<第二十四話へ> <目次へ> <第二部 一話へ>『その後の事について、いくつか書き記しておくことがある。
最初に アルザ王子に使われた薬品について。 これは解析の結果、致死性の毒ではなく、
対象を一時的に仮死状態にする薬であった事が判明した。 なお、この薬品は
処置がなくても数日中に効果が消える。
この件については、判明後すぐにレオニダス王へ報告済みである。
この薬品の解析と並行してルイス元宰相が所持していた解毒剤の解析も行ったが、
それは糖の水溶液である事が判明。 彼の本当の目的は一体何であったのだろうか
疑問が残る。
ルイス元宰相について。 彼はレオニダス王に対し、反逆を行うも失敗し、投獄されたが
全てが秘密裏に行われたため、一切のことが表沙汰になることはなかった。
極刑は免れないであろうと考えられていたが、アルザ王子に使われた薬品の正体が
判明したこと、加えてマテウス王子の嘆願があったことで、極刑に処されずにすんだようだ。
だが、無罪放免とはいかず、彼はツインレオ城にて、軟禁される事となった。
ルーカスについて。 彼は自身の境遇をルイス元宰相に利用され、手駒にされていたようだ。
しかし、行為の全てが未遂に終わり、それらは自身の意思で行ったものではない事が
判明したため、全て表沙汰になることなく不問とされた。
本人の希望もあり、その後も彼は侍従長助手として働き続ける事となった。
ミア・カトゥスについて。 銀獅子騎士団 若獅子隊隊長を務める彼女は収穫祭の最終日で
目撃されたのを最後に突然失踪する。 それにより若獅子隊は一時混乱するものの、
騎士団の騎士達により体制の立て直しが進められている。
スノウ教会のジン神父とルシード神父、そしてそこで暮らす5人のこども達。
取り調べの結果、全員が事件と無関係であることが判明し、全員に対し
事件にまつわる一切の事を口外しない約束を取り付けた上で解放された。
この事件に関わった他の関係者も、厳重に口止めされた。
一方、S.P.達が捕縛、連行した5人の刺客は事件にも関わっていたことが
判明、彼等がタイガルド王国の地下組織の構成員である疑いも出てきた。
しかし、首謀者の事など、それ以上の有力な情報を得ることはできなかった。
以上、レオニアで起こった一連の出来事についての記録を終える。』
ブラマールは上記のことを本に書き記した後、羽根ペンを置き、ため息をついた。
ここはブラマール侍従長の執務室。 彼の部屋には大きな本棚がいくつかあり、
ぎっしりと本が詰まっている。 あとは応接用のテーブルと椅子など、最小限の
家具が置かれている。
横を向いて窓から外を見る。 そこから見えるのは漆黒の闇のみ。
おそらく外は曇っているのだろう。 部屋の冷え込み具合から、今夜は
雪が降るかもしれないと思った。
ブラマールは本を閉じ、机にしまうと伸びをして部屋を出る。
それから月日が経ち、春の始まりの頃。
アルザ王子は自室で旅支度を整えていた。 彼の部屋はきれいに片付けられており
それが少なくとも長期の不在を意味するものとなっていた。
彼の髪の色は、白く染められている。 理由は本人が何も語らないため不明だが
まっさらな思いで旅立つという決意の証ではないかと周囲で噂されている。
「本当なら収穫祭の後、すぐに旅立ちたかったんだけどな。 いきなり冬に
旅立つのは危険だから春まで待てって……。 結局春まで待ってしまったけど。」
そうつぶやいていると、部屋の戸をノックする音がする。
アルザ王子が どうぞ、と声をかけると マテウス王子が中に入ってきた。
「アルザ 準備の方はどう? 明日出発するって聞いたけど。」
「うん 明日の朝早くに出発しようと思う。 できるだけ静かに出発したいからみんなには内緒だよ。」
「わかった。 寂しくなるけど、お互い自分の道をしっかりと進んでいこう。」
「もちろん。」
二人はうなずき合い、しばらく雑談を交わした後にマテウス王子は部屋を出た。
翌日の早朝。 朝日が昇リ始めた頃、アルザ王子は一人で城の外へ出て行こうとする。
すると、後ろから誰かがこちらに駆け寄ってくる。 あの姿はブラマール侍従長だ。
その後ろにマテウス王子も来ている。 彼は城の出入り口のあたりで立ち止まった。
出発前にまた小言を聞かされるのかと身構えるアルザ王子。 しかし、彼は小言を言わずに
ポーション類のつまった小袋を差し出した。
「これをお持ちください。 旅の中で必要になることでしょう。
貴方の旅が実り多きものとなりますように。 ……寂しくなりますが、どうかお気をつけて。」
「ありがとう、ブラマール。 それじゃ 行ってきます!」
小袋を受け取り、ブラマール侍従長とマテウス王子に見送られてツインレオ城を後にするアルザ王子。
そんな彼を城のベランダから見つめる二人の姿がある。
「アルザも立派に成長したものだな。」
「ええ、まだ子どもだと思っていたら、今一人の青年として世界へ旅だって行こうとしているもの。」
「寂しくないと言えば嘘になるが、今は我が息子の旅立ちを見守ろうじゃないか。」
「そうね。 いってらっしゃい、アルザ。」
ベランダからアルザ王子を見送るレオニダス王とイルミナ王妃。
アルザ王子は振り返ることなく、ツインレオ城を後にした。
ルイス元宰相の処遇やその経緯について、詳細に書かれた書物があるらしい。
現在、その書物はまだ発見されていないため、続報をお待ちいただきたい。