【まえがき】『ベビーベッド』 -ラストシーン-━━━━押し潰されそうな闇の世界へと光が差し込み、救われるかのように、優しい泣き声で私は目を覚ました。
木製のベビーベッドからそっと我が子“ブルー”を抱き上げると、ブルーは泣き止み、「マァマ、ママァ」と声をもらし、機嫌が良くなった。その姿を見て、急に安心した私の頬を自然に涙が伝っていった。
「……ブルー……ママね……とってもとっても悲しい夢を見てたの。優しかったベビーシッターさんがね、恐ろしい魔物になって御屋敷をどんどん壊してね……ママも必死に止めようとしたのだけれど━━」
そんな夢の話なんていいからママご飯ちょうだい、と急かすかのようにブルーは「アウア、アウア」と私の目を見て声をかけてくれた。
ブルーはもうすっかり乳離れをして、毎日離乳食を食べるようになった。すくすくと健康に育っているブルー。ああ━━この子を御主人様に早く見せてあげたい。
すると、扉の向こうから気遣いを感じさせる小さなノック音がした。私は「起きているわ、どうぞ」と返すと、一人のメイドが丁重に入ってきた。
「奥様、おはようございます。クリスマスツリーの飾り付けが終わりました」
「まあ! もう完成したの! もしかして徹夜を……? 無理をかけてしまったわね」
「いいえ! エントランスホールにあんなに大きなクリスマスツリーだなんて、私たちもつい夢中になってしまいました」
結った髪の毛が少し乱れたメイドが微笑み、私はそれを労う。
「ふふふ、ありがとう。でも……目の下のクマが、睡眠不足を物語っているみたいよ? 疲れが溜まって風邪でも引いたら大変、今日は1日ゆっくりと休んでね」
「奥様、ありがとうございます。さぁ、朝食に致しましょう」
ブルーを抱きながらエントランスの階段を降り、ツリーを真下から見上げた。二階へ届く程の大きな背丈に、金銀と色とりどりの飾りが輝く。ブルーの瞳がそのきらびやかさを映している。
私は希望の光に包まれるような気がして、しばらくじっと見上げていた。
「奥様、今日はとても冷え込んでおります。夜には雪になるかもしれないとのこと。ホールは肌寒いでしょう。温かいスープもございます、さあ食堂へ参りましょう」
執事が穏やかな声色で導いてくれた。「ええ、ありがとう」とその場から歩みを進めた時だった。
チャイムの音が、ホールに響いた。
「おや、こんな早朝に来客とは珍しい……」
執事がホールの小窓から安全を確認後、慎重に扉を開けた。そこには、一人のスーツを着た男性が立っていた。
私は……私は……その客の顔を見て、目の前が滲んで、何もかも見えなくなってしまった。
「……ただいま。今、帰ったよ」
ああ、私の大好きな声。喉仏から響く低音が、心地よく耳から心に浸透していった。私はブルーを抱きながら、片手で涙を拭い、精一杯の笑顔を作る。
「ああ……御主人様……この日を……この日を信じておりました━━━━」
━━━━先日、光の戦士である冒険者“ヴェイン・バダック”が先導となり、ハウケタ御用邸の妖魔を排除、一時の安全が確認された。
その後、グリダニアから派遣された調査団は、天井が崩れ去った部屋の隅に、大人が一人入れる程の鳥かごような檻を発見した。
なぜか、その鉄の檻の中には、首のない人骨が二体寄り添うように座っていたという。
小さな人形を、二人で大切に包み込むように抱きながら━━━━
「━━━━なぁ、ロザリータ」
「どうしたの? ブルース」
「次の仕事が落ち着いたら、のんびりと旅行にでも行こうか」
「まあ素敵! きっとブルーも喜ぶわ……!」
━fin━
【あとがき】
上記の物語をお読みになった上でご覧いただけたら幸いです。
#-03 『ベビーベッド』表紙
著者:Akino Bluesky 画像:Emi Rose
『ベビーベッド アフター』
著者:Vein Badack