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サイドストーリー:ゴウセツとヨツユ

公開
突発的な暴雨が一刻ほど吹き荒れた後、嘘のように空は澄んでいた。
朧に光のヴェールをまとった月が、くっきりとその輪郭を露わにしていた。
その建物の窓際にヨツユの姿はあった。
しどけない脚をその窓際に晒し、物憂げに月を見上げ、窓辺に腰掛けていた。
ピチョッ、ピチョッ。
建物は、先ほどの暴雨を思い出すかのように、地面に水滴を垂らしている。

フゥ。
ヨツユは一つ、溜息をついた。
薄暗い行灯が部屋を照らす。その頼りない光が巨躯の男を照らしていた。
彼は静かに杯を見つめ、何事かじっと考え込んでいる。
それは静謐で、どことなく黙祷を捧げているような…そんな厳かさがあった。

「……息が詰まるねぇ。なんだって、こんな……」

男と一緒に。そういいかけてヨツユは口を噤んだ。
どうでもいい。
彼女は足元に視線を落とした。
始めは祈ったこともあった。紛い物の神に救いを求めた。
祈りが呪いに変わったのは、いつの事だっただろう。
それからどれだけ、時が経っただろう。

でも何も──変わりやしない。
自分が何を思い、何を恨み、そして何をしようと──結果はいつも同じ。
どれだけ人の血の上に立とうと、何も変わらない。
いつもどこかで運命がカラ回る。歯車が壊れた音を立てて回り始める。
結局──今回もそう。

「安宿よ 惨めなるかな 我が人生」

部屋にいた男は、静かに目を開けると、ユツユに視線を向けた。

「言われなくても、わかってるでござる」

男はその言葉を、自分に向けられたものと思ったらしい。

「ああそう。しみったれた酒の匂いは、アンタの所為かい」
「そう邪険にすることもあるまい。ワシはお主を救った。だがそれは、喧々といがみ合うためではない」

ゴウセツはゆっくりと杯を口に運び、笑った。

「あの状況で、アンタもしつこいねぇ。並の人間ならとっくに諦めてただろうに」
「ワシが並の男に見えるでござるか?」
「揚げ足を取るんじゃないよ。面倒くさい男だね」

ヨツユの吐き上げた紫煙が、行き先を見失ったように夜の闇を彷徨い、消えた。
焼けた残り香が、後悔のごとく辺りに漂った。

「アンタは……」
「アンタは、そうまで生きて、どうするんだい?」
「どうする、とは?」
「これから何をしたい? 何を手に入れたい? そうして生きて、意味があるのかい?」
「そうじゃのう。確かに──」

「ワシはこれまで主君に忠節を誓い、それを果たしてきた。多くの仲間を失ったが、迷うことなく義を通した」
「だが、もう潮時ではないか──最近そんな風に考えておった」
「何故──ワシだけ今も生き続けているのかと」

「この潮の変わり目、ドマ復興に際し、主君を守るに命を賭した。それで充分ではないか。そう思ったのは確かじゃ」
「ハッ。なら、死ねばよかっただろう?」

「ハハハ。お主の所為でそうもいかなくなったのでござる」

ヨツユの苛々とした表情は、暗がりの中でもはっきりと浮かぶようだった。

「一体何がいいたいんだい?」
「お主はまだ、死ぬ気はない──そう言っておったでござろう」

「……やっぱり死ぬべきだったのさ。耄碌も大概にしておくれよ」
「無論、はっきりとそう口にしたわけでは御座らん」
「しかし、ワシにはわかる」

「幾度もの戦乱で仲間の最期を見届けた。「終わる者」はその目に光を失う。死相はやがて全身を蝕み、やがて終焉の刻を告げる」
「だがお主、藁にすがりついてでも生き延びる──そんな顔をしておったじゃろうが」

ゴウセツはクク、と口の端を上げた。
ヨツユは闇の中、ほんの微かに顔を歪めた。

「生きたいなんて思ったことは、ただの一度もない」
「あるいは、そうかもしれぬ」

静寂の中、ピチャッと雫の音だけが、忘れることなく刻をきざんだ。
ぼんやりと光る煙管の灯が、頑ななヨツユの心を揺らした。

「いつだって──支配から逃れたい。ただ、そう思って生きてきただけさ」

手元で光るそれに視線を向けながら、彼女は言った。

「ヤンサで、肥溜めのほうがまた役に立つ。そう罵られながら、生き続けた」
「ヤンサを出てからも、そう。言い寄ってくる男は数え切れなかったが、全ての者が、アタシを支配することに必死だったさ」
「ある者は金で縛り、ある者は情を餌に、アタシを吊り上げようとする。殴って脅して従わせようとする者もいた」
「──アタシから仕掛けた覚えはないよ。この世は支配するか、されるか──そのどちらかしかないのだと、教えてくれたのは御前等じゃないか」

「だけどね……どこまで行っても終わりゃしない」
「どこまで進もうと、必ずアタシは支配される。帝国なんて巨大な怪物に絡め取られて──」
「後は、お前の知ってる通りだよ」
「ちったぁ御前等を痛めつけりゃ気も晴れると思ったんだけどねぇ」

小馬鹿にした物言いだったが、様子の重苦しさを消すことは出来なかった。
ゴウセツは目を閉じ、ただ黙っていた。

「結局何も変わらなかった。変えられなかった。アタシは……」
「……アタシなりに、筋を通して生きてきた。なのに……」
「力任せに踏みつけてきた男に、死ぬ気はなかったでござろう? なんて」
「生き恥、まで、かかされる始末──」

ゴウセツは立ち上がり、ヨツユの傍へと腰を屈めた。

彼女の肌は、吐息のような熱を帯びていた。
ヨツユの双眸が、キラリと月明かりに照らされていた。

彼は頬を伝うひと雫を拭って、そう言った。

「綺麗な夜露じゃのう──」


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4.0で2人が城に置き去りにされてから「絶対生きてる」って思い、ヨタ話的に助かった後のサイドストーリーを書き溜めていましたが、まさか4.1であんなことになるとは……!
ありえないサイドストーリーになっちゃいましたが、ゴウセツに最後の台詞を言わせたかったのです……妄想【許してください】 m(_ _)m

コメント(1)

Momo Ezekiel

Sophia [Materia]

「つづく!!!!!!!!!」

にあちゃんの才能が炸裂しとる!すごくイイっ!!
妄想サイドストーリーってあるよね!(*'-'*)b
続きを楽しみに待ってるね!!!
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