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レオニア王国記 よみびとしらず 12 ***
早駆けが確保できる分だけ主大隊から先発を引き連れ、山脈の麓に急行する。
平野を駆ける間に日が暮れ、頭上を覆っていた雲が晴れた。
もうもうと上がる黒煙が視認できる頃、散り散りに逃げた兵と落ち合い、小さな拠点を作るよう隊を小分けにしながら近づいていく。次第に色濃さを増す、機械油と獣が焼ける臭い。逃げ延びる途中で力尽きた遺体が点々と続き、やがて折り重なった一団となり。
チョコボを樹に繋ぎ、林を抜けた広場に踏み入ると、新月過ぎのか細い冴えた光が、あちこちへと歪に重なった兵士たちの輪郭に注がれていた。化物の正体も行方も未だわからないままだが辺りにそれらしき姿はなく、残り火が燻るわずかな音と、あちこちから誰のものともつかない呻き声があがるばかり。
災禍は去った後に見えた。
手分けして、レオニア兵の救護と逃げ損ねたタイガルド兵の捕縛に当たる。レオニア兵は既に息を引き取っている者の収容を含めて。
俺はアウラ兵の視界にあった木立の並びを、カンテラをかざしながら、血やヘドロで湿り足場の悪い地面を踏み分けて探す。
そうして、ユウを見つけた。
ほぼヴィジョン視で見た場所のまま、拠り所を求めすがってきたらしき兵たちに足元を固められ、その折り重なった上へ、仰向けに倒れて絶命していた。
癒し手のユウに、俺が不慣れな回復術を試みるまでもなかった。緩く開いたままの瞳は空の星を映し、触れた頰はとうに温もりを失っている。
背中に腕を通してその山から引き出した四肢を抱き締めれば、既に肌の奥の肉から硬くなり始めているのが分かる。垂れ下がったまま、抱き返してくることもなくなった両の掌は、限界まで発したであろうエーテル術によってボロボロに裂け、自身の血にまみれて、痛々しいほどだ。
しばらく、唯一柔らかなままの髪に鼻をうずめる。
何人かの家来が俺に声をかけようとして止まり、何も言わないまま立ち去るに任せていたが、遠くから呼んで指示を仰ぐ声は尽きない。いつまでもこうしているわけにもいかない。
背中のマントを外して広げ、その上にユウを横たえる。
猫の手の形で固まったユウの右手を少し開かせて、左手を重ねた。
何度こうして心を通わせただろうか。
もう、何も、伝えられない。返ってくるものもない。
右手で剣を抜き、切っ先を手の甲に当てがう。
重ねたままの手へ垂直に突き立てた。
研ぎ澄ました細身の切先は、音も立てずいとも簡単に二つの掌を貫き通す。
「王、何をなさっておいでです!?」
「気にするな、すぐに戻る」
いつの間にか側に立っていた、慌てふためく家臣を適当にあしらい、刃先を引き抜いて鞘に収める。夜闇の中で、掌へ縦に開いた穴から黒く流れ落ちる血をしばし見つめて、もう一度、ユウの頰、それから唇に撫でつけた。
そういえば、と思い出してユウの胸ポケットを探ると、案の定、いつも着けている眼帯の替え布が潜んでいたので、それを貰うことにした。左手に巻きつけてとりあえずの包帯がわりにする。
あの夜を思い出しながら、今度は幾分丁寧に、マントでユウの亡骸を包んだ。
横抱きに抱えて立ち上がる。
天を仰げば、二人で指折り星を数えた時と同じように光が瞬き、ひとすじ、流れていった。
***
数日後、タイガルドから、休戦と恒久的な和平の誓いとして、タイガルド王の息女、ローザ姫との婚姻をもちかける文を持った使者がレオニアの門扉をくぐり、城へやってきた。
条件文はほぼ、降伏の申し出のようなものだ。
終戦にはこれ以上ない盟約だろう。断る理由もなく俺はサインをした。
こうしてレオニアは、ひと時の平和を取り戻した。
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レオニア王国記 よみびとしらず 12へ(20190331初掲)
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完結済みのストーリー:レオニア王国記 前日譚
タイガルドから、元敵国へ輿入れとなったローザ姫に付き従う、宰相の若き日──ルイスの物語。