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クロスオーバー小説「誰が為に英雄は笑う」第一話前編 その1

公開
リムサ・ロミンサ領域海上。視察兼不審船迎撃用軍艦。
荒々しい装いの黒渦団員達の中心に、提督メルウィブ・ブルーフィスウィンの姿があった。

海賊上がりの男達を統括する立場の者として、いかなる状況においても動揺を見せない自信が彼女にはあった。
……だが。今現在この状況において、いささかの困惑を隠しきれずにいられない事を誰が責められるだろうか。何しろ。

「どうして貴女はそうなんですかっ! 見てください周りの方達の顔を! 呆れを通り越して表情がありませんよっ!」
「だってだって! 戦う気がないって言ってるのに襲い掛かってくるんだもんっ!」

突然空から降ってきた二人組がすったもんだの末、自分を挟んで痴話喧嘩をしているのだから。


第一話「海都の英雄 マスケット・ライフル 前編」


さて、どういった経緯があってそんな事になったのか。それはほんの数分前に遡る。

「マスケット」
「……はい」

マスケット・ライフル。道行く誰もが振り返る細身の長身に、短く揃えられた栗色の髪が彼女の活発さを想像させる。
反面、子供の背丈ほどもある巨大な銃を背負うその姿から、只者ではない雰囲気を感じずにはいられない。

「確かに私は貴女のゆく所ならばどこへでもとは言いました。けれど、私の考えていたそこには最低限、地面がありました」
「うん、私も正直地面くらいはあるかなって思ってたよ」

一方、彼女の雰囲気に呑まれる事無く語る少女、デリンジャ。
深々とした真紅のドレスが夜色の長髪と相成り、彼女の淑やかさを具現する。
口調は冷静だが、猛烈な勢いでめくりあがりそうになるスカートを押さえるのに必死な様子が、小さな両腕から如実に伝わる。

「どうしよっかなぁ。下は海みたいだし、何とか死なないかな?」
「この高さから落ちたら海も地面もあまり変わりないかと……」

海上から標高数千メートル。現在、彼女達がいるそこは、常人ならば信心など持ち合わせなくともザル神に祈りを捧げずにはいられない絶命待ったなしの秒読み段階であった。

「おまけに鮫とかもいるだろうしねぇ。デリンジャ、鮫料理ってできる?」
「さばいた事がないので何とも……」

そんな中、暢気もここにきわまれりといった会話を二人は続ける。「死なない」と思っているのではない。「死んだ所でどうした事でもない」二人の心はその一点から動く事がなかった。
ジェナー。彼女達の住む世界「プリウス」には、そう呼ばれる存在があった。決してたどり着けぬ森の奥深くで、たった一人の「誰か」を待ち続ける神秘的な少女。
いつしか「アニマ」と呼ばれるようになったその少女に選ばれし者は、そうなる以前の記憶を代償として、復活の奇跡を体現する。
悪い面を見れば、容易に死ねなくなる地獄になるかもしれないと解った上で、マスケットはアニマ……デリンジャと共に歩む事を選んだ。目の前の存在は、決して手放してはいけないもの。互いの心に決して否定のできない思いが住み着いた故に。

「そうだ、この銃でバーンと撃って海が割れた隙に陸地へダッシュとか!」
「マスケットの銃の威力を否定する気はありませんが、さすがにそれは……あっ」

落下の最中、周りの雲がはれた頃、デリンジャの目に一隻の船が映る。デリンジャに続き、マスケットもまたその存在に気付く。

「よし、あの船に乗せてもらおう。ちょっと離れてるけど、これを使って……」

マスケットの視線が一時船から動く。その先には、大陸間移動装置「テラシルゲート」の暴走時、咄嗟かつ無理矢理に持ち込んだ巨大な大理石のクローゼットがあった。
数分前までいた自分の世界で、西へ東へ方々歩いて買い集めたデリンジャの洋服が詰め込まれたそれを引きつかむ。

「よっこい……」

デリンジャはクローゼットを掴んでいない左手にしがみついていた。彼女達にとって、この程度の事に意思の疎通は必要ない。マスケットは当然といった面持ちで、たまたま持ち合わせていた鎖をそれに巻きつけ、振りかぶり……。

「しょっとぉ!」

船の上空辺りの空へそれを投げつけた。数百キロは下らないだろうクローゼットは投げられた勢いに乗り、マスケット達を引っ張りながらも重力に従い落ちていく。

「さってと。これで海に落ちる心配はなくなったかな」

巻きつけた鎖を手繰り寄せ、クローゼットの上に二人は登る。その内に、豆粒ほどの大きさにしか見えなかった件の船が段々と大きくなり、人間の姿も確認できるほどになっていた。

「海賊……とはちょっと違うかな。あそこにいる銀髪の人が偉い人かな」
「話の解る方だといいですね」

相手方からもこちらは既に視認できる距離にある。真っ先にマスケット達に気付いた船員らしき人影が、慌てた様子で空を指差していた。迎撃の指示が出されているように見えたが、相手側からすれば時既に遅し。クローゼットと軍艦は目と鼻の先の距離だった。

「おっじゃましまーっす!」

瞬間、轟音。耳をつんざく様な激しさに、一瞬間、何の音すらもなくなったかのような静けさが訪れた。苛烈な緊張感が周囲を走る。落ちてきたそれに人が乗っている事を確認するや否や、臨戦態勢をとる者がほとんどな中、それを意に介する様子もなげに、マスケットは息をついた。

「……ふーっ! よっし、生きてた!!」
「やりましたね、マスケット!」
「いやー、結構な大冒険だったねぇ今のは。さすがにちょっと死んじゃうか持って思ったよー……お?」

暢気な声に周囲の緊張が緩むかと思われたが、クローゼットから降りたマスケットの目の前には、今まさに斧を振り下ろさんとしたルガディン族の男がいた。

「何者だ、貴様ぁあああ!!」

有無を言わさず降り注ぐ斧。大きく伸びをしようとしたその姿勢のまま、マスケットはその光景を、やはり暢気な表情で眺めていた。

「まあ、そうだよねぇ。そうなるよ普通は」

ゆっくりとマスケットの腕が伸びる。だが、その腕の動きが見えたのは一部の達人だけであった事を、まさに斧を振り下ろした本人が理解した。

「でもね、か弱い女の子相手にいきなり斧で切りかかるのはどうかなーって」

中指と人差し指で斧を挟み止め、そのまま使い手ごと持ち上げる事数瞬。驚き息を呑む隙さえ入る余地はなく、次の瞬間、ルガディンの巨体が飛んだ。緩やかな弧を描きながらたっぷりと数秒。斧を振り下ろしたその姿のまま、彼の体が船上にたたきつけられた。

「ぅぐぁ!!」

短く重いうめき声。それと同じくして、周囲が大きくざわめいた。「何が起こったのか」を理解するのに遅れた大半がそれに続き、ざわめきは喧騒とまで呼ぶほどにまでに大きく膨らんだ。

「ね? 皆もそう思うでしょ?」

騒ぎの中心で、たった一人。マスケットは笑う。彼女にとってそれは友好を示さんとしていたが、直前の光景を前に、それを彼女の意図通りにとる者は誰一人としていなかった。
結果。起るは激昂。各々全てが武器を硬く握り、目の前の脅威を仕留めんと船上を駆けた。

「だから、戦う気はないんだって!」


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