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FF14二次創作小説『アルベルノー教授のエオルゼア紀行 紅い瞳の乙女』(2/4)

公開
 暗闇の中に私は立っていた。遺跡に入ってから数十分が経過していたが、いまだ彼女に追いつける気配はなかった。遅れずに追ったつもりだが彼女の明かりを捉えることはできていない。曲がり角が多くて入り組んでいるし、途中に別れ道もあった。

 これは道を間違えてしまったかもな、と私は唇を噛んだ。人間のエーテル反応を期待して測定器を使ってもみたが遺跡内のエーテル濃度が高いためにそれは裏切られた。

 私は弱まっていたランタンの火を消した。視界がなくなる。まったくの闇。純粋で一分の隙もない暗闇。片腕を正面に伸ばして手を閉じたり開いたりしてみる。当然見えることはない。不思議だ。暗闇の中ではもともと腕が存在していないかのように感じられる。腕だけではない。足も、体も、頭さえもすべての存在が消滅してしまったかのようだ。私の意識は暗闇の中に溶け込んでいた。私が暗闇そのものになっていた。

 怖いな。そうだ、怖い。

 こうした暗闇を経験することは初めてではない。以前、トトマ君と別の遺跡を調査したときに彼がうっかりランタンを落としてパニックになったことがあった。あのときは突然だったので冷や汗をかいたものだ。そのとき感じたのは暗闇の中で魔物に襲われるのではないかとか、このまま外に出られなくなるのではないかといった肉体的な恐怖だった。しかしこうしてみると改めて思う。闇は観念的な恐怖なのだ。自分が無になってしまう恐怖。消えてしまう恐怖。あるいは世界から隔離される恐怖。

 エーテル界はこういうものだったりしてな、と私は思った。死して肉体を失った者が還る場所。ただそうだとしたら本当に救いがないじゃないか。あるときは前触れもなく心の準備もなく突然に放り込まれる。感慨もなにもない。生命エネルギーは分解されてもう戻れることはないのだ。数ヶ月前のあのとき、あいつはそんなところに押し込まれたのだろうか。こんな恐怖にまとわりつかれていたのだろうか。

 いや、よそう。もう過去のことだ。

 私は紅い瞳を持つミコッテのことを思い浮かべる。綺麗な眼をしていた。あれは強い意志を宿す眼だ。だが一方でどことなく脆い印象もあった。それは悲しみかもしれないし諦めかもしれない。割り切れない何かを抱えているのかもしれない。先ほどは憎まれ口を叩いてしまったが悪い奴ではなかった。ちゃんと話をしてもいいかもな。もちろん会えればのことだが。

 深く呼吸をすると冷たい空気が肺に流れ込んできた。地面を踏みしめると靴と土がこすれる音が聞こえた。大丈夫だ。私はここにいる。

 私はポケットからファイアクリスタルを取り出して火をつけると床に置いた。その小さな明かりを頼りに鞄から出した燃料をランタンに補給してあらためて火を灯す。赤々と周囲が照らされた。私の影が壁面に伸びる。いつの間にやら天井が高くなっていた。通路はまだ奥に続いている。私は歩き出した。

 しばらく進むと開けた場所に出た。そこは縦に長方形の部屋で一定の間隔で対照的に柱が並んでいる。いくつかの柱は部分的に崩れていたり横倒しになっていた。かなりの広さで奥までは見通せない。

 辺りを見回すと横倒しになっている柱の奥が一カ所、ぼんやりと明るくなっていることに気がついた。ゆらゆらと揺れているあれは恐らくランタンの明かりだ。だが当然こんな場所では魔物の可能性もある。私はゆっくりと近づき柱の影から顔を覗かせる。

 彼女がそこにいた。靴を脱いで座り込み右足首を押さえている。どうやら怪我をしているらしい。安心した私は柱にもたれ掛かり息を吐いた。

「誰!?」

 私の気配に気づいた彼女が警戒して言う。ガチャリと銃を構える音が聞こえた。このまま黙って出ていきうっかり撃たれてはかなわない。

「落ち着け。私だ」

 私は両手を上げて柱から姿を見せた。それを見た彼女が驚きの表情を浮かべる。

「あなた何でここにいるの!?」と彼女は言った。そして銃を下ろすなり明らかに嫌そうな目つきでこう続けた。「まさかペンダントを奪いにきたんじゃないでしょうね」

「人を盗賊みたいに言うな、心配して来てやったというのに。足を怪我しているのだろう。見せてみろ」

 鞄を下ろして片膝をついた私に彼女はしぶしぶといった様子で右足首を見せた。赤く腫れている。触れてみると痛みで顔をしかめた。

「捻挫だな」

「さっき気づかずに石を踏んで転んじゃったの」

「そうか」

 私は足首に目を落としたまま返事をした。この程度ならすぐに癒せる。患部に手をかざし治癒魔法を唱えた。緑色の光が彼女の足を包んで柔らかに輝く。

「綺麗な光ね」と彼女は言った。私は詠唱に集中していたのでそれには何も答えなかった。

 腫れがひいたのを確認して詠唱を終える。

 彼女はおそるおそるといった風で足首を動かし、

「ん、もう大丈夫みたい。ずいぶん楽になった」

 彼女が靴を履いている様子を眺めながら私は「代金はそのペンダントでいいぞ」と言った。

「えっ、ウソ! お金取るの!? っていうかやっぱりこれを狙ってるんじゃない!」

 彼女はペンダントを守るように胸元を両手で覆った。

「冗談だ」

 私は笑った。面白い奴だ。

「ちょっと! からかわないでよね!」彼女も笑いながら言った。「でも、心配してくれてありがとう」

「ふっ、神秘学のプロフェッショナルとしては未踏の遺跡を素人に先越されては面白くないからな」私は腰に手を当てて鼻を鳴らした。

「それにしても追いつけたのは幸運だった。別れ道で同じ道を選んでいたのか、別の道もここに繋がっていたのかはわからないが」

「え? 別れ道なんてなかったじゃない。ここまで一本道だったわよ」

 彼女が指差した方向には私が通ってきたのとは別の入り口があった。

 どういうことだ? 記憶をさかのぼってみたがやはりいくつも別れ道があったのは間違いないはずだ。素人ゆえに彼女は気づかなかったのだろうか。

 何か嫌な予感がする。

「ほっとしたらお腹が空いてきちゃった」腹に手を当てて彼女は言った。

 私は懐中時計を取り出した。

「まだ昼前だぞ。朝食を摂っていなかったのか?」

「食べたわよ。でも若いから食べ盛りっていうか、運動したら消化が進んじゃったっていうか」

 私はため息をついた。要するに大飯食らいなんだな、こいつは。

「なら何か食べたらいい。食べ終えたらすぐに戻るぞ」

 彼女は目をそらす。「実は食べ物を外に置いてきちゃったのよね……」

「置いてきた!? 呆れたな。もし遭難したらと考えなかったのか?」

「し、仕方ないでしょ! あたしこういうところに来るの初めてなんだから! あ、でも道に迷ってもテレポやデジョンで外に出られるから平気よ!」

「残念だったな。ここはエーテルが乱れていてテレポもデジョンもまともに機能しない。こういう場所はよくあるんだ。駆け出しの冒険者でも知っていることだぞ」

 彼女は肩を落としてうつむいた。腹の虫がエネルギー切れを主張している。まったく、仕方がないな。

 私は鞄を開けると中から干し肉とコーヒーミルにポットを取り出した。肉をナイフで切り分けて器に盛ると彼女に差し出す。

「携行食だが腹の足しになる」

「あ、ありがとう」彼女は呆けた表情で肉を受け取るとそう言った。

「ここは冷える。コーヒーを淹れよう。カップか何かそれに代わるものはあるか?」

 彼女は首を横に振った。

「そうか。私は一つしか持っていないんだ。すまんが回し飲みだな」

 私はポットに水筒の水を移してファイアクリスタルで作った火にかけた。やがて湯気が立ち上る。

「えっ、何これ美味しい!」彼女は肉を口に入れるなり驚いて言った。「こんなの初めて食べた」

 もごもごしていてはっきり聞き取れなかったがそんな内容だ。というか食べるか喋るかどっちかにしなさい。

「ふふふ、そうだろうそうだろう。ほれ、コーヒーがはいったぞ」私はカップを渡した。

「うわっ、何これにがっ! まずっ!」彼女は口に手を当てて言った。「こんなに不味いコーヒーも初めて飲んだわ」

「ははは、やはりオコチャマだな! それが大人の味というものだよ!」

 私は胸を張ったが彼女は呆れているようだった。なぜだ。

 もう要らないと言いたげな表情で彼女はカップを返してきた。そのまま一口すする。

「こんなに美味いのだがなー」私はひとりごちた。

 彼女は自分の鞄から水筒を出してぐいとあおると残りの肉を頬張った。私は二人の間に置いたランタンの火を眺めながら再びカップに口をつけた。

 ランタンの火がゆらゆらと揺れている。しばらくの間、私たちは互いに黙っていた。

 私は沈黙を気にかけない。得意とは言わないが少なくとも苦手ではない。ただそうではない者も多くいることは理解している。そういう者といると相手の緊張が伝わってくるからよくわかる。一緒にいるなら会話しなければならないという強迫観念があるのだろう。話したいことがなければ黙っていればいいのだと私は思う。話したいことがあれば話す。単純なことだ。トトマ君はどちらかといえばよく喋る方だが、それは自分に確かな話したいことがあるからで、だから私は彼との沈黙も楽しむことができる。

 彼女の沈黙は自然なものだった。私はリラックスしていた。彼女もリラックスしていた。決して安全とは言えない場所であるにも関わらず。

「ねえ」彼女はランタンの火を見つめながら言った。「私がどうしてここに来たか気になる?」

「いや、気にならんな」

「ええっ、普通気にならない!?」

「お前が遺跡に降りたときには何か理由があってのことか考えたさ。だがそれは表面的な部分についてだ。深い、個人的な事情についてではない。そういうものには興味がない」

「そう」

「ただ」と私は続けた。「話したいならもちろん聞いてやる。話したいんだろう」

 彼女は困ったように笑った。「あなたって変な人」

 そんなことはない。私はいたって普通だ。

「もう五年くらい昔になるかしら」

 ランタンに視線を戻した彼女は淡々と語り始めた。

「あたしはね、高地ドラヴァニアの生まれなの。知ってる? あそこにはチョコボの森っていうのがあって、そこには野生のチョコボを捕まえて育てたり、よそと売買したりしている集落があるの」

 知っている、と私は言った。この旅の途中で通りかかったことがある。

「あたしの家族は森の片隅を縄張りにして獲物を狩って、主にその集落と取引をして暮らしていたわ。あっ、獲物っていってもチョコボじゃないからね。チョコボを狙う他の生き物のことよ。それでね、あたしは父と母と三人で暮らしていた。サンシーカーの男性は何人もの女性をめとるものみたいだけれど、あたしの父は母しか奥さんにしなかった。母に聞いたら、あの人の瞳にはわたししか映ってないから、って自慢していたわ」

 彼女は微笑んだ。私は黙っていた。

「だから縄張りといっても小さなものだった。でも何かが気に入らなかったのね。ある日、一匹のドラゴン族がやってきてあたしたちを襲ったの。家族みんなで戦ったわ。でも歯が立たなかった。集落に助けを求めればよかったのだけれど、父は余計な被害を出すわけにはいかないからってあたしたちを連れて東に逃げた。逃げ続ければやがて諦めるだろうと思ったのね。でもそれは間違っていた。素直に助けを求めればよかったのよ。ドラゴンは諦めなかった。しつこくあたしたちを追ってきた。怖かったわ。あたしは泣いて叫んでがむしゃらに走った。そして走りながら思った。どうしてあたしがこんな目に合わなきゃならないの? どうしてあたしの好きな人たちがこんな目に合わなきゃならないの? クルザス西部高地に入る頃にはあたしたちはもうへとへとで、体力はもちろん気力だって尽きかけていた。変だと思わない? とっくの前から殺そうと思えば簡単に殺せる状態だったのよ。あいつは遊んでいたの。まるで小さな子が昆虫をもてあそぶように。子供ってときに残酷よね。悪意なくそういうことをしてしまう。命を命と理解していないの。きっとあいつもそうだったんだわ」

 彼女はひざを抱えてランタンの火を見つめていた。私は続きを待った。

「あたしたちは傷だらけでとうとう動けなくなってしまった。父も母もあたしに一人で逃げろと言ったけどそんなことできるわけがなかった。その様子を見て飽きたのかしらね。あいつはあたしに大きな牙を向けた。二人の叫び声が聞こえた。近くにいるのに遠くから聞こえているようだった。そのあと何が起こったのかはよくわからない。気付いたときにはベッドの上だった。両親と一緒に。二人の話によると、あの瞬間あたしは光に包まれたそうなの。あまりに眩しくて目を閉じてしまったから、二人にも何が起こったのかわからなかったみたい。光が収まるとすでにドラゴンが倒れていたそうよ。少し時間が経つとイシュガルド騎兵団がやってきてあたしたちを皇都の病院まで運んでくれたんですって。光を見て何事かと思って調査に来たのね。ほんといまにして思えばそれが第七霊災前だったのは不幸中の幸いよ。もしいまみたいにクルザスが雪に覆われていたら早々に凍え死んでいたもの」

 彼女はゆっくりと息をはいた。

「気を失ったあたしは手にクリスタルを握っていた。あたしはもちろん両親も見たことがない物らしかった。二人は逃げる途中であたしが拾ったのかもしれないと言っていたわ。とにかくあのときは無我夢中だったからよく覚えていないの。なんにしても助かってよかったということで、父がクリスタルをペンダントにしてお守りとしてあたしにくれた。それがこれよ」

 彼女は自分の首に下がるペンダントに触れて微笑んだ。

「ここまではいい?」

 ああ、と私は答えた。

「そのあとはね」彼女は目を伏せて言った。「あたしたちは一命を取り留めた。そこまではよかったのだけれど、今度はまた別の問題がやってきたわ。お金がなかったの。あたしの怪我はたいしたことなかった。父もそう。でも母はひどかった。ううん、もしかすると専門的にはそんなことなかったのかもしれない。あるいは大人から見ればね。でもあたしからはそう見えた。父とあたしが退院する頃にはすっかりお金が尽きていた。何とかして母の治療費を工面しないといけない。父はあたしたちを世話してくれた騎兵団の人に仕事のあっせんを頼んだ。その人は親身になってくれて、父に騎兵舎の下働きを、あたしにスカイスチール機工房の雑用の仕事を紹介してくれたわ。どちらも住み込みだったから自分たちが食べる分は大丈夫だった。あたしは手先が器用なのもあってとても可愛がってもらえた。でも父は子供の頃から狩猟生活だったし集団で暮らすことも苦手だったからいつも辛かったと思う。たまに会って一緒に食事をしてたんだけどあきらかにやつれていったもの。ただ弱音は吐かなかった。父もあたしも励ましあって母のために懸命に働いた。でもね、不器用な下働きと子供の雑用のお給金なんてたかが知れてるのよ。満足な薬が買えなくて治療が長引いた。それに流行り病が重なったのもあって母はどんどん衰弱していった。あたしはお給金の前借りを頼もうかと思ったけれど当時はそんな雰囲気じゃなかった。みんな精一杯だったの。そして、そのときになってあたしは気付いた。ペンダントを売ろうって。あのときあたしたちを守ってくれたこのクリスタルならまたきっと守ってくれる。救ってくれるはずだって」

 そこで彼女は目を閉じて深く呼吸をした。私はただ黙って彼女を見つめていた。

 彼女は首を振った。

「でも駄目だった。値段がつかなかったの。何度頼んでも駄目だった。どこへ持っていっても駄目だった。あたしは絶望したわ。どうしてこんな大事なときに守ってくれないの? このままじゃあたしの大好きな人が死んでしまう。ねぇ、助けてよ! って。あの日はとても寒い夜だったな。よく覚えてる。街をかけずり回って疲れた足にあの寒さは痛かった。薄着だったから全身が冷たかったのだけど、体よりも心が冷たくなっていくのがわかった。何か冷たいものが心の中まで染み込んできてきゅっと締め付けるの。あたしは怖くなって走った。疲れ切っていたはずなのに全力で走った。母の病室まで行ってベッドにすがりついて泣いたわ。母は横になったままあたしの話を聞いてくれた。感情的になって内容なんてぐちゃぐちゃだったのに、ときおり弱々しい声でうなずきながら。あたしは何度も何度も謝った。でも母は責めなかった。あたしの手に触れながらゆっくりとこう言ったの」

『ルティナちゃん、もう泣かないで。あなたが頑張ってくれて、お母さんすごく嬉しいの。お母さんはね、ルティナちゃんが毎日ここにきて、その日できたこと、失敗しちゃったこと、楽しかったこと、悲しかったこと、驚いたこと、あなたが何を見て何を感じたのか教えてくれることが何よりも嬉しいの。楽しくて元気がでるの。だからもう大丈夫。ねえ、ルティナちゃん、聞いて。今日みたいにいくら頑張っても上手くいかないことはこれからもあると思う。ううん、そんなことの方が多いと思う。でもね、これだけは忘れないで。どんなに辛いことがあっても他の人を恨まないで。世界を恨まないで。そして自分を恨まないでね。自分のやりたいことを諦めないでね』

「母はまるで小さな子をなだめるように言った。あたしは母が何を言っているのかわからなかった。他人とか世界とかどうでもいいじゃない。あたしのことだってどうでもいい。自分が死にそうなのにどうして他の心配ができるの? 母はこの数日後に息を引き取った。深夜のことであたしが死に目にあうことはできなかった」

 そうか、と私は言った。

 彼女は水を一口飲んで水筒をじっと見つめた。

「それから母の埋葬をして少し経った頃、父が旅に出ようと言い出したの。母が亡くなって父は父なりに相当ショックだったんだと思う。皇都に留まることが辛くなっちゃったのね。あたしは反対した。父はここを出たら二度と戻らないと思ったし、そうしたら母のお墓参りができなくなるもの。何日か話し合ったけど結局父は皇都を出ることにした。でもあたしは残ることにしたの。そのときあたしは母から離れたくなかったし、それに工房のおかげで父がいなくても何とか生活できる目処は立ってたから。父は理解してくれたわ。あらためて工房にあたしを預けて旅立っていった。いつか迎えに来るという約束をして。それからは工房で機工師として機械を学んだり体を鍛えたり大忙し。あっという間に五年経っちゃった」

 いつ迎えにくるのかしら、と彼女は水筒を地面に置くと冗談ぽく言ってお手上げのポーズをした。私は苦笑した。

「ううん、もうわかってるの。迎えになんて来ないことは。五年よ? 冒険が楽しくてやめられなくなったのか、新しい家族ができたのか、あるいは死んでしまったのか、それはわからない。ひょっとすると五年前のカルテノーの戦いに参加してたりしてね。とにかくもう生死さえ知ることを期待してなかったの、最近まで」

「最近まで?」

 彼女はうなずいた。

「何週間か前に英雄のおかげで邪竜がいなくなったでしょ? それで皇都は外との交流がとても活発になった。街で冒険者をよく見るようになったわけ。その冒険者たちが噂しているのを聞いたの。グリダニア黒衣森のどこかに神聖な泉があって、そこでは亡くなった大切な人ともう一度会うことができるって」

「死者に再び会えるだと……!?」

「そう。私も最初は信じなかった。でも聞けば聞くほど本当に思えた。話の内容が妙にリアルで。だからあたしは自分で確かめることにした。工房に無理言ってお休みをもらってここまでやってきた。あたしは二人に会いたい。会ってもう一度話がしたい。成長したあたしを見て欲しい。それに、もし泉があったとして会えたのが母ひとりだったら、父はまだどこかで生きてることにならない? 母に会えるうえに父が生きていることもわかるなんて素敵じゃない?」

 私は考えていた。理屈の上ではそうかもしれない。しかし前提としてそんな泉があるだろうか。ウルズの恵みがそうなのか? いや、もしそうだとして噂が広まっていればグリダニアが対処しているはずだ。

 確かにこの世界にはまだまだ未知の領域が多い。絶対なんてことはあり得ない。だから私もここにいるのだ。こうして世界を旅しているのだ。

「あなたにはまた会いたいと思う大切な人はいないの?」と彼女は訊いた。

「いない」

「あ! その顔は嘘をついている顔よ! あたしわかるんだからね!」

 人に指をさすな指を。

「いたところでお前には関係のないことだ」

「ずるーい! あたしの話は聞いておいて!」

 自分が話したくて話したんだろうに! 促しはしたけれども!

 まあいい。私は咳払いをして目をそらしながら言った。

「会いたいかは別として大切な人はいた。私の助手だ。以上」

 少し待ったが反応がない。ちらりと目をやると彼女は子供のように頬をふくらませてこちらをにらんでいた。これは逃げられそうにないな。

「えっ、でも助手って? 助手はトトマさんじゃないの?」彼女はきょとんとして言った。

「トトマ君は助手二号だ。私が言っているのは助手一号のことだ」

 私はかいつまんで話すことにした。





【つづく】https://jp.finalfantasyxiv.com/lodestone/character/12057662/blog/3979861/
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