ラズリムの下宿「モラーリインヴィア」に居ついてから暫く経った。
俺はウルダハの情報を集めながら、リムサで相変わらず冒険者稼業に精を出していた。
「ドードードー……なんてな」
「いやあ、あんたが来てくれてやっと仕事が片付いたよ、トラッハトゥームのヤツはなんだかんだサボるからね」
俺は農家の仕事や、ドードーの捕獲や、巣の駆除なんかを手伝ったりしていた。
そして勿論それだけではない。
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――双剣士としても、俺は活動していた。
「待ってたぜ、シドゥ ちょっとやっかいな仕事が入りそうなんでな・・・・・・。
今回の依頼は黒渦団からだ。
しかも、ちょっとしたヤボ用ってわけじゃねぇ。
・・・・・・提督からの密命だとよ」
「・・・・・」
ジャックに促され、アジトに黒渦団の団員が入ってきて、今回の依頼について話始める。
「・・・・・・その男性は、いわゆる「奴隷」として使役されていたらしい。
もともと住んでいた村が海賊に襲われ、 富豪に売られたのだという。
彼の村はほとんど壊滅していたよ。
小さく貧しい村で、 事が明るみになっていなかったのだ・・・・・・」
「人身売買……だと?」
俺は、先日のウルダハの一件を思い出した。
――人身売買を行う悪徳商人コルネオを捕らえる仕事で、俺は罠にかかったのだ。 あの時は、冷静で居られなかった。
故郷のアウラの同胞達が今もなお、帝国で苦渋を舐めさせられたり、奴隷の扱いを受けていることを思うと……。
だがしかし、ソレが為に怒りにかられ暗黒騎士としての誇りを失ったのは別の話で、それは自分自身の甘さゆえだった。
例え、相手が悪でも、俺は護るべきものの為に剣を振るうべきだった。
あの時は、ただ怒りをぶつける相手が欲しかった。
もう少しで小悪党とはいえ、無実の相手を切り殺すところでもあったのだ。
「どうかしたか? シドゥ?」
ジャックが俺の方を怪訝な目でみた。
俺は頭を振って問題ないと伝えた。
「海賊による奴隷売買・・・・・・酷い話ですね・・・・・・」
ペリム・ハウリムも卑劣な悪に対して声を尖らせた。
「逃げ込んできた男性の証言から、特定がすんでいる。
犯人は「クフサド商船団」・・・・・・ 「私掠免許」持ちの海賊団だよ。
下劣な奴隷売買に手を染めていたというわけだ。
だが……そのウラに妙な一団も着いているという、十分に気をつけてくれ」
黒渦団の団員が言った。
「妙な連中……?」
「ウルダハのアラクランと呼ばれる犯罪集団だ。 だが今のところ確たる証拠はない」
アラクラン……何か、俺を嵌めた連中の手掛りがつかめるだろうか。
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俺とジャックは双剣士の仲間達から情報を受け取ると、クフサド商船団を待ち伏せした。
そこにゾロゾロと貧しげな身形の男女を引き連れた不審な男達が現れた。
――と、一人のミコッテの女が、海賊らしき男に殴られていた。
「遅ぇッ! 遅すぎるんだよッ! 命が惜しけりゃ、言うことを聞いて良い子にしろってよ。
それとも、また殴られてぇのか? アァ!?」
「ご、ごめんなさい・・・・・・! でも、もう限界です・・・・・・どうか、お水と食べ物を・・・・・・!」
その様子を見た途端、俺の頭に血が上った。
許せなかった。
だが、必死で堪えた。
同じ失敗を繰り返してどうする。
ここで飛び出れば、俺達も、難民達全員も危機に陥る。
だが……。
―ゴゴゴゴ……。
それでも胸の中に渦巻く感情があった。
怒りか、憎悪か。
――と、俺の脳裏によみがえる声がある。
誰の声なのか、思い出せない。
だが、確かに聞いた事の有る声。
「姉ちゃんと母ちゃんが恋しいか? ――生き延びたかったら剣を振うンだな」
誰だ……? なぜ思い出せない……?
いつの頃の……?
「……おい、シドゥ!」
「ッ!? ……悪い、大丈夫だ」
突然フラッシュバックした過去の記憶に、俺は一瞬白昼夢のような状態になっていたようだ。
「・・・・・・あいつら、行ったようだ。 集合場所で仲間と合流したら、一網打尽にしてやるんだ。
絶対に逃がさねぇぞ、「クフサド商船団」!拐われた連中は、必ず全員、助け出してやる・・・・・・!」
「ああ……!」
俺はジャックに頷くと、腰に隠したナイフを見た。
今度はしくじらない。
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クフサド商船団はエールポートに停泊していた。
貧民達もここに居る。
「拐った貧民を連れたまま、 出稼ぎの一団を名乗って宿をとったみたいだぜ。
人を隠すなら人の中・・・・・・大胆だが、慣れた手口だ。
正体がバレたとしても、捕まるのは付添いの監視役だけ。
そいつらを切捨てれば、商船団は傷つかない・・・・・・。
貧民たちには、助けを求める声も出せないほど、
汚ねぇ脅しをかけてあるんだろうよ・・・・・・。」
「……やるか」
「ああ……”今”のアンタなら大丈夫だと思うぜ」
「……知ってたのか?」
――まあ当然か、何があったか、俺は言わなかったが、ずっと知ってはいたのだろう。
「なんとなくさ。 フフッ、人間は失敗を繰り返して成長するもんだ」
「あんたも……”サンクレッド”もか」
「おいおい、俺はこう見えて女遊びはしないんだぜ? アイツと一緒にしてもらっちゃ困る」
「フッ……」
「おしゃべりはここまでだ、行くぞ!」
ジャックの姿が夜のエールポートに消えた。
俺も後に続く。
建物と建物の間を飛び越えて、敵の居る宿に窓から潜り込んだ。
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宿屋の隅で震える貧民。
海賊は暢気にエールを飲んでいる。
「――うぃ、ヒックぼろい商売だよな。 これもあの人らのお陰だ……」
見ると、あの海賊だった。
震えているのは、先ほどのミコッテの女。
――許せねえ。
「ほう、詳しく聞かせてもらおうか――あとでゆっくりな」 俺は背後からソイツに声をかけた。
「ナにィッ!?」
背後から声を掛けられたことに驚く海賊。
双剣士の技術を持ってすれば簡単なことだ。
「いつのま――テメェッ!」
反射的に斧を振りかざす海賊。
だが。
ズバァッ!!
ナイフで手首を軽く切る。
「ギャァッ!?」
思わず海賊は斧から手を放す。
胸元が一気にがら空きになった。
手に持った短剣を突き刺せば、この悪党を簡単に殺す事ができるだろう。
――沸々とした、怒りが、またわいてくる。 だが、俺は相手のアゴへ目掛けて、ナイフの柄の底を思い切り打ちあてた。
「ガァッ!!」
アゴを強打し、相手は倒れた。
そしてナイフに塗った毒が効いたのか、相手はそのまま気絶した。
「大丈夫か?」
俺は貧民達に駆け寄った。
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海賊達がイエロージャケットに連行されていく。
エールポートには日が昇り始め、夜が明けようとしていた。
「・・・・・よう。 大活躍だったな。 たった今、拐われた貧民の引き渡しがすんだ。
「クフサド商船団」の海賊も、きっちり始末をつけたところだ。
それでなんだが、ヤツラ、トンでもない事を言いやがった、それはな……」
と、ジャックが言おうとした矢先。
「あ、あの・・・・・・! 私たちを助けてくださった方、ですよね・・・・・・?」
先ほどのミコッテの女が俺たちに駆け寄ってきた。
「・・・・・・「クフサド商船団」に連れてこられた奴か。 どうした? 故郷に送り届けてもらうんじゃねぇのか?」
「あなたたちが助けにきてくれる直前、 「クフサド商船団」の海賊が気になることを言っていて・・・・・・。 実は、ひとつだけ、エールポートに合流していない一団が、あったみたいなんです・・・・・・!」
「なんだと・・・・・・!? 話はわかった。 安心しろ、受けた仕事を途中で降りるつもりはねぇよ。 だから、後は任せて故郷へ戻りな」
ジャックはそういうとミコッテの肩に手を置いて安心させた。
ジャックが俺の方を見る。 俺は無言で頷いた。
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人通りが少ない、ドードーの営倉地にヤツラはいた。
ペリム・ハウリムとヴァ・ケビも合流し、ヤツラを一網打尽にした。
――と、妙な客がそこに現れる。
イエロージャケットのミリララと名乗る女だ。
海賊嫌いで有名で、なにかと海賊上がりの双剣士ギルドにちょっかいを出してくる。
「・・・・・・いいですこと? 本日未明、リムサ・ロミンサに向かっていた黒渦団の輸送船が、
海賊に襲撃される事件が起きましたの。 積み荷の多くが奪われましたが、特に深刻なのが、
途方もない価値を誇る3つの「秘宝」が奪われたこと・・・・・・。
襲撃後、海賊たちは姿をくらまし、奪われた「秘宝」の行方も知れないのですわ・・・・・・」
ミリララは、その行方をどちらが先に突き止めるかの勝負をしようと言って来たのだ。
「勝手にやってろ。 そんな面倒な勝負、受ける理由もねぇよ」
相違ってつき返すジャックだったが。
「あら、そうですの? この事件は、いわばリムサ・ロミンサの民からの略奪。
そしてそのウラである一団が動いているそうですわ。 アラクラン。
海賊あがりの貴方達にはそれが何を意味するかわかっているのではなくて?」
――ウルダハの犯罪組織。
それが関わっているともなれば、国の危機だ。
当然ジャックたちも動かざるを得なくなる。
「チッ・・・・・・。 言ってくれるじゃねぇか、派手女。あとで吠え面かいても知らねぇぞ」
ジャックは渋々その勝負を受けた。
当然、俺もその財宝探しに加わるかと思いきや。
ジャックは意外なことを言った。
「いや……今回の一件は片付いたが、人身売買が全部終わったわけじゃねえ。
あの女との勝負は俺たちがやる……シドゥは、アラクランの方を追ってくれないか?」
「……なに?」
「財宝の件も、もしかしたらソイツらが絡んでるかも知れねえ。 シドゥと俺達、いわば二方面作戦ってやつだ」
「……」
「心配すんな、悪党の命を無闇に奪わない、今のアンタならやれるはずだ? そうだろ、”暗黒騎士”さんよ?」
「……そうだな」
「仕事で身に着けた技術を、お前なら正しく使っていける。
自分の中の譲れないものを「掟」にして、双剣を振るうんだ。
双剣士の扱う技は、どんな状況の中だって、
お前の「掟」を守るための力になるはずだぜ」
「……ああ」
俺は、ギルドの皆に頷いた。
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「……明日ギルドに来てくれ、アンタには話したいことがある」
ジャックにそういわれると、俺はギルドの皆と分かれて、下宿に足を向けていた。
そのときだ。
「――!」
殺気を感じた。
魔法だ。
ブゥンッ!! 咄嗟に跳ねて、敵の攻撃を回避した。
「――避けたか」 「……貴様は!?」
「フンッ……」 みたところ魔術師のようだ。暗闇から浮かび上がる赤い影。
真赤なフードのカウルを被っている。
「……大人しくしていればよいものを、我等の障害となるならば、消えてもらおう」 ――と、ヤツが奇妙な呪文を唱え始めた。
「我、汝を死の鎖より解き放たん、幽世より出でて我が僕となれ…!」 「その術は!?
屍者遡制”リビングコープス”!?」
と――影からゾンビーが現れる。
こいつはさきほど、俺とジャックたちで始末した海賊団の――。
「ほう、この呪文を知っていると、さすがあの男の弟子よな」 「なっ!? 師匠と俺の事を知っている!? ――貴様らは!」
俺の師匠は、ネクロマンサーだった。
だが、ソレを知っているのは一部の冒険者ギルドの人間か、俺の親しい仲間のみ。
よほど詳しく調べ上げなければ、わからないはずだ。
つまりは――俺はずっと狙われていたということだ。
「死霊術をそこまで知っているということであれば、やはり、生かしては置けんな」 ゾンビーと、魔術士の2体が同時に迫る。
――だが。
「舐めるな!!」 ズバァアア!!
覚悟と、”掟”を手に入れた俺の双剣は、負けなかった。
「グハァッ……ばかな!? ゾンビーが一撃で!?」 「知らなかったのか? ゾンビーってのは頭を壊されるとダメなんだぜ?」
ゾンビーを一撃で倒され、そのままナイフで首元を切り裂かれた術士は倒れた。
手加減できなかった。
それだけの相手だった。
「――チッ! やっちまったか……貴様は一体!」
「ああ……アサシンギルド……万歳……し、死にたくない……」 「アサシン……ギルド……」 ――と、男は事切れた。
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翌日、俺はジャックの待つ双剣士ギルドへと向かった。
「よう、来たかシドゥ。 先日の事件のとき、捉えた海賊達が妙な事を言っていた。
今回の仕事はアラクランと、そのバックにいる”アサシンギルド”が仕組んだことだってな」
「アサシンギルド……?」
「ああ……お前を襲ったのも、やつらの刺客だろう」
ジャックはそういうと、一度呼吸してから、話を続けた。
俺達双剣士ギルド――シーフギルドのような闇のギルドがかつてウルダハにもあった。
お前も、知ってるかもしれないが、ウルダハはいくつかの王朝に分裂して争っていた時代がある。
そんな時代に、それぞれの勢力の権力者に取り入り、混乱を煽り、戦乱を影から支配していたのが アサシンギルドだ。
ヤツラは その名の通り 暗殺者の集団で力と恐怖で人々を支配していたんだ。
300年前。二期ウル朝が起きて、ウルダハが1つの国になったときアサシンギルドは壊滅した。
残った組織も散り散りになり、今ではアラクランの様なチンケな犯罪者組織となって見る影もなくなった……筈だった!
だが ヤツらは帰ってきやがった。
裏の世界も、表の世界も人殺しで仕切るつもりだ。
俺達双剣士ギルドも噂だけは聞いていた。
だが、ヤツラは瞬く間にウルダハの犯罪者組織を纏め上げ、勢力を増している。
「そんな時にお前の話をサンクレッドから聞いて――悪いが試させてもらっていたってわけさ」
「なるほどな……」
「――今回の秘宝の件も何かきな臭い、トンでもない裏がある気がする。 俺たちはリムサから離れるわけには行かないが、今のアンタには双剣術がある。 ウルダハに戻って、ことを調べてほしい。改めて頼むぜ」
「……勿論だ」
俺はジャックに頷いた。
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ギルドから出ると、
俺はリンクパールを取り出し、知り合いに連絡した。
「よう、俺だ」
「おお、どうされましたか? しづ殿?」 「調査は進んでるか?」
「勿論ですぞ、この事件屋! 絶賛事件を解決中ですぞ!」 「……そうか」
「シドゥさんですか~?聞こえますか~ナシュです~ヒルディさま、シドゥさんの捜査をしていたら何故か、別の事件を3つも解決しまして~今度不滅隊から金一封がもらえるんですよ~」 「しづ殿の事件もこの調子で直ぐにカイケツしますぞ~」 「……」
そういうヤツだ。
悪運だけで生きている男である。
「ああ、そうか期待しているが、そろそろ俺も動こうかと思ってな……なあ、あんたの親父さんにちょっと伝言を頼みたいんだが」
「えっ、父上にですか……む、むう……」 「……ゴホン、俺も、そろそろ……尊敬する友である、紳士の手伝いをしたいのさ」
「おおお! そういうことなら、お安い御用ですぞ~!!」 パールの向うの声の主はデカイ声で大げさに喜んだ。
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――ゴールドソーサー。
「お待たせいたしました、ジュリアン・コーヒーでございます」
「キャー! ライオンさんよー!」
「新しいバイトの子?」
「グリーヴァと申します。 よろしく」
俺はライオンの仮面を被って、ゴールドソーサーに潜入していた。
ゴッドベルドにワケを話して、アルバイトという事にしてもらっている。
ここならば、ウルダハの紳士淑女、そして働きに来た難民達から情報が集められる。
双剣士の技術がある今ならば、多少の無理もできるし、何とかなるだろう。
「――と、そういえば、君聞いたことあるかい?」
「ああ、アサシンギルドが復活したとかいう噂だろ?」
「そんな都市伝説ばからしい、そうじゃないさ! あの天才少女画家のことだよ……」
客からの噂話にもアサシンギルドの話が目立ち始めた。
もしかしたら以外とヤツラのシッポを掴む日も早いかもしれない。
――今度こそ、俺はやり遂げてみせる。
手に入れた「掟」にしたがって。