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【RP記】刀剣奇譚 「地を濡らす血」~3~

公開
下記は ロールプレイに伴う二次創作になります。
独自設定、解釈、創作が入りますので、ご注意ください。


















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 イミナとシドゥらは、再会の市場で、他のムング族と合流した。

 そこで、シドゥはムング族の族長を見た。
 聡明そうだが、どこか気弱そうで、神経質そうな男に見えた。
 そして、シドゥの事を聞くなり。
 「まあ、いいじゃろう、どのみち、モル族へ納める貢物も少なく収めるつもりだ、貰える羊も少ないだろうがな」
 と言った。

 「ね? お手軽に取引されすぎと思わない? アタシ? 覇者とはいえ、弱小部族。 弱小部族とは言え覇者。 羊と貢物が少なく済むだろう、ですって!」

 イミナは可笑しそう笑った。

 ムング族の族長は、少しばかり難しい顔をしたが、ため息をついた。
 連れていく家畜を数え、市場で宴に使う食料を揃え、そして嫁入りの品などを荷車に詰め込むと、一同は北へ向かった。

 道中は、魔物をシドゥが少しばかり追い払うことで事なきを得た。
 ゼルナム族は現れなかったが、ムング族の男たちは魔物が現れる度にどよめいていた。
 「ね、ね、シドゥ」
 花嫁用の上等な馬に乗ったイミナは、あろうことか護衛のシドゥのところまできて話しかけた。
 「うちのムング族の男たち、弱そうでしょ?」
 イミナはくすくすと笑った。
 「ムング族はね、昔からあまり強くなかったの。 でもね、人と絆を紡ぐことで生き延びてきたの。 ……つまりは結婚ね!」
 あっけらかんとして、イミナは言った。
 では、この婚姻は……。
 (まあ、珍しい事ではないが)
 イミナのような女には何となく、似合わないとシドゥは思った。
 「ムングの女は皆美しいから、嫁ぎ先に困らないけど、男たちは強い人しか婿入りできないし、嫁を貰えない。 ここにいる男たちはみーんな行き遅れのへっぴり腰よ」
 イミナの言葉を聞いたムング族の男が視線を落とした。
 図星の様だ。
 「でね、アタシたちは生まれた時から大体、嫁ぎ先が決まってるの、でもね、今回番狂わせがあってね!」
 「番狂わせ?」
 「この地域で弱小部族のモル族が終節の合戦で勝っちゃったの!! お父様大慌てよ」
 「へぇ?」
 「最初、妹がこの地方のオロニル族の族長の元へ嫁ぎに行くって縁談が進められていたの、向こうの族長さんも『とりあえず一目会ってみる』って、前向きに話が進んでたの! オロニルといえば大部族だものね」
 イミナは今度は声をあげて笑った。
 「でもオロニルは負けちゃった! で、お父様は迷ったんだけど、やはり覇者の部族に一人お嫁を出すことにしてね」
 「……で、なぜあんたが?」
 妹のはずだろ? とシドゥが言った。

 「ね、シドゥ、モル族ってね? シャーマンが下す、神託で全部物事を決めるんだって」
 「……噂では聞いたことあるな」
 「本当!? ね、面白そうよね」
 「……はぁ?」
 イミナの言葉の意味が解らず、シドゥは聞き返した。
 「神託で全部決めるなんて凄くない? なにから何まで決めて貰えるなんて、とっても楽そうだし!」
 イミナはにっこりと笑った。
 シドゥは肩をすくめた。

 「どうせ」
 イミナは息を吐きながら言った。
 「アタシたちムングの女に自由なんて無いもの?」
 笑顔を変えずに、イミナは言った。
 思わず、シドゥはイミナを見つめた。
 「それなら、全部決めて貰ったほうがいいし、面白いほうがいいと思ってね。 妹はまだ若いし、ムング一番の娘だし、覇者でも弱小部族に嫁ぐならって、アタシが妹の代わりに名乗り出たの」
 イミナは、首をかしげてシドゥに微笑みかけた。


 一同は、そうして、再会の市を北上して、モル・イローに到着した。
 今日は族長同士の挨拶があるそうだ。
 なんでも、ゼルナム族のせいで、予定を前倒しにしたらしい。

 しかし、モル族は。
 「そういう神託が出ておりました」
 と快諾したらしい。
 シドゥには信じられぬ話であった。


 と、族長が馬から下り、モル族の族長のいる天幕へ向かおうとした矢先、一人の若者が早歩きで先に天幕へ入っていった。

 「……?」
 「何かしら? ねね?」
 「おい……」
 シドゥの服の裾をイミナが引っ張った。
 「こ、これイミナ……」
 イミナの父が、娘をいさめるが、聞きはしない。

  
 天幕の中では、モル族若者が、なにやら族長に抗議しているようだった。

 

 「ですから、テムルン様、私は今まで神託を疑った事はありません、ですが、此度の結婚だけはどうしても……」
 「バルダンギン、貴方の迷う理由もわかります、でも神託を信じるのです」 
 族長らしき老女は、笑顔で若者に言った。
 バルダンギンと呼ばれた若者はため息をついた。

 

 「でも私は……お会いしたことない方と、しかも、他部族の族長の娘とうまくやれる自信がないのです! もしも好きになれなかったら……」
 バルダンギンは、不安げに、族長テムルンに言った。
 「大丈夫よ、確かに貴方の父と母は、寄り添うように生まれた光が結ばれました、そしてそれに比べれば、此度の事は、遠い光同士が、長き時の最中、たったの一度触れ合うような縁。 でも、その縁は確かに素晴らしい輝きになる筈です」
 バルダンギンはため息をついた。
 「……失礼、します」
 釈然としない様子だが、それ以上抗議も出来ないと悟ったバルダンギンは、天幕の外へ向かう。

 

 「お婆様、いくら神託と言っても、バルダンギン、大丈夫でしょうか……?」
 

 「大丈夫よ、シリナ」 
 孫娘シリナの心配そうな顔をよそに、族長のテムルンはハッキリと頷いた。


 天幕の外、何やら声がするのをバルダンギンは感じた。
 「なんだ……花嫁たちが来るのは二日後のはずなのに……」
 天幕の外、眩い光が、バルダンギンの目を差した。

 「これイミナ!」
 ムング族の族長が娘をいさめた。
 その声が、バルダンギンにも聞こえた。

 (イミナ?)
 その名前は確か、自分の婚約者の筈。
 と、バルダンギンは視線の先に見慣れぬ女性が居るのを見つけた。

 女性は――自分を見つけると。
 
 

 (ふふ?)
 と首をかしげて笑った。

 
 
 「はぁおっ……!!」

 バルダンギンは呼吸を忘れた。
 そして、咽た。

 「ゲホゲホッ!!」
 
 「あら、シドゥ大丈夫かしらあの人? なんだか可愛い人だね」
 イミナはそう言って笑った。
 「ああ……顔合わせはまだじゃというのに、まあ非常時じゃ、仕方ないか」
 イミナの父であるムング族の族長は、バルダンギンの元へ向かった。
 どうやら二人は面識があるようだった。
 
 

 バルダンギンは、ムング族長に挨拶すると、イミナからは顔を背けて、何やら話し込んだ。


 と、その様子を、天幕の中からテムルンとシリナもうかがっていた。
 

 「ねえ、シリナ? 神託の通りでしょう?」
 テムルンは、シリナに微笑んだ。
 

 「でも、あれはあれで大丈夫かしら……?」
 しかし、シリナの心配は晴れなかった。

 
 
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 ムングの民はモル・イローの片隅に天幕を張った。
 「少しばかり長くなるが、之より婚礼の儀の前準備を始める」
 ムング族の族長は、そう述べると、イミナに「つつが無きように」と続けて言った。
 
 
 そうすると、イミナはモル族の天幕を訪ねて歩き、一族の雑用を手伝い始めた。
 こうすることで、部族の仲間に入る準備をするのだ。

 しかし、イミナは……。

 「シドゥも手伝って!」
 「はぁ?」
 なぜか、シドゥの手を引き、雑用に付き合せ始めた。

 「お、おい嫁入りの準備に他の男を……!?」
 「いいの!護衛だから! ゼルナム族が来ても困るでしょー? お父様は、結納の最後の交渉、頑張ってね!」
 イミナは意地悪そうに笑った。
 「ぐっ……」
 
 こういったときには、部族同士のつながりを強くするため、多額の貢物が取引される。
 もともと婚姻ともなれば、花婿の家が花嫁に大量の羊を用意し、花嫁がそれに返礼するのだが。
 部族の代表と、それを受ける今回ともなれば、少数部族同士額面は知れているが、互いに身を切るような品も取引されるであろう。
 今までも仲人によって幾度も交渉はされてきたが、最後の嫁入り前の交渉で全てが決まる。
 モル族もムング族も、大部族ではない――が故に、最後の交渉には相当な舌戦が繰り広げられるのであろう。

 今から頭を抱えだす族長を尻目に、
 「さ、いこ?」 
 イミナは手を引くと、モル族の家々を渡り始めた。


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「それじゃあ、花嫁様はツォイバン(塩味の肉蒸しうどん)を作るから麺を作るのを手伝ってもらえる? 市場でいい麦粉を貰ったの……えと、あんた誰
 「……」
 「護衛のシドゥよ!」
 なぜかイミナが自信ありげに言った。
 「……あ、そう。 護衛の方はそうね、近場で肉でも取ってきてもらおうかしら、オオイタチでいいわ」
 「……」
 なぜこんなことをする羽目になったのか。
 さっぱりわからないまま、シドゥは近場にイタチの肉をとりに行くことにした。
 
 
 
 
 「……」
 それを腑に落ちない様子で見ている一人の男、バルダンギンだ。
 「おい、お前」
 「あん?」
 「護衛だか何だかしらないが、どういうつもりだい! こういうのも大事な婚姻の儀式なのだよ!」
 「いや、俺は依頼主の頼みだから……」
 「肉は僕が集める! お前は何もしなくていい」
 「そうはいかねえよ、引き受けちまった仕事はやりとげる、そういう主義だ」
 「なら……勝負しろ!!」
 「勝負って? 剣か?」
 「ち、違う! に、肉の多さだよ! ツォイバンに入れる肉の多さ!」
 「……?」
 ……シドゥは訳が分からなかったが、断る理由も無かったので受けることにした。


 ―― 一時間後、
 

 「やれやれ、面倒をかけさせられたが、大物が取れたな、良しとするか」
 シドゥは大物のイタチを捕えていた。

 一方、
 
 「う、うわ~~~モー・ショボーが襲ってきた~~~!?」
 バルダンギンは、命からがら逃げかえってきた。




 

 「あらまあ、お嬢さん、随分と手際がいいのねえ、いいお嫁さんになるわあ。 それに護衛さんもありがとう、いいお肉。 美味しいツォイバンが作れるわぁ、次は子供達を助けてあげてくれる?」
 「ハーイ!」
 「……」
 元気よく頷くイミナとため息をつくシドゥ。

 

 そして、
 「う、うう……肉を手に入れるどころか、肉にされるところだった……どうして僕は……」
 
 涙目のバルダンギンが天幕の後ろに居た。


---------------



「姉ちゃん、”褐色の草玉”探し手伝ってくれるの? いい”アルガリ(燃料フン)”になる奴を一緒に探そうね!」
 「うん! お姉ちゃん頑張るから、よろしくね」
 イミナはモル族の子供に笑いかけた。

 

 「……あと、後ろの怖い顔した兄ちゃんたちも手伝ってくれるの?」
 「兄ちゃん”たち”?」
 イミナはシドゥ以外に誰かいるのか……と後ろを振り返った。
 

 難しい顔をしたシドゥしかいなかった。

 

 そして、草むらの影には、俊足で移動したバルダンギンが居た。


 シドゥ達は”褐色の草玉”を拾い集めた。
 つまりは、ケナガウシのフンである。
 木材が育ちにくいアジムステップでは、動物のフンは乾燥させることで、貴重な燃料になるのだ。
 燃料集めは、重要な仕事である。
 動物のフンを拾う、という行為はどの種族にもいい仕事ではないかもしれない。
 しかし、部族の一員となるのに、これほど適した仕事も無いだろう。

 「~♪」
 イミナはサウル(小型の熊手)を手に、ケナガウシの乾燥したフンを拾い集めた。
 「シドゥ、”アラグ”を取って」
 「アラグ……!?」
 「アラグ(フンを入れる籠)よ! アラグ!」
 「あ、ああ、これか……」
 シドゥはアラグ、と呼ばれた籠をイミナに渡した。


 「くそっ、子供の頃さんざんやったのに……うっまたバース(乾燥前のモノ)だ……うう、なんで? こんな乾燥した草原で……」
 バルダンギンは、一人、何故か”温もりの残る土地”を引き当てながら作業をし続けた……。

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃんありがとうー! これだけあれば冬に備えられると思う! ……あれバルダンギンは……」
 「シッ!」
 あどけない子供の言葉を、もう一人の大人びた子供が遮った。
 イミナは、その意味を知らずか知ってか、くすくすと笑った。
 

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 子供たちの燃料集めの次は、最も遊牧民らしい仕事、放牧の手伝いだった。
 

 「サインバイノー……話は聞いている……花嫁さん……と護衛……? お手伝い、よろしく……お願いします」
 「……」
 やはりシドゥは場違いな感覚を覚えたが、イミナは気にも留めず。

 「サインバイノー! どーぞ! よろしくー!」
 放牧の手伝いを早速始めた。

 ひとくくりに、放牧、といっても、家畜にも色々ある。
 アウラ・レンには五穀、という言葉がある。
 自分たちの実りになる五つの穀物のことだ。
 アウラ・ゼラにも同じように五大家畜(タバンホシューマル)という言葉があった。
 

 主に、馬、羊、山羊、牛、あとはヤクなどを部族ごとに加える。








 

 イミナと、シドゥはそれぞれの家畜の元を巡り、必要な世話をした。
 「ね、シドゥ、羊たちに塩をあげるの、手伝って!」
 「ん……ああ……」

 イミナに言われるまま、シドゥは羊に岩塩を舐めさせた。
 家畜たちも人と同様、塩分の補給が必要だった。
 岩塩の露出した岩場迄行き、舐めさせるほか、こうして”塩袋”から塩をくれてやることもあった。
 
 (……俺は)
 シドゥはイミナを見た。
 (何をしているのだろう)

 こんなことをしている暇はない。
 モル族の族長に、時間を見つけて、ゼラのシャーマニズムについて聞かねば。
 あのツァオガオにも……再戦を申し込みたいところだった。

 だが。
 

 「~♪」
 イミナの顔を見ていると、それを忘れそうになる自分がいた。

 一段落ついて、シドゥは羊を一か所に集めると、空を見上げた。
 (出来るものだ)
 最後に、羊を追ったのは、いつだったろう。
 
 もう十年以上、前のはずだ。

 

 (俺は……)

 風が吹いた。
 何故か懐かしい風だ。

 (どうして?)

 どうして、その先をシドゥは思い浮かべられない。

 
 「シドゥ!」
 と、自分を呼ぶ声がした。
 (俺を……)


 父と、母と、姉と、それから……。
 まるで、あの時の続きの様だ。

 

 「ねえ! まだこっちにも羊がいるの! 手伝ってよ!」
 声の主は、イミナだった。

 イミナの笑顔を見ると、自然とシドゥは立ち上がって歩き出した。 
 「ああ……」
 

 まるで、毎日そうしてきたかのように、イミナとシドゥは並んで作業を始めた。
 風が止み、穏やかな空気の中、シドゥはイミナとの羊の世話に勤しんだ。



  と、その様子を見ながら 
 

 「ねぇ? ニザムさん?」
 「なーに? アイシャさん?」
 モル族の情報通の二人がヒソヒソと内緒話をしていた。
 「あの二人、なんか夫婦みたいね!」
 「やーよ、アイシャさん、あの娘の夫になるのはバルダンギンよぉ」
 「バルダンギンちゃんねぇ……」
 と、二人が、モル・イローの隅を見た。

 

 (どうして……)
 

 (僕が、神託を受けたんだ! 僕が彼女の横にいるはずなのに!!)
 そこには嫉妬の炎を燃やすバルダンギンが居た。


 馬、羊の世話を終えた二人は、最後、牛の世話に来ていた。

 牛は、羊と馬に準じて遊牧民に重宝される家畜だった。
 ウヘルテルク(荷車)の引手として使われ、ボルツ(干し肉)などの貴重な食料元となった。
 

 
 
 シドゥは、ケナガウシの世話を手伝っていた。

 イミナは引き続いて羊を追っていた。


 と、それを監視する、影があった。
 ――ゼルナム族だ。
 


 ゼルナム族の視線の先には一頭のケナガウシが居た。
 しかし、それは家畜ではなかった――。
 「ボホッ」と呼ばれる野生の牛である。
 彼らは家畜と化したケナガウシに子を授ける為に、草原の民に意図的に放置されたものだ。
 当然、去勢や調教などはされておらず、その性格は――獰猛だった。

 

 ゼルナム族は、「ボホッ」であるケナガウシに、尖らせた骨を、投げつけた。



------------------------
 「暴れ牛だ!!」
 モル・イローは騒然とした。
 「ボホッ」であるケナガウシは体格も大きく、性格も凶暴である。
 モル・イローの天幕という天幕をこのままでは滅茶苦茶にしてしまうだろう。

 

 「暴れ牛だって!?」
 イミナを守ろうと、バルダンギンが、騒ぎのある方に向かう。
 だが、

 「ブオオオオオオン!!」
 ケナガウシの勢いは予想以上にすさまじかった。
 

 「ヒイィイイ!!」
 

 バルダンギンは、腰を抜かした。
 「おい、ボホッを止めろ! 戦わないと!」
 他のモル族の若者が怒鳴った。
 

 「戦う? ……いやだ怖い……!!」


 バルダンギンは震えたままである。

 と、

 「あああっ!?」

 

 羊の世話をしていた、イミナの元にも、「ボホッ」は向かった。


 「い、イミナ……!」
 バルダンギンは、恐怖の中、見た。
 恐れていたモノに、今まさに、婚約者が襲われようとしている処を。


 


 「……!」
  
 だが、バルダンギンの代わりに一人の男がボホッに、立ちふさがった。
 シドゥだ。

 剣を構え――しかし、シドゥは、剣を振らない。
 「ボホッ」が何であるか、聞いているからだ。

 「それ!」
 シドゥはボホッの突進を間一髪避けた。
 そして、また一つ、また一つ。
 回避の動きは常に間一髪。
 牛の突進をくぐる様に、翻る様に。

 そして、それは牛の体力を最も奪う動きだった。

 「それ!」
  


 そして、シドゥは、疲労困憊を極めた「ボホッ」を他のモル族と共に捕まえた。



 「――ハル・チュトゥグル!!」

 と、シドゥを呼ぶ声がした。
 この呼び方をするものは、一人しかいない。

 

 「すごい……! 流石アタシの護衛ね」
 「……ああ」
 シドゥは、イミナの賞賛を――そのままに受けた。

 二人は、思わず微笑み合った。

 

 (……!?)
 それを見て、バルダンギンは、胸に石でも無理やり詰め込まれたような苦しさを感じた。
 (僕は……)
 胸を締める後悔、戦いへの恐怖、僕はそれを拭えないのか、とバルダンギンは自己嫌悪した。

 
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Sidh Malaguld

Ultima [Gaia]

(前半の推敲が漏れていた……)
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