夕暮れ色が濃紺へと姿を変えていく。空の高い部分には、煌めく星と濃い黄色の月が浮かんでいる。もうすぐ完全に日は沈むが、だからといってここは暗闇に沈むことはない。
明るすぎない、静かな灯りが灯された庭。草木に覆われてはいるが、自然に近い形で管理されている。
「オープンの時間だ~。」
外にいる用心棒のしゃっくんが、のんびりと入口のランタンに火を入れるのが開店の合図。
今日も沢山の人が集まるだろう。
一時の夢と癒しと興奮が饗される、冒険者の秘密の館。
ようこそ、「魔女の秘薬」へ。
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「うああああああああああああああああああああああああああああああああん、オーーーーナーーーーーーーーっ!!聞いて下さあああああい・・・。」
「聞こえてる。声のボリューム下げろ、うるせぇよ。」
「すみませええええええええええん・・・・。」
ぐずぐず泣いているのは、この魔女の秘薬、キャストのReinetteこと、ネッテ。
オーナーのモノXは作っていた料理を仕上げ、給仕へ渡すとため息をつきながら調理場を出た。趣味で始めた料理だが、以外にも客に受けたため、オーナーでありながら調理も請け負っている。
「で、今日はどうした?」「それがぁぁ、今日、1回も指名がないんです・・・。」
「いつもじゃねぇか。元気出せ。じゃ、調理場に戻るわ。」
「そんなっ!まってえええ!!!しかも今日、ヘルプも呼ばれないんですよっ!!ほかの子は誰も控室にいないのに。私、もう、ここに何しに来てるんですかねぇ・・・。」
持ち込んだエール(自腹)をちびちび飲みながら、モノXの服の裾をつかみぐずぐず泣くネッテ。
連続10日指名なし。前回の指名は、初めて来店されたお客様で、カゲ姉さんが気を使って私をつかせてくれた。指名は指名でも、なんなら身内ヨイショである。
そう、ネッテはモテない。いや、プライベートの話ではなく(プライベートはいわずもがな、だが)。
それでも本人は美容に気を使い(酒風呂が好き)、流行のおしゃれを追い(カゲ姉さんと同じ格好が最高のおしゃれ)、エオルゼア新聞を読み(事件屋の4コマ漫画が大好き)、日々努力をしている。
モノXから見ても、他のキャストにも見劣りしないレベルである・・・・、かもしれないと思ってはいる。
普通の店と違い、この「魔女の秘薬」では戦闘力も求められる。
ネッテ本人は白魔導士しかできないと嘆いているが、先日、なんとゼロ式2層まで突破してきた。
何度失敗してもめげずにチャレンジするその姿は、十分称賛に値する・・・・、モノXはそう考えている。
「このままじゃ、ヒナノママにクビを切られちゃう・・・・うぇえええ~。せっかく憧れの魔女の秘薬に入れたのに・・・・。」
テーブルの上には空になったエール瓶が数本転がっている。
「とりあえず、お前、飲みすぎだろ・・・。」大きなため息をはきつつ、瓶をゴミ箱に投げ捨てるモノX。
「ちゃんと、いつもの半分で抑えてます!」
そういえば、こいつ、酒にはやけに強かったな。
「わかったわかった。じゃー、ちょっと下処理手伝ってくれよ。」
「!! 仕事!?仕事ですか・・・!?やりますっ!!」
ドレスの袖をまくり上げ、調理場に入ろうとすると。
「ネッテ、指名だよ。準備しな。」
抑揚と温度のない、いっそ冷淡にも聞こえるいつもの声。
「は、はいっ!ヒナノママ。 すぐに準備しますっ!」
「よかったな。」
ふっと笑うモノXに、
「わたし、大丈夫ですか!?髪ちゃんとしてます!?あっ、目は腫れてないですか!化粧落ちてないかな・・・。」
おろおろと髪を撫でつけるネッテ。
「大丈夫だ。頑張ってこいよ。」
「・・・っ、はい! 行ってきますっ!!」
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「こちらのお客様が、零式2層に同伴してくれるヒーラーをご希望よ。お願いね。」
「そっちぃ(戦闘)・・・・!?」
思わずもらしてしまった小さな一言に、ヒナノママの視線がネッテに向いた。いつもの温度のない瞳が1~2度冷たくなった気がする。
「(しまった。)」
これがネッテの欠点である。
思ったことを、そのまま口に出してしまう・・・・。姉さん達に散々注意され、気を付けているがどうにもなおらない。
ふとした会話で、場が凍る。やらかしてから気づく、あんぽんたんぶりである。
お客様は、ロスガルのタンク様。
なんでも、2層がもう少し!の所でクリアができず、息抜きの為この店にきたとか。その時の事をママに話しているうちに、もう1度挑戦したくなったそう。しかし、仲間内にヒーラーがおらず、ヒーラーの同伴を頼めないか、と。
(小声)
「ママ!私、この間ようやくクリアしたばかりですよ!?」
「カゲトラがSTにつくから大丈夫よ。行ってきなさい。」
(あ、これ何をいってもダメな奴。)
お客様に出来る限り余裕の笑顔を見せ、
「よろしくお願いしますね。」とご挨拶をする。
装備を確認し、修理をする。レイド用のご飯、お薬の持ち物確認。
そして、深呼吸。
大丈夫、何度も練習している。いつも通りに・・・・。
ナイト姿のカゲ姉さんがこっちを見ていた。金色の盾と剣がレジェンドの存在感を際立たせている。まぶしい。
「ネッテ、私の命を預けるよ」
多分、きっと、そう言っている(幻聴)。
お客様とカゲ姉さんを守る!!
勝って、ここに戻ってくるんだ!!
密かに闘志を燃やすネッテから視線を外したカゲトラは。
持っていく荷物に回復薬を詰め込んでいた。
続く。
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ミスト・ヴィレッジ第6区36番地。
魔女の館の地下では、今日も一時の夢と癒しと興奮を求めて冒険者が訪れる。
ここではオーナーの作る美味しい料理も、各地から集めた珍しい銘酒も、美しいキャストとの逢瀬も。
そして、血肉たぎる戦闘も。
すべてはあなたの思いのままに。
こんばんは、みなさん。
どうぞ、素敵な一夜をあなたに・・・・。