐ捕らえられた。
タイガルドの軽装で、兵士と呼ぶには若い。少年の二人組で、一人はこちらを睨みつけ、もう一人は震えている。いくつか問答をするが、計画、実行、それら全ての稚拙さは、この少年たちが独自にやったことだと明らかだった。
成り行きを見守った村人たちへの説明を含め、明日の出発を待って砦に収容する算段を示し合わせ、どこかに繋ぐよう指示して連れて行かせたところで、先のあばら家から人影が出てきた。先ほど悲鳴をあげていた老婆…と思っていたが、見窄らしいものの、そこまで年老いていなかった。
「おや平気だったのかい」と、他の村人が声をかけるのも構わずに、女はヨタヨタと歩み寄ってきて、間に立っていたユウが音で気づいて避ける前にぶつかり、しなだれかかった。わっ、と驚いた声をあげるユウをこちらに引き寄せようとすると。
「レオさんダメです!」初めて聞くユウの鋭い声。そのままユウはどこうとせず、もたれかかる女の両肩を掴んで揉み合いになるかと思ったところで、女の手に刃物があることを見て即座にその腕を捻る。女に大した力はなく、すぐにナイフを取り落とした。
「ユウ、怪我は」「大丈夫です!ありません!」喚く女を捻り上げたまま、ユウの無事を確認して安堵する。部下に引き渡したところでようやく勝ち目がないと知ったか、女が縄をかけられながら恨み言を吐きかけてくる。
「返せ!返せ!あんたのせいで…あの子を…エイヴリルを返せ!」
しばらく記憶を手繰り、ああ、と思い当たったが、その反応では到底納得がいかなかったのだろう。女は激昂して続けた。
「下働きの女なんかいちいち覚えてないんだろ!あんたにいいように捨てられて、もう生きていかれないって首括って死んだよ!私のかわいい娘を返せ!」
「──そうか、それは…残念だ」
それだけ返し、頭を傾けて部下へ連れて行くように指示する。俺の前から引きずられていき、ようやく叫び疲れたのか段々と声が小さくなって行くと、呆然と残された村人たちの中から村長が泡を食って駆け寄ってきた。
「も、申し訳ありません!あの婆さん……他所から来た奴なんです、かわいそうだと思って迎えてやったのにっ……、ああ、太子様になんてことを!」
「大丈夫だ、大事はない。タイガルドの少年兵もあの女の手引きだろうな。出発を早めて砦に寄ることにする、少し人を寄越そう。村でもしばらく警戒を続けてくれ、飛翔体の正体もまだわかっていない。何かあれば報告を。些細なことでも構わない」
「へえ──!」
大仰に伏せてみせ、村長は出発の準備にすっ飛んでいった。騒ぎが収まって家々に戻る者、事件の後処理に追われる者、散り散りになる。
気づけば夜は明けて、山の上に姿をみせたばかりの朝日が燃えていた。
宿泊していた小屋の前で物入れに腰掛け、ユウが両腕で己を抱えるようにして小さくなっている。
「ユウ」声にびくっと体を跳ねさせる。
「……すみません、ちょっと、びっくりして──落ち着いたら急に力が抜けちゃいました」
震えているのか。力なく笑ってみせるので、跪いて目線を合わせ、膝に革手袋を嵌めている手を置いた。
「俺を守ってくれたな。ありがとう」
「いえ、僕は何も──…」
「……じきに出発する。また、話そう」
離れがたさを感じながら、出発を理由に背を向ける。今は触れるわけにいかなかった。
→レオニア王国記 よみびとしらず 6へ(20181007初掲)
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完結済みのストーリー:レオニア王国記 前日譚
タイガルドから、元敵国へ輿入れとなったローザ姫に付き従う、宰相の若き日――ルイスの物語。