
激しい雷と豪雨と暴風が、北ザナラーンの大地を叩きつける。
その中を黒い鎧を纏ったような牛にも似た、ガレマール帝国軍の兵員輸送車が
ぬかるんだ道を這いずる様に進んで行く。
先のプラエトリウム戦で、壊滅的な敗北をした帝国軍の敗退にしては
護衛の歩兵も無く、ただ1台のみが嵐の中を進んでいった。
後部の薄暗い荷台の中には帝国軍兵士の姿は無く、そこに居るのは1人の少年らしき者が居た。
その姿は場違いとしか言い表せぬ美しい金色の髪と、透き通るような白い肌の少年だった。
ただ… その肌に纏っている様相は正に【奴隷】そのものの姿であった。
装甲車の運転室には疲弊しきった兵士と技師らしき者達が数名いた。
兵士 『もう機材すら残って無い城から、何もあんな小僧独りの為に・・・』
揺れる助手席で疲労の極みに達した兵士がぼやいた。
兵士 『あの小僧はアレだろう?士官様専用の慰みモノなんだろ?』
『軍が負け込んでいる時に、人形の回収なんて馬鹿馬鹿しぃにも程がある!』
苛立ちに足元の荷を蹴ろうとしたが、車体が不意に揺れてバランスを崩した。
兵士 『糞ったれぇ~~いッ!』
技師 『・・・これはオレの独り言なんだが・・・』
見かねた技師らしい男が語りはじめた。
技師 『確かに戦死したリゥイア様は小姓として囲ってはいたがな。』
『アレはなぁ、士官様専用の【慰み物】って訳じゃないんだ。』
兵士 『???』
技師 『第七霊災後の帝国の兵員増強計画があってな・・・』
『短期間で増殖され、即戦力となりうる兵士を魔導理論と科学技術で生み出した
産物がアレだ・・・』
兵士はぽかぁんと口が開き、思いもしなかった話に聞き込んだ。
技師 『あらゆる種族から胚を集め、兵士たり得る能力を持つモノを形にしてはきたが・・・』
『どれも万能の兵士と呼べる固体は生まれなかった。』
『その中でもニンゲンとして機能できる固体が数体生まれたんだが』
『高濃度のエーテル場での抵抗力が認められて、一つの使い道が見出されたんだ。』
『アルテマウェポン起動時に召還される蛮神は知ってるだろう・・・』
兵士 『あ・・・ああ・・・』
技師 『その為の【生贄】だよ・・・』
兵士 『??・・・生贄って!?・・・生きてるじゃねぇか!?』
技師 『生贄にされた他の固体や奴隷達は皆死んだ・・・だが』
『あの固体だけが、たった独り生き残っていたんだ・・・』
兵士 『バ・・・バケモノじゃねぇか・・・そんな奴を・・・何処へ?』
技師 『詳しくは判らんが・・・次はラノシア方面としか聞いてない。』
それから数ヵ月後・・・場所は西ラノシア
青く輝く海は、天地の最後の様に荒れ狂い、黒き波は巨大な壁となって砕きあっていた。
その荒波の中を帝国軍の軍艦が1隻、木の葉の様に揉まれていた。
戦士 『おおぉ~これは思っていたよりも深刻でわないですか。』
詩人 『ちょッ!気楽そ~な事言わないでよッ!リヴァイアサンの召還だなんて
聞いてないわよぉ~~~ッ!!』
学者 『これは通常の召還モードのレベルからかけ離れ過ぎですねぇw』
竜騎士 『なんにしても!4人でどうこう出来る話じゃないぞ!』
暁の血盟からの偵察任務の依頼で、帝国の軍艦に忍び込んだ4人だったが
とてつもないエーテルの波動が軍艦の中心部から発生したと同時に
月を水面に映していた海は急変し、突如怒涛の荒波が軍艦を襲ったのだった。
戦士 『まだ召還は始まったばかりですぞ!エーテルの供給源を断てば
食い止められるかもしれませんぞ!』
学者 『いざとなったらテレポで即逃げでw』
詩人 『あんた達ってマジメなのか不謹慎なんだか分からないよ!』
竜騎士 『多分、船倉に召還用の祭壇がある!行ってみよう!』
大気を震わすエーテル波動の振動は更に激しさを増し、船体は悲鳴を上げ始めた。
上下左右に高波でうねる船内を移動する4人は祭壇らしき場所に着いた。
詩人 『ひ・・・ひどい!』
祭壇の周囲には数十人の骸が、無残にも埋め尽くされていた。
拘束された奴隷も数多く居たが、帝国軍の兵装の姿もあった。
竜騎士 『こ・・・これは暴走か?』
学者 『当事者は収集つかなくなってトンズラってパターンですねぇ~w』
戦士 『ん!?あそこに!!』
戦士は朽ち果てた遺骸の群れの中にうっすらと光る金色の光を見た。
しかし戦士の叫びと同時に祭壇のエーテルフィールドが臨界点に達し
轟音と共に空間の歪みが膨らみはじめた。
学者 『ありゃりゃ~wタイムアップですねぇ~w』
竜騎士 『通常召還のリヴァイアサンとは一戦交えたが・・・これはその規模じゃない!』
詩人 『無理!無理ぃ~ッ!テレポかけるね!』
誰もがこの一瞬の時間がスローに感じてるはずなに
精神では即座に逃げ出したい衝動に襲われてる刹那、一人の戦士が祭壇に向かって跳んだ。
空間の歪みから魂も凍るような咆哮が響き、巨大な触手の群れが歪みを砕いて飛び出した。
その触手は船内の壁を貫き、紙を引き裂くが如く壁から床、そして天井まで切り裂いた。
戦士は空気が切り裂かれる中で、金色の光を放つ一人の少年を抱き上げた。
戦士 『おお~まだ息があるとは・・・』
少年に括られている複数の光る管を引きちぎって抱えると、少年が小さな悲鳴をあげた。
詩人 『何してるの!テレポの勧誘から出ちゃったじゃない!』
戦士 『まだ息がある!皆は先にお逃げくだされ!』
竜騎士 『人を抱えてテレポはできんぞ!!』
詩人 『!!!!!!!!!~~~~ッ!!』
戦士を残し、無情にも3人の姿は声にならない悲鳴と光と共に彼方へ消えていった。
軍艦は船体を真っ二つにされ、荒波にもまれ轟音をあげながら砕けていく。
祭壇と召還フィールドが安定してなかったせいか、歪みの奥の海竜の王は
更なる生贄を求め触手を振るった。
そして金色の眩い命の輝きを見つけ、一斉に触手が戦士に向かって襲い掛かってきた。
肉が千切れ、骨の砕ける音がし、生暖かい液体が少年の頬に触れた時に
少年はまぶたを開け、翡翠のような瞳が現れた。
少年 『あ・・・』
戦士 『き・・・気がつきましたかな?・・・少年。』
少年 『ボクは・・・生きてる?・・・どうして?・・・』
戦士 『あ・・・諦めては・・・そこで終わりですぞw』
少年 『あ・・・あなたは?』
戦士 『今は・・・少々・・・取り込んでましてな・・・w』
フンッ!と戦士は唸るや自らの身体に突き刺さった触手を、片手に持った斧でなぎ払った。
重力に引き寄せれれ少年を抱きしめた戦士は、崩れた船体の破片と荒波の中に落ちていった。
巨大な風と波の渦の中心で、不安定な召還フィールドの中から出られないリヴァイアサンは
怨嗟の咆哮をあげ続けていたが、じきに巨大な渦の中に沈んでいった。