『レオニア王国記』とは
Sayチャット溜まり場LS「Face to Face (通称F2F)」の雑談とSS撮影からの連想で始まった物語。
Bramaleさん原作の『レオニア王国記』に、LSメンバーがモデルとなり各人の個性を生かした「登場人物」として配置され、現在連載中。
普段あなたが使っている そのFF14キャラクターが、もう一つの空想世界「レオニア」に登場したら…?
詳しくはLS F2FリーダーLuis Seraさんの日記を参照ください。
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https://jp.finalfantasyxiv.com/lodestone/character/2326608/blog/3698990/そんな想像から、派生した物語のうちの一つ。
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宰相とマテウス王子がメインのお話になります。
ローザ姫が亡くなってから二年後の世界。いわゆる前日譚です。
ルイスは31歳、まだ宰相になる前で、王子は12歳の少年だった頃のお話。余り焦点の当たらなかった二人の関係性について、補足する意味で書きました。3話完結。
物語を書くに当たってご協力頂いた、ルイスとブラさんに感謝を。
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昼下がりのツインレオ城。
ルイスは、城の書斎でひとり勉学に励んでいた。
質素な造りの書斎の壁際には本棚が並び、窓辺に置かれた大きな机の上には、羊皮紙の巻物や分厚い本が、所狭しと積んである。
ローザ姫の輿入れと共にタイガルド王国よりやって来てからというもの、ルイスは一日たりとも学ぶことを怠けた事はなかった。
異国の地でのし上がるには、実力が伴わねばならない。彼は、身をもってそれを知っていた─
─姫の逝去後、まだ10歳だったマテウス王子の後見人の座を巡って、野心家の家臣達が一斉に名乗りを上げた。
しかし、ローザ姫の遺言状の公開により、ルイスが王子の後見人に抜擢されたのである。
家柄も功績も関係なく行われたこの大抜擢には、当然ながら、不満の声も多く上がった。
しかし、父親でもあるレオニダス王がそれを承認したとあっては、家臣達も納得せざるを得ず、事件は一応の終息を見せた。
口さがない者達からは、格好の陰口の種にされた。余所者風情が、どの様にして王に取り入ったのか─と、詰め寄られたこともある。
─降って湧いた幸運だと思い妬むならば、実力でねじ伏せるまで─
その時に感じた悔しさが、ルイスを突き動かす原動力にもなっていた。
そして、来春実施される宮中の昇格試験に合格すれば─彼には、更なる大きな野望があった。
「…ふぅ」
書き物をしていた手をとめて、ルイスは軽く背伸びをした。
大きなガラス張りの格子窓から降り注ぐ陽の光が、室内を明るく照らしている。
レオニア様式の紋様を織り込んだ、絨毯の上に伸びる長い格子の影が、秋の訪れを告げていた。
椅子の背もたれに身体を預け、光の眩しさに、思わず目を細める。
陽の光に照らされた白磁の肌は更に白く、銀の髪で縁取られたその端正な横顔は、大理石で出来た彫刻の様に見えた。
ふと、遠慮がちなノックの音が、部屋の静寂に響いた。
「どうぞ」
少しの間の後、両開きの大きな樫のドアの隙間を縫うようにして、細身の少年がするりと入ってきた。
年の頃12、3歳ぐらいのその少年は、絹で出来たベストに身を包み、その下にはゆったりとした長袖の白いシャツを身に付けていた。
すらりと長い足は、ベストと同じ色のスラックスに覆われている。
ルイスとは対照的に、赤銅色の肌をしており、よく手入れされた艶やかな黒髪は、一見して上流階級の子供と分かる出で立ちだった。
「ごきげんよう、マテウス王子。午前中の授業は、もう終わられたのですか?」
ルイスは椅子から立ち上がると、少年に向かって恭しく一礼した。
ローザ姫が儚い人になってからというもの、マテウス王子は、ルイスのもとを頻繁に訪れるようになっていた。
中庭に珍しい花が咲いていたから、調べる為に図鑑を貸して欲しいだの、授業で習った箇所で分からない所があるから教えて欲しいだのと、何かにつけ用事を見つけては、毎日のようにやって来る。
それは、ルイスが単に後見人だからという理由だけではなく、母親の思い出を共有する者同士としての、親愛の情からくる行動でもあっただろう。
二回目の秋を迎えようという今となっては、普段訪れるもののないルイスの書斎の、貴重な訪問客となっていた。
マテウス王子は、少年らしい屈託のない笑顔で挨拶に答えると、後ろ手で樫のドアを閉めた。
そして軽やかな足取りで絨毯の上を歩くと、ルイスの目の前で立ち止まった。
「こんにちは。今日は、ちょっとルイスに見せたいものがあるんです」
そう言ってはにかんだ様に微笑む王子の胸には、一張の竪琴が大事そうに抱えられていた。
ルイスは、チラリと竪琴を一瞥する。
「ふむ、竪琴ですね。今度は吟遊詩人の真似事でも始められたのですか?」
彼の口調がどことなく慇懃無礼なのは、かねてよりの事である。
元来、生真面目な性質である彼にとって、まだ幼い王子に話を合わせる芸当は、難しい事のようだった─ローザ姫がこの場に居たならば、相手の目線に合わせて話すことを覚えた方が良さそうね、と笑われた事だろう。
ふと、ルイスの手が王子の襟元に伸びる。
えんじ色の細いリボンの端を指先でつまみ、結び目をほどくと、微かな衣擦れの音が部屋に響いた。
「─リボンが曲がっている。王子たるもの、身嗜みには気を遣うものだと、常々申し上げているでしょう」
リボンを直す手は止めず、ルイスは王子に畳み掛けた。
「ご、ごめんなさい。ほら、ルイスは最近、お勉強ばかりで余り外に出てこないでしょう?」
「…大事な試験が控えておりますゆえ」
「知ってます。でもお勉強ばっかりでは息も詰まってしまいませんか?」
「余り意識したことはございません。自分の身に返ってくるものと思えばこそ、努力もしておりますので」
けんもほろろな有り様であるが、これが二人の日常会話であった。
「ええと…少しでもお慰めになればと思って、曲を練習してきました。だからお聞かせしたいなと…」
えんじ色のリボンをきつく結び終えて、ルイスは軽い目眩を覚えた。
「─まさかとは思いますが、午前の間、ずっと竪琴の練習をされていたのですか?授業はどうされたのです」
冴えた冬の空の色を宿したルイスの瞳が、すっと細くなる。
「えっ…いえ、あの。サボったとか、そういうわけではないのだけれど…」
そう言う王子の視線は、明らかに泳いでいる。
ルイスは溜め息をついた。
やはり、自分がついているべきだった。今現在は、アルザ王子と二人で授業を受けさせているが、勉強が身に入らぬようでは、一考の余地があるだろう─彼は憤った。
─王家の男子に、お遊戯に費やしていい時間などない─
いつものルイスなら、そう言い放っていたに違いない。だが、彼は言うのをやめた。
一室に籠り続けるには余りにも心地いい陽気だったし、何よりも純粋に、王子の演奏にも興味があったのだ。
「わかりました─折角お越し頂いた事です。王子手ずからの演奏、拝聴させて頂くとしましょうか」
半ば諦めた様にルイスが言った。しかし、その声には微かな笑いが含まれていることに、王子以外の誰が気づいただろう。
「はっ、はい!」
マテウス王子の顔が、弾かれたようにぱっと輝いた。
***(2へ続く)