<第六話へ> <目次へ> <第八話前編へ>(2018年4月2日 文章を一部修正しました)
レオニア国の王城、ツインレオにある客間の一つにて、一人のミコッテ族が暇をもてあましていた。
彼の名はアサギ、彼はこの部屋でレオニダス王からの通達を待っていた。
「いつ王様の通達が来るんだろうなぁ すぐに来るってわけじゃないのはわかるけど。
こっそり遊びに行っちゃおうかなー カウルかぶるのがめんどくさいけど。
最初はアルザ王子の顔を見るだけのつもりで来たけど、なんかここで働かされそうだなぁ。」
そうつぶやいていると、ドアをノックする音がする。
「アサギや ようきたな。 わしだ、ビクトリウスだ。 中にはいるぞ。」
「トーニャ爺! いいよ はいって!」
聞き慣れた声がして、アサギは一つ返事でビクトリウスを部屋の中に迎える。
部屋に入ってきたのは年老いたミコッテ族。 白を基調とした貴族風の衣装と左腕を隠すように
濃い青色のマントをはおり、右腕には装飾の施された箱が抱えられていた。
「アサギよ、ツインレオへよく来てくれた。 ちゃんとたどり着けたようでなによりじゃ。
つもる話もあるが、今はこれを渡すために来たのじゃ。」
「その箱、いったい何?」
「おぬしを守る装身具が入っておる。 王国内では常に身につけておくようにな。」
そういってビクトリウスは客間のテーブルの上に箱を置き、開く。
中に入っていたのは半眼を覆うバイザーであった。
「こう見えて視界はほとんど遮られることはない。 だがおぬしの素顔を隠す効果は十分にある。」
「僕の顔がトラブルになる可能性があるって? それじゃ僕があやしい人みたいじゃないか!」
不満を漏らすアサギに、ビクトリウスは、アルザ王子にうり二つな自身を守るために必要だと説得する。
説得されてしぶしぶバイザーをつけるアサギ。 しかし程なくしてバイザーを気に入った様子を見せる。
「うむ とてもよく似合うぞ。 そろそろブラマールがおぬしの仕事について通達を持ってくる頃じゃ。
もう少しの間待っていてもらえるかな?」
「わかった。 じゃ、またね トーニャ爺! …はぁ やっぱりここで働くのかぁ。」
ビクトリウスと入れ替わるように、ブラマールと見知らぬ人物が一人入ってきた。
ブラマールは執事服、もう一人の男は見たところ軽装の騎士ようだが、黒いガラスのはまったグラスを
かけており、表情はわからない。 ただ、黒いグラスの男からは 威圧感がにじみ出ていた。
「貴様が新たに王子達の護衛の仕事を受けたものか。 俺のことはS.P.と呼んでくれ。」
「王子達の護衛って、僕の仕事かい? なんかすごいの来たなぁ! 僕はアサギ、よろしく!
ねぇブラ爺 S.P.っていうのは 彼の仕事中の呼び名であの姿なの? すごいなー!
僕にもそういう二つ名みたいなのがつくのかな?」
アサギの言葉にブラマールは黙ったままうなずいて見せる。
「…よく喋る小僧だな。 アサギと言ったか 王子達の護衛と言っても、四六時中彼らと
一緒にいるのが仕事というわけではないぞ。 彼らの外出時などにそばにいて、危険から守る
のが役目だ。 一見楽そうだが、自身も危険を伴う。 半端な気持ちではできないぞ?」
「大丈夫! 僕はいつもリベリオ爺に鍛えられているし、戦闘には慣れているよ。」
「リベリオ… なるほど、彼の推薦もあったのか。 俺が役に立たないと判断したら、すぐに
任務を解いて追い出すから覚悟を決めておけ。 いいな。」
「りょーかい!!」
「では俺は任務に戻る。 ブラマール 彼を頼むぞ。」
「かしこまりました。 アサギ殿、次は王子達へ挨拶に参りましょう。」
S.P.は彼らより一足早く部屋を出て行った。
「はーい! 王子達って、僕が護衛する人たちでしょ? アルザ王子は僕そっくりの顔で
もう一人のマテウス王子ってどんな人だろ?」
「長身のエレゼン族で、心優しく、とても聡明なお方です。 それは亡き母君のローザ様に…
こほん、少ししゃべりすぎてしまいましたね。」
ブラマールの一言に好奇心を刺激されたのか、王子達のいる部屋につくまでの間、彼を
質問責めにするアサギ。 二人が部屋の前に着いたとたん、部屋の中がなにやら騒がしい様子。
「失礼します!」
ブラマールが慌ててドアを開けると、熱いものを服にこぼしたのか あちあち! と慌てふためく
青い髪のミコッテ族の青年、謝りながらハンカチで彼の服を拭こうとする黒い髪のミコッテ族の青年
彼と一緒にハンカチを手にし、服にこぼれたお茶を拭こうとする黒髪のエレゼン族の青年がいた。
「あちち…! ルーカス、最近どうしたんだよ ぼんやりすることが増えて……。」
「も、申し訳ないッス! 今すぐやけどの薬とお召し替えの用意をしてくるッス!」
「アルザ、大丈夫か? ルーカス 最近なんか変だよ? あ、ブラマール。
ルーカスがアルザの服にお茶をこぼしちゃって。 着替えとやけどの薬を持ってきてくれないかな?」
事情を知ったブラマールは、アサギに王子達と一緒にこの部屋にいるように伝えて
一人部屋を出て、着替えと薬を持ってきた侍女達と共に急いで戻って来た。
その頃には、アサギは部屋にいた三人とすっかり打ち解けていた。
ブラマールと侍女達はアルザ王子の着替えとやけどの手当を手伝いつつ、騒ぎが起こったときに
壊れてしまった 茶器の後始末をする。
着替えや茶器の後始末が終わった後、侍女達は一足早く部屋を後にした。
「では 代わりのお茶を用意します。 ルーカスも一緒に来なさい。
アサギ殿、あなたは王子達とご一緒に部屋でお待ちください。」
ブラマールとルーカスは一礼し、部屋を出る。 ブラマールは厨房へ向かいながらルーカスに話しかける
「ここ最近 上の空になっていることが増えているようだが、何かあったのか?」
「何でもないッスよ 何でも…。」
「王子達も君のことを心配しているし、私もそんな君をほっとけない。 胸の中に何かを
抱えているのなら、話してほしい。」
「大丈夫ッス……。」
「そうか、それならいい。」
そうは言ったものの、ルーカスは何かを隠しているのではないか、と心配するブラマールであった。