マーチ・オブ。アルコンズの作戦から、はや数ヵ月。
エオルゼアに吹く風の温度も変わる頃となった。
あの戦いの直後、私たち冒険者部隊の面々は英雄だと囃し立てられていたが、それも大分落ち着いて、最近は静かに暮らせている。
ガレマール帝国第XIV軍団とアシエン・ラハブレアとの戦いに勝利することができたが、私たち側も無傷というわけには行かなかった。
アルテマウェポンから放たれた究極魔法アルテマ。
私たちが持つ魔法や技術だけでは防ぎようの無かった滅びの魔法。
あの攻撃を防ぐために、私とアルビオンは「越える力」の光を高出力で展開した。
しかし、強すぎた光の力は、迫りくる滅びをはね除けるだけに止まらず、暴走。
私たちを除く、光の加護を受けていない冒険者部隊のメンバーを蝕む毒となった。
「メリエッダ、晩御飯の時間だよ」
グリダニアの冒険者居住区ラベンダーベッドの一軒家のリビング。
部屋の真ん中に置いてある大きなテーブルにいくつかの料理を並べていく。
「ヴォルフガングも、仕事は一旦中断して」
「すまん、すまん。今片す」
広げていた書類を片付けるヴォルフガングと食事の準備をする私。
こんなに近くにいるのに、車椅子に座るメリエッダの瞳は虚空を見つめ、返事も帰ってこない。
あの時、毒となった光の力の影響をもっとも強く受けたのはメリエッダだった。
何を視て、何を聴いたのかはわからないけれど、メリエッダの心はそれに耐えきれず、精神崩壊を引き起こし今に至る。
この数ヵ月付きっきりで看病しているが、彼女は一言たりとも発していない。
幸い、食べやすく調理した料理を口に入れてあげると、その小さな口を動かして食べてくれる。
「おいしい?」
返事はない。
もう一度、口にスプーンを運ぶ。
小さく口を開いてそれを受け入れ租借する。
嫌がらないし、おいしいって思ってくれてるかな?
「ル・メリエッダばかりに食べさせてないで、お前も食えよ?」
「うん」
ヴォルフガングに言われて、普段より少しだけ豪華な料理を頬張る。
「いいお肉はやっぱり美味しいね」
「そうだろう!奮発した甲斐がある!」
ヴォルフガングはそう言い、木製のジョッキになみなみと注がれた酒を一気に飲み干す。
「うまい飯に!うまい酒!最上の幸せだな!」
「だったら今日の戦勝祝賀会いけばよかったのに。私の手料理より、もっと良いもの食べられたと思うけど」
そう。
今日はイシュガルド防衛戦の戦勝祝賀会の開催日。
マーチ・オブ・アルコンズが終わったからといっても、世の中の争い事がなくなった訳ではない。
アルビオンの冒険者部隊はゆっくり休む暇もなく、あっちへ行ってこっちへ行ってと、日々戦い続けている。
そんな中で彼らは、竜種と千年に渡る戦争を続けているイシュガルドの戦線に加わり戦ったのだ。
元々、エオルゼア同盟に加入していたイシュガルド。
ずいぶんと前に脱退したその国をもう一度エオルゼア同盟へ招くため、アルビオンたちは、イシュガルドの軍に協力し大規模な攻撃を仕掛けてきた竜種を撃退して見せた。
その戦いの戦勝祝賀会をエオルゼアの三国と暁が、イシュガルドの賓客を招いて今晩行っている。
戦いに参加していない私とは違い、ヴォルフガングは戦線に立っていた。
当然、招待は来ていたはずた。
「なに。行けない理由があったのさ」
「理由って?」
空のジョッキに酒を注ぎながら、ヴォルフガングが言う。
「笑うなよ?昨日の晩第七霊災で死んだカミさんが枕元にたってな。お願いです。貴方はいかないでください。なーんていいやがるんだ。惚れた女にそんなこと言われたらよ、行くわけにはいかねぇじゃねぇか」
「へー!奥さん思いだね、ヴォルフガング」
「まぁな。で、自分の家にいても暇だからよ。手土産もって参上したって訳だ」
「ふ~ん。なるほどねぇ~」
「なーにニヤついてやがる。気持ちわりぃ。ル・メリエッダも言ってやれ。ヴォルフガングおじさんを笑っちゃダメですってな」
「なにいってんの。メリエッダはこっち側じゃん。ねぇ?」
メリエッダに向かって笑いかける。
もちろん返ってくるものは何もない。
三人でふざけていると、コンコンと玄関の扉を叩かれた。
「こんな時間に誰だ?」
「私、見てくるね」
玄関を開くと、そこにはクリスタルブレイブの隊員が立っていた。
「夜分遅くに失礼。戦勝祝賀会で少々トラブルがありまして、イルベルトから急ぎで伝えてほしいと」
「トラブル?アルビオンたちに何か?」
「えぇ。実は、ナナモ陛下が殺害されまして」
「え!?」
私の驚く声も意に介さず、クリスタルブレイブの男は続ける。
「容疑者は、直前までナナモ陛下と個室で話していたアルビオン・ルーチェ。そして・・・・・・」
言い終わる前に、男は懐から銃を取り出し、私の心臓目掛けて引き金を引く。
狙いを定める一瞬の時間。
直撃だけはさせまいと上体を捻る。
心臓は避けたものの弾丸は私の肺を貫き、後ろの壁に風穴を開けた。
突然の痛みに思わず膝をつく。
クリスタルブレイブの男は、動きが取れなくなった私に二発目の弾丸を打ち込もうとする。
「させんわ!!」
銃声を聞きつけて様子を見に来たヴォルフガングが、リビングに置いてあった私のチャクラムを投擲する。
私を撃つため前方へ突きだしていた男の右腕は、チャクラムに切断されて宙を舞い、その後ぼとりと嫌な音をたてて床に落ちた。
右腕を失った痛みに男が叫び声を上げ後ずさる。
私はそれを後押しするように、足をバネにして体当たりして、玄関の外に男を追い出し扉を締めて鍵をかけた。
「大丈夫か?一体何が?」
回復魔法を私にかけながら、ヴォルフガングが問いかける。
「わかんない。けど、クリスタルブレイブの連中が暁を、皆を嵌めて、祝賀会で何か始めたんだ」
息も途切れ途切れにヴォルフガングに伝えていると、木の焼ける匂いが漂ってくる。
「野郎!!火をつけやがったな!?」
「ヴォルフガング、私はいいから、メリエッダを」
あぁ!と短い返事をして、ヴォルフガングがリビングへ走って行く。
その間に息を整え立ち上がり、先ほどヴォルフガングが投擲した私の愛器を拾い上げる。
メリエッダを抱き抱え剣と盾で武装したヴォルフガングが戻ってくる。
ほんの数分のことではあるが、火は一瞬のうちに燃え広がり、辺りは火の海と化していた。
「さて、外に何人待っているか」
出るタイミングを伺っているヴォルフガングに話しかける。
「・・・・・・ねぇヴォルフガング。提案」
「なんだ?悠長に話してる時間はないぞ?」
「私が時間を稼ぐから、メリエッダを連れて逃げ切って?」
「・・・・・・お前、死ぬ気か?」
私は冷や汗を流しながら引き攣った笑い浮かべる。
「仕方ないじゃん。私は不意打ちをもらって手負い。二人で戦うにしても、三人で逃げるにしても、私が足を引っ張るのは目に見えてる」
「しかし・・・・・・」
「全員殺されるよりはマシでしょ」
「・・・・・・くそったれが・・・・・・・・・・・・」
「ヴォルフガングも騎士様なんだから、 女の子一人くらい、守りながら逃げ切るのなんて楽勝でしょ?」
「よくいう。惚れた女一人守れなかった男なんだがな、俺は・・・・・・だが、わかった。必ず守りきろう」
「任せたよ」
扉の鍵を外し、ヴォルフガングに目配せする。
無言で頷き返してくるのを確認して家を飛び出す。
視界に映る敵はさっきの男を含めて十人と少し。
先行して集団の中心に滑り込み、手に握ったチャクラムに全力のエーテルを流し込む。
その瞬間、私を中心としてエーテルの爆発が発生する。
これがサベネアの踊り子の技。クリークタンツの奥義の一つ。
私の技を受け、十人以上いるクリスタルブレイブの隊員が一斉に吹っ飛ぶ。
「行って!!」
私が無理やりこじ開けた包囲網の穴をヴォルフガングが走り抜けていく。
その後を追わせぬよう、私はヴォルフガングと敵の間に立ち塞がる。
「やってくたな女ァ!」
右腕を失った男が叫び声を上げる。
ハッタリで自信ありげに言い返す。
「エオルゼアを救った英雄の仲間を甘くみるからこうなったんだ。この様子じゃ、祝賀会会場のほうも、うまく行ってないかもね?」
「生意気を・・・・・・まぁいい。ここでお前を仕留めれば、最低限の手柄にはなる」
「できるかな?手負いの状態でも、君たちに負けるほど弱くはないよ」
月の明かりも見えないほど厚い雲に覆われたこの日。
エオルゼアの英雄たちと暁の血盟のメンバーは罪人として、各国から追われる身となった。
祝賀会会場から脱出した暁のメンバーと冒険者たちは、クリスタルブレイブの捜索虚しくどこかえと消え失せた。
そして、それと同じくしてラベンダーベッドでは、とある家の火災と共に惨殺されたクリスタルブレイブの構成員十三名が発見された。
焼け落ちた家の跡から死体が見つかることはなく、光の戦士の協力者である家主とその同居人が殺人の容疑者として捜索されたが、その行方もついに判明することはなかった。
それから数日後。
雪の降るクルザスの高地の隅、分厚いコートを着た男と虚ろな目をした少女の二人組が息を潜めてやって来た。
雪を凌げる大きな岩の影に荷物を置き、男は大きく安堵の息を吐く。
「ここまでくれば、追手もそう簡単にはこれまい・・・・・・さぁて、これからどうしたものか」
雪原を見ながら呟く彼の声を彼女は聞いていた。
「絵に描いたような絶体絶命。だが、安心しろル・メリエッダ。逃がしてくれたあいつの頼みだ、お前のことは死んでも守る」
その言葉を聞いた彼女の心の内で眠っていた小さな火が揺れる。
私のため?私のせい?
罪悪感で息が苦しくなる。
大好きな人たちを守るために、ここまで来たのに。
私のせいで、先生は犠牲になった?
そして、ヴォルフガングさんも私のためにその命を使おうとしている。
自然と涙が流れた。
・・・・・・そんなの・・・・・・そんなのは・・・・・・・・・・・・。
「・・・ダメ・・・・・・」
消えてなくなりそうな声を出す。
何か月も使われていなかった喉は、それだけで血を滲ませる。
けれど、彼女の声は彼に届いていない。
もう一度。
精一杯の大声で。
「ダメッ・・・・・・死んでもなんて言わないでっ!」
「・・・・・・ッ!?ル・メリエッダ!?」
私が急に声を上げたことに驚いているヴェルフガングに、もう一度私の言葉を伝える。
「・・・・・・いやだよ、私のために誰かが死ぬのはもう嫌・・・・・・だから、死んでもなんて言わないで、お願い・・・・・・」
涙が私の顔をぐしゃぐしゃにする。
止まっていた感情が溢れかえる。
ずっと見ていた、聞いていた。
この数か月、皆が私のためにしてくれたこと。
皆がくれた言葉。ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、おぼえてる。
また、居なくなった。
私が大好きだった人。私の家族が・・・・・・私のせいで・・・・・・。
唇を噛む。
トクン。と何かが大きく脈打つ。
その瞬間流れていた涙がぴたりとやんだ。
筋肉が落ち細くなった足で立ち上がり、ヴォルフガングに問いかける。
「・・・・・・ねぇヴォルフガングさん。皆、生きてるかな・・・・・・」
「・・・・・・生きているさ。俺たちの仲間は一人たりとも、あんな雑魚どもに敗れるほど弱くはない。絶対に、生き延びているとも」
「・・・・・・じゃあ、探さなきゃ。助けなきゃ皆を」
「あぁ、その通りだル・メリエッダ。やってやろうじゃあないか!!」
真っ白なクルザスの雪原を見ながら私は思う。
ダルマスカに居た頃も、エオルゼアに来てからも私はずっと守られていたんだ。
今度は私の番。
今度こそ私が皆を救って見せる。
覚悟を決め、新たに決意を抱く瞳に光が宿る。
そして、彼女は流星雨を見た。