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『乗っているのは』

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これは友人が以前、叔母から聞いたというお話じゃ


 
 
 そやつの叔母は若い頃、とある百貨店でエレベータガールの仕事をしておったのじゃが――

 ――ああ、エレベータガールというのはエレベータの操作や、乗ってきた客にフロアの案内をしたりする人のことじゃな

 「上へ参ります」「下へ参ります」とかのあれじゃ

 エレベータが手動式じゃった頃は各地の百貨店などに普通におったようじゃな

 

 さて――友人の叔母が――ここからは単に叔母と略させてもらうが――百貨店に就職してしばらく経った頃の事じゃ



 「ちょっと! まだ乗れるでしょ!」
 
 不機嫌な客に「申し訳ありません」と頭を下げ、次のエレベータに乗ってもらうよう案内する

 幸い、隣のエレベータがすぐに開いたのでそれ以上ごねられることはなかったが



 「――あのエレベータっていつ直るんでしょうね。まだスペースあるのにお断りするの心苦しいんですけど」

 休憩時間、仲良くなった先輩に愚痴をこぼす

 エレベータのうち1基の調子が悪く、乗せる人数を制限するように言われてからだいぶ経つというのに一向に修理される気配がない

 今日みたいに、なぜ乗れないのかと詰め寄られることもあって、地味にそれがストレスになっていた

 先輩は「さぁ――」と、軽く肩をすくめて

 「修理の人、何回か呼んでるけど――、不調の原因が分からないみたいだからどうかしら――

 全部まるごと交換とかになると高額になるだろうし、あんまり期待しない方がいいかもね」

 やっぱりそうですよねぇ、とため息をつく叔母を、まぁまぁ、と先輩は軽くなだめる

 「不具合って言っても乗員上限になってないのにブザーが鳴るってだけなんだし――ほら、立ち位置をちょっとずらしてもう乗れない感じを出してみたらいいかも?」

 冗談めかして言っているが、そのエレベータの担当になった時に先輩がそうしているのを知っているから微妙な表情で笑うしかない

 「まぁ――、安全上は問題ないらしいけど、釈然とはしないわよね。どうしても嫌だって配置換えしてもらった人もいるし」

 ちょうど叔母と入れ違いに1人、売り場の方へ異動したということじゃった

 「――と、いうことはそんな前から不調なままなんですね……」

 あきれつつ、かといって配置換えを希望するほどの強い不満があるわけでもなく、叔母はそのままエレベータガールの仕事を続けていたのじゃが

 

 「――あの……すみません」

 降り際の乗客に話しかけられ、その様子に、またか、と思いつつも

 「どうしました、お客様」と、にこやかに尋ねるが、

 「あ――、いえ……、やっぱり何でも……」

 結局何も言わず、少し足早に立ち去っていくお客の後ろ姿に、見えないように小さく肩をすくめる

 

 似たやりとりは今までもあったし、以前ならただ気が変わっただけ、と気にならなかったのじゃが――、

 仕事に慣れ、お客の様子を見る余裕ができたからか、今はどうにもそれがただの気変わりとは違うように見えて仕方なかった

 立ち去る前にエレベータの中をちらりと見て怪訝な顔をしたり、乗ってる間も妙に落ち着かない様子だったり――

 先輩や他の同僚に訊いてみると、何人かは同じような経験があるということじゃった
 
 「――なんかずっとエレベータの端の方を見てる人とかもいるよね――、正直ちょっと気味が悪いけど」

 「向こうが何も言わないのにこっちから訊くのもね――まぁ、特に何かあるわけじゃないし、気にしすぎない方がいいと思うよ」

 釈然とはせんかったが、実際何か問題が起きてるわけでもない

 気にせぬ方がいいというのは確かにその通りだと思うのじゃが――

 気にしないように、と思うほどにやはりどうしても気になってしまう

 エレベータの端の方、とはどのあたりのことじゃろうか、対角側じゃろうか、それとも自分の後ろの――

 ついつい考えてしまい、首筋がわずかにゾクッとする

 以前は人が大勢乗ってくる時間帯が苦手だったというのに、今は人が少ない時間がいやじゃった

 お客様を目的の階に送り届け、入れ違いに入ってくる人もいない時の、少しだけ気を抜ける時間も今は――

 「あれ?」

 全員降ろしたと思っていたエレベータの中に、まだ1人乗客が残っていた

 大きなキャリーケースを持って、エレベータの隅にじっと立っている

 慌てて姿勢を正し、「何階でしょうか?」と、にこやかに尋ねるが、少し待ってもみても返事がない

 「お客様?」と、もう一度声をかけてみてもやっぱり――、

 いやー―、何か言っている声がわずかに聞こえる――ただ、内容までは聞き取れない

 うつむき気味で顔の見えない女性の方へ、もっとはっきり聞き取ろうとして身を寄せる

 「――――――に……」

 もう少しで聞き取れると思った時、

 「――の――、あの、ちょっとすみません」

 「は、はい!」

 びくっとして入り口の方に振り向く

 いつの間にか他のお客が1人、エレベータに乗り込んできておった

 気づかなかったが、すでに何度か話しかけてきておったのか少しイライラした様子じゃ

 「3階に行ってもらえます?」

 「あ、はい、3階ですね」

 すぐに、と言いつつ先に乗っておったお客の方をうかがうが――
 
 「――え」

 そこにいたはずの乗客の姿がどこにもなかった

 入り口側には後から乗ってきたお客と自分がいる――、こっそり抜け出すことなんてできるはずがない

 「早くしてもらえます?」とせかされ、3階へと向かう間も、ずっと冷汗がとまらなかった――

 

 ――あれはいったい何じゃったのか――、いくら考えないようにとは思っても、エレベータに乗るたび、背後に何かおる気がして――

 誰かに相談したくても、そもそも誰に話せば分かってもらえるのか――

 さりげなく聞いてみた感じでは同僚の誰も、何かを見たり聞いたりということはないようじゃったし――と、

 そう考えて――、1つ、思い出したことがあった

 先輩から以前聞いた、叔母と入れ替わりで売り場に異動した人がおったという話

 乗るのが嫌だというのは、本当にエレベータの不調が理由じゃったのか――

 一度気になりだすとどうしても確かめたくて――、叔母は先輩にその人の名前を教えてもらい、休憩時間に会いに行くことにしたそうじゃ

 

 「――話って何ですか……」
 
 その人はなんだかひどく疲れた感じに見えた

 明らかにこちらのことを歓迎しておらぬ様子で、視線もどこか落ち着きがない

 気後れしつつも、彼女がエレベータガールをやめた理由について遠慮がちに尋ねてみる

 最初は「別に……」とか「大した理由じゃないわ……」とかはぐらかしておったが

 「――もしかして、ですけど……、何か見たり、しました……? 例えば――」

 ――大きなキャリーケースを持った小柄な女の人とか――、と叔母が言った瞬間、

 「あなたも見たの!?」

 彼女の眠そうだった目が見開かれ、口元はみるみる笑みの形に吊り上がっていく

 「ああ、よかった! やっぱり気のせいなんかじゃなかったのね!」

 予想外の反応に困惑する叔母には構わず、彼女は嬉々とした様子で話し続ける

 「最初は私も気のせいだと思ったの――でもだんだんはっきり見えてきて――声も聞こえてきて――」

 熱に浮かされたようにまくしたてる彼女の目には、もう叔母の姿は映っていないようじゃった

 「特にあの視線――、あの視線がほんとに嫌で嫌で……」

 「――視線……ですか?」

 異様な彼女の雰囲気に動揺しつつ、叔母はかろうじて言葉をはさむ

 あのエレベータの中で見かけた女性はずっとうつむいたままで、こちらを見ようともしなかったが――

 問いかけに、彼女は虚空に向けていた目をギョロン、と叔母に向け直し

 「ほら、あれよ」と、張り付いた笑顔のまま

 「大きな、あのキャリーケースの隙間から――」



 ――何人もの目が、こっちをじっと覗いていたでしょ――、と



 言葉を失う叔母に構わず、彼女はなおも、うわごとのようにしゃべり続ける

 「まったく――そんな目で見られても――、そんなこと言われても私にはどうしようもないのに……

 何度も何度も言うのよ、『ちかさんかいにいってください』『ちかさんかいにいってください』って――、

 ここには地下2階までしか――ないのに……」

 そこで、彼女は急に言葉を止め、視線を床の方に向ける

 彼女の職場がある――地下2階の、従業員控室の床を虚ろな目で見つめながら――つぶやく

 「エレベータで見たのが気のせいじゃないなら……、あれも気のせいじゃないのかしら…… 

 ――お店が閉まった後、片付けしてる時にね、聞こえるの

 下からカリ……カリ……って爪でひっかくみたいな音が

 ――ねぇ、下に――、誰か――いるの?」



 ――その後、友人の叔母は百貨店を辞めたそうじゃ

 あのエレベータに乗っていたのが何者じゃったのか、なぜ無いはずの地下3階に行きたがっておったのか――百貨店の下に何があるのか――

 ――今となっては知りようもない
 
 

 
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