さて、まずは状況を整理しよう。今回の被害者はレオニア王国の2人の王子の内の1人、アルザと犯人に化けられる為に気絶させられたジン神父の2名。気絶させられていただけのジン神父はともかく、アルザの方は脈はあるが何らかの毒による意識の混濁……。子供達の証言によればジン神父はアルザに近付く時は普段と全く変わりない様子だったらしい。同じワインが子供達以外に注がれていたならばワインその物が凶器となる線は薄いか。
と、なるとだ。俺は視線を地面から上げ、アルザがワインを呑んだカップを拾い上げ中を見た後に右の中指で軽く擦り、匂いを確認した。ダメだな。完全にワインに溶けているんだろう、ワインの匂いしかしない。恐らく使われた毒物は高い水溶性、即効性、器に塗ったとするならば速乾性を持ちながらも、死に至らない所を見るとエルファノ製じゃない事は確かだ。魔法薬? 可能性は捨てきれないな。だが、俺は学者じゃない。
アサギと呼ばれた仮面を着けたミコッテの男が侍従長から渡されたと言う解毒薬を試したが、余り効果は無かったらしい。ひとまずこのまま庭に王子兼病人を寝せておくのも失礼なので教会の一室に運ぶ事にした。ついでにジン神父も。2人を運んだ後に部屋の全員に対して言った。
「俺は不審者がまた来ないか見回りにいく。忍者、一緒に来てくれ。仮面の兄ちゃんはマテウス王子を頼む。奴の狙いはアルザ王子だけとは限らないからな。」
俺はヤシンと共に部屋を出た。一通り見て回ったが特に怪しい物も無く(ジン神父の酒のコレクションは目を見張る物があったが)、少しした後に王宮の馬車が来て、2人の王子と救護組を乗せて走り去るのを見届け、庭に出ていた料理の片付けを(時々つまみ食いしながら)する事にした。件のワインとカップが無くなっている。
「毒入りワインの瓶とカップは厳重に包んだ上でノットが持って行ったか。毒の種類が特定出来れば、解毒もより確実になるだろう。城には御殿医達もいるしな、彼等の腕前に期待しよう。」
そう独り言を呟いた後に煙草を銜えたが、目の前の片付けを思い出し、そっと懐に仕舞った。
忍者と2人で庭の片付けと教会内部の調査が終わり、安全が確認できたのでその旨をルシード神父に伝え、周囲の見回りに出る事にした。見回りも半分が終わった頃、ずっとソワソワしている忍者に声を掛けてみた。
「ヤシン、王子達が馬車で城に戻った時から何かを気にしてるようだが、どうしたんだ?」
「何でもありません。今は見回りに集中しませんと、刺客が口封じに来るのを見逃してしまいます。」
相変わらず堅いねぇ、この忍者は。俺は腕を組み、考える素振りをしながら言った。
「お前は城に戻ってするべき事があるのに、出来なくて落ち着かないんじゃないか? 行動の端々からその気配が滲み出ているぞ?」
「とんでもない! 自分は日々厳しい鍛錬を重ねてきた東方の忍、そんな隙だらけな行動など……!」
図星か。
「やっぱりな。ちょっとカマを掛けてみたのさ。本当にやるべき事があるならここは行くべきだろ?」
「全く、アイゼン殿も人が悪い。」
「悪い悪い。だが、コイツはマジな話だ。もう夕暮れ時、王子達を乗せた馬車はそろそろ城に着いている頃だ。城に戻りたいならアンタの上司に掛け合って見るべきだろう。事件が伝わっていれば呼び戻してくれるかもしれねぇ。」
俺は周囲を見回しつつ煙草を銜え、火を点けた。その時、ヤシンが耳の通信用魔器に手を当てた。噂をすればってか。
「お、連絡が来たようだな。どうだった?」
「速やかに城に戻るようにとの事です。それから遣いの馬車もこちらに向かっています。」
「そうか。馬車が到着するまでの間、教会の皆は俺が守ってやるから任せておけ。」
「かたじけない。では自分は転移魔法で城に向かいますゆえ。」
忍者は俺に一礼し、転移魔法で消えていった。
「やる事しっかりやって来い、忍者。」
1人残った俺はそう呟き、教会に戻り馬車を待った。
To be continued