オーン原生林の樹々の遥か上に極光のカーテン宛ら、空から垂れ下がる鍾乳洞の如く存在する歪な岩塊がある。
物理法則が気紛れを起こしているとしか思えない、今にも崩れ落ちそうな此の岩の大地の上に、巨塔と見紛う程の石碑を建て、その周りに自由都市を築き暮らそう等という発想は凡人たる私には絶無であったが、イディルシャイアとはそういう街であった。
一時期は活動の中心地であったものの、某国の解放やら光への反逆やら復興事業への支援やらで、すっかり足が遠のいていたこの集落は今、久々に冒険者が大勢で押し寄せ活気付いている。
と云うのも、点茶のソウタン、通称ソーチョーなる瑞獣が、幻想盤なる新しい商いを、かの悪名高きロウェナ女史から委託された事で、其れを聴き付けた冒険者達がまんまと誘引されたというのが原因であり、言うまでも無く私も其の一人なのである。
悪名高きロウェナ女史の悪名高い儲け話のカラクリは省くとして、幻想盤とは、ソーチョーに手に汗握る冒険譚を聞かせる事で、悪名高きロウェナ女史の手の者が用意した景品を貰う為のクジ引きに挑戦する権利を得るというものだ。
然し乍ら、他の冒険者と同じ様な冒険話を語って聞かせたとて、ソーチョーの心に響きはしないだろう。
そう考えた私は、越える力を持つが故の激闘、蛮神との決戦を話の種とする事に決めた。
手始めに、憑依型蛮神として嘗て私の前に顕われた氷神シヴァ(とイゼルとの邂逅)を話してみたところ好評であったので、暫くはイディルシャイアに赴く毎に蛮神との闘いの記憶を語って聞かせる事にしようと思う。
不思議な事にソーチョーに記憶の委細を語る内、当時の実情が鮮明に思い起こされ、まるで蛮神の『幻体』と戦っているかの様な錯覚に陥った。
此れも越える力に依るものだろうか。
と為れば、ソーチョーに語る蛮神討滅の思い出話は厳選するべきであろう。
ソーチョーへの討滅の話譚は、即ち私の追体験へと繋がるのだから。
敢えて有り体に言うならば、
孰(いず)れ新たに来る幻討滅戦は一体何が良いものか、其れを私は語りたいのである。